StudyMed医師国家試験

母子健康手帳に「書かれること」と「書かれないこと」―喫煙欄が語る母子保健の視点

第111回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第8問

母親の情報について母子健康手帳から得られる可能性が最も高いのはどれか。

  1. a.学歴
  2. b.所得
  3. c.職歴
  4. d.婚姻歴
  5. e.喫煙状況

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母子健康手帳にどんな情報が記録されるかを問う公衆衛生の問題だ。ポイントは「手帳は何のための記録か」という一点。目的がわかれば、載る情報と載らない情報は自然に見分けられるよ。まず、母子健康手帳は誰が、どんな根拠で交付するものか覚えているかな。
医学生医学生
母子保健法に基づいて、妊娠の届出をした人に市町村が交付する手帳ですよね。公衆衛生の講義で、届出先が保健所ではなく市町村だと強調されました。
ドクタードクター
その通り。妊娠期から出産、そして就学前までの乳幼児期にかけて、母と子の健康状態を一冊に記録する。妊婦健診をする産科医、乳幼児健診の小児科医、保健師、予防接種の担当者などが、同じ手帳を見て情報を共有するための道具なんだ。
医学生医学生
ということは、載っているのは医療や保健指導に役立つ情報、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそこが着眼点。手帳に載るのは「妊娠・出産や子の発育に影響しうる、母子保健上必要な情報」に限られる。では、選択肢の中でその条件を満たすのはどれだと思う?
医学生医学生
喫煙状況だと思います。ただ、所得も貧困と健康の関係を考えると大事そうで、少し迷いました。
ドクタードクター
迷う気持ちはわかる。所得や学歴は健康格差に関わる社会的要因として研究ではよく扱われるね。でも、手帳はあくまで母子の健康記録だ。所得は医療費助成や福祉制度の申請で別の手続きとして扱われる情報で、手帳に記入欄はない。学歴も同じで、妊娠経過の管理に直接必要ではなく、プライバシーへの配慮も必要だから載せていない。
医学生医学生
婚姻歴はどうでしょう。家族背景として把握しておきたい気もします。
ドクタードクター
保護者の氏名や住所は記載されるけれど、過去の結婚や離婚の経歴は母子保健上必要な情報ではないから欄はない。ここで混同しやすいのが、過去の妊娠・出産の経過、いわゆる妊娠分娩歴だ。こちらは記録の対象になるけれど、婚姻歴とはまったく別物だよ。
医学生医学生
職歴は少しひっかかります。産科の実習で、妊婦さんの仕事内容を問診で聞いていた記憶があるんです。
ドクタードクター
鋭いね。実は手帳には、現在の職業や仕事の内容、たとえば立ち仕事や重労働か、通勤の状況などを書く欄がある。妊娠中の就労への配慮や、母性健康管理指導事項連絡カードの活用に役立てるためだ。でも、問われているのは「職歴」、つまり過去の職業の経歴で、これを記載する欄はない。言葉の違いに注意したいところだね。
医学生医学生
現在の仕事は書くけれど、職歴は書かない。ひっかけですね。では喫煙状況は、なぜ必要な情報なんですか。
ドクタードクター
妊娠中の喫煙は、流産や早産、胎児発育不全による低出生体重児、常位胎盤早期剝離、前置胎盤などのリスクを高める。さらに出生後の受動喫煙は、乳幼児突然死症候群や呼吸器疾患のリスクになる。だから手帳には、妊婦自身の喫煙の有無や本数に加え、同居者の喫煙、飲酒の状況なども記入する欄があって、禁煙指導の基礎情報になるんだ。
医学生医学生
母子の健康に直結して、介入で変えられる情報だから載っている、ということですね。
ドクタードクター
いい整理だ。飲酒も同様で、妊娠中の飲酒は胎児性アルコール・スペクトラム障害の原因になる。安全な飲酒量は確立していないから、妊娠中は禁酒が勧められているよ。
医学生医学生
手帳には他にどんな記録がありましたっけ。小児科の実習で乳幼児健診を見学したとき、成長曲線のページを見ました。
ドクタードクター
そう、出産の状態、新生児期・乳幼児期の健診結果、身体発育曲線、予防接種や歯科健診の記録などが入っている。妊娠中の生活上の注意や子育てに関する情報も掲載されているし、外国語版もある。日本で始まった制度で、母子の継続的な健康記録として海外でも普及が進められているんだ。臨床では、妊婦健診や乳幼児健診のたびに手帳を確認し、記録を書き込む習慣をつけておくと、ほかの職種との情報共有がスムーズになるよ。
医学生医学生
問題を解くときは、記録の目的に照らして「保健指導に必要か」で判断すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。制度の問題は暗記に頼りがちだけど、目的から考えれば初見の選択肢にも対応できる。喫煙状況のように、把握して指導につなげられる情報が載る、と覚えておこう。

