健康な人のK+が6.0?―LD・ASTとそろって上がったら「試験管の中」を疑え
第110回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
基礎疾患を有さない成人の生化学データを示す。 採血時の溶血を示唆するのはどれか。 AST (IU/L) ALT (IU/L) LD (IU/L) (基準176~353) γ-GTP (IU/L) (基準8~50) Na+ (mEq/L) K+ (mEq/L) a 30 56 200 36 152 4.0 b 30 56 200 62 137 4.0 c 30 56 200 62 137 6.0 d 48 16 420 36 137 6.0 e 48 16 420 62 137 4.0
- a.30 56 200 36 152 4.0
- b.30 56 200 62 137 4.0
- c.30 56 200 62 137 6.0
- d.48 16 420 36 137 6.0
- e.48 16 420 62 137 4.0
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
採血時に試験管内で赤血球が壊れると、赤血球内に高濃度で含まれるLD・K+・ASTが見かけ上上昇し、赤血球内に少ないALT・γ-GTPや、血清中の方が濃いNa+はほとんど変化しません。したがって「ALT正常でAST優位の上昇があり、LDとK+も同時に高い」という組み合わせを見たら、まず溶血検体を疑います。K+単独の上昇は腎機能障害やクレンチング、血球増多による偽性高カリウム血症などを、ASTとLDのみの上昇は筋障害や溶血性貧血などの体内の変化を考えるべきパターンです。体内の溶血ではK+上昇が目立たず、間接ビリルビン上昇やハプトグロビン低下を伴う点も鑑別の手がかりになります。検査値の異常が病態なのか検体の問題なのかを見極め、必要なら再採血で確認する姿勢は、不要な治療を避けるための臨床の基本です。
解答・解説
正解はdです
問われていること
採血の手技などによって試験管内で赤血球が壊れる「採血時の溶血(in vitro溶血)」が起こると、検査値にどのような変化が出るかを問う問題である。表にはAST・ALT・γ-GTP・Na+・K+の基準値が示されていないが、一般的な目安はAST 10〜40 IU/L、ALT 5〜40 IU/L前後、Na+ 136〜145 mEq/L、K+ 3.5〜5.0 mEq/L程度である。
溶血で検査値が変わる仕組み
赤血球が壊れると、細胞内の成分が血清(血漿)中に流れ出る。したがって「赤血球内の濃度が血清中の濃度よりはるかに高い成分」は見かけ上高値となり、「赤血球内にほとんど含まれない成分」は変化しない(大量の溶血では、むしろわずかに希釈される)。 ・著明に上昇するもの: LD(乳酸脱水素酵素。赤血球内には血清の百倍以上含まれ、溶血の影響を最も受けやすい)、K+(赤血球内の濃度は約100 mEq/Lで、血清の約20倍以上)、AST(赤血球内に血清の数十倍) ・あまり変化しないもの: ALT(赤血球内にも含まれるが量が少なく、上昇はわずか)、γ-GTP(赤血球にほとんど含まれない)、Na+(赤血球内の濃度は血清より低い)
考え方
以上から、溶血を示唆するパターンは「LD・K+・ASTが上昇し、ALT・γ-GTP・Na+は基準範囲内」である。さらに、本問の対象は基礎疾患のない成人であり、真の病態による異常値が出る理由が乏しいことも、検体側の問題(溶血)を考える根拠となる。各選択肢の数値をこのパターンに照らすと、AST 48(軽度高値)、ALT 16(正常)、LD 420(高値)、γ-GTP 36(正常)、Na+ 137(正常)、K+ 6.0(高値)を示すdがすべての条件を満たす。
選択肢考察
- ×a. 30 56 200 36 152 4.0
