「どこで」「何が」潰れているか―脊椎疾患の症状は中枢か末梢かで読み解く
第110回医師国家試験 I問題 第32問
国試問題にチャレンジ
脊椎疾患とその症状の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.頸椎症性脊髄症 ―― 間欠性跛行
- b.頸椎症性神経根症 ―― 腱反射の亢進
- c.胸椎後縦靱帯骨化症 ―― 対麻痺
- d.腰部脊柱管狭窄症 ―― 会陰部の異常感覚
- e.腰椎椎間板ヘルニア ―― 痙性歩行
対話形式の解説
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ドクターまとめ
脊椎疾患の症状は、圧迫されているのが脊髄(上位運動ニューロン)か、神経根・馬尾(下位運動ニューロン)かで整理すると理解しやすくなります。頸椎・胸椎で脊髄が圧迫されれば腱反射亢進や痙性麻痺が生じ、胸椎後縦靱帯骨化症では両下肢の痙性対麻痺をきたします。脊髄は第1〜2腰椎の高さで終わるため、腰椎疾患では馬尾や神経根の障害となり、腰部脊柱管狭窄症の馬尾型では神経性間欠性跛行に加えて会陰部の異常感覚や膀胱直腸障害がみられます。神経根症では腱反射は低下し、腰椎椎間板ヘルニアで痙性歩行は起こらず、頸椎症性脊髄症の典型症状は手指巧緻運動障害や痙性歩行です。急性の馬尾症候群は緊急手術の適応となるため、「どの高さで何が障害されているか」を考える習慣は、試験だけでなく臨床での見逃し防止にも直結します。
解答・解説
正解はc, dです
脊椎疾患の症状を考えるときは、「どの高さで」「何が(脊髄か、神経根か、馬尾か)」圧迫されているかを整理するのが基本である。
脊髄が障害される場合(脊髄症)
脊髄は上位運動ニューロンの通り道であるため、圧迫部位より下位に上位運動ニューロン障害の徴候が現れる。すなわち、腱反射亢進、病的反射(Hoffmann反射、Babinski反射など)、痙性麻痺、痙性歩行、障害レベル以下の感覚障害、膀胱直腸障害である。脊髄は成人では第1〜2腰椎の高さで終わる(脊髄円錐)ため、脊髄症をきたすのは頸椎・胸椎(および胸腰移行部)の病変である。
神経根が障害される場合(神経根症)
神経根は下位運動ニューロン(末梢神経)の一部であるため、その神経根の支配領域に一致した疼痛・しびれ、筋力低下(弛緩性)、腱反射の低下・消失が生じる。
馬尾が障害される場合
第2腰椎以下の脊柱管内には脊髄はなく、多数の神経根の束である馬尾が走る。馬尾が広く圧迫されると、両下肢のしびれ・脱力、会陰部(サドル領域)の異常感覚、膀胱直腸障害が出現する。いずれも末梢神経障害であり、腱反射は低下する。 この枠組みに当てはめると、胸椎後縦靱帯骨化症は胸髄を圧迫して両下肢の痙性麻痺(対麻痺)をきたし、腰部脊柱管狭窄症は馬尾を圧迫して会陰部の異常感覚をきたしうる。一方、神経根症で腱反射亢進、腰椎椎間板ヘルニアで痙性歩行という組合せは、障害部位(中枢か末梢か)と症状の性質が一致しない。
選択肢考察
- ×a. 頸椎症性脊髄症 ―― 間欠性跛行
間欠性跛行とは、歩行を続けると下肢の痛み・しびれ・脱力が強まって歩けなくなり、少し休むと再び歩けるようになる症状である。代表的な原因は腰部脊柱管狭窄症(神経性間欠性跛行:前かがみや座位で休むと改善)と下肢の末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症などによる血管性間欠性跛行:立ち止まるだけで改善)である。頸椎症性脊髄症は、加齢による椎間板の膨隆や骨棘などで頸髄が圧迫される疾患で、手指のしびれ・巧緻運動障害(箸が使いにくい、ボタンがかけにくい)、四肢腱反射亢進、Hoffmann反射陽性、痙性歩行(足がつっぱってふらつく歩き方)、膀胱直腸障害が典型症状である。まれに脊髄の血流障害による脊髄性間欠跛行がみられることはあるが、本疾患の代表的症状として組み合わせるのは適切でない。
- ×b. 頸椎症性神経根症 ―― 腱反射の亢進
頸椎症性神経根症は、椎間孔付近で骨棘などにより頸髄神経根が圧迫される疾患で、片側の頸部痛、肩甲部痛、上肢への放散痛・しびれ、その神経根が支配する筋の筋力低下を生じる。神経根は末梢神経(下位運動ニューロン)であるため、対応する腱反射は低下・消失する(例:C5で上腕二頭筋反射、C6で腕橈骨筋反射、C7で上腕三頭筋反射の低下)。腱反射の亢進は、上位運動ニューロンによる反射の抑制が失われたときに起こる所見であり、頸椎症性脊髄症のように脊髄そのものが圧迫された場合に病変レベルより下位でみられる。誤りである。
