StudyMed医師国家試験

声の使いすぎで声帯は麻痺しない―頭頸部疾患のリスクを「機序」で仕分ける

第110回医師国家試験 H問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第14問

疾患とリスクファクターの組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.口腔癌 ―― 不適合義歯
  2. b.声帯麻痺 ―― 音声酷使
  3. c.下咽頭癌 ―― 飲酒
  4. d.睡眠時無呼吸 ―― 肥満
  5. e.ポリープ様声帯 ―― 喫煙

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は耳鼻咽喉科・頭頸部領域の疾患と危険因子の組合せから、誤っているものを選ぶ問題だ。丸暗記で挑むより、その病気が「粘膜への慢性刺激や発癌物質」「機械的な負荷」「気道の狭さ」「神経の障害」のどれで起こるのかを考えると、すっきり解ける。まずは癌の2つから見ていこう。下咽頭癌と飲酒はどうかな。
医学生医学生
頭頸部癌は喫煙と飲酒が二大リスクと講義で習ったので、正しい組合せだと思います。
ドクタードクター
その通り。下咽頭癌の大部分は扁平上皮癌で、飲酒と喫煙が主要な危険因子だ。特に、お酒で顔が赤くなりやすい体質の人はアセトアルデヒドを分解するALDH2の活性が低く、発癌物質であるアセトアルデヒドがたまりやすいのでリスクが高い。
医学生医学生
消化器内科を回ったとき、食道癌の患者さんで頭頸部の重複癌も見つかった人がいました。
ドクタードクター
いい経験だね。下咽頭癌と食道癌は同じ危険因子を共有するから、同時性・異時性の重複がよくある。片方を見つけたらもう片方も探す、が鉄則だ。では口腔癌と不適合義歯は?
医学生医学生
義歯が癌の原因というのは少し意外です。喫煙や飲酒ならわかるんですが。
ドクタードクター
主役は確かに喫煙と飲酒だ。ただ、合わない義歯やう歯の鋭い縁が同じ粘膜を長期間こすり続ける慢性的な機械的刺激も、発癌の要因とされている。舌癌が舌縁に多いのは、歯や義歯と接触しやすい場所だから、と関連づけると覚えやすい。口腔衛生不良や白板症のような前癌病変も関係するよ。
医学生医学生
なるほど、慢性刺激という意味では喫煙と同じ方向なんですね。睡眠時無呼吸と肥満はさすがに正しいですよね。
ドクタードクター
正しい組合せだ。閉塞性睡眠時無呼吸では、睡眠中に咽頭の筋緊張が落ちて上気道が繰り返し閉塞する。肥満では首まわりや咽頭周囲、舌に脂肪がつくので気道が狭くなり、最大の危険因子になる。下顎が小さい顔立ちや飲酒、睡眠薬も関与するし、小児ならアデノイドや口蓋扁桃の肥大が主な原因だ。
医学生医学生
残りは声帯の2つですね。ポリープ様声帯は喫煙と関係があった気がします。
ドクタードクター
その通り。ポリープ様声帯はReinke浮腫ともいい、声帯粘膜のすぐ下の疎な層であるReinke腔がむくんで、両側の声帯全長がぶよぶよに腫れる。中年以降の喫煙者に多く、喫煙が最大の原因だ。声帯が重くなって振動が遅くなるので、低く太い声になるのが特徴だよ。
医学生医学生
そうすると、声帯麻痺と音声酷使が誤りでしょうか。でも、声を使いすぎると声帯に負担がかかって動かなくなりそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
その感覚が引っかけなんだ。声帯麻痺は声帯そのものではなく、声帯を動かす神経、主に迷走神経の枝である反回神経の障害で起こる。音声酷使は声帯の粘膜に機械的な負荷をかけるけれど、神経を傷めるわけではない。だからこの組合せが誤りで、これが答えになる。
医学生医学生
では音声酷使で起こるのは何ですか。
ドクタードクター
声帯結節と声帯ポリープだ。声帯結節は両側の声帯の前1/3と中1/3の境目に対称性にできる小さな隆起で、歌手や教師、保育士、学童に多い。声帯ポリープは多くが片側性で、急に大声を出したときの粘膜下出血がきっかけになる。どちらも「粘膜の病変」だね。
医学生医学生
粘膜の病気は刺激や負荷で、運動の障害は神経、と分けて考えればいいんですね。声帯麻痺の原因は何を押さえればいいですか。
ドクタードクター
まず腫瘍。甲状腺癌、食道癌、肺癌や縦隔のリンパ節転移による神経浸潤だ。次に甲状腺や心臓・大血管、食道の手術による損傷、胸部大動脈瘤による圧迫、気管挿管、ウイルス感染、そして原因不明の特発性も少なくない。左の反回神経は大動脈弓の下を回って走行が長いので、右より麻痺しやすいことも覚えておこう。
医学生医学生
嗄声の患者さんを診たら、喉頭だけでなく胸部まで調べる必要があるということですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の要点だ。声帯麻痺では息の漏れるかすれ声、つまり気息性嗄声や誤嚥が起こる。原因不明の嗄声が続くとき、喉頭ファイバーで声帯の動きを確認し、麻痺があれば頸部から胸部までCTで原因を探す。嗄声が肺癌や食道癌の最初のサインだった、ということも実際にあるからね。また両側麻痺で声帯が正中に固定されると、声はそれなりに出ても呼吸困難を起こしうるので注意が必要だ。

