斑は生まれつき、こぶは後から―神経線維腫症1型を「時間軸」で読み解く
第111回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
神経線維腫症1型〈von Recklinghausen病〉について正しいのはどれか。
- a.聴神経腫瘍を合併する。
- b.脊椎の変形は幼児期から発症する。
- c.神経線維腫は学童期以降に出現する。
- d.café au lait斑は生後6か月以降に出現する。
- e.café au lait斑の数と神経線維腫の数は相関する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
神経線維腫症1型は17番染色体のNF1遺伝子変異による常染色体顕性遺伝性疾患で、約半数は孤発例であり、腫瘍抑制因子ニューロフィブロミンの機能喪失により病変が年齢とともに順に出現します。カフェオレ斑は出生時から存在し、雀卵斑様色素斑・Lisch結節・視神経膠腫は幼児期〜学童期、脊柱側弯と神経の神経線維腫は学童期、皮膚の神経線維腫は思春期以降に現れて増加するため、神経線維腫は学童期以降に出現します。カフェオレ斑の数は診断基準上重要ですが神経線維腫の数とは相関せず、両側聴神経腫瘍は22番染色体のNF2の特徴である点も頻出の鑑別ポイントです。悪性末梢神経鞘腫瘍や褐色細胞腫などの合併にも注意し、びまん性神経線維腫にはMEK阻害薬が用いられるようになっています。症候の出現時期を時間軸で整理しておくことは、診断だけでなく年齢に応じた適切なフォローアップ計画を立てるうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はcです
問われているテーマ
神経線維腫症1型(NF1、von Recklinghausen病)の主な症候について、「何が合併するか」と「いつ出現するか(初発時期)」を正しく理解しているかを問う問題である。
NF1の基本
NF1は17番染色体長腕(17q11.2)にあるNF1遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝性疾患で、約3,000人に1人と頻度が高い。患者の約半数は両親に病気がない新生突然変異による孤発例である。NF1遺伝子の産物ニューロフィブロミンはRasの働きを抑える腫瘍抑制因子であり、その機能が失われることで、皮膚・神経・骨などに多彩な病変が年齢とともに順に現れる。
症候の出現時期の流れ
・出生時〜乳児期:カフェオレ斑(ほぼ全例)。 ・幼児期〜学童期:雀卵斑様色素斑(腋窩・鼠径部の小さな色素斑)、視神経膠腫、虹彩小結節(Lisch結節)、神経の神経線維腫・びまん性(蔓状)神経線維腫、脊柱変形(学童期ころから)。 ・思春期以降:皮膚の神経線維腫が出現し、年齢とともに数が増える。 この時間軸を押さえれば、各選択肢の正誤を判断できる。皮膚の神経線維腫は思春期ころから、神経の神経線維腫やびまん性神経線維腫は学童期ころから出現するため、「神経線維腫は学童期以降に出現する」が正しい。
選択肢考察
- ×a. 聴神経腫瘍を合併する。
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)、特に両側性のものは神経線維腫症2型(NF2)の特徴である。NF2は22番染色体(22q12)のNF2遺伝子(産物はmerlin)の異常によるもので、髄膜腫や脊髄神経鞘腫など中枢神経系の腫瘍が多発する。NF1とは原因遺伝子も主な病変も異なる別の疾患である。
- ×b. 脊椎の変形は幼児期から発症する。
NF1の脊柱変形(主に側弯症、ときに後弯)は、学童期、とくに10歳前後から出現・進行することが多く、幼児期の発症は一般的でない。椎体の変形を伴う急速進行性のタイプ(dystrophic型)があるため、学童期を中心に経過観察が必要である。15歳を過ぎても変形がなければ、その後新たに生じることは少ないとされる。
- ○c. 神経線維腫は学童期以降に出現する。
神経線維腫はシュワン細胞や線維芽細胞などが増殖する良性腫瘍である。神経の走行に沿って生じる神経の神経線維腫やびまん性神経線維腫は学童期ころから、皮膚に多発する軟らかい小腫瘤(皮膚の神経線維腫)は思春期ころから出現し、成人で約95%にみられ、年齢とともに数が増える。乳幼児期の時点では目立たないのが通常であり、学童期以降に出現するという記述は正しい。
- ×d. café au lait斑は生後6か月以降に出現する。
カフェオレ斑はNF1のほぼ全例(約95%)にみられる、境界明瞭な淡褐色の色素斑で、出生時からすでに存在することが多い。乳児期を通じて数や大きさが増えることはあるが、「生後6か月以降に出現する」わけではない。出生時から多数のカフェオレ斑があることが、乳児期にNF1を疑う最初の手がかりとなる。
- ×e. café au lait斑の数と神経線維腫の数は相関する。
診断基準には「6個以上のカフェオレ斑」が含まれ、カフェオレ斑の数は診断上重要であるが、その数と後に出現する神経線維腫の数・重症度との間に相関はない。NF1は同じ家系内でも症状の重さが大きく異なる(表現度の差が大きい)疾患であり、乳幼児期のカフェオレ斑の数から将来の腫瘍の程度を予測することはできない。
NF1の主な診断基準(国際基準に準拠)
以下のうち2項目以上でNF1と診断する。 ・カフェオレ斑6個以上(最大径が思春期前で5 mmを超える、思春期以降で15 mmを超えるもの) ・神経線維腫2個以上、またはびまん性(蔓状)神経線維腫1個以上 ・腋窩または鼠径部の雀卵斑様色素斑 ・視神経膠腫 ・虹彩小結節(Lisch結節)2個以上 ・特徴的な骨病変(蝶形骨異形成、長管骨の弯曲・偽関節など) ・第一度近親者にNF1患者がいる 2021年の改訂では、病的なNF1遺伝子変異の検出や脈絡膜異常なども項目に加えられた。日本では、カフェオレ斑と神経線維腫があれば診断できるとする実用的な基準も用いられる。
NF1の合併症
・神経系:視神経膠腫(小児)、学習障害・注意欠如多動症などの発達の問題。 ・骨:脊柱側弯、四肢骨の弯曲・偽関節、頭蓋骨・顔面骨の欠損。 ・悪性腫瘍:悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST、びまん性神経線維腫からの悪性化に注意)、褐色細胞腫、消化管間質腫瘍(GIST)、若年性骨髄単球性白血病など。 ・血管:腎動脈狭窄による高血圧、もやもや病類似の脳血管病変。
NF1とNF2の比較
・NF1:17番染色体、ニューロフィブロミン、皮膚病変(カフェオレ斑・神経線維腫)が主体、約3,000人に1人。 ・NF2:22番染色体、merlin、両側聴神経腫瘍・髄膜腫など中枢神経腫瘍が主体、皮膚病変は軽い、まれ。
治療
根本治療はなく、各症状への対症療法と定期的な経過観察が中心である。皮膚の神経線維腫は整容面の問題が大きく、外科的切除やレーザー治療が行われる。手術が困難なびまん性神経線維腫には、MEK阻害薬(セルメチニブ)が用いられるようになった。
POINT
・NF1:17番染色体、常染色体顕性遺伝、約半数は孤発例。 ・出現時期:カフェオレ斑は出生時から → 雀卵斑様色素斑・Lisch結節・視神経膠腫は幼児期〜学童期 → 脊柱変形と神経の神経線維腫は学童期 → 皮膚の神経線維腫は思春期以降。 ・カフェオレ斑の数と神経線維腫の数は相関しない。 ・両側聴神経腫瘍はNF2(22番染色体)。
