両側がズキズキ、月経前に強まる―乳房痛で最も多い「乳腺症」を見抜く
第111回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
両側乳房の疼痛を主訴とする乳腺疾患で最も頻度が高いのはどれか。
- a.乳癌
- b.乳腺症
- c.線維腺腫
- d.葉状腫瘍
- e.乳管内乳頭腫
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
両側性で月経周期に連動する乳房痛や張り、境界不明瞭な硬結は乳腺症の典型像で、30〜40歳代の閉経前女性に多く、乳腺疾患の中で最も頻度が高い良性疾患です。卵巣ホルモンの影響は両側の乳腺に等しく及ぶため症状も両側性となり、月経前に増強して月経後に軽快します。一方、乳癌・線維腺腫・葉状腫瘍・乳管内乳頭腫といった腫瘍性病変は片側性が原則で、無痛性腫瘤や乳頭分泌で気付かれることが多く、急速増大なら葉状腫瘍、血性乳頭分泌なら乳管内乳頭腫と非浸潤性乳管癌の鑑別を考えます。ただし痛みがあっても乳癌は否定できず、乳腺症の診療では画像検査による乳癌の除外が最も重要です。「片側か両側か」「主訴は何か」「好発年齢」の3点で乳腺疾患を整理しておくと、外来での初期判断に大いに役立ちます。
解答・解説
正解はbです
問われているテーマ
乳腺疾患はそれぞれ「どんな症状で受診するか」「片側か両側か」「好発年齢」に特徴がある。本問は「両側」「疼痛」という二つの手がかりから、日常診療で最も多い疾患を選ぶ問題である。
考え方
乳腺の腫瘍性病変(乳癌、線維腺腫、葉状腫瘍、乳管内乳頭腫)は、原則として一側の一か所に生じ、しこり(腫瘤)や乳頭分泌で気付かれることが多く、痛みは主症状になりにくい。これに対して、卵巣ホルモンの周期的な変動に乳腺組織が反応して起こる変化は、ホルモンの影響が両側の乳腺に等しく及ぶため両側性に現れ、月経前に強まる張りや痛みとして自覚される。この代表が乳腺症であり、30〜40歳代を中心とする閉経前女性に非常に多く、乳腺外来で最も頻繁に遭遇する良性疾患である。したがって「両側乳房の疼痛」で最も頻度が高いのは乳腺症である。
選択肢考察
- ×a. 乳癌
乳癌の多くは片側の、硬く境界不明瞭で可動性に乏しい無痛性の腫瘤として自覚されるか、検診のマンモグラフィで発見される。疼痛を主訴とすることは少なく、両側同時に発生する頻度も低い。ただし痛みがあっても乳癌を否定できるわけではない(炎症性乳癌などでは発赤・腫脹・疼痛を伴う)ため、乳房の症状では乳癌の除外が常に重要である。
- ○b. 乳腺症
乳腺症は、エストロゲンとプロゲステロンのバランスの乱れ(相対的なエストロゲン優位)を背景に、乳腺の増殖性変化と退行性変化が混在して生じる良性の状態である。30〜40歳代の閉経前女性に多く、乳腺疾患の中で最も頻度が高い。症状は両側性のことが多く、月経前に増強し月経後に軽快する周期性の乳房痛・圧痛・張り感と、境界不明瞭で大小不同の硬結を特徴とする。疼痛を伴い両側性で頻度も最多という三条件を満たす。
- ×c. 線維腺腫
線維腺腫は乳管上皮と間質が増殖する良性腫瘍で、10〜30歳代の若年女性に多い。境界明瞭で弾性硬、表面平滑、可動性良好な無痛性腫瘤として触れる。通常は単発・片側で、疼痛は主症状とならない(多発例もある)。
- ×d. 葉状腫瘍
葉状腫瘍は間質成分の増殖が主体となる線維上皮性腫瘍で、全乳腺腫瘍の1%未満とまれである。40歳代を中心に発生し、片側に生じて短期間で急速に増大し、巨大な腫瘤となることがある。線維腺腫と似た組織像をもつが別の腫瘍であり、良性・境界悪性・悪性に分類される。良性でも局所再発しやすく、周囲に十分な余裕をもった切除が必要である。疼痛を主訴とすることは少ない。
- ×e. 乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は、主に乳頭近くの太い乳管内に発生する乳頭状の良性腫瘍で、40〜50歳代に多い。典型的には片側・単孔性の血性または漿液性の乳頭分泌で気付かれ、乳輪近くに小さな腫瘤を触れることもある。疼痛は主症状でなく、両側性も一般的でない。血性乳頭分泌は乳癌(特に非浸潤性乳管癌)との鑑別が必要となる。
乳腺症の概要
・病態:卵巣ホルモン(特にエストロゲン)への乳腺組織の反応の乱れにより、乳管上皮の増殖、嚢胞形成、アポクリン化生、線維化、腺症(小葉の増加)などの増殖・退行変化が混在する。独立した疾患というより、正常の周期的変化の延長線上にある状態とも考えられている。 ・症状:両側性の周期的な乳房痛、張り、境界不明瞭な硬結、ときに嚢胞や乳頭分泌。閉経後はホルモン低下とともに軽快することが多い。 ・診断:視触診、マンモグラフィ、超音波検査で乳癌を除外することが最も重要である。硬結や石灰化が癌と紛らわしい場合は細胞診・組織診を行う。 ・治療:基本は経過観察と生活指導(下着の調整など)である。疼痛が強い場合は鎮痛薬を用い、重症例ではホルモン療法(ダナゾールなど)が試みられることもある。 ・乳癌との関係:多くは癌化のリスクを有意に上げないが、異型を伴う増殖性病変(異型乳管過形成など)は乳癌のリスク因子となる。
主な乳腺疾患の特徴のまとめ
・乳腺症:30〜40歳代、両側、周期性疼痛、境界不明瞭な硬結。 ・線維腺腫:10〜30歳代、片側単発が多い、無痛、境界明瞭・可動性良好。 ・葉状腫瘍:40歳代中心、片側、急速増大、巨大化、局所再発しやすい。 ・乳管内乳頭腫:40〜50歳代、片側単孔性の血性・漿液性乳頭分泌。 ・乳癌:40歳代後半〜60歳代、片側の硬い無痛性腫瘤、皮膚の陥凹(えくぼ徴候)・乳頭陥凹・腋窩リンパ節腫大。
POINT
・両側性・月経周期に連動する乳房痛と硬結 → 乳腺症(乳腺疾患で最多、閉経前の30〜40歳代)。 ・腫瘍性病変(乳癌・線維腺腫・葉状腫瘍・乳管内乳頭腫)は片側性が原則で、疼痛は主症状になりにくい。 ・乳腺症の診療で最も大切なのは乳癌の除外である。 ・血性乳頭分泌 → 乳管内乳頭腫と非浸潤性乳管癌を鑑別。急速増大する巨大腫瘤 → 葉状腫瘍。
