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白米と重労働が招いた国民病―糖質代謝から読み解く脚気とビタミンB1

第111回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第111回 C問題 第1問

糖質の過剰摂取と肉体労働が発症のリスクとなるのはどれか。

  1. a.脚気
  2. b.夜盲症
  3. c.悪性貧血
  4. d.出血傾向
  5. e.ペラグラ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はビタミン欠乏症の問題だ。着眼点は「糖質の過剰摂取」と「肉体労働」という2つの条件。どちらもエネルギー代謝を活発にする状況だね。そうした状況で消費が増えるビタミンは何か、を考えよう。
医学生医学生
ビタミン欠乏って、食べる量が足りないから起こるものだと思っていました。たくさん食べて働く人が欠乏するというのは意外です。
ドクタードクター
そこが本問のポイント。ビタミンの必要量は一定ではなく、そのビタミンが関わる代謝が活発になるほど消費量が増える。つまり摂取が普通でも、需要が増えれば相対的に欠乏するんだ。
医学生医学生
糖質の代謝に関わるビタミンというと、生化学の講義で習ったビタミンB1でしょうか。
ドクタードクター
正解。B1(チアミン)は活性型のチアミン二リン酸として、ピルビン酸をアセチルCoAに変えるピルビン酸脱水素酵素複合体、TCA回路のα-ケトグルタル酸脱水素酵素、ペントースリン酸経路のトランスケトラーゼの補酵素になる。糖からエネルギーを取り出す要所を押さえているんだ。
医学生医学生
だから糖質を大量に摂っても、肉体労働で糖をどんどん燃やしても、B1の消費が増えるわけですね。
ドクタードクター
そう。しかもB1は水溶性で体内の貯蔵量が少なく、数週間分程度しかない。だから需要が増えると比較的早く欠乏症状が出る。その欠乏症が脚気で、これが正解だ。歴史的にも、精白米中心で副食の乏しい食事をとりながら重労働する人に多発したんだよ。
医学生医学生
医学史の講義で、明治期の海軍で脚気が問題になった話を聞きました。
ドクタードクター
日本ではまさに国民病だった。では、ほかの選択肢も確認しよう。夜盲症はどうかな。
医学生医学生
ビタミンA欠乏ですね。ロドプシンの再生ができなくて暗い所で見えにくくなる。
ドクタードクター
そう。ビタミンAは脂溶性だから、胆道閉塞や慢性膵炎などの脂肪吸収障害がリスクになる。網膜色素変性症のようにビタミンと関係ない原因もある。いずれも糖質や労働量とは関係しない。
医学生医学生
悪性貧血は、B12欠乏でしたよね。名前が怖いので印象に残っています。
ドクタードクター
自己免疫性の萎縮性胃炎で壁細胞が障害され、内因子が出なくなってB12が吸収できない巨赤芽球性貧血だ。抗内因子抗体や抗壁細胞抗体が関与する。B12欠乏は胃全摘後や回腸末端切除でも起こるけれど、糖質や肉体労働は関係ない。
医学生医学生
出血傾向は、ビタミンKやCの欠乏で起こりうるけど、それ以外の原因も多いですね。
ドクタードクター
その通り。血小板や凝固因子の異常、抗凝固薬など原因は多彩だ。ビタミンKは凝固因子II、VII、IX、Xの活性化に必要で、新生児や長期の抗菌薬投与、閉塞性黄疸で欠乏しやすい。Cが欠乏すると壊血病になる。最後にペラグラは?
医学生医学生
ナイアシン欠乏で、皮膚炎・下痢・認知症の3Dです。トリプトファンからも作られるので、カルチノイド症候群でも起こると覚えました。
ドクタードクター
よく整理できているね。トウモロコシ主食、アルコール依存症、ハートナップ病、イソニアジドなども危険因子だ。やはり糖質や肉体労働とは直接関係しない。
医学生医学生
脚気の症状は、末梢神経障害と心不全でしたっけ。
ドクタードクター
そう。下肢遠位優位のしびれや腱反射低下が主体の乾性脚気と、末梢血管拡張による高拍出性心不全・浮腫が主体の湿性脚気がある。急激に重症化するものは衝心脚気と呼ばれる。そして臨床で特に注意したいのが、現代のB1欠乏だ。アルコール多飲、清涼飲料水やインスタント食品への偏食、妊娠悪阻の持続、胃切除後などで起こる。
医学生医学生
消化器内科の実習で、高カロリー輸液にビタミンB1を必ず入れるように言われたのも同じ理由ですか。
ドクタードクター
まさにそう。ブドウ糖を含む輸液をB1補充なしに投与すると、糖代謝でB1が急速に消費され、Wernicke脳症や乳酸アシドーシスを誘発しうる。B1が足りないとピルビン酸がアセチルCoAに進めず、乳酸がたまるからね。今日の「糖質でB1が消費される」という理屈が、そのまま医療安全につながるんだ。
医学生医学生
栄養状態の悪い人にいきなりブドウ糖だけを入れるのは危ない、と覚えておきます。

