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感度99%でも陽性なら半々?―抗核抗体で学ぶ検査後確率の落とし穴

第120回医師国家試験 E問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第14問

抗核抗体は全身性エリテマトーデス〈SLE〉に対して感度99%,特異度60%と報告されている。SLEの検査前確率が30%と想定される。  抗核抗体が陽性の場合にSLEである確率はどれか。

  1. a.7%
  2. b.15%
  3. c.51%
  4. d.96%
  5. e.99%

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、感度・特異度・検査前確率から、検査が陽性だったときに本当にその病気である確率、つまり検査後確率を求める問題だ。計算そのものはシンプルだけど、「感度が高い検査なら陽性でほぼ確定」という直感がどこまで正しいかを確かめるのが着眼点だよ。
医学生医学生
感度99%なら、陽性ならほぼSLEだと思ってしまいます。99%を選びたくなりますね。
ドクタードクター
そこがまさに落とし穴なんだ。感度は「SLEの人のうち陽性になる割合」で、今回問われているのは「陽性の人のうちSLEである割合」、つまり陽性的中率だ。主語が逆になっていることに気づくかな。
医学生医学生
あ、条件と結果がひっくり返っているんですね。公衆衛生の講義で2×2表を書かされたのを思い出しました。
ドクタードクター
その2×2表で解くのがいちばん確実だ。仮に1,000人を想定しよう。検査前確率30%だから、SLEの人は300人、SLEでない人は700人。SLEの300人のうち感度99%で陽性になるのは何人?
医学生医学生
300×0.99で297人が真陽性、残り3人が偽陰性です。
ドクタードクター
正解。次にSLEでない700人。特異度60%だから、陰性になるのは420人。では陽性になってしまう偽陽性は?
医学生医学生
700から420を引いて280人……思ったよりずっと多いですね。
ドクタードクター
そう、ここがこの問題の核心だ。陽性者は真陽性297人と偽陽性280人を足して577人。そのうち本当にSLEなのは297人だから、297÷577でおよそ51%になる。これが正解だよ。
医学生医学生
感度99%なのに、陽性でも半分くらいしかSLEじゃないなんて驚きです。
ドクタードクター
特異度が60%と低いせいで、病気でない人からたくさん陽性が出てしまうんだ。もう一つの解き方も紹介しよう。尤度比を使う方法だ。陽性尤度比は感度÷(1−特異度)で、0.99÷0.40で約2.5になる。
医学生医学生
尤度比はCBTの勉強で公式だけ覚えましたが、どう使うのかはあいまいでした。
ドクタードクター
確率をオッズに直してから掛け算するんだ。検査前オッズは0.3÷0.7で3/7。これに尤度比約2.5を掛けると検査後オッズは約1.06。オッズを確率に戻すと1.06÷2.06でやはり約51%。2×2表と同じ答えになるね。
医学生医学生
7%や15%は、検査前確率の30%より下がっているので、陽性なのにありえないということですね。
ドクタードクター
その通り。陽性尤度比が1より大きい検査で陽性が出れば、確率は検査前より必ず上がる。それだけで二つの選択肢は消せるんだ。96%も、偽陽性が280人もいる状況では到底届かない数字だよ。
医学生医学生
逆に陰性だった場合はどうなりますか。
ドクタードクター
いい質問だ。陰性者423人のうちSLEは偽陰性の3人だけだから、陰性ならSLEである確率は1%未満。つまり抗核抗体は、陰性ならSLEをほぼ否定できる検査なんだ。感度が高い検査の陰性は除外に役立つ、という意味でSnNoutと覚えるといい。
医学生医学生
膠原病内科の実習で、抗核抗体は健康な人でも低い力価で陽性になることがあると聞きました。だから特異度が低いんですね。
ドクタードクター
よく結びつけられたね。強皮症やSjögren症候群など他の膠原病、薬剤、感染症、さらに健常な女性や高齢者でも陽性になりうる。だからスクリーニングには向くけれど、陽性だけでは確定できない。実際の診断では、特異度の高い抗ds-DNA抗体や抗Sm抗体、補体低値などを組み合わせて判断するんだ。
医学生医学生
感度・特異度は検査そのものの性質で、的中率は検査前確率で変わる、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その通り。感度・特異度は原則として集団によって変わらないけど、的中率は有病率に大きく左右される。有病率の低い集団で検査をすれば、陽性的中率はさらに下がる。だから臨床では、症状や身体所見から検査前確率を見積もったうえで検査を出し、結果を解釈することが大切なんだ。

まとめ

検査後確率は、1,000人を想定した2×2表か、検査前オッズに尤度比を掛ける方法で求められ、本問では陽性者577人中の真陽性297人からおよそ51%となります。感度99%と高くても特異度60%と低い検査では偽陽性が多く、陽性結果だけでは確率が大きく上がらないことがポイントです。感度(病気の人が陽性になる割合)と陽性的中率(陽性の人が病気である割合)を混同しないこと、陽性尤度比が1を超えれば検査後確率は検査前確率を必ず上回ることも押さえておきましょう。抗核抗体はSLEに対して感度が高く特異度が低いため、陰性なら除外に有用(SnNout)で、陽性なら抗ds-DNA抗体や抗Sm抗体など特異度の高い検査で詰めていきます。検査前確率を意識して結果を解釈する姿勢は、あらゆる臨床検査の読み方の基本となります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

検査前確率(その検査を行う前に、患者がその疾患をもっていると見積もられる確率)が30%の状況で、感度99%・特異度60%の検査が陽性になったとき、実際にSLEである確率、すなわち検査後確率(この場合は陽性的中率と同じ値)を求める問題である。解き方は2通りあり、どちらでも同じ答えになる。

