画面を見つめるほど目が痛む―Schirmer試験とフルオレセインが示すドライアイ
第111回医師国家試験 B問題 第43問
国試問題にチャレンジ
49歳の女性。頭重感と眼痛とを主訴に来院した。仕事で長時間パソコンを使用すると,症状が増悪する。視力は右1.0(1.2×-0.5D),左0.8(1.2×-1.0D)。眼圧は右15mmHg,左16mmHg。瞳孔は正円同大で,対光反応は正常。Schirmer試験は右5mm,左4mm(基準10~15)。フルオレセイン染色後の細隙灯顕微鏡写真を別に示す。 治療として適切な点眼薬はどれか。

- a.抗菌薬
- b.縮瞳薬
- c.β遮断薬
- d.人工涙液
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
長時間のパソコン作業で悪化する眼痛・眼精疲労に、Schirmer試験低値(5mm以下)とフルオレセイン染色での点状表層角膜症がそろえば、ドライアイ(乾性角結膜炎)と診断できます。画面作業中は瞬目が減り開瞼幅が広がるため涙液が蒸発しやすく、治療の基本は人工涙液による涙液補充で、効果不十分ならヒアルロン酸、ジクアホソル、レバミピド点眼や涙点プラグを用います。縮瞳薬とβ遮断薬は緑内障、抗菌薬は感染症、ステロイドは炎症性疾患の薬であり、ドライアイの基本治療ではなく、ステロイドには眼圧上昇・白内障・易感染性の副作用もあります。休憩や意識的な瞬き、画面位置の調整、加湿といった生活指導もあわせて行うことが大切です。正常な所見で重い疾患を除外し、特異的な検査で診断を確定するという考え方は、眼科に限らずあらゆる外来診療に通じます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・49歳女性。頭が重い感じ(頭重感)と眼の痛みがあり、長時間のパソコン作業(VDT作業:visual display terminal作業)で悪化する。 ・矯正視力は両眼1.2と良好で、屈折は軽い近視にとどまる。視力低下を来す器質的疾患は考えにくい。 ・眼圧は右15mmHg、左16mmHgで正常範囲(おおむね10~21mmHg)であり、緑内障を示唆する所見はない。瞳孔・対光反応も正常で、急性緑内障発作や虹彩炎を思わせる所見もない。 ・Schirmer試験(濾紙を下眼瞼に挟み、5分間で濡れた長さから涙液分泌量をみる検査)は右5mm、左4mmと低下しており、涙液の分泌量が減っている。 ・フルオレセイン染色後の細隙灯顕微鏡写真では、角膜表面に細かい点状の染色(点状表層角膜症)がみられる。フルオレセインは上皮が欠損・障害された部分に染まるため、角膜上皮が乾燥によって傷んでいることを示す。
診断へのプロセス
VDT作業中は瞬きの回数が減り、画面を見るために開瞼幅も広くなるため、涙液が蒸発しやすい。涙液分泌の低下(Schirmer試験低値)に加え、角膜上皮障害(点状のフルオレセイン染色)、作業で増悪する眼痛・眼精疲労様の症状がそろっており、涙液減少型を主体とするドライアイ(乾性角結膜炎)と診断できる。眼脂や充血の強い結膜炎所見、眼圧上昇、前房の炎症を示す記載はなく、感染症・緑内障・ぶどう膜炎は否定的である。なお49歳は老視が始まる年齢であり、近くを見る作業での眼精疲労には老視も関与しうるが、本例の検査所見は眼表面の乾燥を明確に示している。
設問の考え方
ドライアイの治療の基本は、不足した涙液を補って眼表面を潤し、角膜上皮障害を改善させることである。したがって第一選択は人工涙液などの点眼による涙液補充であり、加えてVDT作業環境の調整(休憩、瞬きを意識する、画面の位置を下げる、加湿など)を指導する。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬点眼は細菌性結膜炎・細菌性角膜炎などの感染症や、その予防に用いる。本例には膿性眼脂、角膜浸潤や潰瘍といった感染を示す所見がなく、点状の上皮障害は乾燥によるものである。不要な抗菌薬点眼は耐性菌の誘導や、防腐剤による上皮障害の悪化を招きうるため適切ではない。
- ×b. 縮瞳薬
