StudyMed医師国家試験

白い斑と点頭発作―乳児期に結節性硬化症を見抜く2つの手がかり

第119回医師国家試験 A問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第119回 A問題 第23問

9か月の女児。けいれんを主訴に両親に連れられて来院した。生後5か月で腹部に皮疹があることに母親が気付いていた。2週間前から両上肢を伸展挙上し,頭部を前屈する動作が出現した。約5秒間隔で10回以上反復し,次第に頻度が増加して毎日みられるようになった。同時期からあやし笑いが乏しくなり,ひとり座りが不安定になった。身長70.5cm,体重8.2kg。体温36.3℃。脈拍108/分,整。血圧82/48mmHg。呼吸数32/分。SpO2 99%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。体幹と大腿部に皮疹を3個認める。頭部単純MRIのT2強調水平断像(A)と大腿部の皮疹の写真(B)とを下に示す。  最も考えられる疾患はどれか。

第119回 A問題 第23問の問題画像
  1. a.尋常性白斑
  2. b.結節性硬化症
  3. c.神経線維腫症1型
  4. d.Sturge-Weber症候群
  5. e.von Hippel-Lindau病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児のけいれんと皮膚の斑から背景疾患を突き止める問題だ。着眼点は、発作の型と発達の経過、そして皮疹の色の2つ。まず、両腕を挙げて頭をかくんと前に倒す動作が、数秒おきに繰り返されるという発作は何だと思う?
医学生医学生
点頭発作、てんかん性スパズムですね。シリーズ形成していて、発達も後退しているのでWest症候群でしょうか。
ドクタードクター
その通り。West症候群は、てんかん性スパズムのシリーズ形成、脳波のヒプスアリスミア、精神運動発達の停止・退行が三主徴だ。あやし笑いが減ってひとり座りが不安定になったのは、まさに発達の退行を表している。ただ、West症候群は「症候群」だから、その背景に何があるかを考えなくてはいけない。
医学生医学生
小児科の講義では、脳形成異常や低酸素性虚血性脳症、先天代謝異常などが原因になると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。そこに神経皮膚症候群、いわゆる母斑症も加わる。今回は乳児期早期から皮疹があるのが大きなヒントだ。大腿の皮疹の写真は、径2cmほどの、辺縁が不整で境界がやや不明瞭な白っぽい斑。色が完全に抜けているのではなく、薄くなっている脱色素斑なんだ。
医学生医学生
白い斑というと、尋常性白斑も思い浮かびますが……。
ドクタードクター
そこは区別が大事なところだ。尋常性白斑はメラノサイトが減少・消失する後天性の病気で、真っ白で境界がくっきりした完全脱色素斑になる。今回は生後早期からあって、境界が不明瞭な不完全脱色素斑。何より尋常性白斑ではてんかんや脳病変を説明できない。
医学生医学生
母斑症は皮疹の色で整理すると、CBTの対策で覚えました。白が結節性硬化症、茶色のカフェオレ斑が神経線維腫症1型、赤いポートワイン母斑がSturge-Weber症候群です。
ドクタードクター
完璧な整理だ。そして頭部MRIのT2強調像では、右前頭葉の皮質から皮質下に高信号の病変がある。これは皮質結節と考えられる。3個以上の脱色素斑と皮質結節は、どちらも結節性硬化症の診断基準の大症状で、大症状2つで確定診断になる。だから正解は結節性硬化症だ。
医学生医学生
結節性硬化症というと、顔の血管線維腫が有名ですが、この子にはないですよね。
ドクタードクター
いい疑問だね。顔面血管線維腫が目立ってくるのは幼児期以降なんだ。乳児期には、葉状白斑などの脱色素斑とてんかんが診断の手がかりになる。年齢によって前面に出る所見が違うことを知っておくと、見逃しが減るよ。
医学生医学生
神経線維腫症1型も乳児期からカフェオレ斑が出ますが、色が逆ということですね。
ドクタードクター
その通り。神経線維腫症1型はNF1遺伝子の異常で、色素が増えたミルクコーヒー色の斑が出て、思春期以降に神経線維腫が多発する。Lisch結節や視神経膠腫も特徴だ。Sturge-Weber症候群は顔面、主に三叉神経第1枝領域のポートワイン母斑と同側の軟膜血管腫が特徴で、てんかんや緑内障を伴いやすいけれど、今回は顔面の血管奇形がないし、脳病変も異なる。
医学生医学生
von Hippel-Lindau病は、小脳や網膜の血管芽腫と腎細胞癌のイメージです。
ドクタードクター
そうだね。思春期以降から成人期に発症することが多く、特徴的な皮膚病変もないから、乳児の点頭発作と白斑とは結びつかない。
医学生医学生
結節性硬化症の病態は、mTORの過剰活性化でしたよね。
ドクタードクター
その通り。TSC1遺伝子のハマルチン、TSC2遺伝子のチュベリンが働かなくなると、mTOR経路の抑制が外れて全身に過誤腫ができる。常染色体顕性遺伝だけれど、約3分の2は新生突然変異による孤発例だ。病変は年齢とともに現れる。胎児期の心横紋筋腫、乳児期の白斑とてんかん、幼児期以降の顔面血管線維腫や粒起革様皮、思春期以降の爪囲線維腫や腎血管筋脂肪腫、成人女性の肺リンパ脈管筋腫症という流れで押さえておこう。
医学生医学生
脳では皮質結節のほかに、上衣下結節もありましたね。
ドクタードクター
そう。上衣下結節が大きくなって上衣下巨細胞性星細胞腫になると、Monro孔付近で閉塞性水頭症を起こすことがあるから、定期的な画像フォローが必要になる。治療では、結節性硬化症に伴うWest症候群にはビガバトリンが特に有効とされ、ACTH療法も用いられる。さらにmTOR阻害薬のエベロリムスが上衣下巨細胞性星細胞腫や腎血管筋脂肪腫、難治性てんかんに使われるんだ。
医学生医学生
点頭発作の赤ちゃんを診たら、服を脱がせて全身の皮膚を見ることが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。脱色素斑は淡くて見落としやすいから、Wood灯を当てると見つけやすくなることもある。発作の治療開始が遅れるほど発達予後に影響しうるので、早く気づいて原因を特定することが大切だよ。

