StudyMed医師国家試験

側頭骨CTの「内耳道」を読む―中を通る神経、通らない枝

第110回医師国家試験 G問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第39問

右側頭骨CTの水平断像を別に示す。  矢印で示した範囲の内部を走行する神経はどれか。3つ選べ。

第110回 G問題 第39問の問題画像
  1. a.前庭神経
  2. b.顔面神経
  3. c.鼓索神経
  4. d.蝸牛神経
  5. e.大錐体神経

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は側頭骨CTの水平断で、矢印の管がどこなのかを同定し、その中を走る神経を選ぶ解剖の問題だ。ポイントは2つ。まず矢印の構造が何かを画像から読み取ること、次に顔面神経が「どこで枝を出すか」を正確に押さえていることだ。
医学生医学生
内耳のさらに内側から脳のほうへ伸びている管なので、内耳道でしょうか。
ドクタードクター
正解。水平断では外側から外耳道、鼓室と耳小骨、蝸牛や前庭・半規管といった内耳が並び、その内側に後頭蓋窩の小脳橋角部へ向かって開く骨の管がある。これが内耳道で、入口が内耳孔だね。では、内耳道を通る構造は何だったかな。
医学生医学生
解剖学の講義で、内耳孔には顔面神経と内耳神経が通ると習いました。
ドクタードクター
そう。顔面神経と、味覚や分泌の線維を含む中間神経、それに内耳神経、つまり蝸牛神経と前庭神経だ。血管では迷路動脈も一緒に通る。だから前庭神経、顔面神経、蝸牛神経の3つが正解になる。
医学生医学生
でも鼓索神経も顔面神経の一部ですよね。顔面神経の中に線維として含まれているなら、内耳道を通っていると言えないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。線維としては中間神経として内耳道を通っているけれど、「鼓索神経」という名前の枝として独立するのは、もっと末梢なんだ。顔面神経は内耳道底から顔面神経管に入り、迷路部、膝部、鼓室部、乳突部と走って茎乳突孔から出る。鼓索神経はその乳突部、茎乳突孔の少し上で分かれ、鼓室内でツチ骨とキヌタ骨の間を横切ってから舌神経に合流する。
医学生医学生
なるほど、枝として分かれる場所が内耳道より先なので、内耳道の中を走る神経には含めないんですね。大錐体神経も同じでしょうか。
ドクタードクター
その通り。大錐体神経は膝部の膝神経節から前方へ分かれる最初の枝で、中頭蓋窩へ出て深錐体神経と合流し翼突管神経になり、翼口蓋神経節を経て涙腺や鼻腺の分泌を担う。これも分岐は内耳道より末梢だね。
医学生医学生
内耳道の中での神経の並び方も覚えておく必要がありますか。
ドクタードクター
内耳道底では横稜と垂直稜で4区画に分かれていて、前上方が顔面神経、前下方が蝸牛神経、後上方が上前庭神経、後下方が下前庭神経だ。「7アップ、コーク・ダウン」と英語圏では覚えるらしい。前上に7番、前下に蝸牛というわけだ。
医学生医学生
面白い覚え方ですね。前庭神経は後ろ側に上下2本あると。
ドクタードクター
そう。そして臨床的に大事なのが、前庭神経鞘腫、いわゆる聴神経腫瘍だ。多くは前庭神経から発生して内耳道を拡大させながら小脳橋角部へ伸びる。画像では内耳道の拡大として捉えられることがあるよ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、一側性の感音難聴の患者さんにMRIを撮っていたのはそのためだったんですね。でも前庭神経の腫瘍なのに、めまいより難聴が目立つのが不思議でした。
ドクタードクター
ゆっくり大きくなるので前庭機能は中枢で代償されやすく、むしろ隣の蝸牛神経が圧迫されて一側性難聴や耳鳴で気づかれることが多いんだ。さらに大きくなれば同じ管を通る顔面神経も障害されうる。
医学生医学生
解剖がわかっていると、症状の組み合わせが説明できますね。顔面神経麻痺の部位診断も同じ考え方でしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。顔面神経管内の枝は中枢から順に大錐体神経、アブミ骨筋神経、鼓索神経。涙液分泌が低下していれば膝神経節より中枢、聴覚過敏やアブミ骨筋反射消失があればアブミ骨筋神経の分岐より中枢、味覚障害があれば鼓索神経の分岐より中枢、表情筋麻痺だけなら茎乳突孔付近より末梢と推定できる。Schirmer試験や味覚検査はこのためにあるんだ。
医学生医学生
枝の分岐順がそのまま障害部位の物差しになるんですね。CBTで丸暗記していた内容がつながりました。
ドクタードクター
それが解剖を学ぶ意義だね。頭蓋底の孔も整理しておこう。頸静脈孔は舌咽・迷走・副神経と内頸静脈、舌下神経管は舌下神経、茎乳突孔は顔面神経の運動枝本幹だ。画像の構造と通過する神経をセットで覚えると、腫瘍や外傷の症状を予測しやすくなるよ。

