「1本くらい」は通用しない―妊婦の喫煙率0%が示すたばこ対策の基本
第111回医師国家試験 E問題 第26問
国試問題にチャレンジ
たばこについて正しいのはどれか。
- a.長期喫煙によって気道分泌が抑制される。
- b.禁煙治療では喫煙本数の目標を設定する。
- c.主流煙は副流煙よりも粒子状物質を多く含んでいる。
- d.健康日本21(第二次)における妊婦の喫煙率の目標値は0%である。
- e.禁煙でたばこ関連疾患の予防効果が期待できるのは70歳未満である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
健康日本21(第二次)では、喫煙が特に有害で本来喫煙すべきでない妊婦と未成年者について喫煙率の目標を0%とし、成人の喫煙率は12%を目標としました。長期喫煙では杯細胞の増生や気管支腺の肥大により気道分泌はむしろ亢進し、線毛運動の障害と相まってCOPDなどの症状の基盤となります。副流煙は不完全燃焼でフィルターも通らないため主流煙より有害物質を多く含み、これが受動喫煙対策の根拠です。禁煙治療の目標は減煙ではなく完全禁煙であり、禁煙の利益は年齢を問わず得られます。病態・煙の性質・治療・政策目標をつなげて理解することは、日常診療で患者さんに禁煙を勧める際の説得力にも直結します。
解答・解説
正解はdです
本問は、喫煙が体に与える影響、たばこ煙の性質、禁煙治療の原則、わが国の健康づくり施策における目標値など、たばこに関する基本事項を横断的に問う問題である。 押さえるべき考え方は次のとおりである。 ・喫煙は気道粘膜に慢性的な刺激を与え、痰(気道分泌)を増やし、気道の自浄作用を弱める。 ・たばこ煙のうち、点火部から立ち上る副流煙は、喫煙者が吸い込む主流煙より有害物質の量が多い。これが受動喫煙対策の根拠となる。 ・ニコチン依存症は治療が必要な病気であり、禁煙治療の目標は本数を減らすこと(減煙)ではなく、完全にやめること(禁煙)である。 ・禁煙による健康上の利益は年齢を問わず得られる。 ・健康日本21(第二次)(2013〜2022年度〈当初計画は2022年度まで、その後1年延長して2023年度まで〉)では、喫煙が特に有害で、かつ本来喫煙すべきでない集団、すなわち未成年者と妊婦について、喫煙率の目標を0%とした。 これらに照らすと、正しいのは「健康日本21(第二次)における妊婦の喫煙率の目標値は0%」である。
選択肢考察
- ×a. 長期喫煙によって気道分泌が抑制される。
長期の喫煙では、たばこ煙の刺激によって気道上皮の杯細胞が増え、気管支腺(粘膜下腺)が肥大するため、粘液の産生はむしろ亢進する。加えて線毛運動が障害されるため痰を排出しにくくなり、慢性の咳嗽・喀痰が続く。これが慢性気管支炎や慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の症状の基盤となる。ニコチンにも気道分泌を増やす作用がある。したがって「抑制される」は誤りである。
- ×b. 禁煙治療では喫煙本数の目標を設定する。
禁煙治療の目標は完全禁煙であり、本数を少しずつ減らす目標を立てる方法はとらない。本数を減らしても、1本あたりの吸い方が深くなる(代償性喫煙)ことなどから健康被害は期待するほど減らず、ニコチン依存も続くためである。わが国の禁煙治療(ニコチン依存症管理料による保険診療)では、禁煙開始日を決めて、その日から完全に禁煙し、12週間に計5回の診察でニコチン製剤やバレニクリンなどの禁煙補助薬と行動療法を組み合わせて支援する。
- ×c. 主流煙は副流煙よりも粒子状物質を多く含んでいる。
