免疫を持つ人が増えると何が変わる?―ワクチンと集団免疫が下げる「罹患率」
第111回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
ワクチン接種率が向上することで期待されるのはどれか。
- a.感受性人口が増加する。
- b.流行のピークが早まる。
- c.罹病期間が長くなる。
- d.潜伏期間が短くなる。
- e.罹患率が低下する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
ワクチンは感染成立の3要素のうち感受性宿主への対策で、接種率が上がると感受性人口が減り、個人防御効果と集団免疫効果が合わさって集団の罹患率が低下します。感受性者が少ないと感染の連鎖が進みにくいため、流行曲線のピークは低く遅くなり、接種率が十分なら流行自体が起こりません。潜伏期間や罹病期間は主に病原体と宿主の性質で決まり、接種率で直接短くなったり長くなったりするものではありません。実効再生産数はおよそR0×(1−免疫保有率)で表され、集団免疫閾値1−1/R0は、R0の大きい麻疹で高い接種率が求められる理由を説明します。予防接種の意義を個人と集団の両面から理解することは、罹患率・有病率などの疫学指標の理解や、接種できない人を守る公衆衛生の考え方の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
ワクチン接種率の上昇が、集団の中での感染症の広がり方にどう影響するかを問う問題である。
考え方
感染症が集団内で広がるかどうかは、病原体を持つ人(感染源)が、まだ免疫を持たない人(感受性者)とどれだけ接触するかで決まる。ワクチンは感受性者に前もって免疫を与え、感受性者を免疫保有者に変える手段である。そのため接種率が上がると、集団の中で感受性者の割合が減る。 感受性者が少なくなると、一人の感染者が新たに感染させる人数(実効再生産数)が小さくなる。これが1を下回ると流行は拡大できずに収束へ向かう。ワクチンを接種した本人だけでなく、接種できない乳児や免疫不全者なども感染者と接触する機会が減って守られる。これを集団免疫(herd immunity)という。 この結果、一定期間内に集団で新たに発生する患者の割合、すなわち罹患率が低下する。これがワクチン接種率向上の最も直接的な効果である。 一方、潜伏期間や罹病期間は主に病原体と宿主の性質で決まる。集団の接種率で直接変わる指標ではない。流行曲線(時間ごとの新規患者数のグラフ)は、接種率が上がるとピークが低くなる、遅くなる、または流行そのものが起こらなくなる方向に変わる。
選択肢考察
- ×a. 感受性人口が増加する。
誤り。感受性人口とは、その感染症に対する免疫を持たず、感染しうる人の集団である。ワクチン接種は感受性者を免疫保有者に変える。したがって接種率が上がれば、感受性人口は増えるのではなく減少する。逆に接種率が下がったり、未接種の出生児が積み重なったりすると感受性人口が増え、再流行の原因になる。
- ×b. 流行のピークが早まる。
誤り。感受性者が少ないと感染の連鎖が進みにくい。そのため流行の立ち上がりは緩やかになり、ピークは低く、時期は遅くなる傾向がある。接種率が十分に高ければ流行自体が起こらない。ピークを早める方向には働かない。
- ×c. 罹病期間が長くなる。
誤り。罹病期間(発症してから治癒・死亡するまでの期間)は、病原体の性質、宿主の状態、治療などで決まる。接種率の上昇で長くなることはない。接種していた人がかかった場合(ブレイクスルー感染)は、むしろ軽症で短く済むことが多い。
- ×d. 潜伏期間が短くなる。
誤り。潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は、主に病原体ごとに決まった性質である。例として麻疹は約10〜12日、インフルエンザは1〜3日程度である。集団のワクチン接種率によって短くなるものではない。
- ○e. 罹患率が低下する。
正しい。接種者本人は感染・発症しにくくなる(個人防御効果)。さらに感受性者の割合が減ることで感染の連鎖が断たれ、未接種者も守られる(集団免疫効果)。この二つの効果が合わさり、一定期間内に集団で新たに発生する患者の割合である罹患率が低下する。
感染成立の3要素
感染症の成立には、感染源・感染経路・感受性宿主の3要素が必要である。対策もそれぞれに対応する。感染源対策は患者の早期発見・治療・隔離、感染経路対策は手洗い・マスク・消毒・媒介動物の駆除である。感受性宿主対策の中心が予防接種である。
基本再生産数と集団免疫閾値
基本再生産数(R0)は、全員が感受性者である集団に一人の感染者が入ったとき、その人が平均して何人に感染させるかを示す値である。免疫保有者の割合をpとすると、実効再生産数はおよそR0×(1−p)となる。これを1未満にするのに必要な免疫保有率(集団免疫閾値)は1−1/R0で求められる。R0が大きい感染症ほど、流行を抑えるのに高い接種率が必要になる。たとえば麻疹はR0が12〜18程度と非常に大きく、9割を超える免疫保有率が必要とされる。そのため日本では2回接種(第1期・第2期)が行われ、高い接種率の維持が目標とされている。
罹患率と有病率
罹患率は一定期間内に新たに発生した患者数を、観察対象の人口(または人年)で割ったもので、新規発生の頻度を表す。有病率はある時点で病気を持っている人の割合である。持続期間の短い疾患では、有病率はおおよそ罹患率×平均罹病期間で近似できる。ワクチンは主に新規発生を防ぐ手段なので、まず罹患率を下げる。
ワクチン効果の例
不活化インフルエンザワクチンは感染を完全には防げないが、発症率を下げ、高齢者などの重症化・死亡を減らす効果が認められている。予防接種の効果には、個人への直接効果と、集団免疫による間接効果の両方がある。
POINT
・ワクチン接種率が上がると感受性人口が減り、集団の罹患率が低下する。 ・集団免疫により、接種できない人も間接的に守られる。 ・流行曲線はピークが低く遅くなる方向に変化し、接種率が十分なら流行は起こらない。 ・潜伏期間・罹病期間は病原体と宿主の性質で決まり、接種率で直接変わらない。 ・集団免疫閾値は1−1/R0で表す。
