吐血でショック、まず何を入れる?―組成表から見抜く「血管にとどまる輸液」
第111回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
大量吐血患者が救急車で搬入された。意識レベルはJCSⅠ-2。体温36.5℃。心拍数120/分,整。血圧80/50mmHg。呼吸数22/分。SpO2 100%(リザーバー付マスク 6L/分酸素投与下)。 初期対応で投与すべき輸液はどれか。 Na+(mEq/L) K+(mEq/L) Cl-(mEq/L) ブトウ糖(%) a 130 4 109 0 b 90 0 70 2.6 c 35 20 35 4.3 d 30 0 20 4.3 e 0 0 0 5
- a.130 4 109 0
- b.90 0 70 2.6
- c.35 20 35 4.3
- d.30 0 20 4.3
- e.0 0 0 5
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
頻脈、低血圧、意識障害を伴う大量吐血は出血性ショックであり、ショックインデックス1.5からは約1.5Lの出血が推定されます。失われたのは細胞外液なので、初期輸液はNa濃度が血漿に近い細胞外液補充液を急速投与し、組成表でNa 130、K 4、Cl 109、糖なしのものは乳酸リンゲル液にあたります。細胞外液補充液は投与量の約1/4が血管内に残るのに対し、Na濃度の低い1〜4号液は血管内に残りにくく、5%ブドウ糖液は実質的に自由水で約1/12しか残りません。また、輸液は輸血と止血までのつなぎであり、反応が乏しい大量出血では早期輸血と内視鏡などによる止血を急ぐことが重要です。輸液製剤の体内分布を理解しておくことは、ショック対応だけでなく日常の輸液管理全般の基礎となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・大量吐血:上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの大出血が考えられる。 ・意識レベルJCS(Japan Coma Scale)Ⅰ-2:開眼しているが見当識障害がある状態で、脳灌流の低下が示唆される。 ・心拍数120/分の頻脈、血圧80/50mmHgの低血圧、脈圧30mmHgと狭小化:出血で減った循環血液量を、交感神経緊張による頻脈と末梢血管収縮で代償しようとしている所見である。 ・呼吸数22/分:組織低灌流による代謝性アシドーシスなどを反映した頻呼吸と考えられる。 ・SpO2 100%:酸素投与下で酸素化は保たれている。
診断
以上から、大量の消化管出血による出血性ショック(循環血液量減少性ショック)と判断できる。ショックインデックス(shock index:SI=心拍数÷収縮期血圧)は120÷80=1.5であり、成人では出血量はおよそ1.5L前後(循環血液量の約30%)と推定される中等度〜重度のショックである。
設問の考え方
ショックに対する初期対応では、気道・呼吸の確保と酸素投与に続き、太い静脈路を2本以上確保し、急速に輸液を行って循環血液量を回復させる。このとき失われているのは血管内の血液、すなわち細胞外液である。血管内に効率よくとどまり循環血液量を増やせるのは、Na濃度が血漿に近い等張電解質輸液(細胞外液補充液)である。 選択肢の組成表を見ると、Na 130mEq/L、K 4mEq/L、Cl 109mEq/L、ブドウ糖0%の a は乳酸リンゲル液の組成に一致する。b〜dはNa濃度が低い低張電解質輸液(いわゆる1号液、3号液、4号液)、eは5%ブドウ糖液である。よって初期輸液として選択すべきは a である。 なお、輸液はあくまで輸血の準備ができるまでの「つなぎ」であり、出血量が多い場合には早期に赤血球液や新鮮凍結血漿の輸血を行い、内視鏡などによる止血を急ぐ。
選択肢考察
- ○a. 130 4 109 0
正しい。Na 130mEq/L、K 4mEq/L、Cl 109mEq/L、糖を含まないこの組成は乳酸リンゲル液(Hartmann液)に相当する(ほかにCa 3mEq/L、乳酸28mEq/Lを含む)。Na濃度が血漿(135〜145mEq/L)とほぼ同等の等張電解質輸液であり、投与後は細胞内へは移行せず細胞外液(血漿+間質液)にのみ分布する。投与量のおよそ1/4が血管内に残るため、ブドウ糖液や低張液に比べて循環血液量を効率よく増やせ、出血性ショックの初期輸液として第一選択となる。生理食塩水、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液も同じく細胞外液補充液として用いられる。
- ×b. 90 0 70 2.6