- ○c. 胸椎後縦靱帯骨化症 ―― 対麻痺
後縦靱帯骨化症(OPLL:ossification of the posterior longitudinal ligament)は、椎体の後面を縦に走る後縦靱帯が骨化して厚くなり、脊柱管を前方から狭める疾患で、指定難病である。頸椎に最も多いが胸椎にも生じる。胸椎部で骨化が進むと胸髄が圧迫され、上肢は保たれたまま両下肢の痙性麻痺(対麻痺)、下肢の腱反射亢進、障害レベル以下の感覚障害、膀胱直腸障害をきたす。胸椎は生理的に後弯しているため前方からの圧迫を受けやすく、手術後も回復しにくいことがある。組合せとして正しい。
- ○d. 腰部脊柱管狭窄症 ―― 会陰部の異常感覚
腰部脊柱管狭窄症は、黄色靱帯の肥厚、椎間関節の肥大、椎間板の膨隆、変性すべりなどによって腰部の脊柱管や椎間孔が狭くなり、馬尾や神経根が圧迫される疾患である。症状により神経根型(片側の下肢痛が主体)、馬尾型、両者を併せもつ混合型に分けられる。馬尾型では両下肢のしびれ・脱力に加え、会陰部(肛門周囲・陰部)のしびれやほてりなどの異常感覚、膀胱直腸障害、男性では持続勃起などがみられることがあり、これらも歩行で増悪し休息で軽快する。会陰部の感覚は仙髄神経(S2〜S4付近)が担っており、その神経線維が馬尾として狭窄部を通るため障害される。組合せとして正しい。
- ×e. 腰椎椎間板ヘルニア ―― 痙性歩行
腰椎椎間板ヘルニアは、髄核が線維輪を破って脱出し、主に神経根(L4/5間ではL5神経根、L5/S1間ではS1神経根が多い)を圧迫する疾患である。腰痛と片側下肢の放散痛(坐骨神経痛)、下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)陽性、支配領域の感覚障害・筋力低下、腱反射低下(L4でPTR〔膝蓋腱反射〕、S1でATR〔アキレス腱反射〕)をきたす。腰椎レベルには脊髄がなく、障害されるのは末梢神経である神経根・馬尾であるため、生じる麻痺は弛緩性であり、上位運動ニューロン障害による痙性歩行はみられない。痙性歩行は頸髄・胸髄の圧迫(頸椎症性脊髄症、後縦靱帯骨化症など)や、脳梗塞などの脳病変、痙性対麻痺をきたす疾患でみられる。誤りである。
上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害の比較
上位運動ニューロン障害(脳・脊髄):痙性麻痺、腱反射亢進、病的反射陽性、筋萎縮は目立たない(廃用性程度)。 下位運動ニューロン障害(前角細胞・神経根・末梢神経):弛緩性麻痺、腱反射低下・消失、病的反射陰性、筋萎縮・線維束性収縮がみられる。
脊椎高位と障害される神経構造
頸椎・胸椎:脊髄と神経根。脊髄が圧迫されれば脊髄症(痙性)、神経根が圧迫されれば神経根症(弛緩性・支配領域限局)。 腰椎(L2以下):馬尾と神経根のみ。脊髄症は起こらない。 胸腰移行部(T11〜L1付近):脊髄円錐・円錐上部が存在し、上位・下位運動ニューロン障害の徴候が混在しうる。
間欠性跛行の鑑別
神経性(腰部脊柱管狭窄症):前屈や座位で軽快し、立ち止まるだけでは改善しにくい。腰椎伸展で症状が誘発される。自転車は楽にこげることが多い。足背動脈は触知される。 血管性(末梢動脈疾患):姿勢に関係なく立ち止まるだけで軽快する。足背動脈・後脛骨動脈の拍動減弱、足関節上腕血圧比(ABI)の低下がみられる。
馬尾症候群
大きな正中ヘルニアなどで馬尾が急に強く圧迫されると、サドル型感覚障害、尿閉・失禁、肛門括約筋の弛緩をきたす(馬尾症候群)。不可逆的な障害を残しうるため緊急手術の適応となる。
POINT
・脊髄の圧迫(頸椎・胸椎):腱反射亢進、病的反射、痙性麻痺・痙性歩行、膀胱直腸障害。 ・神経根の圧迫:支配領域の疼痛・しびれ、筋力低下、腱反射低下。 ・腰椎レベル(L2以下)に脊髄はなく、馬尾・神経根の障害となるため痙性症状は出ない。 ・胸椎OPLL:胸髄圧迫による痙性対麻痺。 ・腰部脊柱管狭窄症:神経性間欠性跛行。馬尾型では会陰部異常感覚・膀胱直腸障害。
