救急車の中でできること・できないこと―救急救命士の「特定行為」を整理する
第120回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
医師の指示の下で救急救命士が行うことができる業務はどれか。
- a.胃洗浄
- b.静脈路確保
- c.脱臼の整復
- d.胃瘻カテーテルの交換
- e.インスリンの投与量の調整
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生
ドクター
医学生まとめ
救急救命士は医師の指示の下で救急救命処置を行う国家資格であり、その範囲は法令で具体的に限定されています。侵襲性の高い処置は医師の具体的指示を要する特定行為とされ、乳酸リンゲル液による静脈路確保と輸液、器具を用いた気道確保(気管挿管は認定者)、アドレナリン投与(認定者)、低血糖へのブドウ糖投与(認定者)がこれに当たります。静脈路確保は2014年以降、認定者であれば心肺機能停止前の重度傷病者にも実施可能となり、AEDによる除細動、血糖測定、自己注射用アドレナリン製剤の使用、骨折の固定などは包括的指示下で行えます。一方、胃洗浄、脱臼の整復、胃瘻カテーテルの交換、インスリンの投与や量の調整は救急救命処置に含まれず、医療機関で医師が行います。メディカルコントロールの担い手として救急隊に指示を出す立場になる医師にとって、救急救命士の業務範囲の理解は病院前救護との円滑な連携に欠かせない知識です。
解答・解説
正解はbです
問われていること
救急救命士法に基づき、救急救命士が医師の指示の下で行うことのできる処置(救急救命処置)の範囲が問われている。
救急救命士の業務の枠組み
救急救命士は、厚生労働大臣の免許を受けた国家資格であり、医師の指示の下に救急救命処置を行うことを業とする。救急救命処置とは、重度傷病者が病院・診療所に搬送されるまで(2021年の法改正以降は、医療機関に到着してから入院するまでの間を含む)に、症状の著しい悪化を防いだり生命の危険を回避したりするために緊急に必要な処置をいう。救急救命士は保健師助産師看護師法の規定にかかわらず、これらの診療の補助を行うことができるが、その範囲は省令や通知で具体的に限定されている。 救急救命処置は、医師の指示の形式によって大きく2つに分かれる。 ・特定行為:実施のたびに医師から具体的な指示を受けて行う、侵襲性の高い処置。 ・包括的指示下の処置:あらかじめ定められたプロトコール(事前の包括的な指示)に従って行える処置。
解き方
選択肢のうち、救急救命処置として認められているかを一つずつ判断する。静脈路確保と輸液は特定行為の代表であり、それ以外の選択肢(胃洗浄、脱臼整復、胃瘻カテーテル交換、インスリン量の調整)はいずれも救急救命処置の範囲に含まれておらず、医師が医療機関で行う医行為である。
選択肢考察
- ×a. 胃洗浄
行うことはできない。胃洗浄は経口摂取した毒物・薬物を除去する処置であるが、適応の判断が難しく(強酸・強アルカリなどの腐食性物質や石油製品では原則禁忌)、胃管の気管への誤挿入や誤嚥性肺炎、消化管穿孔などの危険を伴う。しかも近年は有効性が限られるとして適応自体がごく限定的になっている。特定行為にも包括的指示下の処置にも含まれておらず、医療機関で医師が判断して行う。
- ○b. 静脈路確保
行うことができる。乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液は、医師の具体的指示が必要な特定行為の一つである。当初は心肺機能停止状態の傷病者に限られていたが、2014年からは心肺機能停止前の重度傷病者(出血性ショックが疑われる場合や、がれきなどによる挟まれでクラッシュ症候群が疑われる場合など)にも、所定の講習・実習を修了して認定を受けた救急救命士が行えるようになった。確保した静脈路は、アドレナリン投与やブドウ糖溶液投与の経路としても用いられる。
- ×c. 脱臼の整復
