StudyMed医師国家試験

「動かさない」が新たな障害を生む―脳卒中の早期リハで防ぐ関節拘縮と廃用症候群

第111回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第111回 B問題 第5問

脳卒中後,早期にリハビリテーションを開始することで予防できるのはどれか。

  1. a.不整脈
  2. b.関節拘縮
  3. c.消化性潰瘍
  4. d.脳卒中再発
  5. e.大腿骨頸部骨折

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳卒中の急性期からリハビリテーションを始める意味を問う問題だ。考え方のカギは、「その障害は、からだを動かさないことが原因で起こるのか」という一点。まず、脳卒中の発症直後の患者さんはどんな状態に置かれているか考えてみよう。
医学生医学生
麻痺や意識障害があって、ほとんどベッドの上で過ごしている状態だと思います。
ドクタードクター
そうだね。安静臥床が続くと、脳卒中そのものとは別に、二次的な障害が次々と起こってくる。これを何と呼ぶかな。
医学生医学生
廃用症候群です。リハビリテーション医学の講義で、生活不活発病とも呼ぶと習いました。
ドクタードクター
その通り。筋萎縮や筋力低下、関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、心肺機能の低下、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡、尿路感染、さらに抑うつやせん妄まで含まれる。急性期リハの大きな目的は、この廃用症候群を防ぐことなんだ。
医学生医学生
だとすると、選択肢の中で不動が原因になるものを選べばいいんですね。関節拘縮はまさに廃用症候群の代表です。
ドクタードクター
正解。関節を動かさない状態が続くと、関節包や靱帯、筋、皮膚といった軟部組織が短縮・癒着して、可動域が狭くなる。片麻痺では自分で動かせないうえに痙縮も加わるから、とくに起こりやすい。
医学生医学生
臨床実習で脳神経内科を回ったとき、発症から間もない患者さんでも、理学療法士さんが毎日ベッドサイドで肩や足首を動かしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それが他動的な関節可動域訓練、ROM訓練だね。片麻痺では肩の内転・内旋、肘や手指の屈曲、足関節の尖足が起こりやすいから、これと反対方向への保持や運動を行う。拘縮が起きても生活への支障が少ない肢位を保つことを良肢位保持という。拘縮はいったん完成すると改善が難しく、更衣や歩行を大きく妨げるから、予防が何より大切なんだ。
医学生医学生
不整脈はどうでしょう。心原性脳塞栓症では心房細動が原因になるので、関係がありそうに思えたのですが。
ドクタードクター
確かに心房細動は脳卒中と深く関わるけれど、リハを始める時期によって不整脈の発生が変わるわけではない。むしろリハ中に新たな不整脈や頻脈が出たら、運動を続けて安全かを見直す必要がある。リハの中止基準の一つだね。不整脈の管理は心拍数コントロールや抗凝固療法などの薬物療法が中心になる。
医学生医学生
消化性潰瘍は、病理の講義で出てきたCushing潰瘍のことでしょうか。
ドクタードクター
よく覚えているね。頭蓋内病変などの重い中枢神経障害にはストレス潰瘍が合併しやすく、頭蓋内病変によるものはCushing潰瘍と呼ばれる。迷走神経の緊張による胃酸分泌の亢進や、胃粘膜の血流障害が関わると考えられている。予防や治療はプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬で行うもので、早期リハで防げるという根拠はない。
医学生医学生
脳卒中再発はリハで体力がつけば減りそうな気もしますが、違いますか。
ドクタードクター
そこは迷いやすいところだ。再発予防の柱は、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・心房細動などの危険因子の管理と、病型に応じた抗血小板薬や抗凝固薬の内服だ。慢性期の有酸素運動が生活習慣病の改善を通じて危険因子管理の助けになることはあっても、早期にリハを始めることで再発を防げるわけではない。
医学生医学生
大腿骨頸部骨折は、骨萎縮を防げば予防できそうにも思えます。
ドクタードクター
脳卒中の患者さんは麻痺やバランス障害で転倒しやすく、麻痺側の骨萎縮もあって骨折のリスクは高い。ただ、早期リハで骨折そのものを予防できるという明確な根拠はないし、歩き始める時期はかえって転倒の危険が増える時期でもある。転倒予防のための筋力強化やバランス訓練は主に回復期以降の課題で、環境整備や骨粗鬆症治療と組み合わせて対策するんだ。
医学生医学生
整理すると、早期リハで防げるのは不動から生じる障害で、不整脈や潰瘍、再発は薬や危険因子管理で対処するもの、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点も触れておこう。ガイドラインでも十分なリスク管理のもとでできるだけ早期から積極的にリハを行うことが勧められているけれど、発症直後から高負荷の離床を急ぎすぎると転帰がかえって改善しないとする報告もある。意識レベルや血圧、神経症状の悪化に注意しながら、病態に合わせて開始時期や強度を決めることが大切だ。
医学生医学生
早ければ早いほど良い、という単純な話ではないんですね。急性期、回復期、生活期とそれぞれ目的が違うことも意識したいと思います。
ドクタードクター
そう。急性期は廃用予防、回復期は集中的な機能回復とADL訓練、生活期は機能維持と社会参加の支援。この流れを押さえておけば、リハの問題はぐっと解きやすくなるよ。