解法1:2×2表で考える

仮に1,000人を想定する。 ・SLEである人:1,000×0.30=300人、SLEでない人:700人 ・SLEである300人のうち抗核抗体陽性(真陽性):300×0.99=297人、陰性(偽陰性):3人 ・SLEでない700人のうち抗核抗体陰性(真陰性):700×0.60=420人、陽性(偽陽性):700−420=280人        SLEあり SLEなし  計  抗核抗体陽性  297   280   577  抗核抗体陰性   3   420   423  計       300   700  1,000 陽性者577人のうち実際にSLEであるのは297人なので、 陽性的中率=297÷577≒0.515 → 約51%

解法2:オッズと尤度比で考える

・検査前オッズ=検査前確率÷(1−検査前確率)=0.3÷0.7=3/7(≒0.43) ・陽性尤度比(LR+)=感度÷(1−特異度)=0.99÷0.40=2.475 ・検査後オッズ=検査前オッズ×陽性尤度比=3/7×2.475≒1.061 ・検査後確率=検査後オッズ÷(1+検査後オッズ)=1.061÷2.061≒0.515 → 約51% いずれの方法でも約51%となる。感度が99%と非常に高くても、特異度が60%と低いため偽陽性が多く(280人)、陽性という結果だけではSLEの確率は30%から51%程度にしか上がらない。

選択肢考察

  1. ×a.  7%

    陽性尤度比は2.475と1より大きいため、陽性結果を得た後の確率は検査前確率30%より必ず高くなる。検査前確率より低い7%になることはあり得ない。ちなみに、抗核抗体が陰性だった場合にSLEである確率は3÷423≒0.7%であり、これとも一致しない。

  2. ×b.  15%

    aと同様に、陽性尤度比が1を超える検査で陽性となれば検査後確率は検査前確率(30%)を上回る。30%より低い15%は誤りである。

  3. ○c.  51%

    2×2表では陽性者577人中、真陽性が297人で、297÷577≒51%となる。尤度比を用いた計算でも、検査前オッズ3/7に陽性尤度比2.475を掛けた検査後オッズ約1.06を確率に直すと約51%であり、正解である。

  4. ×d.  96%

    特異度60%の検査では、SLEでない700人のうち280人が偽陽性となる。このため陽性者の中にSLEでない人が多く含まれ、検査後確率が96%のように高くなることはない。陽性的中率を高くするには、特異度が高い検査(偽陽性が少ない検査)が必要である。

  5. ×e.  99%

    99%は感度(SLE患者のうち検査陽性となる割合=297/300)の値である。感度は「疾患がある人が陽性となる確率」であり、本問で問われている「陽性の人が疾患をもつ確率」(陽性的中率)とは別物である。両者を取り違えないことが重要である。なお、陰性的中率(420/423≒99.3%)も約99%となる。

2×2表と各指標

疾患あり・検査陽性をA(真陽性)、疾患なし・検査陽性をB(偽陽性)、疾患あり・検査陰性をC(偽陰性)、疾患なし・検査陰性をD(真陰性)とすると、 ・有病率(検査前確率)=(A+C)÷(A+B+C+D) ・感度=A÷(A+C):疾患がある人のうち陽性となる割合 ・特異度=D÷(B+D):疾患がない人のうち陰性となる割合 ・陽性的中率=A÷(A+B):陽性者のうち実際に疾患がある割合 ・陰性的中率=D÷(C+D):陰性者のうち実際に疾患がない割合 ・陽性尤度比=感度÷(1−特異度) ・陰性尤度比=(1−感度)÷特異度

確率とオッズ

オッズ=確率÷(1−確率)、確率=オッズ÷(1+オッズ)。 ベイズの定理に基づき、検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比 となる。尤度比が1より大きければ確率は上がり、1より小さければ下がる。一般に陽性尤度比が10以上、陰性尤度比が0.1以下であれば診断への影響が大きいとされる。本問の陽性尤度比2.475は診断を確定させる力が弱いことを示す。

的中率は有病率に左右される

感度・特異度は検査そのものの性質であり、対象集団の有病率によって原則として変わらない。一方、陽性的中率・陰性的中率は有病率(検査前確率)によって大きく変わる。有病率が低い集団では陽性的中率は下がり、陰性的中率は上がる。

抗核抗体とSLE

抗核抗体はSLE患者のほぼ全例で陽性となるため感度は高いが、他の膠原病(全身性強皮症、Sjögren症候群、混合性結合組織病など)、薬剤、感染症、さらに健常者(特に女性や高齢者で低力価陽性)でも陽性となるため特異度は低い。したがって抗核抗体は「陰性ならSLEをほぼ否定できる」スクリーニング検査として有用である(感度が高い検査の陰性結果は除外診断に有用:SnNout)。一方、陽性でも確定には至らないため、より特異度の高い抗ds-DNA抗体、抗Sm抗体、補体低値などを組み合わせて診断する。なお、2019年のEULAR/ACR分類基準では、抗核抗体陽性(HEp-2細胞で80倍以上)がSLE分類のエントリー基準とされている。

POINT

・検査後確率は2×2表(例:1,000人を想定)か、検査前オッズ×尤度比の2通りで求められる。 ・陽性尤度比=感度÷(1−特異度)、オッズ=確率÷(1−確率)。 ・本問は 297÷577≒51%。 ・感度と陽性的中率を混同しない。特異度が低い検査では偽陽性が多く、陽性的中率は上がりにくい。 ・抗核抗体はSLEに対して感度が高く特異度が低い→陰性なら除外に有用(SnNout)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。