StudyMed医師国家試験

聴診器と指先で数が合わない―脈拍欠損が教える心房細動のリズム

第111回医師国家試験 F問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第111回 F問題 第10問

心拍数と脈拍数が一致しにくいのはどれか。

  1. a.心房細動
  2. b.心房頻拍
  3. c.Ⅰ度房室ブロック
  4. d.完全房室ブロック
  5. e.4:1伝導の心房粗動

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「心拍数」と「脈拍数」の違いを問う問題だ。普段はほぼ同じものとして扱っているけれど、ある条件ではこの2つがずれる。どんな拍動なら手首まで脈が届かないのか、そこを考えるのが着眼点だよ。
医学生医学生
そもそも心拍数と脈拍数って、同じ意味だと思っていました。
ドクタードクター
そう思っている人は多いね。心拍数は心室が1分間に収縮する回数で、心電図のQRS波や心尖部の聴診で数える。脈拍数は橈骨動脈などの末梢動脈で触れる拍動の回数だ。心室が収縮するたびに十分な血液が駆出され、その圧波が末梢まで伝われば、両者は一致する。
医学生医学生
逆に言えば、収縮したのに血液があまり出ない拍動があると、ずれるということですか。
ドクタードクター
その通り。では、どんなときに1回拍出量が極端に小さくなると思う?
医学生医学生
生理学の講義で習ったFrank-Starlingの法則でしょうか。心室が十分に充満しないと拍出量が減る、という。
ドクタードクター
いいね。心室の拍動間隔が不規則で、ときに極端に短い間隔で次の収縮が起こると、拡張期が短すぎて心室に血液がたまらない。その拍動は弱すぎて末梢で脈として触れない。これを脈拍欠損と呼び、心拍数が脈拍数より多くなるんだ。
医学生医学生
ということは、RR間隔がバラバラな不整脈を探せばいいんですね。それなら心房細動です。
ドクタードクター
正解。心房細動では心房が毎分350〜600回ほど無秩序に興奮し、その一部が不規則に房室結節を通って心室に伝わる。だからRR間隔がまったく不規則な絶対性不整脈になる。さらに心房の有効な収縮、いわゆる心房キックが失われるので、心室の充満はますます悪くなる。心室応答の速い頻脈性心房細動で特に目立つよ。
医学生医学生
心房粗動も心房がすごく速く興奮しますよね。4:1伝導でも同じことが起きそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。心房粗動は主に三尖弁輪を旋回するマクロリエントリーで、心房が約300回/分で規則的に興奮し、心電図では鋸歯状のF波がみられる。4:1で一定に伝導していれば、心室は約75回/分で規則正しく拍動し、毎回きちんと拍出できる。だから心拍数と脈拍数は一致する。ただし伝導比が2:1と4:1の間で変動すると脈が不整になり、脈拍欠損が生じうることは知っておこう。
医学生医学生
心房頻拍も、伝導比が一定なら同じ考え方でいいですか。
ドクタードクター
そうだね。心房頻拍は異所性興奮巣などで心房が規則的に速く興奮し、洞調律とは形の違うP波がQRS波に先行する。2:1ブロックなどを伴うことはあっても、伝導比が一定なら心室リズムは規則的で、拍出も保たれる。
医学生医学生
Ⅰ度房室ブロックはPQ時間が延びるだけで、P波のあとには必ずQRS波が続くので、リズムは整のままですね。
ドクタードクター
その理解で合っている。PQ時間が0.20秒を超えて延長するだけで、通常は無症状、治療も不要なことが多い。では完全房室ブロックはどうかな。
医学生医学生
心拍数が30〜50回くらいまで落ちるので、脈も弱くなって数えにくくなりそうですが……。
ドクタードクター
徐脈になるのは確かだけど、拡張期はむしろ長いから心室は十分に充満して、1回拍出量は保たれる、むしろ増えるくらいだ。心房と心室は独立したリズムで動く房室解離だけど、心室は補充調律で規則的に拍動するので、心拍数と脈拍数は一致する。臨床で重要なのは、徐脈による心拍出量低下でAdams-Stokes発作を起こしうる点だね。
医学生医学生
数が少ないことと、数がずれることは別問題なんですね。ポイントは心室のリズムが規則的かどうか。
ドクタードクター
まさにそこ。臨床では、心房細動の患者さんの脈を手首で数えるだけだと心拍数を過小評価してしまう。だから心尖部の聴診と橈骨動脈の触診を同時に1分間数えて、差を確認するのが基本だ。頻発する期外収縮、特に先行するRR間隔が短い心室期外収縮でも脈拍欠損はみられるよ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、心房細動の患者さんの脈を測ったら不規則で数えにくかったのを思い出しました。指導医の先生がモニターの心拍数と比べてごらんと言っていたのは、そういうことだったんですね。
ドクタードクター
良い経験をしたね。心房細動は最も頻度の高い持続性不整脈で、加齢、高血圧、心不全、僧帽弁狭窄症、甲状腺機能亢進症などが背景になる。心電図ではP波が消えて細かいf波が現れ、RR間隔が不規則になる。そして左心耳に血栓ができやすく心原性脳塞栓症の主な原因になるから、CHADS2スコアなどで評価して抗凝固療法を検討することも忘れないでほしい。
医学生医学生
脈の不整に気づくことが、脳梗塞予防の入り口にもなるわけですね。
ドクタードクター
その通り。脈を触れるという基本的な診察が、診断にも予防にもつながるんだ。