まとめ

ビタミンB1(チアミン)はチアミン二リン酸として、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼの補酵素となり、糖質からのエネルギー産生に欠かせません。そのため糖質の過剰摂取や肉体労働で需要が増え、体内貯蔵の少ないB1は相対的に欠乏しやすく、末梢神経障害(乾性)や高拍出性心不全(湿性)を呈する脚気を来します。夜盲症はビタミンA、悪性貧血は内因子欠乏によるビタミンB12、出血傾向はビタミンKやC、ペラグラはナイアシンの欠乏と対応づけて整理しておきましょう。現代でもアルコール多飲や偏食、B1を含まないブドウ糖輸液でWernicke脳症や乳酸アシドーシスが起こりうるため、ビタミンの需要と代謝の関係を理解することは日常診療の安全に直結します。

解答・解説

正解はaです

本問は、ビタミン欠乏症のうち「糖質の過剰摂取」と「肉体労働」という二つの条件で需要が増し、欠乏に陥りやすくなるものを選ぶ問題である。

考え方

ビタミンの必要量は一定ではなく、そのビタミンが関わる代謝が活発になるほど消費量が増える。ビタミンB1(チアミン)は、活性型であるチアミン二リン酸(TPP)として、糖質からエネルギーを取り出す経路の要所で補酵素として働く。具体的には、解糖系の産物ピルビン酸をアセチルCoAに変換するピルビン酸脱水素酵素複合体、TCA回路(クエン酸回路)のα-ケトグルタル酸脱水素酵素、ペントースリン酸経路のトランスケトラーゼに必要である。 したがって、①糖質を大量に摂取すると、それを処理するためにB1の消費が増える。②肉体労働でエネルギー需要が高まると、糖質の燃焼が促進されて同様にB1の消費が増える。B1は水溶性で体内貯蔵量が少なく(数週間分程度)、摂取不足や需要増大に対して欠乏症状が比較的早く現れる。この欠乏症が脚気であり、本問の条件に最もよく当てはまる。 他の選択肢は、それぞれ異なるビタミン(A、B12、K、ナイアシン)の欠乏や、ビタミン以外の多様な原因で生じる病態であり、糖質摂取量や運動量と直接結びつくものではない。

選択肢考察

  1. ○a.  脚気

    脚気はビタミンB1(チアミン)欠乏症である。B1は糖質代謝の補酵素(チアミン二リン酸)としてピルビン酸脱水素酵素などに必要なため、糖質を多く摂るほど、また肉体労働でエネルギー消費が増すほど需要が増大し、相対的な欠乏に陥りやすい。精白米中心で副食の乏しい食事をとりつつ重労働をする人に多発した歴史がある。主な症状は、多発性末梢神経障害(下肢優位のしびれ、腱反射低下)による乾性脚気と、高拍出性心不全・浮腫を呈する湿性脚気である。したがって本問の条件に合致する。

  2. ×b.  夜盲症

    後天性の夜盲症の代表はビタミンA欠乏によるもので、網膜杆体の視物質ロドプシンの再生が障害され、暗い所で見えにくくなる。ビタミンAは脂溶性であるため、脂肪吸収障害(胆道閉塞、慢性膵炎、短腸症候群など)や低栄養が危険因子となる。また網膜色素変性症のような遺伝性網膜疾患や先天性停止性夜盲など、ビタミンと無関係な原因もある。いずれも糖質摂取や肉体労働とは関係しない。

