昏睡の頭部外傷、まず診るのは頭ではなく「息」―二次性脳損傷を防ぐ初期診療の鉄則
第111回医師国家試験 C問題 第2問
国試問題にチャレンジ
昏睡を呈する頭部外傷患者の初期診療において最優先すべきなのはどれか。
- a.低換気の是正
- b.頭部CTの撮影
- c.目撃者からの情報収集
- d.一次的脳損傷の修復治療
- e.脳神経外科医へのコンサルテーション
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
昏睡を呈する頭部外傷患者の初期診療では、頭部CTや専門医への連絡よりも先に、primary surveyのA(気道)・B(呼吸)の安定化、すなわち低換気の是正が最優先となります。受傷時に完成する一次性脳損傷は修復できませんが、低酸素血症や高二酸化炭素血症、低血圧による二次性脳損傷は適切な対応で予防でき、これが予後を大きく左右します。特にPaCO2の上昇は脳血管拡張から頭蓋内圧亢進を招くため、気道確保と適切な換気が欠かせません。頭部CTや病歴聴取はsecondary surveyで行い、GCS 8以下や脳ヘルニア徴候などの「切迫するD」があれば気道確保のうえで早期にCTと脳神経外科への連絡を進めます。「治せない損傷より、防げる損傷を防ぐ」という考え方は、外傷診療全体に通じる基本原則です。
解答・解説
正解はaです
本問は、昏睡状態の頭部外傷患者を前にしたとき、初期診療で何から手を付けるべきかという優先順位を問う問題である。
一次性脳損傷と二次性脳損傷
頭部外傷による脳の障害は二つに分けて考える。受傷の瞬間に外力で生じる一次性脳損傷(脳挫傷、びまん性軸索損傷など)は、起きてしまった後で元に戻すことができない。一方、受傷後に加わる低酸素血症、高二酸化炭素血症、低血圧(ショック)、頭蓋内圧亢進などによって脳がさらに傷む二次性脳損傷は、適切な初期対応によって予防・軽減できる。重症頭部外傷の予後は、この二次性脳損傷をいかに防ぐかに大きく左右される。
初期診療の手順
外傷初期診療(日本ではJATEC:外傷初期診療ガイドラインに沿って行われる)では、まずprimary survey(生理学的評価と蘇生)として、A(Airway:気道)、B(Breathing:呼吸)、C(Circulation:循環)、D(Dysfunction of CNS:中枢神経障害)、E(Exposure and Environmental control:脱衣と体温管理)の順に評価し、生命を脅かす異常があればその場で処置する。頭部CTなどの詳しい解剖学的評価や受傷機転の聴取は、その後のsecondary surveyで行う。
昏睡患者で換気が最優先になる理由
昏睡(GCS 8以下が目安)の患者では、舌根沈下や嘔吐物の誤嚥で気道が閉塞しやすく、また呼吸中枢の抑制により低換気に陥りやすい。低換気では低酸素血症によって脳の酸素供給が不足するだけでなく、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)が上昇して脳血管が拡張し、脳血流量・脳血液量が増えて頭蓋内圧がさらに上昇する。これはまさに二次性脳損傷を加速させる悪循環である。したがって、A・Bの異常すなわち気道確保(必要なら気管挿管)と適切な換気・酸素化による低換気の是正が、すべてに先立って最優先される。
選択肢考察
- ○a. 低換気の是正
primary surveyのA(気道)・B(呼吸)に相当し、初期診療で最優先される。昏睡患者では気道閉塞や呼吸抑制によって低換気になりやすく、低酸素血症と高二酸化炭素血症が生じる。PaCO2上昇は脳血管を拡張させて頭蓋内圧を上げ、低酸素とあわせて二次性脳損傷を招く。気道確保(GCS 8以下では確実な気道確保として気管挿管が考慮される)と、酸素投与・補助換気によって正常な酸素化と換気(PaCO2をおおむね正常域に保つ)を維持する。脳ヘルニア徴候がある場合には、手術までのつなぎとして一時的に軽度の過換気を行うことがあるが、過度の過換気は脳血管を収縮させ脳虚血を招くため、漫然と行わない。
- ×b. 頭部CTの撮影
