StudyMed医師国家試験

陣痛を生むのはどこか―オキシトシンが狙う「子宮体部」と受け身の産道

第110回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第110回 F問題 第13問

妊娠末期の女性生殖器におけるオキシトシンの作用部位はどれか。

  1. a.腟
  2. b.子宮頸部
  3. c.子宮峡部
  4. d.子宮体部
  5. e.卵管

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はオキシトシンが妊娠末期の生殖器のどこに作用するかを問う問題だ。ポイントは、分娩のときに子宮の各部位がそれぞれ違う役割を担っているということ。「能動的に収縮する場所」と「受動的に伸ばされる場所」を区別できるかが勝負だよ。
医学生医学生
オキシトシンは子宮収縮ホルモンなので、子宮全体に効くイメージでした。
ドクタードクター
そう思う人は多いね。まずオキシトシンの基本から確認しよう。どこで作られて、どこから分泌されるかな。
医学生医学生
下垂体後葉ホルモンなので、下垂体後葉で作られる……と思っていました。
ドクタードクター
そこは要注意。合成されるのは視床下部の室傍核と視索上核の神経細胞で、軸索を通って下垂体後葉に運ばれ、そこから血中に分泌されるんだ。生理学の講義で習ったバソプレシンと同じ仕組みで、両者は構造もよく似ている。主な作用は子宮平滑筋の収縮と、乳腺の筋上皮細胞を収縮させる射乳だね。
医学生医学生
そうでした、神経分泌でしたね。では分娩時の子宮の役割分担はどうなっているんですか。
ドクタードクター
子宮体部は平滑筋が豊富で、能動的に収縮して胎児を押し出す駆出力を生む。子宮峡部は分娩時に引き伸ばされて子宮下部になり、頸部とともに産道の一部になる。子宮頸部は結合組織が主体で平滑筋は少なく、熟化して開大する通り道だ。そしてオキシトシン受容体は子宮体部の平滑筋に豊富で、妊娠末期から分娩にかけて著しく増える。
医学生医学生
だから作用部位は子宮体部なんですね。受容体が集中しているから強い陣痛が起こると。
ドクタードクター
その通り。受容体に結合すると細胞内カルシウム濃度が上がって平滑筋が収縮する。では子宮頸部はどうだろう。
医学生医学生
頸部も子宮の一部ですし、分娩が近づくと変化するので、オキシトシンで柔らかくなるのかと思いました。
ドクタードクター
いい疑問だね。頸部は膠原線維を中心とした結合組織が主体で、体部の収縮に押されて受動的に開大する場所だ。頸管熟化に関わるのは主にプロスタグランジンなどで、オキシトシンに頸管を直接熟化させる作用はない。
医学生医学生
子宮峡部は体部と頸部の間なので、少しは収縮するのかなと迷いました。
ドクタードクター
峡部は分娩時に体部の強い収縮で受動的に伸展・菲薄化して子宮下部を作る。体部は収縮して壁が厚くなり、下部は伸びて薄くなる、という対照的な動きだ。その境界には収縮輪ができるんだけど、分娩が進まないのに陣痛が強すぎると、この収縮輪が上昇して腹壁から見えるようになることがある。病的収縮輪、バンドル収縮輪と呼ばれ、子宮破裂の切迫徴候だよ。
医学生医学生
腟は産道ですし、オキシトシンとは関係なさそうですね。
ドクタードクター
作用部位ではないけれど、無関係ではない。胎児の下降で頸部や腟が伸展されると、その刺激が反射的にオキシトシン分泌を促す。これがファーガソン反射だ。腟は分泌のきっかけが生じる場所であって、作用する場所ではない。卵管も卵子や受精卵の輸送に関わる器官で、分娩でのオキシトシンの作用部位ではないね。
医学生医学生
刺激が生じる場所と作用する場所を混同しないことが大事なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。臨床の話もしておこう。オキシトシンは子宮収縮薬として分娩誘発・陣痛促進や、分娩後の弛緩出血の予防・治療に使われる。ただ過量投与では過強陣痛、子宮破裂、胎児機能不全を起こしうるから、少量から始めて分娩監視装置で胎児心拍数と子宮収縮を連続的にモニタリングしながら投与する。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、助産師さんが輸液ポンプの速度を細かく調整しながらCTGをずっと見ていました。あれはそのためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだ。もう一つ、受容体が妊娠末期に増えるということは、妊娠初期や中期にはオキシトシンが効きにくいということでもある。また産褥期には授乳による乳頭吸啜刺激でオキシトシンが分泌され、射乳だけでなく子宮復古も促される。授乳中に後陣痛を感じるお母さんがいるのはこのためだよ。
医学生医学生
受容体の分布と増加の時期を押さえれば、薬としての使い方や産褥期の変化までつながって理解できますね。