まとめ

乳児期にてんかん性スパズムのシリーズ形成と発達の停止・退行がみられたらWest症候群を考え、その背景疾患を探します。乳児期早期からの不完全脱色素斑(葉状白斑)とMRIでの皮質結節は結節性硬化症の大症状であり、2つそろえば確定診断となります。母斑症は皮疹の色で整理でき、白斑なら結節性硬化症、カフェオレ斑なら神経線維腫症1型、顔面のポートワイン母斑ならSturge-Weber症候群と考え、境界明瞭な後天性の完全脱色素斑である尋常性白斑とも区別します。結節性硬化症はTSC1/TSC2異常によるmTOR経路の活性化で全身に過誤腫が生じ、年齢とともに顔面血管線維腫、腎血管筋脂肪腫、肺リンパ脈管筋腫症などが現れるため、長期的なフォローが欠かせません。乳児のけいれんを診たら全身の皮膚をよく観察する習慣が、早期診断と適切な治療選択につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・9か月の女児。生後5か月の時点で、すでに腹部の皮疹に母親が気付いていた(乳児期早期からある皮膚病変=先天性の母斑を考える)。 ・2週間前から、両上肢を伸展挙上し頭部を前屈する短い発作が約5秒間隔で10回以上連続して起こり(シリーズ形成)、毎日みられるようになった。これはてんかん性スパズム(点頭発作)の典型像である。 ・同時期からあやし笑いが減り、ひとり座りが不安定になった。発作の出現とともに精神運動発達が停止・退行しており、乳児てんかん性スパズム症候群(West症候群)を強く疑う。 ・バイタルサイン、成長、胸腹部所見に異常はない。 ・体幹と大腿部に皮疹が3個ある。写真Bは径2cm程度の、辺縁が不整な境界のやや不明瞭な白い斑で、色素が完全に抜けているのではなく減少している「脱色素斑(低色素斑、葉状白斑)」である。 ・頭部MRI T2強調像Aでは、右前頭葉の皮質〜皮質下に高信号の病変があり、皮質結節(cortical tuber)と考えられる。

