StudyMed医師国家試験

「あの人にできたなら」が背中を押す―ステージモデルとモデリングで読み解く行動変容

第110回医師国家試験 H問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第17問

行動変容について正しいのはどれか。

  1. a.モデリングが有効である。
  2. b.行動を変えて1年間は実行期である。
  3. c.準備期の次のステージは関心期である。
  4. d.強化マネジメントは無関心期に重要である。
  5. e.環境変化に応じて反射的に獲得するものである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の定番テーマ、行動変容の理論についての問題だ。押さえるべき軸は3つ。「変化のステージの順番と期間」「ステージごとに有効な働きかけ」「そもそも行動変容はどうやって身につくのか」。この3つを整理すれば、どの選択肢もすっきり判断できるよ。
医学生医学生
禁煙指導の話でよく出てくる、無関心期とか関心期とかのモデルですよね。CBTの勉強で覚えたはずなんですが、順番があやふやです。
ドクタードクター
Prochaskaらのトランスセオレティカルモデル、日本語だと変化のステージモデルだね。順番は無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階。無関心期は6か月以内に変える気がない時期、関心期は6か月以内に変えようと考えている時期、準備期は1か月以内に変えるつもりで、すでに小さな行動を始めている時期だ。
医学生医学生
じゃあ「準備期の次が関心期」というのは順番が逆ですね。準備期の次は実行期です。
ドクタードクター
その通り。では実行期と維持期の境目はどうだろう。「行動を変えて1年間は実行期」という選択肢があるね。
医学生医学生
1年続けば一区切り、という感覚で正しそうに思えてしまいました。
ドクタードクター
そこはよく間違えるポイントなんだ。行動を始めてから6か月未満が実行期、6か月以上続いていれば維持期とされている。実行期は始めたばかりで後戻りしやすい、いちばん不安定な時期だと考えておくといい。
医学生医学生
6か月という数字がいろいろな段階に出てくるので、まとめて覚えておきます。次は強化マネジメントですが、無関心期の人を褒めて動かす、というイメージでしょうか。
ドクタードクター
強化マネジメントは、望ましい行動がとれたときに賞賛や褒美を与えて、その行動を続けやすくする方法だ。ということは、褒める対象の行動がすでに始まっていないと使えない。
医学生医学生
あ、無関心期の人はまだ何も行動していないから、強化するものがないんですね。主に実行期や維持期で使う方法ということですか。
ドクタードクター
そう。無関心期の人には、まず問題に気づいてもらうことが先決だ。健康リスクの情報を伝える「意識の高揚」、病気の怖さや変わりたい気持ちに触れる「感情的経験」、自分の行動が家族にどう影響するかを考えてもらう「環境の再評価」などが中心になる。ステージに合わない働きかけをしても、なかなか響かないんだ。
医学生医学生
行動変容は環境が変われば反射的に起こる、という選択肢はどうですか。職場が禁煙になればみんなやめそうな気もしますが。
ドクタードクター
環境を整えることは確かに後押しになる。でも行動変容は、反射のように自動的に起こるものではなく、学習によって獲得されるものだ。指導を受けたり、自分で体験したり、他人の行動を見たりしながら、本人が関心をもち、考え、決めて実行することで少しずつ進んでいく。だから「反射的に獲得する」は誤りだね。
医学生医学生
となると、正解はモデリングが有効、ですね。行動科学の講義でBanduraの名前が出てきました。
ドクタードクター
正解。モデリングはBanduraの社会的学習理論の中心概念で、他人の行動とその結果を観察して、自分もその行動を身につける学習のことだ。観察学習ともいう。自分と年齢や病状、生活環境が近く、禁煙や減量に成功した人の体験に触れると、「あの人にできたなら自分にもできそうだ」と思える。
医学生医学生
それって自己効力感の話につながりますか。
ドクタードクター
まさにそこがつながる。Banduraは自己効力感を高める情報源として、自分の成功体験、他者の成功を見る代理体験、励ましなどの言語的説得、体調や気分のよさに気づく生理的・情動的状態の4つを挙げている。モデリングはこのうちの代理体験にあたるんだ。
医学生医学生
内科の実習で糖尿病教室を見学したとき、患者さん同士で体験談を話していたのは、まさにモデリングを使っていたんですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。患者会やピアサポートが行動変容に役立つのも同じ理由だ。臨床で注意したいのは、ステージは一直線に進むとは限らないこと。維持期まで来ても前の段階に戻る「逆戻り」は珍しくない。逆戻りを失敗と責めるのではなく、今どのステージにいるかを見極め直して、そのステージに合った働きかけをし直すことが大切なんだ。
医学生医学生
禁煙外来で何度目かの挑戦という患者さんにも、前向きに関われそうです。
ドクタードクター
その姿勢が大事だよ。生活習慣病の診療では、薬と同じくらい行動変容の支援が治療の柱になるからね。

まとめ

行動変容は反射ではなく学習によって獲得されるもので、Banduraの社会的学習理論におけるモデリング(観察学習)は、他者の成功を観察する代理体験として自己効力感を高め、行動変容に有効です。Prochaskaらの変化のステージモデルでは、無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期の順に進み、行動を始めて6か月未満が実行期、6か月以上続けば維持期とされます。働きかけはステージに合わせることが重要で、無関心期には意識の高揚などの気づきを促す方法が、実行期・維持期には強化マネジメントや周囲の支援、刺激統制などが中心となります。ステージは逆戻りしながら進むことも多いため、患者が今どの段階にいるかを繰り返し見極める視点が、禁煙指導や生活習慣病の診療で欠かせません。

