「引っ込める」か「固まる」か―痛み刺激への屈曲でGCSのM4とM3を見分ける
第110回医師国家試験 E問題 第67問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,67~69の問いに答えよ。 28歳の男性。墜落事故のため工事現場から救急車で搬入された。 現病歴:建築作業中に誤って約3 mの高さから墜落し,頭部を強打した。意識障害がみられ,救急搬送された。 既往歴:生来健康で特記すべきことはない。 生活歴:高校卒業後から建築作業員。独身。大酒家で喫煙歴は不明。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:来院時,閉眼。身長170 cm(推定)。体重70 kg(推定)。体温36.4℃。脈拍48/分,整。血圧192/104 mmHg。呼吸数12/分。SpO2 92%(リザーバー付マスク10 L/分酸素投与下)。左側頭部に皮下血腫を認める。瞳孔径両側3 mmで対光反射は正常である。口腔,鼻孔および耳孔からの出血を認めない。他部位の創傷からの外出血はない。心音と呼吸音とに異常を認めない。痛み刺激で開眼し,発語は「あ~」「う~」の発声のみを認める。痛み刺激で手足の逃避的な屈曲を認める。
この患者のGlasgow Coma Scale〈GCS〉のMスコアはどれか。
- a.2
- b.3
- c.4
- d.5
- e.6
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
Glasgow Coma Scaleは開眼(E1〜4)、言語反応(V1〜5)、運動反応(M1〜6)の合計3〜15点で意識レベルを表し、外傷の評価で広く用いられます。運動反応は、命令に従えばM6、疼痛部位に手が向かえばM5、刺激から手足を引っ込める逃避屈曲ならM4、ゆっくりとした異常屈曲(除皮質硬直)ならM3、伸展(除脳硬直)ならM2、無反応ならM1と区別し、特にM4とM3の見分けが重要です。本例は痛み刺激で開眼し、うめき声のみで、逃避屈曲を示すためE2V2M4=8点となり、重症頭部外傷として気道確保を考慮すべき状態です。高血圧と徐脈の組み合わせはCushing現象として頭蓋内圧亢進を示唆し、GCSの経時的な低下や瞳孔不同にも注意が必要です。GCSを正確に採点できることは、救急現場で患者の重症度と変化をチームで共有するための基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
約3 mの高さから墜落して頭部を強く打った28歳男性である。左側頭部に皮下血腫があり、意識障害を伴うことから、頭部外傷による脳損傷がまず疑われる。 バイタルサインをみると、血圧192/104 mmHgと高く、脈拍48/分と遅い。頭部外傷後にこのような高血圧と徐脈が組み合わさっている場合は、頭蓋内圧が上がったときに脳への血流を保とうとして起こるCushing現象(高血圧・徐脈・呼吸の異常)を考え、頭蓋内圧亢進を念頭に置く。さらにリザーバー付マスクで高濃度の酸素を投与していてもSpO2は92%にとどまっており、呼吸状態も不十分である。
意識レベルの評価
外傷による意識障害の評価には、Japan Coma Scale(JCS)よりもGlasgow Coma Scale(GCS)が広く用いられる。GCSは開眼(E: Eye opening、1〜4点)、言語反応(V: best Verbal response、1〜5点)、運動反応(M: best Motor response、1〜6点)の3要素を別々に評価し、合計3〜15点で重症度を表す。点数が低いほど重症である。 本例を当てはめると次のようになる。 ・開眼:呼びかけでは開かず、痛み刺激で開眼する → E2 ・言語:「あ~」「う~」と意味のない声を出すのみ → V2(理解できない音声) ・運動:痛み刺激に対して手足を逃避的に屈曲させる → M4 合計はE2V2M4=8点となる。
Mスコアを決める考え方