診断へのプロセス

1. 乳児期のてんかん性スパズム+発達退行 → West症候群。West症候群の背景には脳形成異常、低酸素性虚血性脳症、先天代謝異常、染色体異常、神経皮膚症候群(母斑症)などがある。 2. 皮膚病変を伴う乳児期のてんかん → 神経皮膚症候群(母斑症)を鑑別する。母斑症は皮疹の色調で絞り込める。  ・白い斑(脱色素斑)→ 結節性硬化症  ・茶色の斑(カフェオレ斑)→ 神経線維腫症1型  ・赤い斑(顔面のポートワイン母斑)→ Sturge-Weber症候群 3. 本例では脱色素斑が3個あり、MRIで皮質結節を認める。これは結節性硬化症の診断基準の大症状(3個以上の脱色素斑、皮質結節)を2つ満たすため、結節性硬化症と確定診断できる。 結節性硬化症は乳児期のWest症候群の原因として頻度の高い疾患であり、顔面の血管線維腫が目立つのは幼児期以降であるため、乳児期には脱色素斑とてんかんが診断の手がかりとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  尋常性白斑

    尋常性白斑は、自己免疫的な機序などで表皮のメラノサイトが減少・消失して生じる後天性の色素脱失症である。境界が明瞭な完全脱色素斑(真っ白で、周囲との境がくっきりしている)が特徴で、自己免疫性甲状腺疾患などを合併することがある。本例の皮疹は生後早期からあり、境界がやや不明瞭な不完全脱色素斑であって性状が異なる。また尋常性白斑はてんかんや脳病変を伴わないため、本例の臨床像を説明できない。

  2. ○b.  結節性硬化症

    結節性硬化症は、TSC1遺伝子(産物はハマルチン)またはTSC2遺伝子(産物はチュベリン)の変異により、mTOR(mammalian target of rapamycin)経路が過剰に活性化し、全身の諸臓器に過誤腫が生じる常染色体顕性(優性)遺伝の母斑症である(約2/3は新生突然変異による孤発例)。乳児期には葉状白斑などの脱色素斑と、皮質結節に起因するてんかん(特にWest症候群)が初発症状となることが多い。本例は3個の脱色素斑と前頭葉の皮質結節という大症状2項目を満たし、点頭発作と発達退行も結節性硬化症に伴うWest症候群として説明できる。

  3. ×c.  神経線維腫症1型

    神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)は、NF1遺伝子(産物はニューロフィブロミン)の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の母斑症である。乳児期から出現する特徴的な皮疹は、ミルクコーヒー色(淡褐色)のカフェオレ斑であり、思春期以降に皮膚の神経線維腫が多発する。ほかに腋窩・鼠径部の雀卵斑様色素斑、虹彩小結節(Lisch結節)、視神経膠腫、骨病変、学習障害などがみられる。本例の皮疹は色素が増えた褐色斑ではなく色素が減った白斑であり、合致しない。

  4. ×d.  Sturge-Weber症候群

    Sturge-Weber症候群は、GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異による非遺伝性の母斑症で、顔面(主に三叉神経第1枝領域)の毛細血管奇形(ポートワイン母斑、赤い斑)と、同側の脳軟膜の血管奇形(軟膜血管腫)を特徴とする。てんかん、片麻痺、知的障害、緑内障を合併しやすい。MRIでは軟膜の造影増強や患側大脳の萎縮、CTでは脳回に沿った石灰化(tram-track sign)がみられる。本例は顔面の血管奇形がなく、皮疹は白斑で、脳病変も皮質結節であるため合致しない。

