収縮の「あと」に沈む心拍―胎児心拍数陣痛図で遅発一過性徐脈を読み解く
第110回医師国家試験 G問題 第38問
国試問題にチャレンジ
妊娠37週の胎児心拍数陣痛図を別に示す。 認められる所見はどれか。2つ選べ。

- a.一過性頻脈
- b.心拍数基線正常
- c.変動一過性徐脈
- d.遅発一過性徐脈
- e.遷延一過性徐脈
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児心拍数陣痛図は、心拍数基線、基線細変動、一過性変動、子宮収縮との関係の順に判読します。心拍数基線の正常範囲は110〜160bpmで、本図は正常範囲内ですが、子宮収縮のたびに心拍数がゆるやかに下降し、その最下点が収縮の頂点より遅れて現れることから遅発一過性徐脈と判断できます。最下点が頂点と一致する早発一過性徐脈は児頭圧迫による良性の所見、急峻なV字型の変動一過性徐脈は臍帯圧迫、2分以上続く遷延一過性徐脈は過強陣痛や常位胎盤早期剥離などを示唆するため、下降の速さ・タイミング・持続時間で区別します。遅発一過性徐脈は子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を反映し、基線細変動とあわせて評価したうえで、体位変換や酸素投与、子宮収縮薬の減量・中止、必要に応じて急速遂娩を検討します。系統立てた判読手順を身につけることは、分娩中の胎児の危険を早期に察知する力の土台になります。
解答・解説
正解はb, dです
胎児心拍数陣痛図の読み方
胎児心拍数陣痛図(CTG:cardiotocogram)は、上段に胎児心拍数、下段に子宮収縮(陣痛)を同じ時間軸で記録したものである。判読は次の順に行うのが基本である。 (1) 心拍数基線:一過性変動を除いた、10分間でおおよそ一定とみなせる心拍数(5の倍数で表す)。正常は110〜160bpm(拍/分)。 (2) 基線細変動:基線の細かな揺れの幅。6〜25bpmが正常(中等度)。 (3) 一過性変動:一過性頻脈の有無、一過性徐脈の有無と種類(早発・遅発・変動・遷延)。 (4) 一過性徐脈がある場合、子宮収縮との時間的関係・形・持続時間を確認する。
本図の所見
・上段の心拍数は、140〜160bpmの目盛りの間、おおよそ145〜150bpm前後で推移しており、心拍数基線は正常範囲内である。 ・下段には子宮収縮の山が2回記録されている。上段では、それぞれの収縮に対応して心拍数がゆるやかに低下し、ゆるやかに基線へ戻る、なだらかなU字型の下降が2回みられる。 ・その下降の始まりは収縮の開始よりも遅く、最も低くなる点(最下点)は収縮の頂点よりも後ろにずれている。回復も収縮の終了より遅れている。これは遅発一過性徐脈の特徴である。 ・基線から15bpm以上、15秒以上持続する上向きの山(一過性頻脈)は認めない。 ・急峻に落ちてV字やW字を描く下降(変動一過性徐脈)や、2分以上続く低下(遷延一過性徐脈)も認めない。 したがって、認められる所見は「心拍数基線正常」と「遅発一過性徐脈」である。
臨床的な意味
遅発一過性徐脈は、子宮収縮によって子宮胎盤の血流が一時的に減り、胎児が低酸素状態になることを反映する所見で、胎盤機能不全や子宮胎盤循環の低下を示唆する。基線が正常であっても、遅発一過性徐脈が反復する場合は胎児の状態が悪化している可能性があり、基線細変動の程度と合わせて評価し、母体体位変換・酸素投与・子宮収縮薬の減量や中止などの保存的処置、さらに急速遂娩(帝王切開など)の準備を検討する。
選択肢考察
- ×a. 一過性頻脈
一過性頻脈は、心拍数が急速に(開始から頂点まで30秒未満で)基線から15bpm以上増加し、その状態が15秒以上2分未満続いて基線へ戻る上向きの変化である(妊娠32週未満では10bpm以上・10秒以上を基準とする)。胎動に伴って生じることが多く、胎児の自律神経系が正常に働いていること、すなわち胎児の状態が良好であること(reassuring)を示す。本図では基線から上に突出する山はみられず、一過性頻脈は認められない。
- ○b. 心拍数基線正常
胎児心拍数基線の正常範囲は110〜160bpmである。本図では、一過性の下降部分を除いた心拍数はおおよそ145〜150bpm前後で安定しており、正常範囲に収まっている。したがって心拍数基線は正常と判断される。なお、110bpm未満は徐脈、160bpmを超える場合は頻脈とされ、頻脈は母体発熱・子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)・胎児低酸素症の初期などで、徐脈は高度の低酸素状態や胎児の房室ブロックなどでみられる。