行うことはできない。救急救命士が包括的指示下で行える処置には、副子などを用いた骨折の固定(患部を動かないように支えること)が含まれるが、関節を元の位置に戻す脱臼の整復は含まれない。整復には骨折合併の有無の確認(X線撮影など)や神経・血管損傷への配慮、必要に応じた鎮痛・鎮静が必要であり、医療機関で医師が行う。
- ×d. 胃瘻カテーテルの交換
行うことはできない。胃瘻カテーテルの交換は、定期的(バルーン型はおおむね1〜2か月ごと、バンパー型は4〜6か月ごとが目安)に医療機関や在宅医療の場で医師が行う処置であり、交換時に瘻孔の損傷や腹腔内への誤挿入が起こりうるため、内視鏡や造影で位置を確認することも多い。重度傷病者の救命を目的とした救急救命処置ではなく、範囲に含まれない。なお、救急救命士は包括的指示下で在宅療法継続中の傷病者の処置の維持(すでに行われている在宅療法を継続させること)は行えるが、カテーテルの交換そのものは含まれない。
- ×e. インスリンの投与量の調整
行うことはできない。救急救命士は、認定を受けていれば、血糖測定で低血糖が確認された傷病者に医師の具体的指示の下でブドウ糖溶液を静脈内投与できる。しかし、インスリンは投与量を誤ると重篤な低血糖を招く薬剤であり、その投与や量の調整は救急救命処置に含まれない。高血糖の治療は医療機関収容後に、血糖値や電解質、ケトン体などを確認しながら医師が行う。
救急救命士の特定行為(医師の具体的指示が必要)
1. 乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液(心肺機能停止状態の傷病者。認定を受けた者は心肺機能停止前の重度傷病者にも可) 2. 食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲアルマスクを用いた気道確保(心肺機能停止状態) 3. 気管内チューブを用いた気道確保(気管挿管)(心肺機能停止状態。所定の講習・実習を修了した認定者に限る) 4. アドレナリンの投与(心肺機能停止状態。薬剤投与の認定者に限る) 5. 低血糖が確認された傷病者へのブドウ糖溶液の投与(認定者に限る)
包括的指示下で行える主な処置
・自動体外式除細動器(AED)による除細動(かつては具体的指示が必要だったが、現在は包括的指示で実施可) ・胸骨圧迫、人工呼吸、バッグ・バルブ・マスクによる換気、酸素投与 ・経鼻・経口エアウェイによる気道確保、口腔内の吸引、喉頭鏡とマギール鉗子による異物除去 ・聴診器、血圧計、パルスオキシメータ、心電計(12誘導心電図を含む)などによる観察 ・血糖測定器を用いた血糖測定 ・アナフィラキシーの傷病者に処方されている自己注射用アドレナリン製剤の使用 ・止血、骨折の固定(副子の使用)、体位の管理、保温 ・在宅療法継続中の傷病者の処置の維持
業務の場所
救急救命士は原則として救急用自動車などの中や、搬送されるまでの現場で救急救命処置を行う。2021年の救急救命士法改正により、医療機関に搬送されてから入院するまでの間(救急外来など)でも、所定の研修を受けた上で救急救命処置を行えるようになった。
メディカルコントロール
救急救命士の処置の質を医学的に保証する仕組みをメディカルコントロールという。プロトコールの作成、オンラインでの医師の指示・指導助言、実施した処置の事後検証、再教育などからなる。
POINT
・救急救命士は医師の指示の下で救急救命処置を行う国家資格であり、侵襲性の高い処置は医師の具体的指示を要する特定行為として定められている。 ・特定行為は、乳酸リンゲル液による静脈路確保と輸液、器具を用いた気道確保(気管挿管は認定者)、アドレナリン投与(認定者)、低血糖へのブドウ糖投与(認定者)である。 ・AEDによる除細動、血糖測定、エピペンの使用、骨折の固定などは包括的指示下で行える。 ・胃洗浄、脱臼整復、胃瘻カテーテル交換、インスリン投与・量の調整は救急救命処置に含まれない。
