陽性でも0.45%?―検査前確率が支配する「陽性的中率」の落とし穴
第110回医師国家試験 F問題 第10問
国試問題にチャレンジ
ある疾患に罹患している検査前確率が0.1%と推測される患者に,感度90%,特異度80%の検査を行う。検査後確率を計算するための2×2表を示す。 疾患 有 無 合計 検査結果 陽性 9 1,998 2,007 陰性 1 7,992 7,993 合計 10 9,990 10,000 検査が陽性だった場合の検査後確率で正しいのはどれか。
- a.0.45%
- b.0.9%
- c.4.5%
- d.9.0%
- e.20.0%
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
陽性時の検査後確率は陽性的中率と同じで、2×2表では「真陽性÷検査陽性者全体」で求めます。本問では9÷2,007≒0.45%となり、感度90%・特異度80%の検査でも、検査前確率0.1%の集団では陽性者の大部分が偽陽性になります。陽性尤度比(感度÷(1-特異度)=4.5)を検査前オッズに掛けても同じ結果が得られ、尤度比4.5や偽陽性率20%を確率と混同しないことが重要です。感度・特異度は有病率に左右されませんが、的中率は検査前確率に強く依存するため、問診・診察で検査前確率を高めてから検査を行うこと、スクリーニング陽性者には精密検査で確認することが臨床判断の基本となります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
検査が陽性と出た人のうち、実際に疾患をもつ人の割合、すなわち陽性時の検査後確率を求める問題である。これは陽性的中率(positive predictive value:PPV)と同じ意味である。
2×2表の成り立ちの確認
仮に10,000人を対象とすると、検査前確率(=有病率)0.1%より、疾患有りは10,000×0.001=10人、疾患無しは9,990人となる。 ・感度90%:疾患有りの人のうち検査陽性となる割合。10×0.9=9人が真陽性、残り1人が偽陰性。 ・特異度80%:疾患無しの人のうち検査陰性となる割合。9,990×0.8=7,992人が真陰性、残り9,990×0.2=1,998人が偽陽性。 これにより検査陽性者の合計は9+1,998=2,007人、検査陰性者の合計は1+7,992=7,993人となり、問題の表と一致する。
計算
陽性時の検査後確率=真陽性 ÷ 検査陽性者全体 =9 ÷ 2,007 ≒0.00448 ≒0.45%
別解:尤度比とオッズを用いる方法
陽性尤度比=感度 ÷(1-特異度)=0.9 ÷ 0.2=4.5。 検査前オッズ=0.001 ÷ 0.999≒0.001。 検査後オッズ=検査前オッズ×陽性尤度比≒0.001×4.5=0.0045。 検査後確率=検査後オッズ ÷(1+検査後オッズ)≒0.0045 ÷ 1.0045≒0.45%。 表を使った計算と同じ答えになる。
この結果が意味すること
感度90%・特異度80%という一見まずまずの性能の検査でも、検査前確率が0.1%と非常に低い集団に用いると、陽性者2,007人のほとんど(1,998人)が偽陽性となり、陽性と出ても疾患をもつ確率は0.45%にとどまる。陽性結果によって確率は0.1%から約4.5倍に上がってはいるが、診断を確定できる水準には遠い。
選択肢考察
- ○a. 0.45%
検査陽性者2,007人のうち実際に疾患を有するのは9人であり、9/2,007≒0.0045=0.45%となる。陽性尤度比4.5と検査前オッズ約0.001から求めても同じ値になり、これが陽性時の検査後確率(陽性的中率)である。
- ×b. 0.9%
正しい値0.45%の2倍であり、計算の根拠となる組み合わせが表の中に見当たらない。検査陽性者の合計(2,007人)ではなく、それとは別の数を分母に用いるなどの誤りで生じうる値である。陽性時の検査後確率は必ず「真陽性9人 ÷ 検査陽性者2,007人」で求める。
- ×c. 4.5%
4.5は陽性尤度比(0.9 ÷ 0.2)の値であり、確率ではない。尤度比は検査前オッズを何倍にするかを示す係数で、本問では検査前確率0.1%が約4.5倍の約0.45%になることを意味する。尤度比をそのまま百分率として扱うのは誤りである。
- ×d. 9.0%
真陽性の人数9人を、そのまま百分率と取り違えるなどして生じうる値である。分母は検査陽性者全体の2,007人であり、9/2,007は約0.45%にしかならない。
- ×e. 20.0%
20%は1-特異度、すなわち疾患のない人が誤って陽性となる割合(偽陽性率:1,998/9,990)である。偽陽性率は疾患の有無を基準とした検査の性能を示す指標であり、検査結果が陽性だった人が疾患をもつ確率とは別物である。
2×2表と主な指標
疾患有り・検査陽性を真陽性(a)、疾患無し・検査陽性を偽陽性(b)、疾患有り・検査陰性を偽陰性(c)、疾患無し・検査陰性を真陰性(d)とすると、 ・感度=a/(a+c):疾患がある人を陽性と判定できる割合 ・特異度=d/(b+d):疾患がない人を陰性と判定できる割合 ・陽性的中率=a/(a+b):陽性者のうち実際に疾患をもつ割合(陽性時の検査後確率) ・陰性的中率=d/(c+d):陰性者のうち実際に疾患をもたない割合 ・陽性尤度比=感度/(1-特異度)、陰性尤度比=(1-感度)/特異度
的中率は有病率に左右される
感度・特異度は検査そのものの性能で、原則として対象集団の有病率に左右されない。一方、的中率は有病率(検査前確率)によって大きく変わる。有病率が低いと偽陽性の数が真陽性を大きく上回り、陽性的中率は低下する(陰性的中率は高くなる)。本問で検査前確率を10%とすると、10,000人中の有病者は1,000人で真陽性900人、偽陽性は9,000×0.2=1,800人となり、陽性的中率は900/2,700≒33%まで上がる。
オッズと確率の換算
オッズ=確率/(1-確率)、確率=オッズ/(1+オッズ)。確率が小さいときはオッズと確率はほぼ等しいため、本問のように検査前確率が低い場合は「検査前確率×陽性尤度比」で近似できる。
臨床的な意味
問診・身体診察などで検査前確率を十分に高めてから検査を行うことで、陽性結果の診断的価値が高まる。有病率の低い集団を対象とするスクリーニングでは偽陽性が多くなるため、陽性者には精密検査で確認する体制が必要となる。
POINT
・陽性時の検査後確率=陽性的中率=真陽性/検査陽性者全体(本問は9/2,007≒0.45%) ・陽性尤度比=感度/(1-特異度)。検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比 ・感度・特異度は有病率に依存しないが、的中率は有病率(検査前確率)に強く依存する ・検査前確率が低いと、性能のよい検査でも陽性的中率は低い ・尤度比(4.5)や偽陽性率(20%)を検査後確率と混同しない