まとめ

オキシトシンは視床下部の室傍核・視索上核で合成され、下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンで、子宮平滑筋の収縮と射乳を担います。分娩時の子宮では、平滑筋が豊富でオキシトシン受容体が妊娠末期に著増する子宮体部が能動的に収縮して胎児を押し出し、子宮峡部(子宮下部)と頸部は受動的に伸展・開大して産道となるため、作用部位は子宮体部です。頸部や腟の伸展はファーガソン反射でオキシトシン分泌を促すきっかけであって作用部位ではなく、頸管熟化には主にプロスタグランジンが関与します。子宮収縮薬として用いる際は過強陣痛・子宮破裂・胎児機能不全に注意し、少量から分娩監視装置による連続モニタリング下で投与します。受容体の分布と増加時期を理解することは、分娩の生理から薬剤の安全な使用、産褥期の子宮復古まで一貫して理解する鍵になります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

オキシトシンは視床下部(室傍核・視索上核)の神経細胞で合成され、軸索を通って下垂体後葉に運ばれ、そこから血中に分泌されるペプチドホルモンである。主な生理作用は、子宮平滑筋の収縮作用と、乳腺の筋上皮細胞を収縮させる射乳作用である。

正解を導く考え方

分娩時の子宮は、部位によって役割がはっきり分かれている。 ・子宮体部:平滑筋が豊富で、能動的に収縮して胎児を押し出す「駆出力」を生む部分 ・子宮峡部:分娩時に受動的に引き伸ばされて子宮下部(子宮下節)となり、頸部とともに産道の一部となる部分 ・子宮頸部:結合組織が主体で平滑筋は少なく、熟化(軟化)して開大し、胎児の通り道となる部分 オキシトシンの受容体は子宮体部の平滑筋(子宮筋層)に豊富に存在し、妊娠の進行とともに、特に妊娠末期から分娩にかけて著しく増加する。このためオキシトシンは子宮体部を強く収縮させ、陣痛(分娩時の子宮収縮)を生み出す。したがって妊娠末期の女性生殖器におけるオキシトシンの作用部位は子宮体部である。

臨床とのつながり

この作用を利用して、オキシトシンは子宮収縮薬として分娩誘発・陣痛促進や、分娩後の弛緩出血の予防・治療に用いられる。過量投与では過強陣痛や子宮破裂、胎児機能不全の危険があるため、少量から開始し分娩監視装置で胎児心拍数と子宮収縮を連続的に監視しながら投与する。

選択肢考察

  1. ×a.  腟

    腟は分娩時に産道となって受動的に伸展する部位であり、オキシトシンが作用して収縮を起こす部位ではない。なお、分娩時に胎児の下降によって子宮頸部や腟が伸展されると、その刺激が反射的にオキシトシン分泌を促す(ファーガソン反射)。腟はオキシトシン分泌のきっかけとなる刺激が生じる場であって、作用部位ではない点に注意する。

