指先の小さな光が命を守る―パルスオキシメトリの原理と限界
第110回医師国家試験 H問題 第15問
国試問題にチャレンジ
パルスオキシメトリについて正しいのはどれか。
- a.使用前に装置の滅菌が必要である。
- b.静脈血の酸素飽和度を計測できる。
- c.一酸化炭素中毒の診断に有用である。
- d.過換気症候群の患者で測定値が低下する。
- e.麻酔中の持続的モニターとして使用される。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
パルスオキシメトリは、赤色光と赤外光の2波長の吸光度の差と、心拍に同期する拍動成分の解析によって、動脈血の酸素飽和度(SpO2)を非侵襲的かつ連続的に測定する方法です。皮膚に装着するだけなので滅菌は不要で、拍動しない静脈血は測定できず、一酸化炭素ヘモグロビンを区別できないため一酸化炭素中毒では偽高値となり診断には使えません。過換気症候群ではSpO2は低下せず、麻酔中や集中治療、鎮静下の検査などで持続モニターとして広く用いられます。SpO2 90%がおおよそPaO2 60Torrに相当する一方、末梢循環不全などでは不正確になり、PaCO2(換気)は評価できない点も重要です。原理から特徴と限界を理解しておくことが、数値に振り回されない安全な患者管理につながります。
解答・解説
正解はeです
パルスオキシメトリは、指先や耳朶(耳たぶ)にプローブを装着し、皮膚の上から光を当てて動脈血の酸素飽和度を連続的に測定する方法である。この方法で得られる値をSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)とよび、動脈血ガス分析で実測するSaO2と区別する。 測定原理は二つの要素からなる。第一に、酸素と結合したヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)と結合していないヘモグロビン(還元ヘモグロビン)とでは、赤色光(約660nm)と赤外光(約940nm)の吸収の仕方が異なる。第二に、組織を透過する光のうち心拍に合わせて変動する成分(拍動成分)だけを取り出すことで、静脈血や皮膚・骨などの影響を除き、動脈血の情報のみを得る。2波長の吸光度の比から酸素飽和度を算出するこの原理は、日本人(青柳卓雄)が考案したものである。 本問では、この原理から導かれる特徴(非侵襲的で連続測定が可能、動脈血を対象とする、2波長のみでは異常ヘモグロビンを区別できない)と、臨床での使われ方を理解しているかが問われている。
選択肢考察
- ×a. 使用前に装置の滅菌が必要である。
誤り。プローブは指先や耳朶などの健常な皮膚に装着するだけで、体内に挿入したり粘膜・無菌組織に触れたりしない。したがって滅菌は不要であり、患者間で共用する場合は清拭・消毒などの通常の清浄化で足りる(使い捨てプローブもある)。
- ×b. 静脈血の酸素飽和度を計測できる。
誤り。パルスオキシメトリは、透過光のうち心拍に同期して変動する拍動成分を解析することで、動脈血の酸素飽和度を測定する。静脈血は拍動しないため、測定の対象外である。混合静脈血酸素飽和度(SvO2)を知るには、肺動脈カテーテルから採血するか、専用のカテーテルで測定する必要がある。
- ×c. 一酸化炭素中毒の診断に有用である。
誤り。一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)は赤色光の吸収が酸化ヘモグロビンとよく似ているため、2波長を用いる通常のパルスオキシメータでは両者を区別できず、CO-Hbを酸化ヘモグロビンとして数えてしまう。その結果、実際には酸素を運べるヘモグロビンが減って組織低酸素に陥っていても、SpO2は正常か高めに表示される。一酸化炭素中毒の診断には、動脈血ガス分析装置に付属するCOオキシメータでCO-Hb濃度を実測する必要がある(多波長型のパルスオキシメータで非侵襲的にCO-Hbを推定できる機種もある)。メトヘモグロビン血症でも同様に、通常のパルスオキシメトリは正確な値を示さない。
- ×d. 過換気症候群の患者で測定値が低下する。
誤り。過換気症候群では換気量が増え、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)が低下して呼吸性アルカローシスとなる。肺胞気酸素分圧はむしろ上昇するため、PaO2は正常〜上昇し、SpO2は低下しない(もともと100%近いため、正常範囲の高めの値をとる)。過換気症候群でSpO2が低下しないことは、呼吸困難を訴える患者において肺塞栓症など低酸素血症をきたす器質的疾患との鑑別の手がかりになる。ただし、パルスオキシメトリではPaCO2の低下は評価できない。
- ○e. 麻酔中の持続的モニターとして使用される。
正しい。パルスオキシメトリは非侵襲的で、採血を必要とせず、リアルタイムに連続して酸素化を監視できる。全身麻酔中は麻酔薬・鎮痛薬・筋弛緩薬による呼吸抑制、気道閉塞、気管チューブのトラブルなどで急に低酸素血症が起こりうるため、日本麻酔科学会の安全な麻酔のためのモニター指針でもパルスオキシメータの装着が求められている。麻酔中のほか、鎮静下の内視鏡検査、集中治療室での重症患者管理、救急外来、在宅酸素療法の管理、睡眠時無呼吸のスクリーニングなどにも広く用いられる。同時に脈拍数も表示される。
SpO2とPaO2の関係(酸素解離曲線)
ヘモグロビンの酸素解離曲線はS字状であり、おおよそPaO2 60Torr ≒ SpO2 90%、PaO2 40Torr ≒ SpO2 75%(混合静脈血に相当)の関係がある。PaO2 60Torr未満が呼吸不全の基準であるため、SpO2 90%未満は呼吸不全を疑う目安となる。一方、曲線の上部は平坦なので、PaO2が100Torrから70Torr程度に下がってもSpO2の低下はわずかであり、軽度の酸素化障害は見逃されやすい。また、曲線は体温上昇、アシドーシス、PaCO2上昇、2,3-DPG増加で右方移動する。
パルスオキシメトリの限界・誤差要因
・異常ヘモグロビン:CO-Hbでは偽高値、メトヘモグロビン血症では実際の値にかかわらず85%前後を示しやすい。 ・末梢循環不全(ショック、低体温、末梢血管収縮):拍動成分が弱く測定困難・不正確となる。 ・体動、マニキュアやジェルネイル、強い外光、著しい貧血なども誤差の原因となる。 ・換気(PaCO2)は評価できない:酸素投与中は高二酸化炭素血症が進行していてもSpO2は保たれうるため、CO2ナルコーシスの評価には血液ガス分析やカプノメータ(呼気終末CO2の測定)が必要である。
麻酔中の主なモニター
心電図、血圧、パルスオキシメータ、カプノメータ、体温計、必要に応じて筋弛緩モニターや脳波モニター(BIS)などを用いる。
POINT
・パルスオキシメトリは非侵襲的に動脈血酸素飽和度(SpO2)を連続測定する方法で、麻酔中・重症患者の持続モニターとして用いる。 ・プローブは皮膚に装着するだけなので滅菌は不要。 ・拍動成分を解析するため、測定対象は動脈血であり静脈血ではない。 ・CO中毒ではCO-Hbを区別できず偽高値となるため、診断には使えない(COオキシメータで測定)。 ・過換気症候群ではSpO2は低下しない。 ・SpO2 90% ≒ PaO2 60Torr。換気(PaCO2)は評価できない。
