「突き目」から始まる失明の危機―前房蓄膿の出発点は角膜にあり
第114回医師国家試験 D問題 第54問
国試問題にチャレンジ
67歳の男性。左眼痛と視力低下を主訴に来院した。7日前に植木のせん定をしていた時に,木の枝が左眼に当たったという。翌日から左眼痛と視力低下を自覚し,次第に症状が悪化した。左眼の前眼部写真を別に示す。左眼の視力は眼前手動弁。眼圧は右16mmHg,左18mmHg。 最初に病変を生じた部位はどれか。

- a.結膜
- b.角膜
- c.前房
- d.虹彩
- e.水晶体
対話形式の解説
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医学生まとめ
木の枝などによる角膜外傷のあと、数日かけて眼痛と視力低下が悪化し、角膜の白色浸潤と前房蓄膿を認める場合は、感染性角膜炎(角膜潰瘍)を考えます。前房蓄膿は角膜の炎症が眼内へ波及した二次的な所見であり、病変の出発点は角膜です。植物による外傷では真菌(フサリウム、アスペルギルスなど)を第一に考え、羽毛状辺縁・衛星病巣・内皮プラークが特徴ですが、細菌との混合感染もあるため擦過物の塗抹鏡検と培養で起炎菌を確認します。真菌性角膜炎にステロイド点眼は禁忌で、治療が遅れると角膜穿孔や眼内炎から失明に至りうるため、早期診断が重要です。目立つ所見そのものではなく、病変がどこから始まりどう広がったかを解剖学的に追う姿勢は、眼科に限らず診断推論の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・67歳男性。7日前、植木の剪定中に木の枝が左眼に当たった(いわゆる「突き目」)。 ・翌日から左眼痛と視力低下が出現し、日を追って悪化している。外傷直後に急激に見えなくなったのではなく、数日かけて増悪している点は、外傷そのものより、傷から入った病原体による感染症の進行を示す。 ・前眼部写真では、角膜に白色の円形の浸潤・混濁があり、その周囲の強い毛様充血と、前房下方に白い膿がたまった前房蓄膿を認める。 ・視力は眼前手動弁(眼の前で手を動かすとわかる程度)と高度に低下している。眼圧は左18mmHgで正常範囲(10〜21mmHg)であり、左右差もほとんどない。
診断へのプロセス
角膜表面は外界に直接さらされ、木の枝などで上皮に傷がつくと、そこから細菌や真菌が侵入して感染性角膜炎(進行すると角膜潰瘍)を起こす。角膜の炎症が強くなると、前房内に炎症細胞が滲出して前房蓄膿を生じる。つまり本例の前房蓄膿は角膜の感染に続発した反応であり、病変の出発点は角膜である。 他の可能性も考える。強膜・角膜の穿孔や眼球破裂であれば受傷直後から強い症状が出て、眼内容が漏れて低眼圧となり前房が浅くなるはずだが、眼圧は保たれ穿孔創もない。外傷性白内障では水晶体が混濁するが、それだけで角膜の白色浸潤や前房蓄膿は生じない。 起炎菌としては、植物による外傷であることから真菌(フサリウム、アスペルギルスなどの糸状菌)を第一に考える。真菌性角膜炎は細菌性に比べて進行が緩やかで、羽毛状の辺縁をもつ灰白色の浸潤、主病巣の周囲に散らばる衛星病巣、角膜後面の内皮側プラークなどが特徴とされ、病巣の深さに比べて前房蓄膿が目立つことが多い。ただし細菌の混合感染もありうるため、病巣の擦過物の塗抹鏡検・培養で起炎菌を確認する。設問は病変の初発部位を問うており、答えは角膜である。
選択肢考察
- ×a. 結膜
木の枝で結膜に擦過傷や裂傷が生じることはありうるが、結膜の傷だけでは角膜の白色浸潤や前房蓄膿は起こらない。結膜は血管に富み感染に比較的強く、結膜炎が眼内の炎症に進展することはまれである。写真でみられる充血も、角膜周囲(輪部)に強い毛様充血であり、角膜や眼内の炎症を反映した所見で、結膜が病変の主座であることを示すものではない。