  3. ×c.  悪性貧血

    悪性貧血は、自己免疫性の萎縮性胃炎(A型胃炎)によって壁細胞が障害され、内因子が分泌されなくなる結果、ビタミンB12が吸収できずに生じる巨赤芽球性貧血である。抗内因子抗体・抗壁細胞抗体が関与する。B12欠乏の原因としては他に胃全摘後、回腸末端切除、厳格な菜食なども挙げられる。糖質過剰摂取や肉体労働は危険因子ではない。

  4. ×d.  出血傾向

    出血傾向は、血小板の数や機能の異常、凝固因子の異常、血管壁の異常、抗凝固薬・抗血小板薬の使用など多彩な原因で生じる。ビタミンとの関連では、凝固因子(II、VII、IX、X)の活性化に必要なビタミンKの欠乏(新生児・母乳栄養児、長期の抗菌薬投与や絶食、閉塞性黄疸など)や、コラーゲン合成が障害されるビタミンC欠乏(壊血病)がある。しかし、糖質の過剰摂取や肉体労働は原因とならない。

  5. ×e.  ペラグラ

    ペラグラはナイアシン(ニコチン酸)欠乏症で、皮膚炎(日光露光部の皮疹)・下痢・認知症(精神神経症状)の3徴(3D)が特徴である。ナイアシンは必須アミノ酸トリプトファンからも合成されるため、トウモロコシ主食の食生活、アルコール依存症、カルチノイド症候群(トリプトファンがセロトニン合成に消費される)、ハートナップ病(トリプトファン吸収障害)、イソニアジド服用などが危険因子である。糖質摂取や肉体労働との直接の関連はない。

主なビタミン欠乏症の整理

・ビタミンA:夜盲症、眼球乾燥症、角膜軟化症、皮膚の角化 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害・心不全)、Wernicke脳症(意識障害・眼球運動障害・運動失調)、Korsakoff症候群 ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口内炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン:ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口内炎、鉄芽球性貧血(イソニアジド投与時に注意) ・葉酸、ビタミンB12:巨赤芽球性貧血(B12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症も) ・ビタミンC:壊血病(歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延) ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンK:出血傾向(新生児メレナ、頭蓋内出血など)

ビタミンB1欠乏の臨床的な場面

現代の日本では、アルコール多飲者(摂取不足と吸収障害)、インスタント食品や清涼飲料水への偏食、妊娠悪阻の持続、ビタミンを含まない高カロリー輸液、胃切除後などで問題となる。特に、ブドウ糖を含む輸液をB1補充なしに投与すると、糖代謝によってB1が急速に消費され、Wernicke脳症や乳酸アシドーシスを誘発しうる。このため高カロリー輸液ではビタミンB1の併用が必須とされる。また、B1欠乏ではピルビン酸からアセチルCoAへの変換が滞るため、ピルビン酸や乳酸が蓄積して乳酸アシドーシスを来すことがある。

脚気の病型

・乾性脚気:多発性末梢神経障害が主体。下肢遠位優位のしびれ・感覚低下、膝蓋腱反射やアキレス腱反射の低下・消失、筋力低下。 ・湿性脚気:末梢血管拡張に伴う高拍出性心不全が主体で、浮腫、頻脈、心拡大を呈する。急激に重症化する劇症型は衝心脚気と呼ばれる。

POINT

・ビタミンB1は糖質代謝の補酵素(ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素、トランスケトラーゼ)であり、糖質過剰摂取や肉体労働で需要が増す。 ・B1欠乏は脚気(末梢神経障害・高拍出性心不全)とWernicke脳症を起こす。 ・ブドウ糖輸液をB1補充なしで行うと欠乏症を誘発しうる。 ・夜盲症=ビタミンA、悪性貧血=ビタミンB12(内因子欠乏)、出血傾向=ビタミンK・C、ペラグラ=ナイアシンの組合せを確実に覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。