解答・解説

正解はaです

本問は、健康行動を変えていく過程(行動変容)を説明する代表的な理論の知識を問うている。

行動変容とは

心理学でいう学習とは、経験を通じて新しい行動様式が身につくことを指す。この学習の結果、喫煙・食習慣・運動不足といった健康に不利な行動が、健康や成長に望ましい行動へと置き換わることを行動変容とよぶ。行動変容は、刺激に対して自動的に起こる反射とは異なり、知識の獲得、他者の観察、自らの体験、周囲からの支援などを通じて段階的に進む。

押さえるべき理論

1. 変化のステージモデル(トランスセオレティカルモデル、Prochaska ら):人は「無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期」という 5 段階を経て行動を変える、と考える。各段階には目安となる期間が設定されており、行動を始めてから 6 か月未満が実行期、6 か月以上続いていれば維持期とされる。 2. 変容のプロセス:各ステージを先へ進めるのに有効な働きかけ(意識の高揚、自己の再評価、自己の解放、強化マネジメント、刺激統制など)は、ステージごとに異なる。 3. 社会的学習理論・社会的認知理論(Bandura):他者の行動とその結果を観察することで学ぶ「モデリング(観察学習)」や、「自分にはできる」という見込みである自己効力感が、行動の獲得と継続を支える。 各選択肢は、ステージの順序と期間、ステージに応じた介入方法、行動変容の獲得のされ方を正確に覚えているかを確かめるものである。

選択肢考察

  1. ○a.  モデリングが有効である。

    モデリング(観察学習)は Bandura が提唱した社会的学習理論の中心となる概念で、他者がある行動をとり、その結果どうなったかを観察することで、自分も同じ行動を身につける学習の仕方である。健康教育では、自分と年齢・病状・生活環境が近く、すでに禁煙や減量などに成功している人の体験に触れてもらう方法として使われる。「あの人にできたのなら自分にもできそうだ」と具体的にイメージできると、目標がはっきりし、自己効力感も高まる。自己効力感を高める情報源の一つが他者の成功を見る代理体験であり、モデリングはまさにこれにあたる。患者会やピアサポートが行動変容に役立つのも同じ理由である。よって正しい。

  2. ×b.  行動を変えて1年間は実行期である。

    変化のステージモデルでは、望ましい行動を始めてから 6 か月未満を実行期(行動期)という。6 か月以上続けられていれば維持期に移る。実行期は始めたばかりの行動が後戻りしやすい時期にあたり、1 年間ではない。よって誤り。

  3. ×c.  準備期の次のステージは関心期である。

    ステージの順序は「無関心期(6 か月以内に行動を変える気がない)→ 関心期(6 か月以内に変えようと考えている)→ 準備期(1 か月以内に変えるつもりで、すでに何か小さな行動を始めている)→ 実行期 → 維持期」である。関心期は準備期の前の段階であり、準備期の次は実行期である。よって誤り。

  4. ×d.  強化マネジメントは無関心期に重要である。

    強化マネジメントとは、望ましい行動をとれたときに賞賛や褒美を与え(強化)、その行動を続けやすくする方法である。強化する行動がすでに始まっていなければ使えないため、主に実行期・維持期で重要となる。無関心期の人には、まず問題に気づいてもらう働きかけが中心になる。具体的には、健康リスクの情報を伝える「意識の高揚」、病気の怖さや変わりたい気持ちを感じてもらう「感情的経験」、自分の行動が家族や周囲に与える影響を考えてもらう「環境の再評価」などである。よって誤り。

  5. ×e.  環境変化に応じて反射的に獲得するものである。

    行動変容は学習によって獲得されるものであり、反射のように自動的に生じるものではない。医師・保健師・管理栄養士などからの指導、自分自身の体験、同じ病気をもつ人の行動の観察などを通じて、本人が問題に関心をもち、考え、自分で決めて実行することで少しずつ進む。環境を整えることは行動を後押しするが、環境が変わるだけで行動が反射的に変わるわけではない。よって誤り。

変化のステージモデル(トランスセオレティカルモデル)

・無関心期(前熟考期):6 か月以内に行動を変える意図がない。 ・関心期(熟考期):6 か月以内に行動を変えようと考えている。 ・準備期:1 か月以内に行動を変えるつもりで、何らかの行動をすでに始めている。 ・実行期(行動期):行動を変えてから 6 か月未満。 ・維持期:行動を変えてから 6 か月以上続いている。 この順に一直線に進むとは限らない。前の段階へ戻る(逆戻り)ことも珍しくなく、何度か段階を行き来しながら進むと考えられている。

ステージ別に有効な主な働きかけ(変容のプロセス)

・無関心期 → 関心期:意識の高揚(情報提供)、感情的経験、環境の再評価 ・関心期 → 準備期:自己の再評価(行動を変えた自分を思い描き、その価値を考える) ・準備期 → 実行期:自己の解放(「やる」と決意し、周囲に宣言する) ・実行期 → 維持期:強化マネジメント(褒美・賞賛)、援助関係の利用(家族や仲間からの支援)、拮抗条件づけ(問題行動を別の行動に置き換える)、刺激統制(きっかけとなる刺激を遠ざける)

Bandura の自己効力感を高める 4 つの情報源

1. 自己の成功体験(遂行行動の達成) 2. 代理体験(モデリング:他者の成功を観察する) 3. 言語的説得(励ましや賞賛) 4. 生理的・情動的状態(体調や気分がよいことに気づく)

POINT

・行動変容は反射ではなく学習によって獲得される。 ・モデリング(観察学習)は自己効力感を高め、行動変容に有効である。 ・ステージ順は 無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期。 ・実行期は行動を変えてから 6 か月未満、6 か月以上で維持期。 ・強化マネジメントは実行期・維持期向け、無関心期には意識の高揚などの気づきを促す働きかけが中心となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。