感染力が強ければ入院?―入院勧告の線引きは「類型」で決まる
第110回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
感染症法に基づく入院勧告の対象はどれか。
- a.麻疹
- b.コレラ
- c.ポリオ
- d.デング熱
- e.日本脳炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
感染症法に基づく入院勧告は、従わない場合に入院措置まで取れる強い措置であり、対象は1類・2類感染症、新型インフルエンザ等感染症、政令で定めた指定感染症や新感染症に限られます。ポリオ(急性灰白髄炎)は結核・ジフテリア・SARS・MERS・鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)と並ぶ2類感染症で、入院勧告の対象です。コレラは3類で就業制限が中心、デング熱と日本脳炎は蚊が媒介する4類で媒介動物の駆除などの対物措置が中心、麻疹は5類で入院勧告の対象ではありませんが、感染力の強さから直ちに届け出る必要があります。「感染力の強さ」ではなく「類型」が措置を決めることを理解し、各類型の代表疾患と取れる措置をセットで整理しておくことが、届出義務を負う臨床医としての基本になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)では、感染症を感染力や重篤度などに基づいて1類〜5類などに分類し、類型ごとに行政がとれる措置を定めている。本問は、そのうち「入院勧告」がどの類型に適用されるかと、各疾患がどの類型に属するかを組み合わせて問う一般問題である。
入院勧告の対象
入院勧告は、都道府県知事が患者に対して感染症指定医療機関などへの入院を勧めるもので、従わない場合には入院措置(強制的な入院)をとることができる。人権を強く制限する措置であるため、対象は感染力・重篤度が特に高い類型に限られる。 ・1類感染症 ・2類感染症 ・新型インフルエンザ等感染症 ・指定感染症(政令で入院の規定を準用すると定めた場合) ・新感染症 3類感染症では入院勧告は行われず、飲食物の取扱いなど特定の職業への就業制限が中心となる。4類感染症は動物や飲食物を介してヒトに感染するもので、媒介動物の駆除や消毒などの対物措置が中心である。5類感染症は発生動向の調査と情報提供が中心であり、いずれも入院勧告の対象ではない。
考え方
選択肢の疾患の類型は、麻疹が5類、コレラが3類、ポリオ(急性灰白髄炎)が2類、デング熱と日本脳炎が4類である。したがって入院勧告の対象となるのは2類感染症であるポリオである。
選択肢考察
- ×a. 麻疹
誤り。麻疹は5類感染症(全数把握対象)であり、入院勧告の対象ではない。ただし麻疹は感染力が極めて強く、早期の対策が必要なため、5類でありながら風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症とともに、診断後「直ちに」届け出ることが求められている(他の全数把握の5類感染症は7日以内)。感染力が強いことと入院勧告の対象であることは別であり、混同しないよう注意する。
- ×b. コレラ
誤り。コレラは3類感染症であり、入院勧告の対象ではない。3類感染症は、重篤性はそれほど高くないものの、特定の職業(飲食物の製造・調理など)に就くことで集団発生を起こしうる疾患で、主な措置は就業制限や消毒である。3類にはコレラのほか、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフスが含まれる。なお、かつての伝染病予防法ではコレラは法定伝染病として隔離の対象であったが、1999年施行の感染症法で現在の扱いとなった。
- ○c. ポリオ
正しい。ポリオ(急性灰白髄炎)はポリオウイルスによる感染症で、脊髄前角細胞が障害されると弛緩性麻痺を残すことがある。感染症法では2類感染症に分類されており、2類感染症は入院勧告の対象である。患者が勧告に従わない場合は入院措置をとることができる。2類感染症にはほかに結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、鳥インフルエンザ(H5N1およびH7N9)がある。
- ×d. デング熱
誤り。デング熱はネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介するデングウイルス感染症で、感染症法では4類感染症に分類される。ヒトからヒトへ直接感染することはないため入院勧告の対象とはならず、媒介する蚊の駆除などの対物措置が中心となる。2014年には国内での感染例が多数報告され、蚊の駆除が行われた。
- ×e. 日本脳炎
誤り。日本脳炎はブタを増幅動物としてコガタアカイエカが媒介する日本脳炎ウイルスによる感染症で、4類感染症に分類される。ヒトからヒトへは感染しないため入院勧告の対象ではない。予防は定期予防接種(不活化ワクチン)と蚊の対策が中心である。
感染症法の主な類型と措置
・1類感染症: エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱。入院勧告・措置、就業制限、消毒、交通制限などが可能。原則として第一種感染症指定医療機関に入院する。 ・2類感染症: 急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)。入院勧告・措置、就業制限、消毒などが可能。 ・3類感染症: コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス。就業制限、消毒など。入院勧告はない。 ・4類感染症: E型肝炎、A型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、日本脳炎、黄熱、つつが虫病、エムポックスなど。動物・物件への措置(消毒、ねずみ・蚊などの駆除)が中心。 ・5類感染症: 麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症、後天性免疫不全症候群、梅毒、インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ等を除く)など。発生動向調査と情報公開が中心。全数把握対象と定点把握対象がある。 ・新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症: 状況に応じて1類相当までの措置がとれる。新型コロナウイルス感染症は、新型インフルエンザ等感染症として扱われた後、2023年5月に5類感染症へ移行した。
届出
1〜4類感染症および新型インフルエンザ等感染症は、診断した医師が直ちに保健所長を経由して都道府県知事に届け出る。5類感染症の全数把握対象は原則7日以内だが、麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る。
POINT
・入院勧告の対象は1類・2類感染症、新型インフルエンザ等感染症など(指定感染症・新感染症も含みうる)。3〜5類は対象外。 ・2類: ポリオ、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)。 ・3類: コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス(就業制限)。 ・デング熱・日本脳炎は蚊が媒介する4類、麻疹は5類(ただし直ちに届出)。
