StudyMed医師国家試験

その抗菌薬、心電図は確認した?―QT延長を招くマクロライドとニューキノロン

第110回医師国家試験 E問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第34問

QT延長に注意すべき抗菌薬はどれか。2つ選べ。

  1. a.セフェム系
  2. b.ペニシリン系
  3. c.マクロライド系
  4. d.ニューキノロン系
  5. e.アミノグリコシド系

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、抗菌薬の系統ごとの副作用のうち、心電図のQT延長に注意すべきものを選ぶ問題だ。カギは「なぜQTが延びるのか」という機序。そこを理解すると、選ぶべき系統が自然に見えてくるよ。まずQT間隔が何を表しているか、覚えているかな。
医学生医学生
Q波の始まりからT波の終わりまでで、心室の脱分極から再分極が終わるまでの時間ですよね。生理学の実習で心電図を測ったときに習いました。
ドクタードクター
その通り。心拍数で変わるから補正したQTcで評価して、おおむね男性で450ms、女性で460msを超えると延長と判断されることが多い。500msを超えると危険性が大きく高まるんだ。では、QTが延びると何が怖い?
医学生医学生
トルサード・ド・ポアントですね。QRSの向きがねじれるように変わる心室頻拍で、心室細動に移行することがあると。
ドクタードクター
そう、突然死につながりうるから重要なんだ。薬剤性QT延長の多くは、心筋の再分極を担うカリウム電流、特に遅延整流カリウム電流の速い成分であるIKrを流すhERGチャネルを薬が阻害することで起こる。再分極が遅れて、QTが延びるわけだ。
医学生医学生
抗菌薬でhERGを阻害するとなると…ニューキノロン系は聞いたことがあります。ほかはアミノグリコシド系でしょうか。毒性が強いイメージがあって。
ドクタードクター
毒性が強いイメージは正しいけれど、アミノグリコシド系の代表的な副作用は腎障害と第8脳神経障害、つまり聴覚・前庭障害なんだ。聴覚障害は不可逆になりやすいから、血中濃度をモニタリングしながら使う。神経筋接合部の遮断作用もあって、重症筋無力症の増悪にも注意が要る。でもQT延長は起こさない。
医学生医学生
そうでした。薬理学で腎毒性と耳毒性をセットで覚えました。ではもう一つはマクロライド系ですか。
ドクタードクター
正解。マクロライド系とニューキノロン系の2つがhERGチャネルを阻害する代表的な抗菌薬だ。マクロライドではエリスロマイシンとクラリスロマイシンが肝のCYP3A4を強く阻害する点も大事で、併用薬の血中濃度を上げて、ほかのQT延長薬の危険を増してしまう。
医学生医学生
CYP3A4阻害といえば、スタチンとの併用で横紋筋融解症が起こる話もありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。相互作用の多い薬だから、処方前に併用薬の確認が欠かせない。ニューキノロン系はレボフロキサシンやモキシフロキサシンなどで、クラスⅠaやⅢの抗不整脈薬を飲んでいる人では併用禁忌や慎重投与になる。そのほか、NSAIDs併用時のけいれん、アキレス腱障害、血糖異常、大動脈瘤・大動脈解離のリスク増加も押さえておきたい。
医学生医学生
内科の実習で、ニューキノロンを処方するとき「酸化マグネシウムと一緒に飲まないように」と指導医の先生が説明していました。
ドクタードクター
キレートを作って吸収が落ちるからだね。マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、鉄を含む製剤には注意だ。では残りのペニシリン系とセフェム系はどう考える?
医学生医学生
どちらもβ-ラクタム系で細胞壁合成阻害ですよね。心筋のカリウムチャネルには関係なさそうです。一番怖いのはアナフィラキシーでしょうか。
ドクタードクター
そう。β-ラクタム系で最も重要なのは過敏反応だ。ペニシリン系では、伝染性単核症の患者にアンピシリンなどを使うと高率に発疹が出ることも有名だね。セフェム系では、一部の薬剤で飲酒時のジスルフィラム様反応やビタミンK欠乏による出血傾向も知られている。どちらも高用量や腎機能低下時のけいれんには注意が要るけれど、QT延長は問題にならない。
医学生医学生
系統ごとに「この副作用」とセットで覚えておけば、迷わず選べそうです。
ドクタードクター
それが大切。最後に臨床での注意点だ。QT延長を助長する因子として、低カリウム血症、低マグネシウム血症、徐脈、女性、高齢、心不全などの器質的心疾患、先天性QT延長症候群、そして複数のQT延長薬の併用がある。抗菌薬以外にも、アゾール系抗真菌薬、抗精神病薬、三環系抗うつ薬、クラスⅠa・Ⅲの抗不整脈薬などがQTを延ばすよ。
医学生医学生
利尿薬で低カリウムになっている高齢の方に、肺炎でニューキノロンを出す…みたいな場面は危ないわけですね。
ドクタードクター
まさにそういう場面でリスクが重なる。処方前に心電図と電解質を確認しておくと安心だ。もしTdPが起きたら、原因薬剤の中止と電解質補正、硫酸マグネシウムの静注が基本で、血行動態が破綻していれば電気的除細動を行う。徐脈依存性なら一時的ペーシングなどで心拍数を上げることも有効だよ。

