「やわらかく、さらさらに」は逆効果?―食べられる高齢者を誤嚥性肺炎から守る5つの視点
第110回医師国家試験 F問題 第9問
国試問題にチャレンジ
嚥下機能検査にて経口摂取が可能であると判断された誤嚥性肺炎〉の既往を持つ高齢者への対応として適切でないのはどれか。
- a.食後の座位保持
- b.流動食の推奨
- c.摂食嚥下訓練
- d.栄養評価
- e.口腔ケア
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
誤嚥性肺炎の既往がある高齢者では、嚥下・咳反射の低下、口腔内細菌の増加、低栄養、胃食道逆流などの危険因子が残りやすく、再発予防はこれらを一つずつ減らすことが基本です。具体的には、食後の座位保持による逆流性誤嚥の防止、口腔ケアによる不顕性誤嚥への対策、摂食嚥下訓練による機能の維持・改善、栄養評価による低栄養や脱水の是正が柱となります。一方、経口摂取が可能と判断された患者に流動食を勧めることは、廃用や栄養不足、生活の質の低下を招くうえ、さらさらした液体は咽頭通過が速くむしろ誤嚥しやすいため適切ではありません。嚥下障害がある場合でも液体にはとろみを付け、食形態は機能に応じて不必要に下げないことが原則です。「食べる力を守りながらリスクを下げる」という考え方は、高齢者医療や多職種連携の実践に直結する重要な視点です。
解答・解説
正解はbです
誤嚥性肺炎は、口腔内の細菌を含む唾液や食物、逆流した胃内容物などが気道に入り込むことで起こる肺炎で、高齢者の肺炎の大きな割合を占め、再発を繰り返しやすい。一度発症した高齢者では、嚥下機能の低下、咳反射の低下、口腔衛生の悪化、低栄養による免疫力や筋力の低下などの危険因子が残っていることが多い。 本問の患者は、嚥下機能検査で「経口摂取が可能」と判断されている。したがって対応の方針は、口から食べることを継続しながら、再発の危険因子を一つずつ減らしていくことになる。具体的には、①誤嚥・逆流を防ぐ姿勢の工夫、②嚥下機能の維持・向上のための訓練、③口腔内の細菌量を減らす口腔ケア、④低栄養や脱水の評価と是正、が柱となる。 これに対し、経口摂取が可能な患者にあえて流動食を勧めることは、食形態を必要以上に下げることになり、咀嚼・嚥下機能の廃用や食の楽しみの喪失、摂取エネルギー不足を招く。さらに、さらさらした液体はとろみのある食品に比べて咽頭を速く流れ落ちるため、嚥下反射が遅れがちな高齢者ではむしろ誤嚥しやすい形態である。このため、選択肢の中で適切でない対応は流動食の推奨である。
選択肢考察
- ×a. 食後の座位保持
高齢者では下部食道括約筋の機能低下や食道裂孔ヘルニアなどにより胃食道逆流が起こりやすく、食後すぐに横になると逆流した胃内容物を誤嚥する危険が高まる。食後しばらく(目安として1~2時間程度)座位やファウラー位(上体を起こした姿勢)を保つことは逆流性の誤嚥を防ぐ有効な対策であり、適切な対応である。
- ○b. 流動食の推奨
適切でない対応であり、これが正解である。嚥下機能検査で経口摂取が可能と判断されているのだから、機能に見合った通常に近い食形態での摂取を続けるべきである。必要以上に流動食へ変更すると、咀嚼や嚥下に関わる筋の廃用を招き、食事の満足感や生活の質も損なう。また、粘度の低い液体は咽頭通過が速く、嚥下反射の惹起が遅れると気道に流入しやすいため、誤嚥予防の観点からもむしろ不利である。嚥下障害がある場合でも、液体には増粘剤でとろみを付けるのが一般的な対応である。
- ×c. 摂食嚥下訓練
現時点で経口摂取が可能でも、誤嚥性肺炎の既往があることは嚥下機能が低下しつつあることを示している。頸部・舌・口唇の運動や発声訓練、頭部挙上訓練などの間接訓練や、食べる姿勢・一口量・ペースを調整しながら実際に食べる直接訓練により、嚥下機能を維持・改善することは再発予防に役立つ適切な対応である。
- ×d. 栄養評価
高齢者、とくに摂食・嚥下に問題を抱えた人では、蛋白質・エネルギー低栄養状態(PEM:protein energy malnutrition)や脱水を合併していることが多い。低栄養は免疫能を低下させて肺炎を起こしやすくし、筋肉量の減少(サルコペニア)を通じて嚥下筋や咳の力も弱める。体重変化、BMI、血清アルブミン、食事摂取量などで栄養状態を評価し、必要に応じて介入することは適切な対応である。
- ×e. 口腔ケア
高齢者では、睡眠中などに気付かないうちに少量の唾液が気道に流れ込む不顕性誤嚥が多い。口腔内に食物残渣や歯垢が残り細菌が増えていると、誤嚥した唾液に含まれる細菌量が増えて肺炎を起こしやすくなる。歯磨きや義歯の清掃、舌・粘膜の清拭などで口腔内を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の発症を減らすことが示されており、重要な予防策である。
誤嚥性肺炎の病態
高齢者では、脳血管障害(特に大脳基底核の病変)などによりドパミン産生が低下し、それに伴って咽頭・喉頭のサブスタンスPが減少することで、嚥下反射と咳反射が低下すると考えられている。その結果、食事中に明らかにむせる顕性誤嚥だけでなく、夜間に唾液を少しずつ誤嚥する不顕性誤嚥が起こる。原因菌は口腔内常在菌や嫌気性菌が多い。
主な危険因子
脳血管障害の既往、パーキンソン病などの神経疾患、認知症、寝たきり、胃食道逆流、経管栄養、鎮静薬の使用、口腔衛生不良、低栄養など。
再発予防の主な対策
・体位:食事中・食後は上体を起こす。頸部を軽く前屈させると気道に入りにくくなる。 ・食形態:嚥下機能に応じて決める。障害がある場合は、まとまりやすく適度な粘度のある食品(ゼリー状・ペースト状など)や、とろみを付けた液体が誤嚥しにくい。機能が保たれていれば不必要に下げない。 ・口腔ケア:歯・義歯・舌の清掃。誤嚥性肺炎の発症を減らす効果が報告されている。 ・嚥下リハビリテーション:食物を用いない間接訓練と、食物を用いる直接訓練がある。 ・栄養・水分管理:低栄養・脱水の評価と是正。 ・薬剤:嚥下反射・咳反射を改善する作用が報告されている薬剤としてACE阻害薬などがあり、一方で鎮静作用のある薬剤は誤嚥を助長しうるため見直す。 ・肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種。
嚥下機能の主な検査
反復唾液嚥下テスト(RSST:30秒間に空嚥下が何回できるかをみる。3回未満で異常の疑い)、改訂水飲みテスト、嚥下造影検査(VF)、嚥下内視鏡検査(VE)などがある。
POINT
・経口摂取可能と判断された患者では、食形態を不必要に下げない(流動食の推奨は不適切)。 ・さらさらした液体はむしろ誤嚥しやすく、嚥下障害があればとろみを付ける。 ・誤嚥性肺炎の再発予防の柱:食後の座位保持(逆流防止)、摂食嚥下訓練、口腔ケア(不顕性誤嚥対策)、栄養評価(低栄養・脱水の是正)。 ・高齢者では不顕性誤嚥が多く、嚥下機能検査が正常でも予防策は必要である。
