Na欠乏量は「細胞外液」で割らない―乳児の脱水で学ぶ分布容積の考え方
第119回医師国家試験 F問題 第75問
国試問題にチャレンジ
10か月の男児。嘔吐と下痢を主訴に母親に連れられて来院した。診察時の体重は10kg。血清Na濃度は132mEq/Lであった。 正常血清Na濃度を140mEq/Lとして,Naの欠乏量を求めよ。 ただし,患児の体重に対する細胞内液の割合を30%,細胞外液の割合を20%とする。 また小数点以下の数値が得られた場合には,小数第1位を四捨五入すること。 解答:①②mEq
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Na欠乏量は「(目標血清Na濃度-現在の血清Na濃度)×総体液量」で求め、本問では(140-132)×10kg×(0.3+0.2)=8×5=40mEqとなります。血清Na濃度の低下は水の細胞内移動を通じて体液全体の浸透圧低下を反映するため、分布容積には細胞外液量ではなく総体液量を用いることが重要で、細胞外液だけで計算した16mEqは典型的な誤答です。総体液量の目安は新生児約80%、乳児約70%、成人約60%で、本例のような低張性脱水では循環不全をきたしやすい点にも注意が必要です。実際の補正では浸透圧性脱髄症候群を避けるため24時間のNa上昇幅を制限し、計算値は目安として血清Naを繰り返し測定しながら調整します。式の背景にある体液生理を理解しておくことが、計算問題だけでなく小児の脱水診療や輸液管理の実践にもつながります。
解答・解説
正解は40mEqです
病態の把握
10か月の乳児が嘔吐と下痢で受診しており、急性胃腸炎による脱水が考えられる。血清Na濃度は132mEq/Lで基準(おおむね135〜145mEq/L)を下回る低ナトリウム血症であり、水分よりもNaを相対的に多く失った低張性脱水の状態と考えられる。下痢便や吐物にはNaが含まれ、さらに失った分を電解質の少ない水分(白湯、お茶など)で補うと低ナトリウム血症になりやすい。
計算の考え方
Naは主に細胞外液に分布する陽イオンだが、血清Na濃度が下がると、浸透圧の平衡を保つために水が細胞外から細胞内へ移動する。つまり血清Na濃度の低下は細胞外液だけの問題ではなく、体液全体(細胞内液+細胞外液)の浸透圧の低下を反映している。そのため、血清Na濃度を正常に戻すのに必要なNa量は、細胞外液量ではなく総体液量(体水分量)を分布容積として計算する。 Na欠乏量(mEq)=(目標血清Na濃度 − 現在の血清Na濃度)×総体液量(L) 総体液量(L)=体重(kg)×(細胞内液の割合+細胞外液の割合)
計算過程
1. 総体液量を求める 細胞内液30%+細胞外液20%=体重の50% 総体液量=10kg×0.5=5L(体液1kg≒1Lとみなす) 2. 血清Na濃度の不足分を求める 140 − 132 = 8mEq/L 3. Na欠乏量を求める 8mEq/L × 5L = 40mEq 小数点以下は生じないため、そのまま答えは40mEqとなる。
計算上の注意
総体液量ではなく細胞外液量(10kg×0.2=2L)だけで計算すると8×2=16mEqとなり誤りである。問題文が細胞内液と細胞外液の割合を別々に与えているのは、両者を合計して総体液量を求めさせるためである。
Na欠乏量の式の成り立ち(Edelmanの関係式)
Edelmanらは、血清Na濃度が体内の交換可能なNaとKの総量を総体液量で割った値にほぼ比例することを示した。 血清Na濃度 ≒(交換可能Na+交換可能K)÷ 総体液量 この関係から、総体液量が変わらないと仮定すると、血清Na濃度を140mEq/Lから現在値PNaまで下げるのに失われた陽イオン量は(140 − PNa)× 総体液量となる。これが本問の式の根拠である。成人では総体液量を体重の約60%(高齢者や女性では約50%)として、Na欠乏量=(140 − PNa)×体重×0.6で概算する。
年齢による体液量の違い
・新生児:総体液量は体重の約80%で、細胞外液の割合が大きい ・乳児:約70%(細胞内液約40%、細胞外液約30%) ・成人:約60%(細胞内液約40%、細胞外液約20%) 本問では細胞内液30%・細胞外液20%と、乳児の標準より少ない値が与えられており、脱水によって体液量が減少した状態を想定していると解釈できる。
脱水の分類(血清Na濃度による)
・低張性脱水(Na<130〜135mEq/L程度):Na喪失が水喪失より多い。細胞外液量が強く減少するため、末梢循環不全・ショックをきたしやすい一方、口渇は目立ちにくい。 ・等張性脱水(Na 130〜150mEq/L程度):小児の胃腸炎で最も多い。 ・高張性脱水(Na>150mEq/L程度):水喪失がNa喪失より多い。口渇・興奮・けいれんがみられ、皮膚はドウ様(こねた粉のような感触)となる。
小児の脱水の治療
軽症〜中等症では経口補水液(ORS:oral rehydration solution)による経口補水療法が第一選択である。経口摂取が困難な場合や重症例では、等張に近い輸液(細胞外液補充液など)で循環を回復させる。低ナトリウム血症の補正では、急速な補正により浸透圧性脱髄症候群(橋中心髄鞘崩壊症など)を起こしうるため、慢性の低ナトリウム血症では1日あたりの血清Na上昇幅を制限(一般に24時間で8〜10mEq/L以内)する。計算で得られたNa欠乏量は補充量の目安であり、実際の輸液では維持量・継続喪失量を加え、血清Na値を繰り返し測定しながら調整する。
POINT
・Na欠乏量(mEq)=(目標Na − 現在のNa)× 総体液量(L)。 ・分布容積は細胞外液量ではなく総体液量(細胞内液+細胞外液)を用いる。 ・本問:(140 − 132)× 10kg ×(0.3+0.2)= 8 × 5 = 40mEq。 ・総体液量の目安は成人約60%、乳児約70%、新生児約80%。 ・低ナトリウム血症の急速補正は浸透圧性脱髄症候群の危険がある。