誤り。Na 90mEq/L、Kを含まない、ブドウ糖2.6%の組成は開始液(1号液)に相当する。生理食塩水と5%ブドウ糖液をおおむね1:1〜2:1で混ぜたような低張電解質輸液で、Kを含まないため、病態がわからず腎機能や尿量が確認できていない段階で「まず始める」輸液として用いられる。しかしNa濃度が血漿より低く、自由水の一部が細胞内へ移行するため、細胞外液補充液に比べて血管内にとどまる量が少なく、ショックの急速輸液には適さない。
- ×c. 35 20 35 4.3
誤り。Na 35mEq/L、K 20mEq/L、Cl 35mEq/L、ブドウ糖4.3%の組成は維持液(3号液)に相当する。経口摂取できない患者の1日に必要な水分と電解質を補う目的の輸液で、成人では1日2〜2.5L程度でNaとKの1日必要量をおおむね満たす。Na濃度が低く大部分が自由水として細胞内外に分布するため、循環血液量を急速に回復させる目的には適さない。またKを含むため、急速大量投与は高K血症を招く危険がある。
- ×d. 30 0 20 4.3
誤り。Na 30mEq/L、Kを含まない、ブドウ糖4.3%の組成は術後回復液(4号液)に相当する。3号液からKを除いたような組成で、電解質濃度が最も低く、自由水の補給効果が大きい。腎機能が低下している場合や術後早期などに用いられるが、Na濃度が非常に低いため血管内にはほとんど残らず、出血性ショックの循環血液量補充には適さない。
- ×e. 0 0 0 5
誤り。電解質を含まずブドウ糖5%のみのこの組成は5%ブドウ糖液である。浸透圧はほぼ等張であるが、ブドウ糖は投与後速やかに代謝されて水と二酸化炭素になるため、実質的には自由水(純粋な水)を投与したのと同じになる。水は体液全体に均等に分布し、約2/3が細胞内液、約1/3が細胞外液に移行し、血管内に残るのは投与量の約1/12にすぎない。高張性脱水など水分そのものの補給には有用だが、循環血液量を増やす目的には最も不適切である。
輸液製剤の分類
1.等張電解質輸液(細胞外液補充液) ・生理食塩水:0.9%NaCl、Na・Clともに154mEq/L。Clが多く、大量投与で高Cl性代謝性アシドーシスをきたしうる。 ・リンゲル液:生理食塩水にK・Caを加えたもの。 ・乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液:リンゲル液のClの一部を緩衝剤(乳酸・酢酸・重炭酸)に置き換えたもの。乳酸・酢酸は体内で代謝されて重炭酸イオンとなり、アシドーシスの補正に働く。乳酸は主に肝臓で代謝されるため、肝障害時は酢酸リンゲル液が選ばれることがある。 2.低張電解質輸液(1〜4号液) 生理食塩水と5%ブドウ糖液を混ぜた組成と考えると理解しやすい。生理食塩水の割合が多いほどNa補給効果が、ブドウ糖液の割合が多いほど水分補給効果が大きい。 ・1号液(開始液):K非含有。 ・2号液(脱水補給液):1号液にKなどを加えたもの。 ・3号液(維持液):1日の維持量を補う。K含有。 ・4号液(術後回復液):K非含有、電解質濃度が最も低い。 3.5%ブドウ糖液:自由水の補給。 4.膠質液:アルブミン製剤や人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン〈HES〉製剤、デキストラン製剤)は膠質浸透圧により血管内にとどまりやすく、血漿増量効果が大きい。
投与した輸液の分布(1L投与時の目安)
・細胞外液補充液:細胞外液に分布し、血管内に約250mL(1/4)が残る。 ・5%ブドウ糖液:全体液に分布し、血管内に残るのは約80mL(1/12)。
出血性ショックの初期対応
・酸素投与、太い末梢静脈路を2本以上確保し、加温した細胞外液補充液を急速投与する(成人で1L程度を目安)。 ・初期輸液に反応しない、または一時的にしか反応しない場合は大量出血を考え、赤血球液・新鮮凍結血漿・血小板濃厚液の輸血と、根本的な止血を急ぐ。過剰な晶質液輸液は希釈性凝固障害や低体温、アシドーシスを助長するので避ける。 ・上部消化管出血では、循環が安定し次第、緊急上部消化管内視鏡で出血源を同定し止血する。プロトンポンプ阻害薬の投与も行う。
ショックインデックス(SI)
心拍数÷収縮期血圧。正常は約0.5〜0.7。成人ではSI 1.0で約1L、1.5で約1.5L、2.0で約2Lの出血が推定される。
POINT
・頻脈、低血圧、意識障害を伴う大量吐血は出血性ショックであり、初期輸液は細胞外液補充液(乳酸リンゲル液、生理食塩水など)を急速投与する。 ・Na 130、K 4、Cl 109、糖なしは乳酸リンゲル液の組成。 ・1〜4号液はNa濃度が低い低張液であり、5%ブドウ糖液は実質的に自由水で、いずれも循環血液量の補充には適さない。 ・細胞外液補充液は血管内に約1/4、5%ブドウ糖液は約1/12しか残らない。 ・ショックインデックス=心拍数÷収縮期血圧。1.5なら約1.5Lの出血を推定。 ・輸液は輸血・止血までのつなぎであり、大量出血では早期輸血と止血を優先する。