  2. ×b.  子宮頸部

    子宮頸部は膠原線維を中心とする結合組織が主体で、平滑筋の割合は少ない。分娩に向けて熟化(軟化・短縮)し、子宮体部の収縮に押されて受動的に開大する部位であり、オキシトシンによって収縮する部位ではない。オキシトシンには頸管を直接熟化させる作用もなく、頸管熟化にはプロスタグランジンなどが関与する。

  3. ×c.  子宮峡部

    子宮峡部は子宮体部と子宮頸部の間にある部分で、妊娠後半から分娩時にかけて引き伸ばされて子宮下部(子宮下節)を形成する。分娩時には体部の強い収縮によって受動的に伸展・菲薄化し、頸部とともに産道の一部となる。能動的に収縮する部位ではなく、オキシトシンの主な作用部位ではない。

  4. ○d.  子宮体部

    子宮体部の平滑筋にはオキシトシン受容体が豊富に存在し、その数は妊娠末期から分娩にかけて著しく増加する。オキシトシンが結合すると平滑筋細胞内のカルシウム濃度が上昇し、子宮体部が強く収縮して胎児を押し出す駆出力が生まれる。このためオキシトシンは分娩誘発・陣痛促進や分娩後の子宮収縮を促す目的で用いられる。

  5. ×e.  卵管

    卵管は卵子・受精卵の輸送に関わる器官であり、妊娠末期の分娩に関わるオキシトシンの作用部位ではない。オキシトシンの子宮収縮作用は、受容体が集中する子宮体部の平滑筋で発揮される。

オキシトシンの概要

・産生と分泌:視床下部の室傍核・視索上核で合成され、下垂体後葉から分泌される。下垂体後葉から分泌されるもう一つのホルモンはバソプレシン(抗利尿ホルモン)で、両者は構造がよく似ている。 ・主な作用:子宮平滑筋の収縮(陣痛の発来・維持、分娩後の子宮収縮による止血)、射乳(乳腺の筋上皮細胞の収縮) ・分泌刺激:分娩時の頸管・腟の伸展刺激(ファーガソン反射)、乳頭吸啜刺激(射乳反射)。分娩時の血中濃度は分娩第2期(子宮口全開大から児娩出まで)に高くなる。

子宮のオキシトシン感受性

子宮体部のオキシトシン受容体は妊娠の進行とともに増加し、妊娠末期にはオキシトシンに対する感受性が大きく高まる。そのため妊娠初期・中期には子宮収縮薬としてのオキシトシンの効果は弱い。授乳による乳頭刺激でオキシトシンが分泌されると、産褥期の子宮収縮(子宮復古)が促進される。

分娩時の子宮の部位別の役割

・子宮体部:能動的に収縮・短縮し、壁が厚くなる ・子宮下部(峡部由来):受動的に伸展し、壁が薄くなる 体部と下部の境界には収縮輪が形成される。分娩が進まないのに陣痛が強すぎると、この収縮輪が上昇して腹壁から観察されるようになる(病的収縮輪、バンドル収縮輪)ことがあり、子宮破裂の切迫徴候である。

子宮収縮薬としての使用

オキシトシンのほか、プロスタグランジンF2α、プロスタグランジンE2(経口錠)が分娩誘発・陣痛促進に用いられる。いずれも過強陣痛・子宮破裂・胎児機能不全に注意し、分娩監視装置による連続モニタリングのもとで少量から慎重に投与する。

POINT

・オキシトシンは視床下部で産生され、下垂体後葉から分泌される ・主な作用は子宮収縮と射乳 ・作用部位は子宮体部の平滑筋。受容体は妊娠末期に著増する ・子宮峡部(子宮下部)と頸部は分娩時に受動的に伸展・開大する部位で、能動的には収縮しない ・子宮収縮薬として使用する際は過強陣痛・子宮破裂・胎児機能不全に注意し、連続モニタリング下で投与する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。