StudyMed医師国家試験

労災を「認定」するのは誰か―産業医の役割と法的な位置づけ

第111回医師国家試験 E問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第111回 E問題 第11問

産業医について誤っているのはどれか。

  1. a.事業者が選任する。
  2. b.月1回の職場巡視を行う。
  3. c.業務上疾病の認定を行う。
  4. d.労働安全衛生法に要件が示されている。
  5. e.常時50人以上の事業所では選任が義務付けられている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は産業医に関する問題で、誤っているものを選ぶ形式だ。着眼点は、産業医が「事業場の中で予防的に健康管理を行う医師」であって、「行政上の判断を下す立場」ではないという点。誰が選ぶのか、どの規模で必要か、何をするのか、を順に整理していこう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったはずなんですが、正直、法律の細かい数字があいまいです。
ドクタードクター
数字は後でまとめるから大丈夫。まずは根拠となる法律から。産業医の選任義務や資格要件はどの法律に書かれているかな。
医学生医学生
労働基準法でしょうか。それとも労働安全衛生法ですか。
ドクタードクター
労働安全衛生法だ。第13条が産業医の選任を定めていて、具体的な要件は同法に基づく労働安全衛生規則に規定されている。医師であることに加え、厚生労働大臣の指定する研修の修了、労働衛生コンサルタント試験の合格、大学で労働衛生を担当する教授などの経験、のいずれかが必要なんだ。
医学生医学生
日本医師会の認定産業医の研修というのは、その指定研修のことなんですね。
ドクタードクター
その通り。では、産業医を選ぶのは誰だろう。
医学生医学生
労働者の健康を守る立場なので、労働組合や労働基準監督署が指名するイメージがありました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。選任するのは事業者、つまり労働者を使用する会社側だ。選任の必要が生じてから14日以内に選び、所轄の労働基準監督署長に選任報告を出す。行政は報告を受ける側なんだ。
医学生医学生
選任が必要になる規模は、常時50人以上の事業場でしたよね。
ドクタードクター
正解。業種を問わず常時50人以上で選任義務がある。常時1,000人以上、または有害業務に常時500人以上が従事する事業場では専属の産業医が必要で、3,000人を超えると2人以上になる。50人未満では努力義務にとどまり、地域産業保健センターなどの支援を利用できる。
医学生医学生
職場巡視は月1回でしたか。
ドクタードクター
原則は少なくとも毎月1回だ。作業方法や衛生状態に有害のおそれがあれば、直ちに健康障害を防ぐ措置を講じる。なお2017年の省令改正で、事業者の同意があり、衛生管理者の巡視結果などの情報が毎月提供される場合には、2か月に1回とすることも認められた。ただ、原則が月1回以上であることは変わらない。
医学生医学生
そうすると、残る業務上疾病の認定が誤りですね。職場の病気に一番詳しいのは産業医なので、認定もしそうに思えましたが。
ドクタードクター
その迷いこそがこの問題の狙いだ。ある疾病が業務に起因する業務上疾病に当たるかどうかは、労災保険法に基づき、労働者や遺族からの請求を受けて、所轄の労働基準監督署長が調査し判断する。産業医は原因調査や再発防止策に関わり、医学的な意見を述べることはあっても、労災として認めるかどうかを決める権限はもたないんだ。
医学生医学生
予防と健康管理は産業医、補償の判断は行政、と役割が分かれているんですね。
ドクタードクター
いい整理だね。ちなみに認定の決定に不服があれば、労働者災害補償保険審査官への審査請求、労働保険審査会への再審査請求、さらに訴訟へと進める仕組みになっている。
医学生医学生
では、産業医の具体的な仕事には何がありますか。
ドクタードクター
健康診断の実施と事後措置としての就業上の意見、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックとその後の面接指導、作業環境や作業の管理、健康教育や健康相談、衛生委員会への参加などがある。必要と認めるときは事業者に勧告でき、事業者はそれを尊重しなければならない。
医学生医学生
社会医学の実習で企業を見学したとき、産業医の先生が復職面談をしていました。臨床とはずいぶん違う視点だと感じました。
ドクタードクター
良い経験をしたね。産業医は、病気を治すことより「その人が安全に働き続けられるか」を考える。2019年の働き方改革関連法の施行で、事業者から産業医への労働時間などの情報提供や、勧告内容の衛生委員会への報告が義務化され、メンタルヘルスや過重労働対策での役割はますます大きくなっているよ。

まとめ

産業医は労働安全衛生法と労働安全衛生規則に選任義務・資格要件・職務が定められた医師で、常時50人以上の労働者を使用する事業場では事業者が選任し、労働基準監督署長に報告します。常時1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属、3,000人超で2人以上が必要となり、職場巡視は原則月1回以上行います。一方、業務上疾病(労災)の認定は、労災保険法に基づき労働基準監督署長が行う行政上の判断であり、産業医の職務ではありません。産業医は健康診断の事後措置、長時間労働者やストレスチェック後の面接指導、衛生委員会への参加、事業者への勧告などを通じて予防的な健康管理を担っており、「予防は産業医、補償の判断は行政」という役割分担を理解することが、産業保健の全体像をつかむ鍵になります。

