守秘義務は医師法にない?―刑法の秘密漏示罪から読み解く医師の責任
第111回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
医師の守秘義務を定めた法律はどれか。
- a.医師法
- b.医療法
- c.刑法
- d.個人情報の保護に関する法律
- e.特定秘密の保護に関する法律
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医師の守秘義務は、医師法ではなく刑法第134条第1項の秘密漏示罪に根拠があり、医師であった者も対象となる親告罪です。医師法には応招義務や診療録の記載・保存義務などが定められていますが守秘義務の条文はなく、ここが頻出の落とし穴です。医療法は医療提供体制、個人情報保護法は事業者としての情報管理、特定秘密保護法は国家の安全保障情報を対象としており、医師個人の守秘義務の根拠ではありません。看護師などはそれぞれの資格法に守秘義務が規定され、感染症法の届出や児童虐待の通告などは正当な理由として違法になりません。守秘義務と法令上の届出義務の関係を正しく理解することは、患者さんの信頼を守りつつ社会的責任を果たすための基本となります。
解答・解説
正解はcです
医師が診療を通じて知った患者の秘密をみだりに漏らしてはならないという守秘義務が、どの法律に根拠をもつかを問う問題である。 医師の義務の多くは医師法に定められているため、守秘義務も医師法にあると考えがちだが、医師法には守秘義務の条文がない。医師の守秘義務は刑法第134条第1項(秘密漏示罪)に規定されている。同条は、医師・薬剤師・医薬品販売業者・助産師・弁護士・弁護人・公証人、またはこれらの職にあった者が、正当な理由なく、業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときに処罰すると定めている。 厳密にいえば、刑法は「秘密を守れ」と命じる形ではなく、「漏らしたら処罰する」という罰則の形で書かれている。そのため、この処罰規定が医師の守秘義務の法的根拠と解されている。退職・廃業など、医師でなくなった後もこの義務は続く。 なお、看護師・保健師のように刑法第134条に挙げられていない医療職については、それぞれの資格法(保健師助産師看護師法など)に守秘義務と罰則が個別に置かれている。
選択肢考察
- ×a. 医師法
医師法は医師の免許や業務上の義務を定める法律である。業務上の義務としては、応招義務、診断書等の交付義務、無診察治療等の禁止、異状死体等の届出義務、処方箋交付義務、療養方法等の指導義務、診療録の記載・保存義務などがある。しかし守秘義務の条文は含まれていない。医師の守秘義務は、医師法ではなく刑法で担保されている点が頻出の落とし穴である。
- ×b. 医療法
医療法は、病院・診療所・助産所の開設や管理、人員配置・構造設備の基準、医療計画、医療安全の確保(医療事故調査制度を含む)など、医療提供体制を定める法律である。立入検査を行う職員や医療事故調査・支援センターの関係者などについて秘密保持の規定はある。しかし、医師一般が診療で知った患者の秘密を守る義務を定めたものではない。
- ○c. 刑法
刑法第134条第1項の秘密漏示罪が、医師の守秘義務の法的根拠である。医師(医師であった者を含む)が、正当な理由なく、業務上知り得た人の秘密を漏らすと処罰の対象となる。本罪は告訴がなければ公訴を提起できない親告罪である(刑法第135条)。 一方で、法令に基づく届出は「正当な理由」にあたり、違法とはならない。例として、感染症法に基づく届出や、児童虐待防止法に基づく通告がある。
- ×d. 個人情報の保護に関する法律
個人情報保護法は、個人情報を取り扱う事業者などに対し、利用目的の特定、安全管理措置、本人の同意のない第三者提供の制限などを課す法律である。病院・診療所も個人情報取扱事業者として適用を受ける。病歴は「要配慮個人情報」として、取得や第三者提供に原則として本人の同意が必要とされる。ただし、この法律が義務づける対象は主に組織(事業者)による情報管理であり、医師個人の守秘義務を定めたものではない。
- ×e. 特定秘密の保護に関する法律
特定秘密保護法(2013年制定)は、防衛・外交・特定有害活動(スパイ活動など)の防止・テロリズムの防止の4分野について、安全保障上特に秘匿が必要な情報を行政機関の長が「特定秘密」に指定し、その漏えいを防ぐための法律である。国家の安全保障に関わる情報が対象であり、患者の秘密や医師の守秘義務とは関係がない。
医療職の守秘義務の根拠法
・刑法第134条に職名が明記されているもの: 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師(ほかに弁護士、弁護人、公証人、宗教・祈祷・祭祀の職にある者) ・各資格法に規定されているもの: 保健師・助産師・看護師・准看護師(保健師助産師看護師法第42条の2)、診療放射線技師(診療放射線技師法)、臨床検査技師(臨床検査技師等に関する法律)、理学療法士・作業療法士(理学療法士及び作業療法士法)など ・助産師は刑法第134条と保健師助産師看護師法第42条の2の両方の守秘義務規定の対象である(違反時の処罰は刑法が優先して適用される) ・歯科医師は刑法第134条にも歯科医師法にも守秘義務の明文規定はないが、職業倫理上当然に守秘義務を負うと考えられている
秘密漏示罪の要点
・法定刑は6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金である(2025年6月の刑法改正で懲役は拘禁刑に一本化された)。 ・親告罪である(刑法第135条)。 ・「正当な理由」があれば違法性が否定される。代表例は、感染症法に基づく届出、麻薬及び向精神薬取締法に基づく麻薬中毒者の届出、児童虐待防止法・配偶者暴力防止法に基づく通告・通報、裁判所の命令に基づく証言などである。 ・本人の同意があれば、原則として秘密を開示しても違法とはならない。
医師法に定められた主な義務(守秘義務は含まれない)
応招義務(第19条第1項)、診断書等の交付義務(第19条第2項)、無診察治療等の禁止(第20条)、異状死体等の届出義務(第21条)、処方箋の交付義務(第22条)、療養方法等の指導義務(第23条)、診療録の記載・保存義務(第24条、保存期間5年)
POINT
・医師の守秘義務は医師法ではなく刑法第134条(秘密漏示罪)で定められている。 ・医師でなくなった後も守秘義務は続く。親告罪である。 ・法令に基づく届出・通告は「正当な理由」にあたり、守秘義務違反にならない。 ・看護師・保健師などの守秘義務は、それぞれの資格法に規定されている。