まとめ

脳卒中の急性期には麻痺や意識障害のため安静臥床が続き、筋力低下、関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、誤嚥性肺炎、褥瘡などの廃用症候群が生じやすくなります。早期リハビリテーションの主な目的はこの廃用症候群の予防であり、とくに関節拘縮は良肢位保持と関節可動域訓練によって防ぐことができ、いったん完成すると改善が難しい点が重要です。一方、不整脈、Cushing潰瘍などの消化性潰瘍、脳卒中再発は薬物療法や危険因子の管理で対処するもので、転倒・骨折の予防は主に回復期以降の課題です。「その障害は不動が原因か」という視点で考える習慣は、リハビリテーションの目的を理解し、急性期から適切なリスク管理のもとで介入を進めるうえでの基本となります。

解答・解説

正解はbです

本問は、脳卒中急性期からリハビリテーション(以下リハ)を始める意義を問うている。 脳卒中の発症直後は、麻痺や意識障害のためにベッド上で過ごす時間が長くなる。からだを動かさない状態(不動・安静臥床)が続くと、原疾患とは別に二次的な障害が次々に生じる。これを廃用症候群(生活不活発病)とよび、筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨萎縮(骨粗鬆化)、起立性低血圧、心肺機能の低下、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡、尿路感染、抑うつ・認知機能低下などが含まれる。 急性期リハ(ベッド上での良肢位保持、体位変換、関節可動域訓練、早期の座位・立位練習など)は、こうした廃用症候群を防ぎ、その後の機能回復とADL(日常生活動作)の向上につなげることを主な目的とする。したがって「早期リハで予防できるもの」は、不動に起因する障害を選べばよい。 一方、リハは脳血管の病変そのものや不整脈を治療するものではなく、また直接の因果関係をもって消化管粘膜病変や骨折を防ぐものでもない。選択肢を「不動・廃用が原因か否か」で振り分けると、正解は関節拘縮に絞られる。

選択肢考察

  1. ×a.  不整脈

    誤り。脳卒中、とくに心原性脳塞栓症では心房細動などの不整脈が原因や合併症として重要であるが、その発生はリハを始める時期や実施の有無とは関係しない。むしろリハ中に新たな不整脈や頻脈が出現した場合は、運動負荷の継続が安全かどうかを再評価する必要がある(リハの中止・中断基準の一つ)。不整脈の管理は抗不整脈薬や心拍数コントロール、抗凝固療法など薬物療法が中心となる。

  2. ○b.  関節拘縮

    正しい。関節拘縮は、関節を動かさない状態が続くことで関節包・靱帯・筋・皮膚などの軟部組織が短縮・癒着し、関節可動域が制限される状態である。麻痺側では随意運動ができず、さらに痙縮が加わるため拘縮が起こりやすい(例:肩関節の屈曲・外転制限、手指の屈曲拘縮、足関節の尖足)。急性期から良肢位保持と他動的な関節可動域訓練(ROM訓練)を行うことで、その発生を防ぐことができる。拘縮はいったん完成すると改善が難しく、更衣・歩行などのADLを大きく妨げるため、予防が最も重要である。

