StudyMed医師国家試験

「凸凹の肝臓」と黒い帯―肝硬変で下がる検査値を病態から読み解く

第111回医師国家試験 A問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第111回 A問題 第3問

腹部超音波像を別に示す。  この患者の血液検査項目で低値と予想されるのはどれか。

第111回 A問題 第3問の問題画像
  1. a.アンモニア
  2. b.γ-グロブリン
  3. c.血小板
  4. d.総ビリルビン
  5. e.PT-INR

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腹部超音波像から肝臓の状態を読み取り、そこから血液検査の変化を予想する問題だ。暗記で解くより、「肝臓が何をしている臓器か」を思い出すと自然に答えが出るよ。まずは画像。肝臓のまわりに黒く抜けた帯が見えるけど、これは何だろう。
医学生医学生
エコーで黒いということは液体なので、腹水でしょうか。
ドクタードクター
その通り。無エコー域が肝臓と腹壁の間に広がっていて、腹水の貯留を示している。そして腹水があるおかげで肝臓の表面の輪郭がくっきり見える。その表面はどうなっているかな。
医学生医学生
つるっとしていなくて、でこぼこしているように見えます。中のエコーも粗い感じです。
ドクタードクター
よく見えているね。肝表面の凹凸不整と実質エコーの粗造化は、肝臓が線維化して再生結節に置き換わった像、つまり肝硬変を示す。腹水を伴うから、非代償性肝硬変と考えられる。
医学生医学生
臨床実習の消化器内科で、エコーの先生に「肝硬変は表面がでこぼこで、縁が鈍くなる」と教わったのを思い出しました。
ドクタードクター
いい経験だね。さて、ここからが本題。肝硬変で起こることは大きく2つに分けて考えるといい。1つ目は肝細胞の量と機能が落ちること、2つ目は線維化で肝臓が硬くなり、門脈圧が上がることだ。
医学生医学生
機能が落ちるなら、肝臓がつくっているものは下がって、処理しているものは上がる、ということですか。
ドクタードクター
まさにその整理が大事。ではアンモニアから考えよう。
医学生医学生
アンモニアは尿素回路で処理されるので、肝機能が落ちれば上がりますね。肝性脳症の原因になると生化学の講義で習いました。
ドクタードクター
正解。さらに肝硬変では門脈血が側副血行路を通って肝臓を素通りするから、二重の理由で上昇する。総ビリルビンも同じ考え方で、肝細胞での取り込み・抱合・排泄が落ちるため上昇し、黄疸が出てくる。
医学生医学生
PT-INRはどうでしょう。凝固因子は肝臓でつくられるので、下がる気がしてしまいました。
ドクタードクター
そこはよくある引っかけだね。凝固因子が減るのは正しい。でもその結果、プロトロンビン時間は延長する。PT-INRは延長の程度を表す指標だから、値としては上昇するんだ。下がるのはPT活性のパーセント表示のほうだよ。
医学生医学生
なるほど、表し方によって上がるか下がるかが逆になるんですね。γ-グロブリンも肝臓とは関係なさそうですが……。
ドクタードクター
γ-グロブリンは形質細胞がつくるものだから、肝臓の合成能とは関係ない。むしろ肝硬変では、腸管から来た抗原が肝臓のKupffer細胞で十分に処理されずに全身に流れ、免疫系が持続的に刺激されて多クローン性に増える。アルブミンは減るから、A/G比は低下するんだ。
医学生医学生
では残る血小板が答えですね。脾腫のせいでしょうか。
ドクタードクター
そう、血小板が低値になる。理由は2つある。1つは門脈圧亢進による脾腫・脾機能亢進で、血小板が脾臓に溜め込まれ壊されること。もう1つは、血小板産生を促すトロンボポエチンが主に肝臓でつくられるので、その産生が落ちることだ。
医学生医学生
トロンボポエチンが肝臓由来というのは盲点でした。「つくるものが減る」の仲間でもあるんですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、血小板数は肝線維化の進行とよく相関するから、慢性肝炎の患者さんで10万/μLを切ってきたら肝硬変を強く疑う目安になる。年齢、AST、ALT、血小板数から計算するFIB-4 indexも、線維化の簡便なスクリーニングとして使われているよ。
医学生医学生
重症度はChild-Pugh分類で評価するんでしたよね。
ドクタードクター
そう。総ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症の5項目で評価する。今回のように腹水が出ている段階は非代償期で、食道静脈瘤や肝細胞癌のチェックも欠かせない。検査値を一つずつ覚えるより、「合成能低下」「解毒・排泄能低下」「門脈圧亢進」の3つの軸で整理しておくと、どんな出題にも対応できるよ。

まとめ

腹部超音波で肝表面の凹凸不整、実質エコーの粗造化、腹水を認めれば、非代償性肝硬変を考えます。肝硬変の検査値は、合成能の低下(アルブミン・コリンエステラーゼ・凝固因子の低下によるPT延長=PT-INR上昇)、解毒・排泄能の低下(アンモニア・ビリルビン上昇)、門脈圧亢進(脾機能亢進)という病態から予測できます。血小板は脾機能亢進による貯留・破壊と、肝臓でのトロンボポエチン産生低下によって減少し、10万/μL未満は肝硬変を疑う目安となります。一方、γ-グロブリンは免疫系の持続的刺激により増加し、A/G比は低下します。病態の軸で検査値を整理する考え方は、Child-Pugh分類による重症度評価や合併症管理を理解する土台にもなります。