誤り。LD 200とK+ 4.0は基準範囲内でASTも正常であり、溶血で上がるべき項目が上がっていない。異常はALT 56の軽度上昇とNa+ 152の高ナトリウム血症である。Na+は赤血球内より血清中の方が濃度が高いので、溶血によって上昇することはない。高ナトリウム血症は脱水(水分の喪失や摂取不足)などの体内の病態を考えるべき所見である。
- ×b. 30 56 200 62 137 4.0
誤り。LD・K+・ASTはいずれも正常で、溶血の所見はない。ALT 56とγ-GTP 62が軽度に上昇しており、ALT優位の肝細胞障害と胆道系酵素の上昇を示すパターンである。脂肪肝やアルコール性肝障害、薬剤性肝障害など肝臓自体の異常を考える所見であり、ALTやγ-GTPは赤血球内にほとんど含まれないため溶血では説明できない。
- ×c. 30 56 200 62 137 6.0
誤り。K+ 6.0と高値ではあるが、溶血ならば同時に上昇するはずのLD(200で正常)とAST(30で正常)が上がっておらず、溶血による偽性高カリウム血症とは考えにくい。ALTとγ-GTPの上昇は肝障害を示す。K+のみの上昇では、腎機能障害などによる真の高カリウム血症のほか、採血前の手の握りしめ(クレンチング)、全血のまま長時間・低温で放置したことによる細胞外への漏出、血小板や白血球の著増など、溶血以外の原因による偽性高カリウム血症も鑑別に挙がる。
- ○d. 48 16 420 36 137 6.0
正しい。LD 420(基準176〜353)、K+ 6.0、AST 48がそろって上昇しており、いずれも赤血球内に高濃度に含まれる成分である。一方で、赤血球内にわずかしか含まれないALT(16)とγ-GTP(36)、血清中の方が濃度の高いNa+(137)は基準範囲内である。ALTが正常なのにASTだけが上がっていることから肝細胞障害とは考えにくく、基礎疾患のない成人であることも合わせると、採血時の溶血による見かけ上の変化と判断できる。実際の臨床では、血清の赤色調(溶血の肉眼的確認)や検査機器の溶血指数を確認し、疑わしければ再採血して確かめる。
- ×e. 48 16 420 62 137 4.0
誤り。ASTとLDは上昇しているが、溶血ならば同時に上昇するはずのK+が4.0と正常である。またγ-GTP 62の上昇は、γ-GTPが赤血球にほとんど含まれないことから溶血では説明できない。ASTとLDのみの上昇は、筋肉の障害(激しい運動後、横紋筋融解症など)や体内での溶血(溶血性貧血)など、体内で起こっている変化を考えるべきパターンであり、γ-GTPの上昇は飲酒などによる影響も考えられる。
採血時の溶血の原因
・細い注射針で強く・速く吸引する ・駆血帯による締めつけが強すぎる、または長すぎる ・真空採血管に規定量まで採血しない(陰圧が残り、血球に負担がかかる) ・採血管を強く振って混和する(転倒混和は穏やかに行う) ・注射器から採血管へ針をつけたまま勢いよく注入する ・全血の長時間放置、凍結や過度の加温
溶血で影響を受ける主な項目
・上昇: LD(特に赤血球に多いアイソザイムLD1・LD2)、K+、AST、血清鉄、酸性ホスファターゼ、Mg、無機リン、遊離ヘモグロビン ・ほとんど変化しない、または低下: ALT(わずかに上昇しうる)、γ-GTP、Na+、Cl-
in vitro溶血と体内での溶血の違い
溶血性貧血など体内で赤血球が壊れる場合も、LD・AST・間接ビリルビンが上昇し、ハプトグロビンが低下する。ただし体内で放出されたK+は腎臓からの排泄や細胞内への取り込みで処理されるため、K+の上昇は通常目立たない。これに対し、試験管内の溶血では漏れ出たK+がそのまま測定されるので、K+の上昇がはっきりと現れる。また、試験管内の溶血では網赤血球の増加や黄疸などの臨床所見を伴わない。
POINT
・採血時の溶血では、赤血球内に多いLD・K+・ASTが見かけ上上昇する。 ・ALT・γ-GTP・Na+は赤血球内に少ないため、溶血ではほとんど変化しない。 ・ALT正常でAST優位の上昇とLD・K+の上昇が同時にあれば、まず溶血検体を疑い、再採血で確認する。 ・溶血の原因: 細い針での強い吸引、長時間の駆血、採血量不足、激しい混和など。
