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上顎洞はなぜ溜まりやすい?―中鼻道に集まる副鼻腔の出口

第117回医師国家試験 C問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第23問

上顎洞が開口するのはどこか。

  1. a.嗅裂
  2. b.上鼻道
  3. c.中鼻道
  4. d.下鼻道
  5. e.上咽頭

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は鼻腔の解剖、副鼻腔がどこに開口しているかを問う問題だ。ポイントは、鼻甲介と鼻道の位置関係を立体的にイメージすること、そして「何がどこに開くか」をセットで整理すること。まず鼻腔の外側壁の構造から確認しよう。
医学生医学生
外側壁から上・中・下の3枚の鼻甲介が出ていて、それぞれの下が上鼻道・中鼻道・下鼻道でしたよね。解剖実習で頭部を半切したときに見ました。
ドクタードクター
その通り。鼻甲介の下にできる通路がそれぞれの鼻道で、鼻甲介と鼻中隔の間を総鼻道という。総鼻道の上のほう、中鼻甲介より上の狭い隙間が嗅裂だ。では、副鼻腔の4種類は言えるかな。
医学生医学生
上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞です。上顎洞は一番大きいので、一番下の下鼻道に開いているイメージがあるんですが……。
ドクタードクター
そこが典型的な落とし穴だね。上顎洞は大きくて鼻腔の下半分の外側にあるけれど、その自然口は洞の内側壁の上方にあって、中鼻道の半月裂孔のあたりに開いている。だから正解は中鼻道だ。
医学生医学生
下鼻道には何が開いているんですか。
ドクタードクター
下鼻道には鼻涙管が開口して、涙が鼻腔へ流れ込む。泣くと鼻水が出るのはそのためだね。副鼻腔は開口しない。ただ、下鼻道の側壁は上顎洞の内側壁と接していて骨が薄いから、昔は下鼻道から上顎洞を穿刺して洗浄したり、対孔を作ったりしていた。これは人工的な通り道で、自然口ではないから混同しないように。
医学生医学生
なるほど、それで下鼻道と上顎洞が結びついて記憶されていたのかもしれません。中鼻道にはほかにも開いていますよね。
ドクタードクター
中鼻道には上顎洞のほか、前頭洞と前部篩骨洞も開口する。これらをまとめて前部副鼻腔という。一方、上鼻道には後部篩骨洞が開き、上鼻甲介の後上方にある蝶篩陥凹には蝶形骨洞が開く。この2つが後部副鼻腔だ。
医学生医学生
上鼻道に蝶形骨洞も開くと覚えていましたが、正確には蝶篩陥凹なんですね。後部副鼻腔の炎症だと何か特徴がありますか。
ドクタードクター
後部副鼻腔からの分泌物は後鼻孔から上咽頭へ流れやすいから、のどに鼻汁が垂れる後鼻漏の原因になる。前部副鼻腔の炎症では中鼻道に膿性の鼻汁がみられることが多く、鼻内視鏡でどこから膿が出ているかを見ることは診断の手がかりになるよ。
医学生医学生
残りの嗅裂と上咽頭には何があるんでしたっけ。
ドクタードクター
嗅裂の天井付近には嗅上皮が分布していて、においを感じる場所だ。鼻ポリープや粘膜の腫れで嗅裂がふさがると、におい分子が届かずに呼吸性の嗅覚障害が起こる。上咽頭の側壁には耳管咽頭口が開いて中耳とつながり、後上壁には咽頭扁桃、いわゆるアデノイドがある。どちらにも上顎洞は開口しない。
医学生医学生
開口部の位置が分かると、上顎洞炎が起こりやすい理由も見えてきそうです。出口が上にあるなら、液体は重力では出ていきにくいですよね。
ドクタードクター
鋭いね。上顎洞の自然口は洞の上方にあるから、立っていても座っていても重力による排泄には不利で、粘液線毛輸送に頼って排泄されている。だから中鼻道周辺の粘膜が腫れて自然口がふさがると、貯留液が溜まりやすく副鼻腔炎の原因になるんだ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の臨床実習で、内視鏡下副鼻腔手術を見学しました。中鼻道のあたりを広げていた気がします。
ドクタードクター
それがまさにポイントだ。中鼻道の前部には上顎洞自然口、篩骨漏斗、半月裂孔、前頭陥凹など前部副鼻腔の排泄路が集まっていて、ostiomeatal complex(OMC)と呼ばれる。ここが狭くなると複数の副鼻腔の換気と排泄が同時に障害されるので、慢性副鼻腔炎の病態の中心と考えられている。内視鏡下副鼻腔手術はこのOMCを開放して、換気と排泄を取り戻すことを主な目的にしているんだ。
医学生医学生
周りの構造との関係も試験に出そうです。
ドクタードクター
押さえておきたいのは3つ。上顎洞の底は上顎臼歯の歯根に近いので歯性上顎洞炎が起こりうること、上顎洞の上壁は眼窩底なので吹き抜け骨折では眼窩内容が上顎洞へ落ち込むこと。そして篩骨洞は薄い紙様板を隔てて眼窩と接していて、炎症が眼窩蜂窩織炎へ波及しうること。蝶形骨洞の周囲には視神経管、海綿静脈洞、内頸動脈、下垂体があり、経鼻的下垂体手術の通り道にもなる。開口部だけでなく、隣に何があるかまでイメージできると臨床で役立つよ。