解答・解説

正解はcです

画像所見の整理

腹部超音波像では、肝臓の表面(腹壁側)と腹壁の間に、エコーを返さない黒い帯状の領域(無エコー域)が広がっており、腹水の貯留を示す。腹水に囲まれて肝表面の輪郭がはっきり見え、その表面は滑らかでなく凹凸不整(結節状)である。肝実質のエコーも粗く不均一で、肝臓が線維化して再生結節に置き換わった像と考えられる。

診断

肝表面の凹凸不整、実質エコーの粗造化、腹水を合わせると、肝硬変、それも腹水を伴う非代償性肝硬変と判断できる。

設問への考え方

肝硬変では、①肝細胞の量・機能の低下(合成能・解毒能・排泄能の低下)と、②線維化による門脈圧亢進(脾腫・脾機能亢進、側副血行路)が起こる。検査値はこの二つの病態から推測する。 ・肝臓が「つくるもの」(アルブミン、コリンエステラーゼ、凝固因子、コレステロール、トロンボポエチン)は低下する。 ・肝臓が「処理・排泄するもの」(アンモニア、ビリルビン、ICG)は血中に増える。 ・門脈圧亢進で脾臓が腫大すると血球が脾臓に貯留・破壊され、血小板などの血球が減る。 ・慢性炎症や、門脈血中の腸管由来の抗原が肝臓で処理されずに全身に流れることで、γ-グロブリンは増える。 したがって低値となるのは血小板である。

選択肢考察

  1. ×a.  アンモニア

    アンモニアは主に腸内細菌が蛋白質・アミノ酸を分解して産生し、門脈を経て肝臓の尿素回路で尿素に変えられて解毒される。肝硬変では肝細胞の機能低下に加え、門脈血が側副血行路(門脈-大循環短絡)を通って肝臓を素通りするため、血中アンモニアは上昇する。高アンモニア血症は肝性脳症の一因となる。

  2. ×b.  γ-グロブリン

    肝硬変では慢性炎症に加え、腸管由来の抗原が肝臓のKupffer細胞で十分に処理されずに全身へ流入し、免疫系が持続的に刺激されるため、γ-グロブリン(主にIgG)が多クローン性に増加する。一方でアルブミンは合成低下で減少するため、血清蛋白分画ではアルブミン低下とγ分画の幅広い上昇(β-γ bridging)がみられ、A/G比は低下する。

  3. ○c.  血小板

    肝硬変で血小板が減る理由は主に二つある。①門脈圧亢進による脾腫・脾機能亢進で、血小板が脾臓に貯留し破壊される。②血小板の産生を促すトロンボポエチンは主に肝臓で産生されるため、肝機能低下で産生が減り、骨髄での血小板産生が低下する。血小板数は肝線維化の進行度とよく相関し、慢性肝炎の経過中に10万/μL未満となれば肝硬変を強く疑う目安とされる。

  4. ×d.  総ビリルビン

    ビリルビンは肝細胞に取り込まれてグルクロン酸抱合を受け、胆汁中に排泄される。肝硬変では肝細胞の取り込み・抱合・排泄の能力が低下するため、特に非代償期には血清総ビリルビンが上昇し、黄疸が出現する。総ビリルビンはChild-Pugh分類の評価項目の一つでもある。

  5. ×e.  PT-INR

    フィブリノゲン、プロトロンビン(第Ⅱ因子)、第Ⅴ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子など多くの凝固因子は肝臓で合成される。肝硬変では合成能の低下によりプロトロンビン時間(PT)が延長し、それを標準化したPT-INRは上昇する(PT活性%は低下する)。半減期の短い第Ⅶ因子を反映するため、肝合成能の鋭敏な指標となる。

肝硬変の主な検査所見

・合成能の低下:アルブミン、コリンエステラーゼ(ChE)、総コレステロールの低下、PT延長(PT-INR上昇)。 ・解毒・排泄能の低下:アンモニア上昇、総ビリルビン上昇、ICG(インドシアニングリーン)15分停滞率の上昇。 ・逸脱酵素:AST・ALTは軽度上昇し、AST優位(AST/ALT比>1)となりやすい。進行すると肝細胞量自体が減るため、かえって正常範囲になることもある。 ・血球:脾機能亢進により血小板が減少し、進行すると白血球・赤血球も減って汎血球減少となる。 ・免疫:γ-グロブリン(IgG)の上昇、A/G比の低下。 ・線維化マーカー:ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン7S、プロコラーゲンⅢペプチド(P-Ⅲ-P)、M2BPGi(Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体)の上昇。FIB-4 index(年齢・AST・ALT・血小板数から算出)も線維化の簡便な評価に用いられる。

肝硬変の画像所見(超音波)

肝表面の凹凸不整(結節状)、辺縁の鈍化、実質エコーの粗造化、右葉の萎縮と左葉・尾状葉の腫大、脾腫、腹水、門脈の拡張や側副血行路の描出など。エラストグラフィで肝の硬さを測定することもできる。

重症度評価:Child-Pugh分類

総ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間(PT活性またはINR)、腹水、肝性脳症の5項目を各1〜3点で評価し、合計5〜6点をA、7〜9点をB、10〜15点をCとする。腹水や黄疸、肝性脳症が出現した状態が非代償性肝硬変である。

POINT

・肝表面の凹凸不整+実質エコー粗造+腹水 → 非代償性肝硬変。 ・肝硬変で低下:アルブミン、ChE、コレステロール、血小板(脾機能亢進+トロンボポエチン産生低下)、PT活性。 ・肝硬変で上昇:アンモニア、ビリルビン、PT-INR、γ-グロブリン、ICG15分停滞率、線維化マーカー。 ・血小板10万/μL未満は肝硬変を疑う目安。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。