StudyMed医師国家試験

「健康で文化的な最低限度の生活」―憲法25条は医療と公衆衛生の出発点

第110回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第110回 F問題 第12問

生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務に関する日本国憲法第25条に規定されているのはどれか。

  1. a.「すべて国民は,個人として尊重される」
  2. b.「何人も,いかなる奴隷的拘束も受けない」
  3. c.「すべて国民は,勤労の権利を有し,義務を負ふ」
  4. d.「国民は,すべての基本的人権の享有を妨げられない」
  5. e.「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は日本国憲法の条文を見分ける問題だ。公衆衛生の勉強で最初に出てくる条文だけど、似た言い回しの条文が並ぶと意外と迷う。カギは「生存権」という言葉と、それを支える国の義務がどう書かれているかだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義の初回で「すべての制度の根っこは憲法25条」と言われた記憶があります。でも条文の文言までは自信がありません。
ドクタードクター
じゃあまず中身から確認しよう。25条は2項からなっていて、第1項が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。これが生存権だ。第2項が「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」。権利と、それを実現する国の努力義務がセットになっているんだ。
医学生医学生
ということは「健康で文化的な最低限度の生活」と書かれた文言が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。他の文言もすべて憲法の条文なんだけど、どれも別の条文だ。「すべて国民は、個人として尊重される」はどうかな。
医学生医学生
なんとなく25条っぽい響きもありますが、「個人」なので幸福追求権の13条でしょうか。
ドクタードクター
正解。13条は個人の尊重に続けて、生命・自由・幸福追求の権利を定めている。憲法に明記されていないプライバシー権や自己決定権の根拠とされ、医療ではインフォームド・コンセントや患者の自己決定を支える考え方につながる。医療倫理の講義とも結びつく条文だね。
医学生医学生
「奴隷的拘束を受けない」は、明らかに生存権とは雰囲気が違いますね。
ドクタードクター
そう、18条で身体の自由、つまり自由権の規定だ。自由権は国家から干渉されない権利、社会権は人間らしい生活を国家に求める権利、という対比で整理するといい。
医学生医学生
「勤労の権利を有し、義務を負ふ」は社会権ですよね。生存権と同じ仲間なので紛らわしいです。
ドクタードクター
いい指摘だ。27条の勤労の権利も社会権の一つで、第2項が勤労条件の基準を法律で定めるとしていて、労働基準法などの根拠になっている。社会権には25条の生存権、26条の教育を受ける権利、27条の勤労の権利、28条の労働基本権がある。同じグループだからこそ、文言で区別する必要があるんだ。
医学生医学生
「基本的人権の享有を妨げられない」は、人権全体の話をしているように読めます。
ドクタードクター
その感覚で合っている。11条で、基本的人権は侵すことのできない永久の権利だと定めた総則的な規定だ。個別の権利を定めた25条とは位置づけが違う。
医学生医学生
整理すると、総則が11条と13条、自由権が18条、社会権が25条と27条、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。では25条が具体的にどんな制度につながるか見ておこう。社会保障なら医療保険・年金・介護保険、公的扶助なら生活保護法、社会福祉なら児童福祉法や老人福祉法、公衆衛生なら地域保健法、感染症法、予防接種法、食品衛生法などだ。生活保護法は第1条で25条の理念に基づくことを明記している。
医学生医学生
臨床実習で医療ソーシャルワーカーさんが生活保護の申請を手伝っているのを見ました。あれも25条が根っこにあるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。ちなみに25条の法的性格については、朝日訴訟などで、具体的にどの水準の生活を保障するかは原則として立法や行政の裁量に委ねられると判断されている。それと医師として覚えておきたいのが医師法第1条だ。「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保する」と書かれていて、25条第2項と同じ言葉が使われている。
医学生医学生
医師の任務そのものが、憲法25条を実現する役割として位置づけられているわけですね。
ドクタードクター
その通り。国試では条文の文言そのものが問われるから、第1項と第2項は声に出して覚えておくといい。そして医師法や生活保護法の条文と結びつけておけば、法規の問題全体が理解しやすくなるよ。

まとめ

日本国憲法第25条は、第1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と生存権を保障し、第2項で国に社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上及び増進に努める義務を課しています。個人の尊重は第13条、奴隷的拘束からの自由は第18条、勤労の権利と義務は第27条、基本的人権の享有は第11条であり、総則・自由権・社会権という分類で整理すると区別しやすくなります。第25条は医療保険、生活保護、感染症対策など社会保障・公衆衛生制度全体の憲法上の根拠であり、医師法第1条にも同じ「公衆衛生の向上及び増進」という文言が使われています。条文を制度や医師の任務と結びつけて理解することが、公衆衛生・法規分野の学習の土台になります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