  5. ×e.  von Hippel-Lindau病

    von Hippel-Lindau病は、VHL遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝の腫瘍症候群で、小脳・脊髄・網膜の血管芽腫、腎細胞癌(淡明細胞型)、褐色細胞腫、膵臓の囊胞や神経内分泌腫瘍などが多発する。多くは思春期以降〜成人期に発症し、特徴的な皮膚病変(脱色素斑など)はみられない。乳児期の点頭発作と脱色素斑、皮質結節という本例の所見とは合わない。

結節性硬化症の主な病変(年齢による出現時期)

・胎児期〜新生児期:心臓横紋筋腫(多くは自然退縮する) ・乳児期:脱色素斑(葉状白斑)、てんかん(West症候群が多い)、皮質結節、上衣下結節 ・幼児期以降:顔面血管線維腫(鼻周囲〜頬に左右対称に多発する紅色丘疹。かつては脂腺腫と呼ばれた)、粒起革様皮(shagreen patch:腰背部の常色〜淡褐色の扁平隆起)、知的障害、自閉スペクトラム症などの神経精神症状(TAND) ・思春期以降:爪囲線維腫(Koenen腫瘍)、腎血管筋脂肪腫(出血の危険)、肺リンパ脈管筋腫症(LAM:主に成人女性) ・上衣下結節が増大して上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)となり、Monro孔付近で閉塞性水頭症を起こすことがある。

診断基準(2021年改訂国際コンセンサス、要点)

・大症状:脱色素斑(径5mm以上、3個以上)、顔面血管線維腫(3個以上)または頭部の線維性局面、爪囲線維腫(2個以上)、粒起革様皮、多発性網膜過誤腫、多発性皮質結節および/または放射状大脳白質神経細胞移動線、上衣下結節(2個以上)、上衣下巨細胞性星細胞腫、心横紋筋腫、肺リンパ脈管筋腫症、腎血管筋脂肪腫(2個以上) ・小症状:金平糖様白斑(confetti skin lesions)、歯エナメル質の多発小陥凹(3個以上)、口腔内線維腫(2個以上)、網膜無色素斑、多発性腎囊胞、腎以外の過誤腫、硬化性骨病変 ・確定診断:大症状2つ、または大症状1つ+小症状2つ以上。TSC1/TSC2の病的変異の同定でも確定診断となる。

治療

・てんかん:West症候群には、結節性硬化症ではビガバトリンが第一選択として特に有効とされ、ACTH療法も用いられる。難治例ではてんかん外科を検討する。 ・mTOR阻害薬:エベロリムスはSEGA・腎血管筋脂肪腫・難治性てんかんに、シロリムスはLAMに用いられ、外用シロリムスは顔面血管線維腫に用いられる。

神経皮膚症候群(母斑症)の皮疹による整理

・結節性硬化症:脱色素斑(白)、顔面血管線維腫 ・神経線維腫症1型:カフェオレ斑(茶)、神経線維腫 ・Sturge-Weber症候群:顔面のポートワイン母斑(赤) ・von Hippel-Lindau病:特徴的な皮疹に乏しい(網膜・中枢神経の血管芽腫が主体)

West症候群

乳児期(多くは生後3〜11か月)に発症し、てんかん性スパズム(点頭発作)のシリーズ形成、脳波のヒプスアリスミア(高振幅徐波と棘波が無秩序に混在する所見)、精神運動発達の停止・退行を三主徴とする。

POINT

・乳児の点頭発作(シリーズ形成)+発達退行 → West症候群。原因として結節性硬化症が重要。 ・母斑症は皮疹の色で整理:白斑=結節性硬化症、カフェオレ斑=神経線維腫症1型、ポートワイン母斑=Sturge-Weber症候群。 ・結節性硬化症の乳児期の手がかりは脱色素斑(葉状白斑)とてんかん。顔面血管線維腫は幼児期以降に目立つ。 ・脳病変:皮質結節、上衣下結節、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)。 ・TSC1(ハマルチン)/TSC2(チュベリン)異常 → mTOR経路の活性化 → mTOR阻害薬(エベロリムス、シロリムス)が治療に用いられる。 ・West症候群の治療:ACTH療法、ビガバトリン(結節性硬化症では特に有効)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。