まとめ

上顎洞は副鼻腔のなかで最大ですが、その自然口は洞の内側壁の上方にあり、中鼻道の半月裂孔付近に開口します。中鼻道には上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞(前部副鼻腔)が開き、上鼻道には後部篩骨洞、蝶篩陥凹には蝶形骨洞(後部副鼻腔)、下鼻道には鼻涙管、上咽頭には耳管咽頭口が開口します。上顎洞の自然口は排泄に不利な上方にあり、前部副鼻腔の排泄路が集まる中鼻道のostiomeatal complexの閉塞が副鼻腔炎の要因となるため、内視鏡下副鼻腔手術はこの部位の開放を目的とします。歯性上顎洞炎、吹き抜け骨折、眼窩蜂窩織炎など周辺臓器との関係も合わせて理解すると、解剖の知識をそのまま臨床に結びつけられます。

解答・解説

正解はcです

テーマ

鼻腔と副鼻腔・周辺器官との交通(どこに何が開口するか)を問う解剖学の問題である。

鼻腔の構造

鼻腔の外側壁からは上・中・下の3枚の鼻甲介が内側(鼻中隔側)へ張り出しており、それぞれの鼻甲介の下にできる通路を上鼻道・中鼻道・下鼻道と呼ぶ。鼻甲介と鼻中隔の間の空間は総鼻道といい、その上部で中鼻甲介より上方の狭い部分が嗅裂である。

副鼻腔の開口部の整理

副鼻腔は上顎洞・篩骨洞・前頭洞・蝶形骨洞の4種類で、開口部位により前部副鼻腔と後部副鼻腔に分けられる。 ・中鼻道:上顎洞、前頭洞、前部篩骨洞(前部・中部篩骨蜂巣)=前部副鼻腔 ・上鼻道:後部篩骨洞(後部篩骨蜂巣) ・蝶篩陥凹(上鼻甲介の後上方):蝶形骨洞 ・下鼻道:鼻涙管(副鼻腔ではない) したがって、上顎洞が開口するのは中鼻道である。

選択肢考察

  1. ×a.  嗅裂

    誤り。嗅裂は中鼻甲介より上方で、鼻中隔と鼻腔外側壁(上・中鼻甲介)に挟まれた狭い隙間であり、その天井から上部にかけて嗅覚を担う嗅上皮(嗅粘膜)が分布する。上顎洞の開口部はない。においの分子がここまで届かなくなると呼吸性の嗅覚障害が起こるため、嗅裂の閉塞(鼻ポリープ、粘膜腫脹など)は嗅覚障害の原因として重要である。なお、後部副鼻腔の炎症では分泌物が嗅裂や後鼻孔方向へ流れることがある。