まとめ

QT延長に注意すべき抗菌薬はマクロライド系とニューキノロン系で、いずれも心筋の再分極を担うhERG(IKr)カリウムチャネルを阻害して再分極を遅らせ、トルサード・ド・ポアントから心室細動・突然死に至ることがあります。マクロライド系の一部はCYP3A4阻害により併用薬の血中濃度を上げ、ニューキノロン系はけいれん、腱障害、血糖異常、金属イオンとのキレート形成にも注意が必要です。一方、ペニシリン系・セフェム系では過敏反応、アミノグリコシド系では腎障害と聴覚障害が代表的な副作用で、QT延長は問題になりません。低カリウム・低マグネシウム血症、徐脈、高齢、他のQT延長薬との併用はリスクを高めるため、処方前の心電図・電解質・併用薬の確認が重要であり、系統ごとの副作用を整理しておくことは安全な抗菌薬選択の基本となります。

解答・解説

正解はc, dです

問われていること

抗菌薬の系統ごとの代表的な副作用のうち、心電図上のQT延長を起こしやすいものを選ぶ問題である。

QT延長とは

QT間隔は心電図でQ波の始まりからT波の終わりまでで、心室の脱分極から再分極が終わるまでの時間を表す。心拍数の影響を受けるため補正QT(QTc)で評価し、おおむね男性で450ms、女性で460msを超えると延長と判断されることが多い(500msを超えると危険性が大きく高まる)。QTが延長すると、多形性心室頻拍の一種であるトルサード・ド・ポアント(TdP:QRS波の向きがねじれるように変化する心室頻拍)を起こし、心室細動へ移行して突然死に至ることがある。

薬剤性QT延長の機序

多くの薬剤性QT延長は、心筋の再分極を担うカリウム電流(遅延整流カリウム電流の速い成分 IKr)のチャネル(hERGチャネル)を薬剤が阻害することで起こる。抗菌薬ではマクロライド系とニューキノロン系がこの作用を持つ。一方、β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)やアミノグリコシド系にはこの作用はほとんどなく、それぞれ別の副作用が重要となる。 したがって、QT延長に注意すべき抗菌薬はマクロライド系とニューキノロン系の2つである。

選択肢考察

  1. ×a.  セフェム系

    誤り。セフェム系はβ-ラクタム系で、細菌の細胞壁合成を阻害する。心筋のカリウムチャネルには作用せず、QT延長は問題にならない。主な副作用はペニシリン系と同様の過敏反応(発疹、アナフィラキシー)、肝障害、血球減少、高用量時のけいれんなどである。一部のセフェム(N-メチルテトラゾールチオール基を持つもの)では、飲酒時のジスルフィラム様反応やビタミンK欠乏による出血傾向にも注意する。