  3. ×c.  消化性潰瘍

    誤り。脳卒中や頭部外傷などの中枢神経系の重い障害には、急性胃粘膜病変・消化性潰瘍(いわゆるストレス潰瘍で、頭蓋内病変に伴うものはCushing潰瘍とよばれる)がしばしば合併する。機序としては迷走神経の緊張亢進による胃酸分泌の増加や、胃粘膜の血流障害が考えられている。予防・治療はプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬などの薬物で行い、早期リハによって予防できるという根拠はない。

  4. ×d.  脳卒中再発

    誤り。脳卒中の再発予防の柱は、危険因子の管理(高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、過度の飲酒、肥満、心房細動など)と、病型に応じた抗血小板薬・抗凝固薬の内服である。早期リハは機能回復と廃用予防を目的としたもので、再発そのものを防ぐ効果はない。なお、慢性期に継続する有酸素運動は生活習慣病の改善を通じて危険因子管理の一助となりうるが、「早期にリハを始めること」で再発を予防できるわけではない。リハ中も再発の徴候(意識レベルや神経症状の悪化)には常に注意を払う必要がある。

  5. ×e.  大腿骨頸部骨折

    誤り。脳卒中患者は麻痺やバランス障害のため転倒しやすく、麻痺側の骨萎縮も加わって大腿骨頸部骨折の危険が高い。早期リハは健側を含む筋力低下や骨萎縮の進行を抑える可能性はあるが、それによって骨折の発生を予防できるという明確な根拠はない。また、歩行を始める時期はかえって転倒リスクが高まる時期でもある。転倒予防を目的とした筋力強化・バランス訓練・歩行訓練は主に回復期以降に行われ、環境整備や骨粗鬆症治療と合わせて対策する。

脳卒中リハビリテーションの病期

・急性期:発症直後から、全身状態(意識、血圧、心拍、呼吸など)に注意しながら、良肢位保持、体位変換、ROM訓練、早期座位・離床を進める。目的は廃用症候群や誤嚥性肺炎などの合併症予防である。わが国の脳卒中治療ガイドラインでも、十分なリスク管理のもとでできるだけ早期から積極的なリハを行うことが勧められている。ただし、発症後24時間以内に高頻度・高負荷の離床を行うことは転帰を改善しないとする報告があり、開始時期や強度は病態に応じて判断する。 ・回復期:回復期リハ病棟などで、集中的に歩行・ADL訓練を行い、機能回復と自宅復帰を目指す。 ・生活期(維持期):獲得した機能を維持し、社会参加を支援する。

廃用症候群の主な内容

・運動器:筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨萎縮(骨粗鬆症) ・循環器:起立性低血圧、心肺機能低下、深部静脈血栓症 ・呼吸器:沈下性肺炎、誤嚥性肺炎 ・皮膚:褥瘡 ・泌尿器:尿路感染、尿路結石 ・精神神経:抑うつ、せん妄、認知機能低下

良肢位

拘縮が起きても機能的に支障が少ない肢位を保つ。片麻痺では肩関節の内転・内旋、肘・手指の屈曲、足関節の尖足(底屈)が起こりやすいため、これと反対方向への保持や他動運動を行う。

POINT

・早期リハの主目的は、不動による廃用症候群(筋力低下、関節拘縮、骨萎縮、起立性低血圧、肺炎、褥瘡など)の予防である。 ・関節拘縮は良肢位保持と関節可動域訓練で予防する。完成すると改善が難しい。 ・不整脈、消化性潰瘍(Cushing潰瘍)、脳卒中再発は薬物療法や危険因子管理で対処するものであり、リハで予防できるものではない。 ・転倒・骨折の予防は回復期以降の課題であり、早期リハで予防できる根拠はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。