白斑・けいれん・鼻の丘疹―結節性硬化症の皮膚症状を「出る順番」で読み解く
第114回医師国家試験 A問題 第36問
国試問題にチャレンジ
4歳の男児。体幹の白斑を主訴に父親に連れられて来院した。生後5か月で体幹に白斑があるのを父親が発見した。その後,増数してきたため受診した。1歳時にけいれんの既往がある。受診時,殿部と大腿部を中心に大小の白斑を認める。顔面では鼻部中心に丘疹が散在している。大腿部の写真を別に示す。 この患児で思春期以降に出現する可能性が高いのはどれか。

- a.脂腺母斑
- b.神経線維腫
- c.爪囲線維腫
- d.聴神経腫瘍
- e.単純性血管腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児期からの木の葉状の脱色素斑(葉状白斑)、けいれん、鼻周囲の丘疹(顔面血管線維腫)がそろえば結節性硬化症を考えます。皮膚症状には出現時期の目安があり、葉状白斑は乳児期、顔面血管線維腫は幼児期、シャグリンパッチは小児期、爪囲線維腫(Koenen腫瘍)は思春期以降に現れることが多いため、4歳の本例で今後出現が予想されるのは爪囲線維腫です。神経線維腫は神経線維腫症1型、両側聴神経腫瘍は2型、単純性血管腫はSturge-Weber症候群などの病変であり、顔面血管線維腫の旧称「脂腺腺腫」と脂腺母斑の混同にも注意が必要です。病態はTSC1/TSC2変異によるmTOR経路の過剰活性化で、腎血管筋脂肪腫や上衣下巨細胞性星細胞腫にはmTOR阻害薬が用いられます。母斑症を病変と出現時期で整理しておくことは、乳児のけいれんや白斑を診たときの早期診断と長期管理の基盤になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・4歳の男児で、生後5か月という乳児期早期に体幹の白斑が見つかり、その後数が増えている。 ・1歳時にけいれんの既往がある(神経症状の合併)。 ・殿部・大腿部を中心に大小の白斑が多発している。写真では、木の葉のような楕円形をした境界明瞭な脱色素斑(色素が抜けて白く見える斑)が散在している。 ・顔面では鼻部を中心に丘疹(小さな盛り上がり)が散在している。
診断へのプロセス
乳幼児期から白斑がみられる疾患としては、尋常性白斑、まだら症(限局性白皮症)、Sutton母斑(周囲に白暈を伴う色素細胞母斑)、脱色素性母斑、そして神経皮膚症候群(母斑症)の一つである結節性硬化症が挙がる。 このうち、楕円形〜木の葉状の小型の白斑が体幹・下肢に多発する点は結節性硬化症の葉状白斑(hypomelanotic macule)に合致する。さらに、けいれんという神経症状と、鼻部を中心とする丘疹(顔面血管線維腫)が加われば、皮膚・神経の両面から結節性硬化症と診断できる。単なる色素異常症や脱色素性母斑では、けいれんや顔面の丘疹は説明できない。
設問の考え方
結節性硬化症の皮膚症状は、出現する年齢がおおよそ決まっている。葉状白斑は出生時〜乳児期、顔面血管線維腫は幼児期(2〜5歳ごろ)から、粒起革様皮膚(シャグリンパッチ)は小児期から、そして爪囲線維腫(Koenen腫瘍)は思春期以降に出現することが多い。この患児は現在4歳で、白斑と顔面の丘疹はすでにそろっているので、今後思春期以降に新たに出現が予想されるのは爪囲線維腫である。他の選択肢は、いずれも結節性硬化症とは別の疾患・母斑症に特徴的な病変である。
選択肢考察
- ×a. 脂腺母斑
脂腺母斑は表皮・付属器(脂腺など)の過形成による母斑で、出生時から頭部や顔面に黄色調の脱毛斑として存在し、思春期に脂腺の発達とともに隆起・顆粒状に変化する。結節性硬化症の合併症ではない。なお、結節性硬化症の顔面血管線維腫はかつて「脂腺腺腫(adenoma sebaceum)」と呼ばれていたが、病理学的には脂腺の腫瘍ではなく血管と線維成分の増生であり、脂腺母斑とは全く別の病変である。名称の類似に惑わされないこと。
- ×b. 神経線維腫
神経線維腫は末梢神経のSchwann細胞や線維芽細胞などからなる良性腫瘍で、神経線維腫症1型(von Recklinghausen病)に特徴的である。1型では、カフェオレ斑(乳児期から)、思春期前後からの皮膚の多発性神経線維腫、虹彩小結節(Lisch結節)、雀卵斑様色素斑(腋窩・鼠径部)などを伴う。結節性硬化症でみられる血管線維腫とは、名前が似ていても臨床像も組織像も異なる。
- ○c. 爪囲線維腫