まとめ

心拍数は心室の収縮回数、脈拍数は末梢動脈で触れる拍動の回数であり、通常は一致します。しかし心室の拍動間隔が不規則で拡張期が極端に短い拍動があると、心室が十分に充満せず拍出量が小さくなり、末梢まで脈が届かない脈拍欠損が生じます。その代表がRR間隔がまったく不規則な心房細動で、心房キックの喪失も拍出量低下に拍車をかけます。伝導比一定の心房粗動や心房頻拍、Ⅰ度房室ブロック、完全房室ブロックはいずれも心室リズムが規則的なため、心拍数と脈拍数は原則として一致します。心房細動では触診だけで心拍数を過小評価しうるため聴診や心電図で確認すること、そして脳塞栓症予防の観点から抗凝固療法を検討することが臨床上の重要なポイントです。

解答・解説

正解はaです

心拍数は心臓(心室)が1分間に収縮する回数で、心電図のQRS波の数や心尖部の聴診で数える。脈拍数は末梢動脈(橈骨動脈など)で触れる拍動の回数である。通常は心室が1回収縮するたびに十分な量の血液が駆出され、その圧波が末梢まで伝わるので、両者は一致する。 両者がずれるのは、「心室は収縮したのに、末梢で脈として触れるほどの血液が駆出されない拍動」が生じる場合である。これが起こる条件は、心室の拍動間隔が不規則で、ときに極端に短い間隔で次の収縮が起こることである。拡張期が短すぎると心室に血液が十分に充満せず(Frank-Starlingの法則により1回拍出量が低下)、その拍動は末梢まで届かない。この現象を脈拍欠損(pulse deficit)と呼び、心拍数>脈拍数となる。 したがって、各選択肢について「心室の拍動が不規則で、拡張期が極端に短くなる拍動が生じるか」を考えればよい。心室の拍動がまったく不規則(絶対性不整脈)になる心房細動が典型であり、正解は a である。他の選択肢は、伝導比が一定であれば心室のリズムが規則的であり、各拍動で十分な拍出が保たれるため、心拍数と脈拍数は原則として一致する。

選択肢考察

  1. ○a.  心房細動

    正しい。心房細動(atrial fibrillation:AF)では心房が350〜600回/分程度で無秩序に興奮し、その一部が不規則に房室結節を通過して心室に伝わる。そのためRR間隔がまったく不規則になる(絶対性不整脈)。直前のRR間隔が短い拍動では心室の充満が不十分となり、1回拍出量が小さく末梢で脈として触れない。さらに心房の有効な収縮(いわゆる心房キック)が失われ、心室充満が低下することも拍出量の減少に拍車をかける。その結果、聴診や心電図で数えた心拍数より、橈骨動脈で数えた脈拍数が少なくなる脈拍欠損が生じる。特に心室応答が速い頻脈性心房細動で顕著である。

