角膜を守る三つの盾―細菌性角膜潰瘍の誘因を「眼表面の防御」から考える
第109回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
細菌性角膜潰瘍の誘因でないのはどれか。
- a.角膜異物
- b.視神経炎
- c.顔面神経麻痺
- d.涙液分泌障害
- e.コンタクトレンズ装用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
角膜は角膜上皮の物理的バリア、涙液の洗い流しと抗菌成分、瞬目・閉瞼による保護という眼表面の防御機構で感染から守られており、細菌性角膜潰瘍はこれらが破綻したときに生じます。角膜異物は上皮欠損と菌の持ち込み、顔面神経麻痺は兎眼による角膜露出、涙液分泌障害は乾燥と防御低下、コンタクトレンズは上皮障害と緑膿菌・アカントアメーバ感染の原因となり、いずれも誘因です。一方、視神経炎は眼底から球後の病変で眼表面の防御に影響しないため、誘因にはなりません。三叉神経麻痺による知覚低下、ステロイド点眼、慢性涙嚢炎なども誘因として重要です。個々の誘因を暗記するのではなく「どの防御が崩れるか」で整理すると、初見の選択肢にも対応でき、充血・眼痛を訴える患者での早期診断にもつながります。
解答・解説
正解はbです
角膜は血管を持たない透明な組織で、外界に直接さらされている。健常な角膜は、①最表層の角膜上皮による物理的バリア、②涙液による洗い流し作用と抗菌物質(リゾチーム、ラクトフェリン、分泌型IgAなど)、③まばたき(瞬目)と閉瞼による保護、によって感染から守られている。細菌性角膜潰瘍(細菌性角膜炎)は、これらの防御機構のどれかが破綻し、上皮に傷ができたところへ細菌が侵入・増殖して起こる。 したがって誘因は「角膜上皮を傷つけるもの」「涙液による保護を損なうもの」「閉瞼を妨げて角膜を乾燥・露出させるもの」「細菌を角膜に持ち込むもの」と整理できる。角膜異物、顔面神経麻痺、涙液分泌障害、コンタクトレンズ装用はいずれもこれに該当する。一方、視神経炎は眼球の後方(眼底〜球後)の病変であり、眼の表面(前眼部)の防御機構には影響しない。 本問は「誘因でないもの」を選ぶ形式である点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 角膜異物
誘因となる。鉄片・木片・砂などの異物が角膜に刺さると上皮が欠損し、さらに異物自体に付着した細菌が角膜に持ち込まれる。特に植物(木の枝など)による外傷後は真菌性角膜炎の誘因としても重要である。鉄片異物では放置すると錆(さび)が周囲に沈着するため、早期の除去が必要である。
- ○b. 視神経炎
誘因ではない。視神経炎は視神経の炎症性疾患で、急激な視力低下、中心暗点、眼球運動時痛、相対的瞳孔求心路障害(RAPD)などを呈する。原因としては特発性のほか、多発性硬化症、視神経脊髄炎(抗アクアポリン4抗体陽性)、抗MOG抗体関連疾患などがある。病変は眼底〜球後の視神経にあり、角膜上皮・涙液・閉瞼といった眼表面の防御機構を障害しないため、細菌性角膜潰瘍の誘因にはならない。
- ×c. 顔面神経麻痺
誘因となる。顔面神経は眼輪筋を支配しており、麻痺すると瞼が十分に閉じなくなる(兎眼)。角膜が常に露出して乾燥し、上皮障害(兎眼性角膜炎、露出性角膜症)が生じ、そこから細菌感染をきたす。通常は閉瞼時に眼球が上転するベル(Bell)現象によって角膜が上眼瞼の下に隠れるが、ベル現象が弱い・消失している例では睡眠中も角膜中央が露出し、障害が起こりやすい。対策として点眼・眼軟膏、就寝時のテープによる閉瞼、重症例では瞼板縫合などを行う。
- ×d. 涙液分泌障害
誘因となる。涙液は角膜表面を潤して上皮を保護するとともに、異物や微生物を洗い流し、リゾチームなどの抗菌成分を含む。シェーグレン症候群などによる涙液分泌の低下(ドライアイ)では、角膜上皮障害(点状表層角膜症など)が生じ、防御機能の低下と相まって細菌感染を起こしやすくなる。涙液分泌量はシルマー試験で評価する。
- ×e. コンタクトレンズ装用
誘因となる。現在、特に若年者の細菌性角膜炎の最大の誘因である。長時間・連続装用による角膜の酸素不足と上皮障害、レンズやレンズケースの不適切な洗浄・消毒による細菌の付着・増殖などが原因となる。起炎菌としては緑膿菌が代表的で、急速に進行し角膜穿孔に至ることもある。また水道水やケース内で増殖したアカントアメーバによる角膜炎の誘因にもなる。
細菌性角膜潰瘍の概要
症状:眼痛、流涙、羞明(まぶしさ)、視力低下、充血(毛様充血)、眼脂。 所見:角膜の白色〜黄白色の浸潤・潰瘍、重症例では前房蓄膿(前房下方に膿がたまる)。 代表的な起炎菌: ・グラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌など):肺炎球菌では潰瘍が一方向へ進行する匍行性角膜潰瘍を呈し、前房蓄膿を伴いやすい。 ・グラム陰性桿菌(緑膿菌など):コンタクトレンズ装用者に多い。進行が速く、角膜が溶ける(融解)ように悪化し、輪状膿瘍や穿孔をきたすことがある。 診断:角膜擦過物の塗抹検鏡(グラム染色)と培養で起炎菌を同定する。 治療:培養結果を待たずに、ニューキノロン系やセフェム系などの抗菌点眼薬を頻回に点眼して開始し、結果に応じて薬剤を調整する。
角膜感染症の主な誘因の整理
・上皮の損傷:外傷、角膜異物、コンタクトレンズ、睫毛乱生・内反症 ・涙液の異常:ドライアイ、涙液分泌障害 ・閉瞼不全による露出:顔面神経麻痺(兎眼)、眼球突出(甲状腺眼症)、意識障害 ・角膜知覚低下:三叉神経麻痺(神経麻痺性角膜症)、糖尿病 ・局所・全身の免疫低下:ステロイド点眼の長期使用、糖尿病、免疫抑制状態 ・感染源の存在:慢性涙嚢炎(鼻涙管閉塞)
POINT
・細菌性角膜潰瘍は角膜上皮・涙液・閉瞼などの眼表面の防御機構の破綻で起こる。 ・誘因:角膜異物・外傷、コンタクトレンズ(緑膿菌、アカントアメーバ)、ドライアイ、兎眼(顔面神経麻痺)、三叉神経麻痺、慢性涙嚢炎、ステロイド点眼など。 ・視神経炎は眼底〜球後の病変で、角膜感染の誘因とはならない。 ・「〜でないのはどれか」の設問形式に注意する。