まとめ

側頭骨CTの水平断では外側から外耳道、鼓室、内耳(蝸牛・前庭・半規管)が並び、その内側に後頭蓋窩へ開く骨の管が内耳道です。内耳道を通るのは顔面神経(中間神経を含む)、内耳神経(蝸牛神経・前庭神経)、迷路動脈で、内耳道底では前上方に顔面神経、前下方に蝸牛神経、後方に上・下前庭神経が位置します。大錐体神経(膝部で分岐、涙腺分泌)やアブミ骨筋神経、鼓索神経(乳突部で分岐、舌前2/3の味覚)は内耳道より末梢の顔面神経管内で分かれるため、内耳道内を走る神経には含めません。この分岐順の知識は顔面神経麻痺の障害部位診断に直結し、内耳道の解剖は一側性難聴や顔面神経症状をきたす前庭神経鞘腫の理解にも欠かせません。

解答・解説

正解はa, b, dです

画像の読み取り

右側頭骨の水平断CTでは、側頭骨の錐体部(頭蓋底で内側前方に向かって斜めに伸びる硬い骨)の中に、外側から順に中耳(鼓室)、内耳(蝸牛・前庭・半規管)、そしてその内側に脳槽(後頭蓋窩)へ向かって開く管状の構造がみえる。矢印で示された範囲は、内耳の内側から後頭蓋窩の小脳橋角部に向かって走る管腔であり、内耳道(内耳孔から始まる骨の管)である。

内耳道を通る構造

内耳道の中を走るのは次のものである。 ・顔面神経(第VII脳神経):運動線維の本幹と、味覚・副交感線維を含む中間神経 ・内耳神経(第VIII脳神経):蝸牛神経と前庭神経(上前庭神経・下前庭神経) ・迷路動脈(内耳動脈)と静脈 内耳道の底部(内耳道底)では、横稜と垂直稜によって4つの区画に分けられ、前上方に顔面神経、前下方に蝸牛神経、後上方に上前庭神経、後下方に下前庭神経が位置する。

考え方

顔面神経は内耳道を出たあと側頭骨内の顔面神経管に入り、そこで複数の枝を出す。つまり顔面神経の枝(大錐体神経、アブミ骨筋神経、鼓索神経)は内耳道より末梢で分かれるため、内耳道の内部には含まれない。したがって、内耳道を走行する神経は前庭神経・顔面神経・蝸牛神経の3つである。

選択肢考察

  1. ○a.  前庭神経

    前庭神経は、前庭(卵形嚢・球形嚢)と三半規管から平衡感覚の情報を伝える感覚神経で、蝸牛神経とともに内耳神経(第VIII脳神経)を構成する。内耳道内では上前庭神経と下前庭神経に分かれて後方に位置し、内耳道底の前庭神経節(Scarpa神経節)を経て内耳道を内側へ進み、小脳橋角部で脳幹(橋と延髄の境界外側)に入る。内耳道を走行する神経であり正しい。前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)の多くはこの前庭神経から生じ、内耳道の拡大として画像で捉えられる。

  2. ○b.  顔面神経

    顔面神経(第VII脳神経)は、橋下縁の外側(小脳橋角部)から脳幹を出て、内耳神経と並んで内耳道に入り、その前上方を走行する。内耳道底から顔面神経管(Fallopio管)に入り、迷路部→膝部(膝神経節)→鼓室部→乳突部と走って茎乳突孔から頭蓋外へ出て、表情筋を支配する。味覚や涙腺・唾液腺の分泌を担う中間神経も、この時点では顔面神経に伴って内耳道を通る。内耳道を走行する神経であり正しい。

