「最後の切り札」を守れ―カルバペネムはなぜ院内で管理されるのか
第110回医師国家試験 G問題 第31問
国試問題にチャレンジ
適正使用のため感染対策部門が院内の使用を管理すべき抗菌薬はどれか。
- a.セフェム系
- b.ペニシリン系
- c.カルバペネム系
- d.マクロライド系
- e.アミノグリコシド系
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
抗菌薬は使用するほど耐性菌が選択されるため、病院では感染対策部門(ICT・AST)が特定の抗菌薬を届出制・許可制などで管理する抗菌薬適正使用支援を行っています。その代表がカルバペネム系と抗MRSA薬で、カルバペネム系は極めて広域なスペクトラムを持つ重症感染症の切り札である一方、乱用するとCRE、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターの出現・拡大を招きます。セフェム系やペニシリン系は系統として管理対象ではありませんが、第四世代セフェムやタゾバクタム・ピペラシリンなどの広域薬は施設によりモニタリング対象となります。アミノグリコシド系のTDMは副作用防止のための管理であり、耐性菌対策の使用制限とは目的が異なります。培養結果に基づくデ・エスカレーションや投与期間の適正化を意識することは、研修医として抗菌薬を処方するうえでの基本姿勢になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、病院内で抗菌薬を適正に使用するための体制(抗菌薬適正使用支援、antimicrobial stewardship:AS)について問う一般問題である。
背景
抗菌薬は使えば使うほど、それに耐性をもつ細菌が選択されて増える。とくに多くの菌種に効く広域スペクトラムの抗菌薬を漫然と使用すると、院内で多剤耐性菌が出現・拡大し、治療手段が失われてしまう。このため、病院の感染対策部門(感染制御チーム:ICT、抗菌薬適正使用支援チーム:AST など)は、特定の抗菌薬について使用を届出制や許可制とし、使用状況をモニタリングし、主治医に用法・用量・期間・変更(デ・エスカレーション)について助言する。
どの抗菌薬が管理対象になるか
管理の中心となるのは、(1)スペクトラムが極めて広く、他に選択肢がない重症感染症の「切り札」となる薬剤、(2)耐性化した場合の影響が大きい薬剤である。代表がカルバペネム系抗菌薬と抗MRSA薬(バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、ダプトマイシンなど)である。カルバペネム系の乱用は、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)の選択・拡大につながるため、最優先で管理すべき薬剤とされる。 したがって、選択肢の中ではカルバペネム系が正解となる。
選択肢考察
- ×a. セフェム系
誤り。セフェム系はβ-ラクタム系抗菌薬の一群で、第一世代から第四世代まで幅広い薬剤を含み、日常診療で最も多く使われる抗菌薬の一つである。系統全体を感染対策部門が管理対象とするのは一般的ではない。ただし、第三・第四世代セフェム(セフタジジム、セフェピムなど)のように緑膿菌まで含む広域な薬剤は、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌の選択などに関与するため、施設によっては届出・モニタリングの対象に加えることがある。設問で問われている代表的な「管理すべき抗菌薬」としてはカルバペネム系に及ばない。
- ×b. ペニシリン系
誤り。ペニシリン系は、ペニシリンGやアンピシリンなど比較的スペクトラムの狭い薬剤を多く含み、適切な場面では第一選択となる基本的な抗菌薬であり、系統として使用を管理する対象とはされない。ただし、β-ラクタマーゼ阻害薬配合のタゾバクタム・ピペラシリンは緑膿菌を含む広いスペクトラムをもち、カルバペネムの代替として多用されやすいため、施設によっては広域抗菌薬として使用状況のモニタリング対象に含めることがある。
- ○c. カルバペネム系
正しい。カルバペネム系(メロペネム、イミペネム・シラスタチン、ドリペネムなど)は、グラム陽性菌・グラム陰性菌・嫌気性菌にまで及ぶ極めて広いスペクトラムをもち、ESBL産生菌などの耐性菌による重症感染症に対する最後の砦とされる薬剤である。安易に使用するとカルバペネムに耐性を示す菌(CRE、MDRP、MDRAなど)が選択され、院内で拡大するおそれがある。とくにカルバペネマーゼを産生するCREはほとんどのβ-ラクタム系が無効となり、治療選択肢が極めて限られる。そのため感染対策部門は、カルバペネム系を抗MRSA薬とともに届出制・許可制などで管理し、適応の妥当性、投与期間、培養結果に応じた狭域抗菌薬への変更などを主治医と協議する。
- ×d. マクロライド系
誤り。マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は、マイコプラズマやクラミジア、レジオネラなどの非定型病原体に有効な抗菌薬である。肺炎球菌やマイコプラズマでの耐性化は臨床上の問題となっているが、主に外来診療での過剰使用によるものであり、院内での多剤耐性菌の選択・拡大の主な原因とはいえない。外来での不適切な使用(ウイルス性の上気道炎への投与など)を減らすことは重要だが、院内の感染対策部門が使用を管理する代表的な薬剤ではない。
- ×e. アミノグリコシド系
誤り。アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシンなど)は、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に強い殺菌作用を示すが、腎毒性や聴器毒性(第8脳神経障害)があるため、血中濃度を測定して投与量を調整する治療薬物モニタリング(TDM)が重要な薬剤である。TDMは薬剤部などが支援するが、それは副作用防止と有効性確保のための管理であり、院内での耐性菌の拡大防止を目的として使用そのものを制限する代表的な対象ではない。
抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship)
・目的:感染症患者の治療効果を高め、副作用を減らし、耐性菌の出現・拡大を防ぐこと。 ・主な手段:特定抗菌薬の届出制・許可制、使用量・使用日数のモニタリング、培養・感受性結果に基づく狭域薬への変更(デ・エスカレーション)の推奨、投与期間の適正化、TDMの実施支援、抗菌薬使用のガイドライン作成と教育など。 ・担い手:感染症専門医、感染管理認定看護師、感染制御専門薬剤師、臨床検査技師などからなる多職種チーム(ICT・AST)。 ・日本では2016年に薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが策定され、診療報酬上も抗菌薬適正使用支援チームの活動が評価されるようになった。
管理対象となる代表的な抗菌薬(特定抗菌薬)
・カルバペネム系 ・抗MRSA薬(バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド、ダプトマイシンなど) ・施設によっては、タゾバクタム・ピペラシリン、第四世代セフェム、キノロン系注射薬などの広域抗菌薬を加える。
カルバペネム耐性に関わる主な耐性菌
・カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症:感染症法の5類感染症(全数把握)。 ・多剤耐性緑膿菌(MDRP):カルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系の3系統に耐性。 ・多剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症:5類感染症(全数把握)。
POINT
・院内で耐性菌の選択・拡大を防ぐため、広域抗菌薬の使用は感染対策部門が管理する(抗菌薬適正使用支援)。 ・管理対象の代表はカルバペネム系と抗MRSA薬で、届出制・許可制などがとられる。 ・カルバペネムの乱用はCRE、MDRP、MDRAなどの出現につながる。 ・アミノグリコシド系やバンコマイシンはTDMが重要な薬剤である。