頭蓋内血腫などの診断に不可欠な検査だが、解剖学的評価であるsecondary surveyに属し、A-B-Cが安定してから行う。気道・呼吸・循環が不安定なままCT室へ移動すると、検査中に急変して対応が遅れる危険がある。なお、primary surveyのDの評価で「切迫するD」(GCS 8以下、GCSが2点以上の急速な低下、瞳孔不同や片麻痺などの脳ヘルニア徴候)を認めた場合は、確実な気道確保を行ったうえで、secondary surveyの最初に頭部CTを撮影する。いずれにしても気道・呼吸の安定化が先である。
- ×c. 目撃者からの情報収集
受傷機転(高所墜落、車外放出、同乗者の死亡、横転事故など)は重症外傷を予測するうえで重要な情報である。しかし、病院前救護でも、まず生理学的評価(意識・気道・呼吸・循環)、次に解剖学的評価(顔面・胸部・腹部・骨盤などの損傷)を行い、受傷機転の聴取はその後とされる。院内でも病歴聴取はsecondary surveyで行うものであり、生命に直結する低換気の是正より優先すべきではない。
- ×d. 一次的脳損傷の修復治療
一次性脳損傷は受傷の瞬間に完成しており、損傷した脳組織そのものを修復する治療は基本的に存在しない。初期診療で医療者が介入できるのは、低酸素・低換気・低血圧などによる予防可能な二次性脳損傷であり、そちらの防止が優先される。なお、急性硬膜外血腫などの開頭血腫除去術は、圧迫による二次性脳損傷を防ぐ治療であり、それでもA-B-Cの安定化の後に行われる。
- ×e. 脳神経外科医へのコンサルテーション
重症頭部外傷では早期に脳神経外科医へ連絡することが重要で、特に「切迫するD」を認めた場合は気管挿管による気道確保と並行して速やかに依頼する。しかし、連絡を待つ間にも低換気は脳を傷害し続けるため、目の前の患者の気道・呼吸の安定化が最優先である。コンサルテーションは救命処置に代わるものではない。
JATECにおける初期診療の流れ
1. primary survey:ABCDEアプローチによる生理学的評価と蘇生 ・A:気道の開通確認と確保(頸椎保護を併せて行う) ・B:呼吸の評価、酸素投与、緊張性気胸などへの対処 ・C:循環の評価、外出血の止血、輸液路確保と初期輸液、出血源検索(FASTなど) ・D:GCS、瞳孔所見、片麻痺の有無による中枢神経障害の評価 ・E:脱衣による全身観察と保温 2. secondary survey:病歴聴取(受傷機転を含む)、頭からつま先までの系統的診察、CTなどの詳細な画像検査 3. 根本治療
切迫するD
以下のいずれかがあれば「切迫するD」と判断し、確実な気道確保、脳神経外科医への連絡、secondary surveyの最初の頭部CTへ進む。 ・GCS合計点8以下 ・経過中にGCSが2点以上低下 ・瞳孔不同、片麻痺、Cushing現象(高血圧と徐脈)などの脳ヘルニア徴候
二次性脳損傷を招く主な因子
・頭蓋外因子:低酸素血症、低血圧、高二酸化炭素血症、過度の低二酸化炭素血症、貧血、高体温、低・高血糖など ・頭蓋内因子:頭蓋内血腫、脳浮腫、頭蓋内圧亢進、脳ヘルニア、痙攣など 重症頭部外傷では、一度の低酸素血症や低血圧でも予後が明らかに悪化することが知られている。
PaCO2と脳血流
PaCO2が上昇すると脳血管は拡張し、低下すると収縮する。この反応を利用し、脳ヘルニア切迫時には一時的な過換気で頭蓋内圧を下げることがある。ただし、過換気を強くしすぎたり長時間続けたりすると脳血流が減少して虚血を招くため、予防的・長期的な過換気は推奨されない。
talk and deteriorate
受傷直後は会話ができるほど意識が保たれていたのに、その後急速に悪化する病態を指す。急性硬膜外血腫などで典型的にみられ、初療時に軽症に見えても神経所見の経時的な観察が欠かせない。
POINT
・頭部外傷の初期診療でも、まずprimary survey(A-B-C-D-E)を行い、A(気道)・B(呼吸)の安定化が最優先である。 ・一次性脳損傷は治せないが、低酸素・低換気・低血圧による二次性脳損傷は予防できる。初期診療の目標はその予防である。 ・低換気による高二酸化炭素血症は脳血管拡張から頭蓋内圧亢進を招く。 ・頭部CT、病歴聴取はsecondary survey。切迫するD(GCS 8以下、GCS 2点以上の低下、脳ヘルニア徴候)があれば気道確保のうえで早期に頭部CTと脳神経外科医への連絡を行う。