  2. ×b.  心房頻拍

    誤り。心房頻拍(atrial tachycardia:AT)は心房内の異所性興奮巣やリエントリーにより心房が規則的に速く興奮する上室性頻拍の一つで、心電図ではQRS波に先行する洞調律とは形の異なるP波がみられる。心房レートが速いと房室結節で2:1などの房室ブロックを伴うことがあるが、伝導比が一定なら心室のリズムは規則的であり、各拍動の拍出量は保たれる。したがって心拍数と脈拍数は通常一致する。

  3. ×c.  Ⅰ度房室ブロック

    誤り。Ⅰ度房室ブロックは房室伝導に時間がかかるだけで、PQ(PR)時間が0.20秒を超えて延長するが、すべてのP波の後にQRS波が続く。心室のリズムは洞調律のまま規則的であり、各拍動の拍出も保たれるため、心拍数と脈拍数は一致する。通常は無症状で治療も不要なことが多い。

  4. ×d.  完全房室ブロック

    誤り。完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)では心房から心室への伝導が完全に途絶し、P波とQRS波がそれぞれ独立したリズムで出現する(房室解離)。心室は房室接合部やPurkinje線維などの下位中枢の補充調律で規則的に拍動する。心拍数は30〜50回/分程度の徐脈となるが、拡張期はむしろ長く心室は十分に充満するため、各拍動の1回拍出量は保たれ(むしろ増大し)、心拍数と脈拍数は一致する。徐脈による心拍出量低下でAdams-Stokes発作を起こしうる点が臨床上重要である。

  5. ×e.  4:1伝導の心房粗動

    誤り。心房粗動(atrial flutter:AFL)は主に右房内の三尖弁輪を旋回するマクロリエントリーにより、心房が約300回/分(おおよそ240〜440回/分)で規則的に興奮する不整脈で、心電図では鋸歯状の粗動波(F波)がみられる。4:1伝導であれば心房興奮4回に1回が心室に伝わるため、心室レートは約75回/分で規則的となり、各拍動の拍出量も保たれるので心拍数と脈拍数は一致する。ただし伝導比が2:1と4:1の間で変動するなど不規則な伝導(変動伝導)を示す場合には、脈が不整となり脈拍欠損が生じうる。

脈拍欠損(pulse deficit)

心拍数(聴診・心電図)と脈拍数(触診)の差。拍出量が少なすぎて末梢まで圧波が届かない拍動があると生じる。代表は心房細動であり、頻発する期外収縮(特に先行RRが短い心室期外収縮)でもみられる。臨床では心尖部の聴診と橈骨動脈の触診を同時に1分間数えて評価する。

心房細動の要点

・最も頻度の高い持続性不整脈で、加齢、高血圧、心不全、弁膜症(特に僧帽弁狭窄症)、甲状腺機能亢進症などがリスクとなる。 ・心電図:P波の消失、細動波(f波)、RR間隔の絶対的不整。 ・心房収縮の喪失により心拍出量は低下する(一般に20〜30%程度とされ、拡張障害のある心臓ではより大きい)。 ・左房(特に左心耳)に血栓ができやすく、心原性脳塞栓症の主要な原因となるため、CHADS2スコアなどで評価して抗凝固療法を検討する。

主な上室性不整脈の心電図での見分け方

・心房頻拍:洞調律と異なる形のP波がQRS波に先行する。 ・房室結節リエントリー性頻拍などの発作性上室頻拍:P波が不明瞭、またはQRS波の直後にみられる。 ・心房粗動:鋸歯状のF波(Ⅱ・Ⅲ・aVF、V1で明瞭)。根治療法としてカテーテルアブレーションが有効である。 ・心房細動:P波がなく細かく不規則なf波、RR間隔が不規則。

POINT

・心拍数と脈拍数のずれ(脈拍欠損)は、心室拍動が不規則で拡張期が極端に短い拍動があるときに起こる。 ・代表は心房細動(絶対性不整脈)で、心拍数>脈拍数となる。 ・伝導比一定の心房粗動・心房頻拍、Ⅰ度房室ブロック、完全房室ブロックはいずれも心室リズムが規則的で、心拍数=脈拍数。 ・心房細動の脈拍数は触診だけでは過小評価されうるので、聴診や心電図で心拍数を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。