日本国憲法第25条は、社会権の代表である「生存権」と、それを実現するための国の責務を定めた条文であり、日本の社会保障・社会福祉・公衆衛生に関わる制度全体の憲法上の根拠となっている。条文は次の2項からなる。 ・第1項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(生存権の保障) ・第2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(国の努力義務)

正解を導く考え方

設問の「生存権」というキーワードから、第1項の「健康で文化的な最低限度の生活」という文言を思い出せればよい。他の選択肢はいずれも日本国憲法の条文の一部だが、個人の尊重(第13条)、奴隷的拘束からの自由(第18条)、勤労の権利と義務(第27条)、基本的人権の享有(第11条)と、それぞれ別の条文である。医療・公衆衛生の分野では、第25条が医療保険、生活保護、感染症対策、環境保全などの施策の出発点であることを理解しておきたい。

選択肢考察

  1. ×a.  「すべて国民は,個人として尊重される」

    第13条の冒頭である。同条はこれに続けて、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利(幸福追求権)は、公共の福祉に反しない限り、国政の上で最大限尊重されると定めている。幸福追求権はプライバシー権や自己決定権など、憲法に明記されていない「新しい人権」の根拠とされ、医療の場ではインフォームド・コンセントや患者の自己決定権を支える考え方に通じる。第25条の条文ではない。

  2. ×b.  「何人も,いかなる奴隷的拘束も受けない」

    第18条の前段であり、後段で、犯罪による処罰の場合を除いて、本人の意に反する苦役に服させられないことを定めている。身体の自由(人身の自由)を保障する自由権の規定であり、第25条の生存権とは異なる。

  3. ×c.  「すべて国民は,勤労の権利を有し,義務を負ふ」

    第27条第1項である。同条第2項では、賃金・就業時間・休息その他の勤労条件の基準を法律で定めるとしており、これが労働基準法などの根拠となる。勤労の権利も社会権の一つだが、生存権を定めた第25条とは別の条文である。

  4. ×d.  「国民は,すべての基本的人権の享有を妨げられない」

    第11条の前段である。続けて、憲法が保障する基本的人権は侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられると定めている。基本的人権全般についての総則的な規定であり、第25条ではない。

  5. ○e.  「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」

    第25条第1項そのものであり、社会権の一つである生存権を保障している。同条第2項は、国がすべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないと定め、第1項の権利を実現するための国の責務を示している。生活保護法は、この第25条の理念に基づくことを第1条で明記している。

基本的人権の分類と主な条文

・総則的規定:第11条(基本的人権の享有)、第12条(自由・権利の保持の責任)、第13条(個人の尊重・幸福追求権)、第14条(法の下の平等) ・自由権:第18条(奴隷的拘束・苦役からの自由)、第19条(思想・良心の自由)、第21条(集会・結社・表現の自由)など。国家からの干渉を受けない権利 ・社会権:第25条(生存権)、第26条(教育を受ける権利)、第27条(勤労の権利)、第28条(勤労者の団結権・団体交渉権・団体行動権)。人間らしい生活の実現を国家に求める権利

第25条に基づく主な制度

・社会保障:医療保険(健康保険法、国民健康保険法)、年金、介護保険法、雇用保険 ・公的扶助:生活保護法 ・社会福祉:児童福祉法、身体障害者福祉法、老人福祉法など ・公衆衛生:地域保健法、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)、予防接種法、食品衛生法、環境基本法など

第25条の法的性格

第25条は、国に対して積極的な施策を行う責務を課したものとされる。生活保護の基準が争われた朝日訴訟などでは、具体的にどのような水準の生活を保障するかは原則として立法府や行政の裁量に委ねられると判断されている。

医師との関わり

医師法第1条は「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」と定めており、第25条第2項の「公衆衛生の向上及び増進」と同じ文言が用いられている。

POINT

・憲法第25条第1項:「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(生存権) ・同第2項:国は社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない ・第25条は社会保障・公衆衛生制度の憲法上の根拠 ・関連条文:第11条(基本的人権の享有)、第13条(個人の尊重・幸福追求権)、第18条(奴隷的拘束からの自由)、第27条(勤労の権利と義務)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。