M4とM3はいずれも「痛み刺激で屈曲する」反応であり、ここを区別できるかが本問の要点である。M4は刺激から手足を引っ込める正常な逃避反応(屈曲は速く、肩の外転を伴うことが多い)であり、M3は上肢をゆっくり屈曲・内転させ下肢を伸展させる除皮質硬直のような異常屈曲である。本例は「逃避的な屈曲」と明記されているのでM4となる。また、痛みの部位に手を持っていって払いのけようとする動作があればM5となるが、本例ではそのような記載はない。
選択肢考察
- ×a. 2
M2は痛み刺激で四肢を伸展させる反応で、上肢は伸展・内旋、下肢も伸展する除脳硬直肢位に相当する。中脳〜橋レベルまで障害が及んだ重篤な状態を示す。本例は屈曲反応であり、伸展ではないので当てはまらない。
- ×b. 3
M3は痛み刺激に対して上肢を異常に屈曲させる反応で、上肢の屈曲・内転と下肢の伸展からなる除皮質硬直肢位に相当する。屈曲がゆっくりで、刺激から逃れる目的をもたない点が特徴である。本例の屈曲は「逃避的」とされており、異常屈曲ではないので誤りである。
- ○c. 4
M4は痛み刺激から手足を引っ込める逃避屈曲(正常屈曲)である。本例では痛み刺激で手足を逃避的に屈曲させており、痛みの部位を特定して払いのける動作(M5)には至っていない。したがってMスコアは4点であり、これが正解である。E2・V2と合わせたGCS合計は8点となる。
- ×d. 5
M5は痛み刺激を加えた部位に手を伸ばして払いのけようとする反応(疼痛部位の認識、localize)である。例えば胸骨部を圧迫した際に手がその部位まで上がってくれば該当する。本例は単に手足を引っ込める逃避反応のみであり、M5の基準を満たさない。
- ×e. 6
M6は「手を握って」「足を動かして」などの口頭命令に従って動かせる状態である。本例は痛み刺激でようやく開眼し、意味のある言葉も出ない状態で、命令に従う動作はみられないため誤りである。
GCSの採点基準
E(開眼) 4:自発的に開眼 3:呼びかけで開眼 2:痛み刺激で開眼 1:開眼しない V(言語反応) 5:見当識あり(時・場所・人を正しく答える) 4:混乱した会話 3:不適当な単語(会話にならない言葉) 2:理解できない音声(うめき声など) 1:発語なし M(運動反応) 6:命令に従う 5:疼痛部位を認識して払いのける 4:逃避屈曲(正常屈曲) 3:異常屈曲(除皮質硬直) 2:伸展(除脳硬直) 1:まったく動かない
評価上の注意
・運動反応は左右差があれば、よいほうの反応(best motor response)で採点する。 ・気管挿管中などで発語が評価できない場合は、Vを「T」と記載するなどして区別する。 ・合計点だけでなく、E・V・Mの内訳を併記するのが原則である(例:E2V2M4=8点)。
頭部外傷における重症度分類
GCS合計で、13〜15点を軽症、9〜12点を中等症、3〜8点を重症とするのが一般的である。GCS 8点以下は気道・呼吸の確保(気管挿管)を考慮すべき「切迫するD(中枢神経の異常)」の目安であり、本例もこれに該当する。また、GCSが短時間に2点以上低下した場合や、瞳孔不同・片麻痺・Cushing現象が現れた場合は脳ヘルニアの進行を疑い、迅速な対応が必要である。
Cushing現象
頭蓋内圧が上昇すると脳灌流圧(平均血圧−頭蓋内圧)が低下するため、生体は血圧を上げて脳血流を保とうとする。その結果、収縮期血圧の上昇(脈圧の拡大)と、圧受容器反射などによる徐脈が起こり、さらに進行すると呼吸パターンの異常が生じる。
POINT
・GCSはE(1〜4)、V(1〜5)、M(1〜6)の合計3〜15点で、低いほど重症。 ・M6命令に従う、M5疼痛部位へ手が向かう、M4逃避屈曲、M3異常屈曲(除皮質)、M2伸展(除脳)、M1動かない。 ・「逃避的な屈曲」はM4、「異常な屈曲」はM3と区別する。 ・本例はE2V2M4=8点で重症頭部外傷に相当し、GCS 8点以下は気道確保を考慮する目安。 ・頭部外傷後の高血圧+徐脈はCushing現象として頭蓋内圧亢進を疑う。