まとめ

頭頸部疾患の危険因子は、発症の機序で整理すると理解しやすくなります。口腔癌・下咽頭癌は喫煙・飲酒や不適合義歯などの慢性刺激による粘膜の発癌、ポリープ様声帯(Reinke浮腫)は喫煙による声帯粘膜の浮腫、閉塞性睡眠時無呼吸は肥満による上気道狭窄が背景にあります。一方、声帯麻痺は反回神経などの神経障害で起こり、音声酷使は原因にならず、音声酷使で生じるのは声帯結節や声帯ポリープです。声帯麻痺の原因には甲状腺癌・食道癌・肺癌、手術損傷、大動脈瘤などがあり、走行の長い左反回神経が障害されやすい点も重要です。持続する嗄声の背後に胸部の悪性腫瘍が隠れていることもあるため、この区別は国試対策にとどまらず、日常診療での見逃し防止にも直結します。

解答・解説

正解はbです

本問は、耳鼻咽喉科・頭頸部領域の代表的な疾患と、その発症に関わる危険因子(リスクファクター)の対応を問う問題であり、「誤っている組合せ」を一つ選ぶ。 考え方の軸は、その疾患が「慢性刺激・発癌物質による粘膜障害」「機械的負荷」「解剖学的な気道狭窄」「神経障害」のどれによって起こるかを整理することである。口腔癌・下咽頭癌は喫煙・飲酒や慢性的な機械的刺激による粘膜の発癌、ポリープ様声帯は喫煙による声帯粘膜の慢性炎症・浮腫、閉塞性睡眠時無呼吸は肥満による上気道の狭窄が背景にある。一方、声帯麻痺は声帯を動かす神経(主に反回神経)の障害によって起こるものであり、声帯粘膜に機械的負荷をかける音声酷使とは発症機序が異なる。音声酷使が原因となるのは声帯結節や声帯ポリープといった声帯粘膜の病変である。

選択肢考察

  1. ×a.  口腔癌 ―― 不適合義歯

    正しい組合せ。口腔癌(舌癌、歯肉癌、口腔底癌、頬粘膜癌など)の主な危険因子は喫煙と飲酒であるが、合わない義歯やう歯(虫歯)の鋭縁、歯の欠損部などが同じ部位の粘膜を長期間こすり続ける慢性機械的刺激も発癌の要因とされる。舌癌が舌縁部に好発するのは、歯や義歯と接触しやすい部位であることと関連づけて理解するとよい。口腔衛生不良や白板症(前癌病変)も関連する。

  2. ○b.  声帯麻痺 ―― 音声酷使

    誤った組合せであり、これが正解。声帯麻痺(喉頭麻痺)は、声帯の運動を支配する迷走神経の枝、特に反回神経の障害で生じる。原因としては、甲状腺癌・食道癌・肺癌(左肺門部や縦隔リンパ節転移)による神経浸潤、甲状腺や心臓・大血管・食道などの手術による損傷、大動脈瘤による圧迫、気管挿管、ウイルス感染などがあり、原因不明の特発性も少なくない。左反回神経は大動脈弓の下を回って走行が長いため、右より麻痺を起こしやすい。音声酷使(大声・長時間の発声)は声帯粘膜への機械的負荷によって声帯結節や声帯ポリープの原因となるが、神経障害である声帯麻痺の原因にはならない。

