その抗菌薬、心電図は確認した?―QT延長を招くマクロライドとニューキノロン
第110回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
QT延長に注意すべき抗菌薬はどれか。2つ選べ。
- a.セフェム系
- b.ペニシリン系
- c.マクロライド系
- d.ニューキノロン系
- e.アミノグリコシド系
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
QT延長に注意すべき抗菌薬はマクロライド系とニューキノロン系で、いずれも心筋の再分極を担うhERG(IKr)カリウムチャネルを阻害して再分極を遅らせ、トルサード・ド・ポアントから心室細動・突然死に至ることがあります。マクロライド系の一部はCYP3A4阻害により併用薬の血中濃度を上げ、ニューキノロン系はけいれん、腱障害、血糖異常、金属イオンとのキレート形成にも注意が必要です。一方、ペニシリン系・セフェム系では過敏反応、アミノグリコシド系では腎障害と聴覚障害が代表的な副作用で、QT延長は問題になりません。低カリウム・低マグネシウム血症、徐脈、高齢、他のQT延長薬との併用はリスクを高めるため、処方前の心電図・電解質・併用薬の確認が重要であり、系統ごとの副作用を整理しておくことは安全な抗菌薬選択の基本となります。
解答・解説
正解はc, dです
問われていること
抗菌薬の系統ごとの代表的な副作用のうち、心電図上のQT延長を起こしやすいものを選ぶ問題である。
QT延長とは
QT間隔は心電図でQ波の始まりからT波の終わりまでで、心室の脱分極から再分極が終わるまでの時間を表す。心拍数の影響を受けるため補正QT(QTc)で評価し、おおむね男性で450ms、女性で460msを超えると延長と判断されることが多い(500msを超えると危険性が大きく高まる)。QTが延長すると、多形性心室頻拍の一種であるトルサード・ド・ポアント(TdP:QRS波の向きがねじれるように変化する心室頻拍)を起こし、心室細動へ移行して突然死に至ることがある。
薬剤性QT延長の機序
多くの薬剤性QT延長は、心筋の再分極を担うカリウム電流(遅延整流カリウム電流の速い成分 IKr)のチャネル(hERGチャネル)を薬剤が阻害することで起こる。抗菌薬ではマクロライド系とニューキノロン系がこの作用を持つ。一方、β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)やアミノグリコシド系にはこの作用はほとんどなく、それぞれ別の副作用が重要となる。 したがって、QT延長に注意すべき抗菌薬はマクロライド系とニューキノロン系の2つである。
選択肢考察
- ×a. セフェム系
誤り。セフェム系はβ-ラクタム系で、細菌の細胞壁合成を阻害する。心筋のカリウムチャネルには作用せず、QT延長は問題にならない。主な副作用はペニシリン系と同様の過敏反応(発疹、アナフィラキシー)、肝障害、血球減少、高用量時のけいれんなどである。一部のセフェム(N-メチルテトラゾールチオール基を持つもの)では、飲酒時のジスルフィラム様反応やビタミンK欠乏による出血傾向にも注意する。
- ×b. ペニシリン系
誤り。ペニシリン系もβ-ラクタム系で、QT延長はきたさない。最も重要な副作用はアナフィラキシーを含む過敏反応であり、そのほか発疹、間質性腎炎、肝障害、血球減少、腎機能低下時の大量投与によるけいれんなどがある。伝染性単核症(EBウイルス感染症)の患者にアンピシリンなどを投与すると高率に発疹が出ることも知られている。
- ○c. マクロライド系
正解。エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどのマクロライド系はhERGチャネルを阻害し、QT延長からTdPを起こしうる。特にエリスロマイシンとクラリスロマイシンは肝の薬物代謝酵素CYP3A4を強く阻害するため、同じくQTを延長させる薬剤やCYP3A4で代謝される薬剤の血中濃度を上げ、危険を増す。CYP3A4阻害による相互作用として、スタチン(シンバスタチンなど)との併用による横紋筋融解症も重要である。そのほか悪心・腹痛などの消化器症状や肝障害が多い。
- ○d. ニューキノロン系
正解。レボフロキサシン、モキシフロキサシンなどのニューキノロン系もhERGチャネルを阻害し、QT延長・TdPの原因となる。QTを延長させるクラスⅠa・Ⅲの抗不整脈薬(ジソピラミド、アミオダロン、ソタロールなど)を服用中の患者では、併用禁忌または慎重投与となる。その他の重要な副作用として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)併用時のけいれん、アキレス腱炎・腱断裂、血糖異常(低血糖・高血糖)、大動脈瘤・大動脈解離のリスク増加がある。また、マグネシウム・アルミニウム・カルシウム・鉄を含む製剤と同時に内服するとキレートを形成して吸収が低下する。
- ×e. アミノグリコシド系
誤り。ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシンなどのアミノグリコシド系はQT延長を起こさない。代表的な副作用は腎障害(尿細管障害)と第8脳神経障害(聴覚障害・前庭障害)で、聴覚障害は不可逆的となりやすい。ほかに神経筋接合部遮断作用があり、重症筋無力症の増悪や筋弛緩薬の作用増強に注意する。血中濃度モニタリング(TDM)を行いながら使用する。
QT延長を起こす主な薬剤
・抗不整脈薬:クラスⅠa(キニジン、ジソピラミド、プロカインアミド)、クラスⅢ(アミオダロン、ソタロール、ニフェカラント) ・抗菌薬:マクロライド系、ニューキノロン系 ・抗真菌薬:アゾール系(フルコナゾールなど) ・向精神薬:抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジンなど)、三環系抗うつ薬 ・その他:抗アレルギー薬の一部、制吐薬の一部、メサドンなど
QT延長を助長する因子
低カリウム血症、低マグネシウム血症(利尿薬使用時などに注意)、徐脈、女性、高齢、心不全などの器質的心疾患、先天性QT延長症候群、複数のQT延長薬の併用、CYP3A4阻害による血中濃度上昇。
トルサード・ド・ポアントへの対応
原因薬剤の中止、電解質補正、硫酸マグネシウムの静注が基本である。血行動態が破綻していれば電気的除細動を行う。徐脈依存性の場合は一時的ペーシングやイソプロテレノールで心拍数を上げることも有効である。
抗菌薬の系統別の代表的副作用
・β-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系):過敏反応、アナフィラキシー ・マクロライド系:QT延長、消化器症状、CYP3A4阻害による相互作用 ・ニューキノロン系:QT延長、NSAIDs併用時のけいれん、腱障害、血糖異常 ・アミノグリコシド系:腎障害、聴覚障害(第8脳神経障害) ・グリコペプチド系(バンコマイシン):腎障害、レッドマン症候群 ・テトラサイクリン系:歯牙着色、光線過敏症
POINT
・QT延長に注意すべき抗菌薬はマクロライド系とニューキノロン系。 ・機序はhERG(IKr)カリウムチャネル阻害による再分極遅延。 ・QT延長はTdPから心室細動・突然死に至りうる。低K・低Mg、他のQT延長薬との併用で危険が増す。 ・アミノグリコシド系は腎障害と聴覚障害、β-ラクタム系はアレルギーが代表的副作用。
