前は左、後ろは右―冠動脈の「通り道」を心電図までつなげて覚える
第111回医師国家試験 E問題 第5問
国試問題にチャレンジ
冠動脈について誤っているのはどれか。
- a.左回旋枝は側壁および後壁を灌流する。
- b.右冠動脈は前室間溝に沿って走行する。
- c.冠血流は収縮期よりも拡張期に多く流れる。
- d.左右の冠動脈はそれぞれValsalva洞から起始する。
- e.左冠動脈は主幹部から左前下行枝と左回旋枝に分かれる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
左右の冠動脈は大動脈基部のValsalva洞から起始し、左冠動脈は主幹部を経て左前下行枝と左回旋枝に分かれます。前室間溝を下行するのは左前下行枝で、右冠動脈は右側の冠状溝を後方へ回り、多くは後室間溝で後下行枝を出すため、「右冠動脈が前室間溝を走る」という記述が誤りです。灌流域は左前下行枝が前壁と中隔前方、左回旋枝が側壁・後壁、右冠動脈が右室・下壁・中隔後方で、それぞれ心電図のST上昇誘導と対応します。冠血流は心筋による血管圧迫の少ない拡張期に多く、頻脈では虚血が起こりやすくなります。右冠動脈が刺激伝導系を養うことも含め、走行と灌流域を理解しておくことは、心筋梗塞の責任血管の推定や合併症の予測に直結します。
解答・解説
正解はbです
冠動脈の解剖(起始部・走行・灌流域)と冠血流の生理を確認する問題である。「誤っているのはどれか」という否定型なので、記述として誤りのものを選ぶ。
冠動脈の基本構造
・左右の冠動脈は、上行大動脈基部の大動脈洞(Valsalva洞)から起こる。大動脈弁の3つの弁尖のうち、右冠動脈が開口する洞に対応する弁尖を右冠尖、左冠動脈が開口する洞に対応する弁尖を左冠尖、冠動脈が出ない弁尖を無冠尖という。 ・左冠動脈は短い主幹部(LMT:left main trunk)を経て、左前下行枝(LAD:left anterior descending artery)と左回旋枝(LCX:left circumflex artery)に分かれる。 ・LADは心臓前面の前室間溝を心尖部に向かって下行し、左室前壁と心室中隔の前方約3分の2を灌流する。 ・LCXは左側の房室間溝(冠状溝)を後方へ回り込み、左室側壁・後壁を灌流する。 ・右冠動脈(RCA:right coronary artery)は右側の房室間溝(冠状溝)を右・後方へ回り、多くの人では心臓後面で後室間溝を下行する後下行枝(後室間枝)を出す。右室、左室下壁(横隔膜面)、心室中隔後方約3分の1、洞結節・房室結節などを灌流する。 したがって、前室間溝を走るのは左冠動脈の枝であるLADであり、「右冠動脈は前室間溝に沿って走行する」とするbが誤りである。
選択肢考察
- ×a. 左回旋枝は側壁および後壁を灌流する。
正しい記述である。左回旋枝は左冠動脈主幹部から分かれた後、左房と左室の間の冠状溝を心臓の左側から後面へ回り込み、途中で鈍縁枝(左室外縁を走る枝)や後側壁枝を出して左室の側壁・後壁を灌流する。このため回旋枝の閉塞による心筋梗塞では、心電図のⅠ・aVL・V5・V6誘導(側壁)や、V1・V2誘導のR波増高・ST低下(後壁梗塞の鏡像変化)がみられることがある。
- ○b. 右冠動脈は前室間溝に沿って走行する。
誤った記述であり、これが正解である。右冠動脈は右房と右室の間の冠状溝(右房室間溝)を右側から心臓の後面へ回り込み、右冠動脈優位型(日本人の大多数)では後室間溝を心尖方向に下行する後下行枝(後室間枝)と、房室結節枝を分岐する。前室間溝に沿って走行するのは左冠動脈の枝である左前下行枝(前室間枝)である。「前室間溝=左前下行枝」「後室間溝=多くは右冠動脈の枝」と対で覚えるとよい。
