乳児のショックを4つに分ける―嘔吐と下痢が「量」を奪う循環血液量減少性ショック
第111回医師国家試験 C問題 第3問
国試問題にチャレンジ
乳児において循環血液量減少性ショックを生じる可能性がある疾患はどれか。
- a.脊髄損傷
- b.急性腎盂腎炎
- c.食物アレルギー
- d.心タンポナーデ
- e.ウイルス性胃腸炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ショックは循環血液量減少性、血液分布異常性、心原性、心外閉塞・拘束性の4つに分類すると整理しやすく、乳児で循環血液量減少性ショックを起こす代表がウイルス性胃腸炎による嘔吐・下痢の脱水です。乳児は体重あたりの水分必要量が多く、自ら水分を補えず腎の濃縮能も未熟なため、短時間で重症化しやすい点が重要です。脊髄損傷による神経原性ショック、腎盂腎炎からの敗血症性ショック、食物アレルギーによるアナフィラキシーは血液分布異常性、心タンポナーデは心外閉塞・拘束性に分類されます。小児では代償機構が強く血圧低下は遅れて現れるため、頻脈やCRT延長などの灌流低下徴候で早期に気づき、重度脱水には等張晶質液による輸液蘇生を行います。病態ごとにショックを分類する考え方は、原因に応じた治療選択の基盤となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、ショックの病態分類を理解したうえで、乳児で「循環血液量減少性ショック」の原因となる疾患を選ぶ問題である。
ショックとは
ショックとは、全身の組織が必要とする酸素や栄養を、循環が十分に届けられなくなった状態である。血圧低下は結果の一つにすぎず、小児では血管収縮や頻脈による代償が強いため、血圧が保たれたまま組織灌流が低下している段階(代償性ショック)がしばしばみられる。
ショックの4分類
病態から次の4つに分けると整理しやすい。 1. 循環血液量減少性ショック:出血や体液喪失で、循環する血液(体液)量そのものが減る。 2. 血液分布異常性ショック:末梢血管が拡張し、血液が末梢に偏在して有効な循環量が不足する(敗血症性、アナフィラキシー、神経原性)。 3. 心原性ショック:心臓のポンプ機能が低下する(心筋炎、心筋症、不整脈など)。 4. 心外閉塞・拘束性ショック:心臓の外の要因で血液の流れが物理的に妨げられる(心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症など)。
考え方
各選択肢をこの4分類に当てはめると、体液そのものが失われるのはウイルス性胃腸炎(嘔吐・下痢による脱水)のみである。乳児は体重あたりの水分必要量が多く、体重に占める細胞外液の割合も大きい。さらに自ら水分を摂って喪失を補うことができず、腎臓の尿濃縮能も未熟なため、嘔吐・下痢が続くと短時間で高度の脱水からショックに陥りやすい。小児のショックで最も多いのが、この循環血液量減少性ショックである。
選択肢考察
- ×a. 脊髄損傷
主に第6胸髄より上位の頸髄・上位胸髄の損傷では、交感神経の出力が途絶えて血管の緊張が失われ、末梢血管が拡張する。さらに心臓交感神経も遮断されるため、相対的に迷走神経(副交感神経)が優位となり徐脈を伴う。これは神経原性ショックと呼ばれ、血液分布異常性ショックに分類される。頻脈を伴わない低血圧と、皮膚が温かく乾いていることが特徴である。循環血液量減少性ショックではない。
- ×b. 急性腎盂腎炎
急性腎盂腎炎は腎実質に及ぶ上部尿路の細菌感染症で、乳児の発熱の原因として重要である(膀胱尿管逆流などの尿路奇形が背景にあることも多い)。菌血症から敗血症に進むと、炎症性メディエーターによる血管拡張と血管透過性亢進を来し、敗血症性ショックとなりうる。敗血症性ショックは血液分布異常性ショックの代表である。経口摂取不良などで脱水を合併することはあるが、本症によるショックの主な病態は循環血液量減少ではない。
- ×c. 食物アレルギー
食物アレルギーでは、IgE抗体を介して肥満細胞から放出されるヒスタミンなどの化学伝達物質により、アナフィラキシーを起こすことがある。末梢血管の急激な拡張と血管透過性亢進により血圧が低下するアナフィラキシーショックは、血液分布異常性ショックに分類される。抗原曝露から数分〜数十分の単位で急速に進行するのが特徴で、治療の第一選択はアドレナリンの筋注である。
- ×d. 心タンポナーデ
心タンポナーデは心膜腔に液体(血液、滲出液など)が貯留して心臓が外から圧迫され、拡張期に心室が十分に広がれなくなる状態である。静脈還流が妨げられて心拍出量が低下し、心外閉塞・拘束性ショックを来す。頸静脈怒張、奇脈、心音減弱などがみられ、治療は心嚢穿刺による排液である。放置すると無脈性電気活動(PEA)から心停止に至る。循環血液量そのものは減少していない。
- ○e. ウイルス性胃腸炎
ロタウイルスやノロウイルスなどによるウイルス性胃腸炎では、嘔吐と下痢によって水分と電解質(ナトリウム、カリウム、重炭酸など)が失われ、脱水が進むと循環血液量減少性ショックに至る。乳児は体重あたりの水分出納が大きく、水分を自分で補給できず、腎の濃縮能も未熟なため重症化しやすい。下痢症による脱水は世界的に乳幼児死亡の主要な原因の一つである。軽〜中等度の脱水には経口補水療法、重度脱水やショックには等張晶質液(生理食塩液など)の急速静注による輸液蘇生を行う。
ショックの分類と小児での代表的な原因
・循環血液量減少性:下痢・嘔吐による脱水(ウイルス性胃腸炎)、出血(外傷など)、熱傷、糖尿病ケトアシドーシスなどによる多尿 ・血液分布異常性:敗血症、アナフィラキシー、神経原性(脊髄損傷) ・心原性:心筋炎、心筋症、先天性心疾患、不整脈 ・心外閉塞・拘束性:心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症、動脈管依存性の先天性心疾患で動脈管が閉鎖した場合
小児のショックの特徴
小児は心拍数の増加と末梢血管の収縮で血圧を維持する力が強く、血圧が低下するのはショックがかなり進行してからである。そのため、頻脈、毛細血管再充満時間(CRT)の延長(2秒超)、末梢冷感、脈拍の微弱、尿量減少、意識レベルの変化などの組織灌流低下の徴候を早期に捉えることが重要である。収縮期血圧が保たれていても灌流不良の徴候があれば代償性ショック、収縮期血圧が年齢相応の下限を下回れば低血圧性ショックとする。PALS(小児二次救命処置)では、乳児(1〜12か月)の低血圧を収縮期血圧70mmHg未満としている。
乳児の脱水の評価
脱水の程度は、体重減少率のほか、大泉門の陥凹、口腔粘膜の乾燥、涙の減少、皮膚ツルゴールの低下、尿量減少、CRT延長、頻脈、活気低下などから評価する。重度脱水やショック徴候があれば、速やかに静脈路(困難なら骨髄路)を確保し、等張晶質液をボーラス投与する。
POINT
・ショックは循環血液量減少性、血液分布異常性、心原性、心外閉塞・拘束性の4つに分類する。 ・小児のショックで最も多いのは循環血液量減少性で、代表はウイルス性胃腸炎による脱水である。 ・神経原性(脊髄損傷)、敗血症性(腎盂腎炎など)、アナフィラキシー(食物アレルギーなど)は血液分布異常性ショック。 ・心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓症は心外閉塞・拘束性ショック。 ・小児では血圧低下は遅れて出現するため、頻脈やCRT延長などで早期に気づく。