主流煙は喫煙者がフィルターを通して吸い込む煙であり、副流煙はたばこの点火部から直接立ち上る煙である。副流煙は比較的低い温度で不完全燃焼して生じ、フィルターも通らないため、タールなどの粒子状物質や、一酸化炭素、アンモニア、ニトロソアミンなどの有害物質を主流煙より多く含む。したがって記述は逆であり誤りである。受動喫煙では主に副流煙と喫煙者が吐き出した呼出煙にさらされるため、周囲の人の健康被害も大きい。
- ○d. 健康日本21(第二次)における妊婦の喫煙率の目標値は0%である。
妊娠中の喫煙は、流産・早産、常位胎盤早期剝離、前置胎盤、胎児発育不全・低出生体重児、乳幼児突然死症候群〈SIDS〉などのリスクを高める。安全な喫煙量は存在しないため、健康日本21(第二次)では「妊娠中の喫煙をなくす」ことを掲げ、妊婦の喫煙率の目標を0%とした(策定時の2010年の値は5.0%)。未成年者の喫煙率の目標も同じく0%であり、成人の喫煙率は19.5%(2010年)から12%へ下げることが目標とされた。よってこの記述は正しい。
- ×e. 禁煙でたばこ関連疾患の予防効果が期待できるのは70歳未満である。
禁煙による健康上の利益は年齢に上限なく得られる。禁煙後は比較的早期から心筋梗塞などの冠動脈疾患や脳卒中のリスクが低下し始め、肺癌などの発癌リスクも年数をかけて低下していく。高齢になってから禁煙しても、続けた場合に比べて死亡リスクや呼吸機能低下の進行が抑えられることが示されている。したがって、何歳であってもできるだけ早く禁煙することが勧められ、「70歳未満に限られる」は誤りである。
主流煙・副流煙・呼出煙
・主流煙:喫煙者がフィルターを通して吸い込む煙。 ・副流煙:たばこの点火部から立ち上る煙。不完全燃焼により有害物質が多く、受動喫煙の主な原因となる。 ・呼出煙:喫煙者が吐き出した煙。 受動喫煙は肺癌、虚血性心疾患、脳卒中、小児の喘息や中耳炎、SIDSなどのリスクを高める。わが国では2018年の健康増進法改正(2020年4月全面施行)により、多数の者が利用する施設での屋内原則禁煙が定められた。加熱式たばこも規制の対象に含まれる。
健康日本21(第二次)のたばこ関連目標
・成人の喫煙率の減少:12% ・未成年者の喫煙をなくす:0% ・妊娠中の喫煙をなくす:0% ・受動喫煙の機会を有する者の割合の減少(行政機関・医療機関では0%など) なお、2024年度からの健康日本21(第三次)でも、20歳以上の喫煙率12%、20歳未満の喫煙をなくすこと、妊娠中の喫煙をなくすことが引き続き目標とされている。飲酒についても、未成年者と妊婦の飲酒をなくすこと(0%)が目標とされている。
禁煙治療(保険診療)の概要
対象はニコチン依存症のスクリーニングテスト〈TDS〉で5点以上の者などであり、35歳以上ではブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)200以上という要件もある。12週間で5回の診察を行い、呼気一酸化炭素濃度の測定で禁煙状況を確認しながら、ニコチンパッチや内服薬バレニクリンなどの禁煙補助薬を用いる。
喫煙の気道への影響
杯細胞の増生と気管支腺の肥大による粘液の過剰分泌、線毛機能の障害、肺胞壁の破壊(気腫化)などが起こり、COPDの最大の危険因子となる。
POINT
・長期喫煙では気道分泌は亢進し、線毛運動が障害される。 ・禁煙治療の目標は完全禁煙であり、減煙ではない。 ・副流煙は主流煙より粒子状物質・有害物質を多く含む。 ・健康日本21(第二次)では、妊婦と未成年者の喫煙率の目標は0%、成人は12%。 ・禁煙の効果は何歳から始めても得られる。