  2. ×b.  上鼻道

    誤り。上鼻道には後部篩骨洞(後部篩骨蜂巣)が開口する。上鼻甲介の後上方の蝶篩陥凹には蝶形骨洞が開口する。これら後部副鼻腔からの分泌物は後鼻孔から上咽頭へ流れやすく、後鼻漏の原因となる。

  3. ○c.  中鼻道

    正しい。上顎洞の自然口は中鼻道の半月裂孔(篩骨漏斗に通じる裂隙)付近に開口する。中鼻道には上顎洞のほか、前頭洞(前頭鼻管を経て)と前部篩骨洞も開口しており、これらを前部副鼻腔という。上顎洞の自然口は洞の内側壁の上方に位置するため、立位や座位では重力による排泄が不利であり、粘液線毛輸送に依存して排泄される。そのため中鼻道周辺の粘膜腫脹で自然口が閉塞すると、上顎洞に貯留液がたまりやすく副鼻腔炎の原因となる。

  4. ×d.  下鼻道

    誤り。下鼻道には鼻涙管が開口し、涙液が鼻腔へ排出される(泣くと鼻水が出るのはこのため)。副鼻腔は開口しない。なお、下鼻道側壁は上顎洞内側壁と接して骨が薄いため、かつて上顎洞の穿刺洗浄や対孔形成を下鼻道経由で行ったが、これは人工的な交通路であり、上顎洞の自然口ではない。

  5. ×e.  上咽頭

    誤り。上咽頭(鼻咽腔)の側壁には耳管咽頭口が開口し、中耳腔と交通する。後上壁には咽頭扁桃(アデノイド)がある。副鼻腔は上咽頭へ直接開口しない。

ostiomeatal complex〈OMC〉

中鼻道の前部には、上顎洞自然口・篩骨漏斗・半月裂孔・前部篩骨蜂巣・前頭陥凹など、前部副鼻腔の排泄路が集まっている。この領域をostiomeatal complex(OMC)と呼ぶ。OMCが粘膜腫脹や解剖学的変異(鼻中隔弯曲、中鼻甲介の蜂巣形成など)で狭くなると複数の副鼻腔の換気・排泄が同時に障害されるため、慢性副鼻腔炎の病態の中心と考えられている。内視鏡下副鼻腔手術〈ESS〉は、このOMCを開放して換気と排泄を回復させることを主目的とする。

副鼻腔の発育

上顎洞と篩骨洞は出生時から存在し、前頭洞と蝶形骨洞は生後に発育する。上顎洞は副鼻腔で最大であり、その底部は上顎の臼歯の歯根と近接しているため、歯性上顎洞炎の原因となる。

周辺構造との関係

・上顎洞の上壁は眼窩底であり、眼窩底骨折(吹き抜け骨折)では眼窩内容が上顎洞へ脱出する。 ・篩骨洞は紙様板を隔てて眼窩と接し、篩骨洞炎は眼窩蜂窩織炎に波及しうる。 ・蝶形骨洞の周囲には視神経管、海綿静脈洞、内頸動脈、下垂体が位置し、経鼻的下垂体手術の経路となる。

POINT

・中鼻道:上顎洞、前頭洞、前部篩骨洞(前部副鼻腔)。 ・上鼻道:後部篩骨洞。蝶篩陥凹:蝶形骨洞(後部副鼻腔)。 ・下鼻道:鼻涙管。 ・上咽頭:耳管咽頭口。 ・嗅裂:嗅上皮が分布。閉塞で呼吸性嗅覚障害。 ・上顎洞自然口は洞の上方にあり排泄に不利で、OMCの閉塞が副鼻腔炎の要因となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。