まとめ

母子健康手帳は母子保健法に基づき、妊娠の届出をした者に市町村が交付する、妊娠期から就学前までの母子の健康記録です。記載されるのは既往歴、身長・体重、喫煙・飲酒の状況、現在の仕事の内容、妊婦健診・出産・乳幼児健診・予防接種の記録など、母子保健上必要な情報に限られます。一方、学歴・所得・婚姻歴といったプライバシー性の高い社会経済的情報や、過去の職歴を記入する欄はありません。妊娠中の喫煙は流産・早産、低出生体重児、常位胎盤早期剝離などのリスクを高め、出生後の受動喫煙はSIDSのリスクとなるため、手帳で把握して禁煙指導につなげることが重要です。制度の問題も「その記録は何のためにあるか」という目的から考えると、知識を整理しやすく、臨床での多職種連携にも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

本問は、母子健康手帳にどのような情報が記録されるかを問う公衆衛生の問題である。 母子健康手帳は、母子保健法に基づき、妊娠の届出をした者に市町村が交付する手帳である。妊娠期から出産、乳幼児期(おおむね就学前まで)にかけての母と子の健康状態を一冊に記録し、妊婦健診・出産・乳幼児健診・予防接種などに関わる医療従事者や保健師が情報を共有するための道具として機能している。記録欄の内容は省令で様式が定められた部分と、市町村が独自に工夫できる部分とからなる。 考え方のポイントは、手帳に載るのは「妊娠・出産や子の発育に影響しうる、母子保健上必要な情報」に限られるという点である。妊婦の健康状態として、既往歴、身長・体重、喫煙・飲酒の状況などが記録され、生活環境として現在の仕事の内容や家族構成なども記載される。一方、学歴・所得・婚姻歴といった、医療的必要性に乏しくプライバシー性の高い社会経済的情報を記入する欄は設けられていない。 妊娠中の喫煙(および受動喫煙)は、流産・早産、低出生体重児、常位胎盤早期剝離、乳幼児突然死症候群(SIDS)などのリスクを高めるため、保健指導の対象として把握が必要な情報である。したがって、母子健康手帳から得られる可能性が最も高いのは喫煙状況である。

選択肢考察

  1. ×a.  学歴

    誤り。母子健康手帳に母親の学歴を記入する欄はない。学歴は健康格差に関係しうる社会的要因ではあるが、妊娠経過や子の健康管理に直接必要な情報ではなく、個人情報としての配慮も必要なため、手帳の記載項目には含まれていない。

  2. ×b.  所得

    誤り。所得を記入する欄はない。所得は医療費助成や福祉制度の利用で問題になることはあるが、それらは別の申請手続きで扱われる情報であり、母子の健康記録である母子健康手帳には記載されない。

  3. ×c.  職歴

    誤り。妊婦の現在の職業や仕事の内容(立ち仕事や重労働か、通勤の状況など)を記入する欄はあり、妊娠中の就労に関する配慮や母性健康管理指導事項連絡カードの活用などに役立てられる。しかし過去の職業の経歴(職歴)を記載する欄はないため、職歴を把握することはできない。

  4. ×d.  婚姻歴

    誤り。婚姻歴を記入する欄はない。保護者の氏名や住所などは記載されるが、母親の過去の結婚・離婚の経歴は母子保健上必要な情報ではなく、プライバシーの観点からも記載項目に含まれない。なお、過去の妊娠・出産の経過(妊娠分娩歴)は記録の対象となるが、これは婚姻歴とは別のものである。

  5. ○e.  喫煙状況

    正しい。母子健康手帳には、妊婦自身が健康状態や生活習慣を記入するページがあり、喫煙の有無や本数、同居者の喫煙(受動喫煙)の状況、飲酒の状況などを記載する欄がある。妊娠中の喫煙は胎児発育不全・低出生体重児、早産、流産、常位胎盤早期剝離、前置胎盤などのリスクを高め、出生後の受動喫煙はSIDSや呼吸器疾患のリスクとなるため、禁煙指導の基礎情報として把握が求められる。

母子健康手帳の概要

・根拠法:母子保健法。妊娠した者は市町村長に妊娠の届出を行い、市町村はその者に母子健康手帳を交付する。 ・対象期間:妊娠期から乳幼児期(就学前)まで。 ・主な記載内容:  妊婦の健康状態(既往歴、身長・体重、喫煙・飲酒など)、職業・仕事の内容、妊娠中の経過(妊婦健康診査の結果)、出産の状態(分娩経過、出生時の身長・体重など)、新生児期・乳幼児期の健康診査の結果、身体発育曲線、予防接種の記録、歯科健診の記録など。 ・行政情報・保健育児情報(妊娠中の生活上の注意、子育てに関する情報など)も掲載されている。 ・外国語版(多言語版)も作成されている。 ・日本で始まった制度であり、母子の継続的な健康記録として海外でも普及が進められている。

妊娠中の喫煙・飲酒が及ぼす影響

・喫煙:流産、早産、胎児発育不全・低出生体重児、常位胎盤早期剝離、前置胎盤、出生後のSIDSのリスク増加。 ・飲酒:胎児性アルコール・スペクトラム障害(特徴的顔貌、発育不全、中枢神経障害など)。安全な飲酒量は確立していないため、妊娠中は禁酒が勧められる。

POINT

・母子健康手帳は母子保健法に基づき、妊娠の届出をした者に市町村が交付する。 ・妊婦の健康状態として喫煙(受動喫煙を含む)・飲酒の状況などを記載する欄がある。 ・現在の職業は記載されるが、職歴・学歴・所得・婚姻歴の欄はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。