解答・解説

正解はcです

産業医は、労働者の健康管理を医学的な立場から担う医師であり、その選任義務・資格要件・職務は労働安全衛生法と、その下位法令である労働安全衛生規則に定められている。本問は「誤っているもの」を選ぶ形式なので、産業医の法的な位置づけ(誰が選ぶのか、どの規模で必要か、何をするのか)を正確に押さえ、産業医の役割ではないものを見つければよい。 考え方の軸は「産業医は事業場の中で予防的な健康管理を行う立場であり、行政上の判断(労災の認定など)を下す立場ではない」という点である。職場巡視、健康診断の事後措置、面接指導、衛生委員会への参加などは産業医の仕事であるが、ある疾病が業務に起因するかどうかを公的に判断して労災保険の給付を決めるのは、行政機関である労働基準監督署長の権限である。

選択肢考察

  1. ×a.  事業者が選任する。

    記述は正しい。産業医を選ぶのは事業者(会社など労働者を使用する側)であり、選任の必要が生じた日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ選任報告を提出する。労働者側や行政が指名するのではない点を押さえておく。

  2. ×b.  月1回の職場巡視を行う。

    記述は正しい。産業医は少なくとも毎月1回作業場を巡視し、作業方法や衛生状態に有害のおそれがあれば、直ちに労働者の健康障害を防ぐための措置を講じなければならない。なお2017年(平成29年)6月の省令改正により、事業者の同意があり、衛生管理者の巡視結果など所定の情報が毎月産業医に提供される場合には、巡視の頻度を少なくとも2か月に1回とすることも認められた。原則が「月1回以上」であることに変わりはない。

  3. ○c.  業務上疾病の認定を行う。

    誤った記述であり、これが正解である。ある疾病が業務に起因する「業務上疾病」に当たるかどうかの認定は、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき、労働者などからの請求を受けて所轄の労働基準監督署長が行う。産業医は職場の健康障害の原因調査や再発防止策の立案に関与し、医学的な意見を述べることはあるが、労災として認めるかどうかを決める権限はもたない。

  4. ×d.  労働安全衛生法に要件が示されている。

    記述は正しい。労働安全衛生法第13条が産業医の選任義務を定め、具体的な要件は同法に基づく労働安全衛生規則に規定されている。医師であることに加え、厚生労働大臣の指定する研修(日本医師会認定産業医の基礎研修など)の修了、労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)の合格、大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・常勤講師(経験者を含む)であること、などのいずれかを満たす必要がある。

  5. ×e.  常時50人以上の事業所では選任が義務付けられている。

    記述は正しい。業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務である。さらに常時1,000人以上、または有害業務に常時500人以上が従事する事業場では、その事業場に専属の産業医が必要となり、常時3,000人を超える事業場では2人以上の選任が求められる。50人未満の事業場では選任義務はなく、医師などに健康管理を行わせるよう努める努力義務にとどまる。

産業医の選任基準

・常時50人以上の労働者:産業医1人以上の選任義務(嘱託でもよい) ・常時1,000人以上、または有害業務に常時500人以上:専属産業医 ・常時3,000人超:2人以上 ・50人未満:選任義務なし(努力義務)。地域産業保健センター(産業保健総合支援センターの地域窓口)などの支援を利用できる。

産業医の主な職務

・健康診断の実施と、その結果に基づく事後措置(就業上の配慮に関する意見など) ・長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックの実施とその結果に基づく面接指導 ・作業環境の維持管理、作業管理に関すること ・健康教育、健康相談、その他労働者の健康の保持増進 ・衛生教育 ・労働者の健康障害の原因調査と再発防止策 ・職場巡視(原則月1回以上) ・衛生委員会への参加 産業医は、必要と認めるときは事業者に対して労働者の健康管理について勧告することができ、事業者はこれを尊重しなければならない。2019年4月の働き方改革関連法の施行により、勧告内容を衛生委員会に報告することや、事業者が産業医に労働時間などの情報を提供することが義務化され、産業医の機能が強化された。

業務上疾病の認定(労災認定)の流れ

被災労働者や遺族が労働基準監督署長に保険給付を請求し、監督署が調査を行って業務起因性を判断し、支給・不支給を決定する。決定に不服があれば、労働者災害補償保険審査官への審査請求、労働保険審査会への再審査請求、さらには訴訟へと進むことができる。

POINT

・産業医は事業者が選任し、労働基準監督署長に報告する。 ・常時50人以上で選任義務、1,000人以上(有害業務500人以上)で専属、3,000人超で2人以上。 ・職場巡視は原則月1回以上(条件を満たせば2か月に1回も可)。 ・選任義務と資格要件は労働安全衛生法(および労働安全衛生規則)に規定。 ・業務上疾病(労災)の認定は労働基準監督署長が行い、産業医の職務ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。