触れない臓器はどれ?―「小さい・深い・軟らかい」で解く頸部触診の基本
第118回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
正常の頸部診察で触知が困難な組織はどれか。
- a.顎下腺
- b.頸動脈
- c.副甲状腺
- d.輪状軟骨
- e.胸鎖乳突筋
対話形式の解説
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ドクターまとめ
頸部触診で正常に触れるかどうかは、組織の大きさ・深さ・硬さで決まります。胸鎖乳突筋は太い筋として、輪状軟骨は甲状軟骨直下の硬い隆起として、頸動脈は胸鎖乳突筋内側の拍動として、顎下腺は頸部前屈や双手診で下顎骨内側に触知できます。一方、副甲状腺は甲状腺背側にある米粒大の軟らかい小器官で正常では触れず、腺腫であっても触知できないことが多いため、局在診断には超音波検査やMIBIシンチグラフィが用いられ、異所性副甲状腺にも注意が必要です。ランドマークを押さえて系統的に触れる手順を身につけることは、甲状腺疾患やリンパ節腫脹の評価など、日常診療の頸部診察の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
頸部の触診では、まず体表から確認できる骨・軟骨・筋・血管を目印(ランドマーク)として位置関係を把握し、そのうえで甲状腺、唾液腺、リンパ節などの臓器を系統的に触れていく。正常な状態で触知できるかどうかは、その組織の大きさ・硬さ・深さで決まる。 選択肢のうち、胸鎖乳突筋は頸部を斜めに走る太い筋、輪状軟骨は気道の前面を囲む硬い軟骨、頸動脈は拍動を伴う太い血管、顎下腺は下顎骨の内側にある一定の大きさをもつ唾液腺であり、いずれも正常人でも触れることができる。これに対し副甲状腺は甲状腺の背側に隠れる米粒ほどの小器官で、甲状腺の後ろにあるうえ周囲組織と硬さもほとんど変わらないため、正常では触知できない。 「小さい」「深い」「軟らかい」組織は触れにくい、という観点から考えると正解に至る。
選択肢考察
- ×a. 顎下腺
誤り。顎下腺は下顎骨体の内側、顎下三角に位置する唾液腺で、正常でも数cm程度の大きさがある。患者に頸部を軽く前屈させて周囲の筋・皮膚を緩めると、下顎骨の内側深部に軟らかい腫瘤状の組織として触れることができる。口腔内に入れた指と顎下部に当てた指で挟み込む双手診を行うと、より確実に評価できる。唾石症や顎下腺炎、腫瘍では腫大・圧痛・硬結として触れる。
- ×b. 頸動脈
誤り。総頸動脈は胸鎖乳突筋の前縁から内側深部にかけて走行し、甲状軟骨上縁の高さ付近で内頸動脈と外頸動脈に分かれる。この付近で胸鎖乳突筋の内側を軽く押すと、正常人でも拍動を触知できる。脈拍の確認(特に心肺停止の判断)に用いられる部位である。ただし頸動脈洞を強く圧迫すると迷走神経反射で徐脈・血圧低下を来しうるため、片側ずつ愛護的に触れる。
- ○c. 副甲状腺
正しい。副甲状腺(上皮小体)は通常、甲状腺の左右両葉の背側に上下1対ずつ計4個存在し、1個あたり長径5 mm前後、重さ数十mg程度の米粒大の小器官である。甲状腺の裏側という深い位置にあり、さらに小さく軟らかいため、正常では頸部の触診で触知することはできない。原発性副甲状腺機能亢進症の原因となる腺腫でも触知できないことが多く、局在診断は超音波検査やMIBIシンチグラフィ(99mTc-MIBIを用いた核医学検査)などの画像検査で行う。
- ×d. 輪状軟骨
誤り。輪状軟骨は喉頭の最下部にある全周性のリング状軟骨で、甲状軟骨(喉頭隆起、いわゆる「のどぼとけ」)のすぐ下に硬い隆起として触れる。甲状軟骨との間のくぼみが輪状甲状膜(靱帯)であり、緊急の気道確保(輪状甲状膜穿刺・切開)の部位となる。輪状軟骨の直下に甲状腺峡部が位置するため、甲状腺を触診する際の重要な目印にもなる。
- ×e. 胸鎖乳突筋
誤り。胸鎖乳突筋は胸骨柄と鎖骨内側から起こり、乳様突起に停止する太い筋で、頸部の体表から容易に視認・触知できる。顔を反対側へ向けると収縮して浮き上がり、よりはっきり触れる。頸部を前頸三角と後頸三角に分ける境界となり、頸部リンパ節の位置を表現する際の基準としても用いられる。
頸部触診の手順の例
患者を座位とし、検者は前方または後方から指腹を用いて左右を比較しながら触れる。顎下部・オトガイ下部 → 耳前・耳後部 → 胸鎖乳突筋に沿った上・中・下内深頸部 → 後頸三角 → 鎖骨上窩の順にリンパ節を確認し、併せて唾液腺や甲状腺を評価する。リンパ節は大きさ、硬さ、可動性、圧痛、癒着の有無を記載する。
甲状腺の触診
甲状軟骨・輪状軟骨を目印に、その下方の甲状腺峡部と左右葉を触れる。嚥下させると甲状腺は喉頭とともに上下に動くため、他の腫瘤との区別に役立つ。正常甲状腺は軟らかく触れにくいことも多いが、腫大(甲状腺腫)や結節があれば触知できる。
副甲状腺の概要
副甲状腺は第3・第4咽頭嚢から発生し、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌して血中カルシウム濃度を上昇させる。発生過程の移動により縦隔や胸腺内などに異所性に存在することもあり、手術前の局在診断が重要となる。原発性副甲状腺機能亢進症の大部分は単発の腺腫であり、まれな副甲状腺癌では触知可能な頸部腫瘤を伴うことがある。
POINT
・正常の副甲状腺は甲状腺背側の米粒大の小器官で、触診では触れない。局在は超音波やMIBIシンチグラフィで評価する。 ・頸部触診の目印:胸鎖乳突筋(前頸三角と後頸三角の境界)、甲状軟骨・輪状軟骨(甲状腺触診の目安、輪状甲状膜は緊急気道確保部位)。 ・顎下腺は頸部前屈や双手診で、頸動脈は胸鎖乳突筋内側で拍動として触れる。