爪囲線維腫(Koenen腫瘍)は爪の周囲や爪床から生じる線維性の小結節で、結節性硬化症に特異性の高い皮膚所見であり、診断基準の大症状の一つでもある。乳幼児期にはまれで、思春期以降に出現・増加するのが典型である。足趾に多く、爪甲に縦溝や変形をきたすことがある。本患児は葉状白斑・顔面血管線維腫・けいれんから結節性硬化症と考えられ、思春期以降に新たに出現する可能性が高い病変として最も適切である。
- ×d. 聴神経腫瘍
聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が両側性に発生するのは神経線維腫症2型(NF2)の特徴であり、NF2では髄膜腫や脊髄神経鞘腫なども合併する。結節性硬化症で生じる中枢神経病変は皮質結節、上衣下結節、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)などであり、聴神経腫瘍は関連しない。
- ×e. 単純性血管腫
単純性血管腫(ポートワイン母斑、毛細血管奇形)は真皮の毛細血管の拡張・増生による赤色斑で、出生時から存在し自然消退しない。顔面三叉神経第1枝領域の単純性血管腫に脳軟膜血管腫・緑内障を伴うSturge-Weber症候群や、四肢の血管腫に患肢の骨・軟部組織の肥大を伴うKlippel-Trenaunay-Weber症候群でみられる。結節性硬化症の症状ではなく、また出生時から存在するので思春期以降に出現するものでもない。
結節性硬化症の概要
・常染色体顕性(優性)遺伝の神経皮膚症候群(母斑症)で、TSC1遺伝子(ハマルチンをコード)またはTSC2遺伝子(チュベリンをコード)の変異による。孤発例(新生突然変異)が多い。 ・TSC1/TSC2の産物はmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)経路を抑制しており、その機能喪失でmTORが過剰に活性化し、全身に過誤腫(その臓器にもともとある組織成分が異常に増殖した腫瘤)ができる。 ・古典的3主徴は、顔面血管線維腫、てんかん(けいれん発作)、知的障害である(Vogtの3主徴)。
皮膚症状と出現時期の目安
・葉状白斑(脱色素斑):出生時〜乳児期。最も早く出る皮膚症状で、Wood灯(紫外線ランプ)で見やすくなる。 ・顔面血管線維腫:幼児期(2〜5歳ごろ)から、鼻周囲・頬に左右対称性の紅色丘疹として出現・増加する。 ・粒起革様皮膚(シャグリンパッチ):小児期から、腰背部に皮膚色〜淡褐色のやや隆起した局面として出現する。 ・爪囲線維腫(Koenen腫瘍):思春期以降。 ・前額線維性局面、紙ふぶき様白斑なども知られる。
皮膚以外の主な病変
・中枢神経:皮質結節、上衣下結節(頭部CTで脳室壁の石灰化結節)、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)。てんかんは乳児期にWest症候群(点頭てんかん)として発症することが多い。 ・心臓:心横紋筋腫(胎児期〜新生児期に多く、成長とともに縮小しやすい)。 ・腎臓:腎血管筋脂肪腫(成長とともに増大し出血の原因となる)、腎嚢胞。 ・肺:リンパ脈管筋腫症(LAM、主に成人女性)。 ・眼:網膜過誤腫(網膜の星状膠細胞過誤腫)。
治療
・mTOR阻害薬が中心的役割を担う。エベロリムスはSEGAや腎血管筋脂肪腫に、シロリムス(ラパマイシン)はLAMに用いられ、皮膚病変(顔面血管線維腫など)にはシロリムス外用ゲルが使われる。 ・てんかんには抗てんかん薬を用い、West症候群ではビガバトリンが有効とされる。
主な母斑症の整理
・神経線維腫症1型:カフェオレ斑、神経線維腫、Lisch結節。 ・神経線維腫症2型:両側聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)。 ・結節性硬化症:葉状白斑、顔面血管線維腫、爪囲線維腫、てんかん。 ・Sturge-Weber症候群:顔面のポートワイン母斑、脳軟膜血管腫、緑内障。 ・von Hippel-Lindau病:網膜・小脳の血管芽腫、腎細胞癌、褐色細胞腫。
POINT
・乳児期からの楕円形の白斑(葉状白斑)+けいれん+鼻周囲の丘疹(顔面血管線維腫)→結節性硬化症。 ・皮膚症状の出現順:葉状白斑(乳児期)→顔面血管線維腫(幼児期)→シャグリンパッチ(小児期)→爪囲線維腫(Koenen腫瘍、思春期以降)。 ・神経線維腫・聴神経腫瘍は神経線維腫症、単純性血管腫はSturge-Weber症候群などであり、結節性硬化症とは区別する。 ・病態はTSC1/TSC2変異によるmTOR経路の過剰活性化で、治療にmTOR阻害薬が用いられる。