  3. ×c.  鼓索神経

    鼓索神経は、顔面神経が顔面神経管の乳突部(垂直部)を下行する途中、茎乳突孔の少し上で分かれる枝である。鼓室内を通り(ツチ骨とキヌタ骨の間を横切る)、錐体鼓室裂から頭蓋外へ出て舌神経(三叉神経第3枝の枝)に合流する。舌の前2/3の味覚を伝える線維と、顎下腺・舌下腺の分泌を促す副交感神経線維を含む。分岐部位が内耳道より末梢であるため、内耳道内は走行しない。

  4. ○d.  蝸牛神経

    蝸牛神経は、蝸牛のラセン器(Corti器)の有毛細胞からの聴覚情報を伝える感覚神経で、細胞体は蝸牛軸内のラセン神経節にある。前庭神経とともに内耳神経(第VIII脳神経)を構成し、内耳道内では前下方を走行して小脳橋角部から脳幹に入り、蝸牛神経核に達する。内耳道を走行する神経であり正しい。

  5. ×e.  大錐体神経

    大錐体神経は、顔面神経管内の膝部(膝神経節)から前方へ分かれる顔面神経の最初の枝で、涙腺や鼻腺・口蓋腺の分泌を担う副交感神経の節前線維を含む。側頭骨錐体の前面にある大錐体神経管裂孔から中頭蓋窩へ出て、破裂孔付近で交感神経線維からなる深錐体神経と合流して翼突管神経となり、翼口蓋神経節でニューロンを替えて涙腺などに分布する。分岐が内耳道より末梢であるため、内耳道内は走行しない。

顔面神経の走行と分枝

小脳橋角部 → 内耳道 → 顔面神経管(迷路部 → 膝部 → 鼓室部〈水平部〉 → 乳突部〈垂直部〉) → 茎乳突孔 → 耳下腺内で分枝し表情筋へ。 側頭骨内の主な枝(中枢から順に) (1) 大錐体神経(膝部):涙腺・鼻腺の分泌(副交感) (2) アブミ骨筋神経(乳突部上部):アブミ骨筋を支配し、大きな音に対してアブミ骨の動きを抑える(アブミ骨筋反射) (3) 鼓索神経(乳突部下部):舌前2/3の味覚、顎下腺・舌下腺の分泌(副交感)

顔面神経麻痺の障害部位診断

どの枝の機能が障害されているかを調べることで、障害部位を推定できる。 ・涙液分泌低下(Schirmer試験)あり → 膝神経節またはそれより中枢の障害 ・アブミ骨筋反射消失、聴覚過敏 → アブミ骨筋神経分岐部より中枢の障害 ・味覚障害、唾液分泌低下 → 鼓索神経分岐部より中枢の障害 ・表情筋麻痺のみ → 茎乳突孔付近より末梢の障害 内耳道内の病変(前庭神経鞘腫など)では、顔面神経と内耳神経が同時に障害されうるため、難聴・耳鳴・めまいに顔面神経麻痺を伴うことがある。

頭蓋底の孔と通過する主な構造

・内耳孔(内耳道):顔面神経、中間神経、内耳神経、迷路動脈 ・頸静脈孔:舌咽神経、迷走神経、副神経、内頸静脈 ・舌下神経管:舌下神経 ・茎乳突孔:顔面神経(運動枝の本幹)

側頭骨CTの位置関係

水平断では、外側から外耳道 → 鼓室(耳小骨) → 内耳(前方に蝸牛、後方に前庭と半規管) → 内耳道 → 後頭蓋窩の順に並ぶ。内耳道は蝸牛と前庭の内側に位置する。

POINT

・内耳道を通るのは、顔面神経(中間神経を含む)、内耳神経(蝸牛神経・前庭神経)、迷路動脈。 ・内耳道底では、前上方:顔面神経、前下方:蝸牛神経、後上方:上前庭神経、後下方:下前庭神経。 ・顔面神経の枝(大錐体神経、アブミ骨筋神経、鼓索神経)は内耳道より末梢の顔面神経管内で分岐するため、内耳道内を走らない。 ・大錐体神経は涙腺分泌、鼓索神経は舌前2/3の味覚と顎下腺・舌下腺分泌を担う。 ・前庭神経鞘腫は内耳道を拡大させ、難聴・めまいに加え顔面神経症状をきたすことがある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。