  2. ×b.  ペニシリン系

    誤り。ペニシリン系もβ-ラクタム系で、QT延長はきたさない。最も重要な副作用はアナフィラキシーを含む過敏反応であり、そのほか発疹、間質性腎炎、肝障害、血球減少、腎機能低下時の大量投与によるけいれんなどがある。伝染性単核症(EBウイルス感染症)の患者にアンピシリンなどを投与すると高率に発疹が出ることも知られている。

  3. ○c.  マクロライド系

    正解。エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどのマクロライド系はhERGチャネルを阻害し、QT延長からTdPを起こしうる。特にエリスロマイシンとクラリスロマイシンは肝の薬物代謝酵素CYP3A4を強く阻害するため、同じくQTを延長させる薬剤やCYP3A4で代謝される薬剤の血中濃度を上げ、危険を増す。CYP3A4阻害による相互作用として、スタチン(シンバスタチンなど)との併用による横紋筋融解症も重要である。そのほか悪心・腹痛などの消化器症状や肝障害が多い。

  4. ○d.  ニューキノロン系

    正解。レボフロキサシン、モキシフロキサシンなどのニューキノロン系もhERGチャネルを阻害し、QT延長・TdPの原因となる。QTを延長させるクラスⅠa・Ⅲの抗不整脈薬(ジソピラミド、アミオダロン、ソタロールなど)を服用中の患者では、併用禁忌または慎重投与となる。その他の重要な副作用として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)併用時のけいれん、アキレス腱炎・腱断裂、血糖異常(低血糖・高血糖)、大動脈瘤・大動脈解離のリスク増加がある。また、マグネシウム・アルミニウム・カルシウム・鉄を含む製剤と同時に内服するとキレートを形成して吸収が低下する。

  5. ×e.  アミノグリコシド系

    誤り。ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシンなどのアミノグリコシド系はQT延長を起こさない。代表的な副作用は腎障害(尿細管障害)と第8脳神経障害(聴覚障害・前庭障害)で、聴覚障害は不可逆的となりやすい。ほかに神経筋接合部遮断作用があり、重症筋無力症の増悪や筋弛緩薬の作用増強に注意する。血中濃度モニタリング(TDM)を行いながら使用する。

QT延長を起こす主な薬剤

・抗不整脈薬:クラスⅠa(キニジン、ジソピラミド、プロカインアミド)、クラスⅢ(アミオダロン、ソタロール、ニフェカラント) ・抗菌薬:マクロライド系、ニューキノロン系 ・抗真菌薬:アゾール系(フルコナゾールなど) ・向精神薬:抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジンなど)、三環系抗うつ薬 ・その他:抗アレルギー薬の一部、制吐薬の一部、メサドンなど

QT延長を助長する因子

低カリウム血症、低マグネシウム血症(利尿薬使用時などに注意)、徐脈、女性、高齢、心不全などの器質的心疾患、先天性QT延長症候群、複数のQT延長薬の併用、CYP3A4阻害による血中濃度上昇。

トルサード・ド・ポアントへの対応

原因薬剤の中止、電解質補正、硫酸マグネシウムの静注が基本である。血行動態が破綻していれば電気的除細動を行う。徐脈依存性の場合は一時的ペーシングやイソプロテレノールで心拍数を上げることも有効である。

抗菌薬の系統別の代表的副作用

・β-ラクタム系(ペニシリン系・セフェム系):過敏反応、アナフィラキシー ・マクロライド系:QT延長、消化器症状、CYP3A4阻害による相互作用 ・ニューキノロン系:QT延長、NSAIDs併用時のけいれん、腱障害、血糖異常 ・アミノグリコシド系:腎障害、聴覚障害(第8脳神経障害) ・グリコペプチド系(バンコマイシン):腎障害、レッドマン症候群 ・テトラサイクリン系:歯牙着色、光線過敏症

POINT

・QT延長に注意すべき抗菌薬はマクロライド系とニューキノロン系。 ・機序はhERG(IKr)カリウムチャネル阻害による再分極遅延。 ・QT延長はTdPから心室細動・突然死に至りうる。低K・低Mg、他のQT延長薬との併用で危険が増す。 ・アミノグリコシド系は腎障害と聴覚障害、β-ラクタム系はアレルギーが代表的副作用。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。