- ×c. 冠血流は収縮期よりも拡張期に多く流れる。
正しい記述である。心室が収縮している間は、心筋内を貫く冠動脈の枝が収縮した心筋によって圧迫され、血管抵抗が高くなる。そのため冠血流は心筋が弛緩する拡張期に多く流れる。この傾向は、壁が厚く収縮期の壁内圧が高い左室を灌流する左冠動脈で特に顕著であり、心内膜側ほど影響を受けやすい。右室は内圧が低いため、右冠動脈では収縮期にも比較的血流が保たれる。頻脈では拡張期が短縮して冠血流が減少するため、心筋虚血が起こりやすくなる。
- ×d. 左右の冠動脈はそれぞれValsalva洞から起始する。
正しい記述である。Valsalva洞(大動脈洞)は大動脈弁の各弁尖の直上で大動脈壁が外側に膨らんだ部分で、右冠動脈は右冠動脈洞から、左冠動脈は左冠動脈洞から起始する。冠動脈が出ない洞は無冠洞(対応する弁尖が無冠尖)とよばれる。冠動脈の入口部が弁尖そのものではなく洞の壁にあるため、拡張期に大動脈弁が閉じた後も洞内に血液がたまり、冠動脈へ流れ込むことができる。
- ×e. 左冠動脈は主幹部から左前下行枝と左回旋枝に分かれる。
正しい記述である。左冠動脈は起始後、長さ1cm前後の主幹部(LMT)を経て、左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)の2本に分岐する。LADは中隔枝と対角枝を、LCXは鈍縁枝などを出す。主幹部は左室心筋の大部分への血流を担うため、ここが高度に狭窄・閉塞すると広範な虚血を来し、致死的となりうる。なお、両枝の間から中間枝(高位側壁枝)が出て3分岐する例もある。
冠動脈の灌流域と心電図・心エコーの対応
・左前下行枝(LAD):左室前壁、心室中隔前方約3分の2、心尖部。梗塞ではV1〜V4(前壁中隔)にST上昇が出やすい。 ・左回旋枝(LCX):左室側壁・後壁。Ⅰ、aVL、V5、V6でST上昇が出やすい。 ・右冠動脈(RCA):右室、左室下壁、心室中隔後方約3分の1。Ⅱ、Ⅲ、aVFでST上昇が出やすい。右室梗塞を合併することがある。
冠動脈の優位性(dominance)
後下行枝を出す側の冠動脈を「優位」という。右冠動脈優位型が大多数(約8割以上)を占め、左回旋枝から後下行枝が出る左冠動脈優位型や、両者が分担する型もある。
刺激伝導系への血流
・洞結節枝:約6割が右冠動脈、残りが左回旋枝から起こる。 ・房室結節枝:右冠動脈優位型では右冠動脈から起こるため、下壁梗塞(右冠動脈閉塞)では洞徐脈や房室ブロックを合併しやすい。
AHA分類による冠動脈番号
右冠動脈は#1〜#4、左冠動脈主幹部は#5、左前下行枝は#6〜#10、左回旋枝は#11〜#15と番号付けされ、冠動脈造影の報告で用いられる。
冠血流の特徴
心筋は安静時から酸素摂取率が高く(約70%)、酸素需要の増加には主に冠血流量の増加で対応する。冠血流は主に拡張期に流れるため、頻脈や拡張期血圧の低下(例:大動脈弁閉鎖不全症)は冠灌流を減らす要因となる。
POINT
・前室間溝を走るのは左前下行枝(LAD)。右冠動脈は冠状溝を回り、多くは後室間溝で後下行枝を出す。 ・左冠動脈は主幹部(LMT)からLADとLCXに分かれる。 ・灌流域:LAD=前壁・中隔前方、LCX=側壁・後壁、RCA=右室・下壁・中隔後方。 ・左右冠動脈はValsalva洞から起始する。 ・冠血流は拡張期優位で、特に左冠動脈で顕著。