- ×c. 変動一過性徐脈
変動一過性徐脈は、心拍数が急速に(開始から最下点まで30秒未満で)15bpm以上低下し、開始から基線に戻るまでが15秒以上2分未満のものである。主に臍帯の圧迫によって生じ、波形はV字・W字型で鋭く、子宮収縮との時間的関係も一定しないことが多い。本図の心拍数低下は、30秒以上かけてゆるやかに下がり、毎回子宮収縮から一定の遅れをもって出現しているため、変動一過性徐脈には当たらない。
- ○d. 遅発一過性徐脈
遅発一過性徐脈は、子宮収縮に伴って心拍数がゆるやかに(開始から最下点まで30秒以上かけて)低下し、ゆるやかに回復するもので、下降の開始・最下点・回復のいずれもが子宮収縮の開始・頂点・終了より遅れて出現する。本図では2回の子宮収縮それぞれに対し、収縮の頂点より遅れて最下点を迎えるなだらかなU字型の心拍数低下が2回みられ、遅発一過性徐脈に合致する。子宮収縮時に子宮胎盤血流が減少し、胎盤での酸素の受け渡しの予備能が乏しい胎児が低酸素状態に陥ることで生じる。胎盤機能不全(妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、過期妊娠など)、過強陣痛、母体の低血圧などが原因となる。
- ×e. 遷延一過性徐脈
遷延一過性徐脈は、心拍数が基線から15bpm以上低下し、開始から回復までの時間が2分以上10分未満のものをいう(10分以上続く場合は基線の変化、すなわち徐脈とみなす)。原因として母体の仰臥位低血圧、過強陣痛、臍帯脱出、常位胎盤早期剥離などがあり、繰り返す場合や回復しない場合は急速遂娩を考慮する。本図の各心拍数低下は横軸の目盛り(1分)からみて2分には達せずに基線へ戻っており、遷延一過性徐脈は認められない。
一過性徐脈の4分類(日本産科婦人科学会の定義に基づく)
・早発一過性徐脈:子宮収縮に伴うゆるやかな低下で、最下点が収縮の頂点とほぼ一致する。分娩第1期後半〜第2期に児頭が圧迫され、迷走神経反射が起こることで生じる。胎児の低酸素を意味せず、臨床的にはほぼ問題とならない。 ・遅発一過性徐脈:ゆるやかな低下で、最下点が収縮の頂点より遅れる。子宮胎盤循環不全による胎児低酸素を示す。 ・変動一過性徐脈:急速な(30秒未満)15bpm以上の低下で、持続は15秒以上2分未満。臍帯圧迫による。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の低下が2分以上10分未満続く。 「ゆるやか」と「急速」は、心拍数の下降開始から最下点までが30秒以上か未満かで区別する。
基線細変動の分類
・消失:肉眼的に認めない ・減少:5bpm以下 ・中等度(正常):6〜25bpm ・増加:26bpm以上 細変動の消失を伴う遅発一過性徐脈や高度変動一過性徐脈は、胎児が強い低酸素・アシドーシスに陥っている危険性が高い所見である。
胎児の状態が良好であることを示す所見(reassuring)
心拍数基線が正常、基線細変動が正常、一過性頻脈がある、一過性徐脈がない、の4つがそろえば胎児は健康であると判断できる。
波形レベル分類と対応
日本産科婦人科学会のガイドラインでは、基線・細変動・一過性徐脈の組み合わせで胎児心拍数波形をレベル1(正常波形)〜レベル5(異常波形・高度)に分類し、レベルに応じて経過観察、監視の強化、保存的処置(体位変換、酸素投与、輸液、子宮収縮薬の減量・中止など)、急速遂娩の準備・実行を選択する。遅発一過性徐脈は軽度でもレベル3以上に分類され、注意深い対応が必要となる。
POINT
・胎児心拍数基線の正常は110〜160bpm、基線細変動の正常は6〜25bpm。 ・一過性頻脈:基線から15bpm以上・15秒以上の上昇で、胎児の状態良好を示す。 ・早発一過性徐脈:最下点が子宮収縮の頂点と一致。児頭圧迫による迷走神経反射で、病的意義は乏しい。 ・遅発一過性徐脈:最下点が子宮収縮の頂点より遅れる。子宮胎盤循環不全・胎児低酸素を示す。 ・変動一過性徐脈:急速な低下で収縮との関係は一定しない。臍帯圧迫による。 ・遷延一過性徐脈:15bpm以上の低下が2分以上10分未満続く。