  3. ×c.  下咽頭癌 ―― 飲酒

    正しい組合せ。下咽頭癌の大部分は扁平上皮癌であり、飲酒と喫煙が二大危険因子である。特に、飲酒で顔が赤くなりやすい体質(アルデヒド脱水素酵素2〔ALDH2〕の活性が低く、発癌物質であるアセトアルデヒドが蓄積しやすい)の人では危険性が高い。同じ危険因子を共有する食道癌との重複(同時性・異時性の重複癌)が多いことも重要である。このほか、鉄欠乏性貧血に伴うPlummer-Vinson症候群が輪状後部癌のリスクとなることも知られる。

  4. ×d.  睡眠時無呼吸 ―― 肥満

    正しい組合せ。閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に咽頭の筋緊張が低下して上気道が狭くなり、繰り返し閉塞する。肥満では頸部や咽頭周囲、舌への脂肪沈着によって上気道が狭くなるため、最大の危険因子となる。そのほか、下顎後退・小顎などの顎顔面形態、扁桃肥大(特に小児ではアデノイド・口蓋扁桃肥大が主因)、飲酒、睡眠薬の使用、仰臥位での睡眠による舌根沈下なども関与する。

  5. ×e.  ポリープ様声帯 ―― 喫煙

    正しい組合せ。ポリープ様声帯(Reinke浮腫)は、声帯粘膜直下の疎な結合組織層であるReinke腔に浮腫が生じ、両側の声帯全長がポリープ状に腫れる病態である。中年以降の喫煙者に多く、喫煙は最大の原因とされる。声帯の質量が増えて振動が遅くなるため、低く太い声(男性様の嗄声)になるのが特徴である。音声酷使も増悪因子となる。治療は禁煙が基本であり、改善しなければ手術を行う。

声帯の主な良性病変と原因の整理

・声帯結節:両側声帯の前1/3と中1/3の境界部に対称性に生じる小隆起。音声酷使が原因で、歌手・教師・保育士や学童(特に男児)に多い。まずは音声安静・音声治療を行う。 ・声帯ポリープ:多くは片側性の有茎性・広基性の腫瘤。急激な大声などの音声酷使による粘膜下出血が誘因となる。喫煙も関与する。 ・ポリープ様声帯(Reinke浮腫):両側声帯全長の浮腫状腫脹。喫煙が最大の原因。 ・声帯麻痺:反回神経などの神経障害による声帯運動障害。気息性嗄声(息が漏れるかすれ声)や誤嚥をきたし、両側麻痺では声帯が正中位で固定すると呼吸困難を生じる。

頭頸部癌の主な危険因子

・口腔癌:喫煙、飲酒、慢性機械的刺激(不適合義歯・う歯)、口腔衛生不良、前癌病変(白板症・紅板症) ・喉頭癌:喫煙(最大の因子)、飲酒 ・下咽頭癌:飲酒、喫煙、Plummer-Vinson症候群 ・中咽頭癌:喫煙・飲酒に加え、ヒトパピローマウイルス(HPV、特に16型)感染 ・上咽頭癌:EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)感染、中国南部などの地域性

声帯麻痺の原因

腫瘍(甲状腺癌、食道癌、肺癌、縦隔腫瘍)、手術による損傷(甲状腺・副甲状腺手術、心臓血管外科手術、食道手術)、胸部大動脈瘤、気管挿管、ウイルス感染、特発性など。

POINT

・声帯麻痺は反回神経などの神経障害で起こり、音声酷使は原因にならない。 ・音声酷使の結果生じるのは声帯結節・声帯ポリープである。 ・ポリープ様声帯(Reinke浮腫)の最大の原因は喫煙。 ・口腔癌には喫煙・飲酒に加え、不適合義歯などの慢性機械的刺激が関与する。 ・下咽頭癌は飲酒・喫煙が危険因子で、食道癌との重複が多い。 ・閉塞性睡眠時無呼吸の最大の危険因子は肥満(小児では扁桃・アデノイド肥大)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。