- ○b. 角膜
枝が当たって角膜上皮に傷がつき、そこから病原体(植物外傷では特に真菌)が角膜実質に侵入して感染性角膜炎・角膜潰瘍を生じたと考えられる。写真の角膜の白色円形浸潤がその病巣であり、強い毛様充血と前房蓄膿は角膜の炎症が眼内へ波及した二次的な反応である。外傷後数日かけて痛みと視力低下が悪化していく経過も、角膜感染の進行として矛盾しない。
- ×c. 前房
前房蓄膿は確かに前房の所見であるが、これは角膜の感染巣から炎症が波及し、炎症細胞が前房内に滲出して下方に沈殿したものである。前房が最初の病変部位となるのは、穿孔性外傷や内眼手術で病原体が直接眼内に入った場合や、血行性に眼内炎が生じた場合であるが、本例では穿孔創がなく眼圧・前房も保たれている。
- ×d. 虹彩
虹彩炎(前部ぶどう膜炎)でも前房蓄膿が生じることがあり、Behçet病などが代表である。しかし本例は外傷を契機に発症し、角膜に明らかな白色の感染巣があることから、虹彩の炎症は起こっていたとしても角膜炎に続発したものであり、最初の病変とは考えにくい。
- ×e. 水晶体
鈍的・穿孔性外傷で水晶体が損傷されると外傷性白内障を生じ、水晶体蛋白が漏出すれば水晶体起因性のぶどう膜炎や緑内障(眼圧上昇)を起こすことがある。しかし本例は眼圧が正常で穿孔創もなく、角膜に感染巣が明らかに存在することから、水晶体が病変の出発点とは考えられない。
感染性角膜炎の主な起炎微生物と特徴
・細菌性:黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、緑膿菌など。進行が速い。緑膿菌はコンタクトレンズ装用者に多く、輪状膿瘍を形成して短期間で穿孔に至りうる。治療はニューキノロン系やセフェム系などの抗菌点眼。 ・真菌性:植物による外傷(突き目)、ステロイド点眼の長期使用が危険因子。糸状菌(フサリウム、アスペルギルス)が多い。進行は比較的緩やかで、羽毛状の辺縁、衛星病巣、内皮プラーク、前房蓄膿が特徴。治療はピマリシン(ナタマイシン)点眼やアゾール系抗真菌薬。ステロイド点眼は増悪させるため禁忌。 ・アカントアメーバ:コンタクトレンズの不適切な管理(水道水での洗浄など)が原因。初期の放射状角膜神経炎、進行すると輪状浸潤を呈し、所見の割に強い眼痛が特徴。 ・ヘルペス(単純ヘルペスウイルス):樹枝状角膜炎。
前房蓄膿をきたす主な疾患
感染性角膜炎(特に真菌性・細菌性の重症例)、感染性眼内炎(術後・外傷後・内因性)、Behçet病のぶどう膜炎、HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎など。
毛様充血と結膜充血
毛様充血は角膜輪部周囲に強い、紫紅色の深い充血で、角膜炎・虹彩毛様体炎・急性緑内障発作など角膜や眼内の病変を示す。結膜充血は円蓋部(周辺)に強い鮮紅色の表在性の充血で、結膜炎でみられる。
検査と注意点
角膜病巣を擦過して塗抹鏡検(Gram染色、真菌ではファンギフローラY染色やKOH法など)と培養を行い、起炎菌を同定してから薬剤を選ぶ。進行すると角膜穿孔や眼内炎に至り、失明の危険があるため、早期診断と適切な治療が重要である。
POINT
・植物(木の枝など)による角膜外傷後、数日かけて悪化する角膜の白色浸潤+前房蓄膿→真菌性角膜炎を第一に考える。 ・前房蓄膿は角膜炎から眼内へ炎症が波及した二次的な所見であり、病変の初発部位は角膜である。 ・真菌性角膜炎の特徴:進行が緩やか、羽毛状辺縁、衛星病巣、内皮プラーク。ステロイド点眼は禁忌。 ・眼圧正常・前房保持・穿孔創なし→眼球破裂や穿孔性外傷は否定的。