縮瞳薬(ピロカルピンなどの副交感神経刺激薬)は毛様体筋を収縮させて線維柱帯からの房水流出を促し、眼圧を下げる。主に閉塞隅角緑内障の発作時などに用いられてきた薬で、現在は開放隅角緑内障の治療で使われる機会は少ない。本例は眼圧正常で緑内障の所見はなく、縮瞳薬で涙液不足は改善しない。
- ×c. β遮断薬
β遮断薬点眼(チモロールなど)は毛様体での房水産生を抑えて眼圧を下げる、緑内障治療の代表的な薬である。本例は眼圧が正常で適応がない。むしろβ遮断薬点眼や含まれる防腐剤は角膜上皮障害を起こすことがあり、ドライアイを悪化させうる。
- ○d. 人工涙液
人工涙液は涙液に近い電解質組成の点眼液で、不足した涙液を補充して眼表面を潤し、乾燥による角膜上皮障害や眼痛・異物感を和らげる。涙液分泌低下(Schirmer試験低値)と点状表層角膜症をきたしたドライアイに対する基本的・第一選択の治療である。頻回に点眼することが多いため、防腐剤を含まない製剤が望ましい。効果が不十分ならヒアルロン酸ナトリウム点眼や、ムチン・水分の分泌を促すジクアホソルナトリウム点眼、ムチン産生を促すレバミピド点眼などを用いる。
- ×e. 副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイド点眼は、虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)、重症のアレルギー性結膜疾患、術後炎症など、炎症が主体の病態に用いる。本例のような通常のドライアイの初期治療には用いない。長期使用では眼圧上昇(ステロイド緑内障)、白内障、感染症(ヘルペス性角膜炎や真菌感染など)の誘発といった副作用があり、安易に用いるべきではない。
ドライアイの概念
ドライアイは、さまざまな要因で涙液層の安定性が低下し、眼の不快感や見えにくさ(視機能異常)を生じ、眼表面の障害を伴うことがある疾患である。涙液層は表面から油層(マイボーム腺由来)、水層(涙腺由来)、ムチン層(結膜杯細胞・角膜上皮由来)で構成され、いずれかの異常で不安定になる。
主な病型
・涙液減少型:涙腺からの分泌低下。Sjögren症候群(シェーグレン症候群:口腔乾燥・眼乾燥をきたす自己免疫疾患)が代表的。Schirmer試験が低値となる。 ・蒸発亢進型:マイボーム腺機能不全、瞬目減少(VDT作業、コンタクトレンズ装用)、エアコンによる乾燥環境など。 ・BUT短縮型:涙液量は保たれるが涙液層がすぐ崩れる型で、日本のVDT作業者に多い。
主な検査
・Schirmer試験(第Ⅰ法):点眼麻酔なしで濾紙を下眼瞼外側に5分間挟む。5mm以下で涙液分泌減少と判定する。 ・涙液層破壊時間(BUT:tear film break-up time):フルオレセインで涙液を染め、瞬目後に涙液層が破綻するまでの時間を測る。5秒以下で異常とする。 ・フルオレセイン染色:角膜上皮障害を点状の染色として確認する。結膜の障害はローズベンガルやリサミングリーン染色でも評価される。
治療の段階
1. 点眼治療:人工涙液、ヒアルロン酸ナトリウム、ジクアホソルナトリウム(水分・ムチン分泌促進)、レバミピド(ムチン産生促進)。炎症の関与が強い場合に低濃度ステロイドを専門医の管理下で短期間用いることがある。 2. 涙点プラグ:涙点をふさいで涙液の排出を減らし、眼表面に涙をとどめる。重症例では涙点閉鎖術も行う。 3. 生活指導:VDT作業の休憩、意識的な瞬き、画面を目線より下に置く、加湿、コンタクトレンズ装用の見直し。マイボーム腺機能不全には温罨法や眼瞼清拭を行う。
VDT症候群
パソコンなどの画面作業を長時間続けることで、眼精疲労・ドライアイなどの眼症状に、肩こり・頭痛などの全身症状を伴う状態をいう。本例の頭重感もこれに関連する症状と考えられる。
POINT
・長時間のVDT作業で増悪する眼痛・眼精疲労+Schirmer試験低値(5mm以下)+フルオレセインで点状の角膜上皮染色 → ドライアイ(乾性角結膜炎)。 ・治療の第一選択は人工涙液などによる涙液補充。次いでヒアルロン酸、ジクアホソル、レバミピド点眼、涙点プラグ。 ・β遮断薬・縮瞳薬は緑内障の薬、抗菌薬は感染症の薬、ステロイドは炎症性疾患の薬であり、ドライアイの基本治療ではない。 ・ステロイド点眼の副作用(眼圧上昇、白内障、易感染性)も併せて覚える。
