増えるのはIgMだけ―マクログロブリン血症を「リンパ腫」と「巨大分子」で読み解く
第110回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
マクログロブリン血症で認めないのはどれか。
- a.脾腫大
- b.血球減少
- c.高IgG血症
- d.リンパ節腫脹
- e.Raynaud症状
対話形式の解説
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ドクターまとめ
マクログロブリン血症(Waldenströmマクログロブリン血症)は、リンパ形質細胞が単クローン性IgMを産生する低悪性度B細胞リンパ腫で、MYD88 L265P変異が高頻度にみられます。症状は、リンパ節腫脹・肝脾腫・骨髄浸潤による血球減少という「リンパ腫としての症状」と、過粘稠度症候群やクリオグロブリンによるRaynaud症状、末梢神経障害などの「IgMによる症状」に分けて整理できます。増加するのはIgMであり、IgGは増えずむしろ低下しやすい点が重要で、IgG型M蛋白が最多となる多発性骨髄腫とは、リンパ節腫脹の有無や骨病変・高カルシウム血症・腎障害の頻度でも区別されます。治療は症状出現時にリツキシマブ中心の化学療法やBTK阻害薬を用い、過粘稠度症候群には血漿交換が有効です。M蛋白血症を「どの免疫グロブリンが、どんな細胞から作られるか」で整理することは、形質細胞・B細胞腫瘍全体を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
原発性マクログロブリン血症(Waldenströmマクログロブリン血症:WM)は、成熟B細胞から形質細胞へ分化する途中段階にある腫瘍細胞(リンパ形質細胞)が骨髄を中心に増殖し、単クローン性のIgM(M蛋白)を大量に産生する疾患である。WHO分類ではリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)のうち、骨髄浸潤とIgM型M蛋白を伴うものと位置づけられ、低悪性度(緩徐進行型)B細胞リンパ腫に属する。高齢者に多く、腫瘍細胞の大部分にMYD88 L265P遺伝子変異を認める。
症状の整理
WMの症状は大きく二つに分けて考えると理解しやすい。 ①腫瘍細胞の浸潤による症状:骨髄浸潤による血球減少(特に貧血)、リンパ節腫脹、肝脾腫。リンパ腫としての性格を反映している。 ②IgM(M蛋白)による症状:IgMは5量体の巨大分子であるため血漿粘稠度が上がりやすく、過粘稠度症候群(頭痛、めまい、視力障害、網膜静脈の怒張・蛇行と出血、鼻出血・歯肉出血など)を起こす。さらに、IgMが寒冷で沈殿するクリオグロブリンとして振る舞ったり、寒冷凝集素として働いたりするとRaynaud症状や末梢循環障害、溶血性貧血を生じる。IgMが末梢神経の成分(MAGなど)に反応して末梢神経障害を起こすこともある。
正解を導く考え方
増加するM蛋白は定義上IgMである。IgGが単クローン性に増加するのは多発性骨髄腫(IgG型が最多)やIgG型MGUSであり、WMではIgGが増加することはなく、むしろ正常のIgG・IgAは低下していることが多い。したがって「認めない」ものは高IgG血症である。
選択肢考察
- ×a. 脾腫大
認める。WMはリンパ腫の一型であり、腫瘍細胞が脾臓や肝臓に浸潤して肝脾腫をきたすことがある。脾腫やリンパ節腫脹といった髄外病変がみられやすい点は、多発性骨髄腫との鑑別点の一つである。
- ×b. 血球減少
認める。腫瘍細胞が骨髄に浸潤して正常造血を障害するため、貧血を中心に、白血球減少や血小板減少をきたす。貧血はWMで最も多い症状の一つであり、全身倦怠感の原因となる。脾腫による脾機能亢進や、寒冷凝集素による溶血、血漿量増加による希釈も貧血に関与しうる。
- ○c. 高IgG血症
認めない(これが正解)。WMで単クローン性に増加する免疫グロブリンはIgMである。血清蛋白電気泳動でγ分画にMピークを認め、免疫電気泳動(免疫固定法)でIgM型(κまたはλのいずれか一方の軽鎖)と同定される。IgGが著増するのは多発性骨髄腫などであり、WMでは正常なIgGやIgAは増えず、むしろ低下していることが少なくない。
- ×d. リンパ節腫脹
認める。リンパ形質細胞性リンパ腫として、腫瘍細胞がリンパ節に浸潤し、全身のリンパ節腫脹をきたすことがある。多発性骨髄腫では通常リンパ節腫脹はみられないため、両者を区別する重要な所見である。
- ×e. Raynaud症状
認める。増加したIgMが寒冷で沈殿するクリオグロブリン(単クローン性のI型クリオグロブリン)として働くと、寒冷曝露時に末梢の小血管で沈殿・血流障害を起こし、手指が白→紫→赤と色調変化するRaynaud症状をきたす。過粘稠度による末梢循環障害や、IgMが寒冷凝集素として働くことも末梢の循環障害の原因となる。頻度は高くないが、WMに特徴的な症状の一つである。
WMと多発性骨髄腫の比較
・腫瘍細胞:WMはリンパ形質細胞(B細胞と形質細胞の中間)、骨髄腫は形質細胞 ・M蛋白:WMはIgM、骨髄腫はIgG(最多)、IgA、Bence Jones蛋白型など ・リンパ節腫脹・肝脾腫:WMでみられる、骨髄腫では通常みられない ・骨病変(打ち抜き像)・高カルシウム血症・腎障害:骨髄腫で多い、WMではまれ ・過粘稠度症候群:IgMは5量体で分子量が大きいためWMで起こりやすい(骨髄腫でもIgA型などで起こりうる)
過粘稠度症候群
血漿の粘稠度が上がり微小循環が障害されることで生じる。症状は、頭痛・めまい・意識障害などの神経症状、視力障害、眼底の網膜静脈の拡張・蛇行(ソーセージ様)と網膜出血、鼻出血や歯肉出血、心不全などである。IgMが高濃度(およそ3~4g/dL以上)になると起こりやすい。緊急の治療として血漿交換が有効である。
出血傾向
WMでは、M蛋白が血小板や凝固因子に結合してその機能を妨げることや、過粘稠度による血管障害によって出血傾向をきたすことがある。
その他の合併症
・末梢神経障害:IgMが末梢神経の髄鞘成分(MAGなど)に結合して脱髄性ニューロパチーを起こす ・寒冷凝集素症:IgMが赤血球に結合し、寒冷時に溶血を起こす ・アミロイドーシス:M蛋白の軽鎖由来
検査所見のポイント
血清IgM著増、赤沈著明亢進、赤血球の連銭形成、骨髄でのリンパ形質細胞浸潤、MYD88 L265P変異。
治療
無症状であれば経過観察が基本で、症状(血球減少、過粘稠度症候群、臓器腫大など)が出現したら、抗CD20抗体リツキシマブを中心とした化学療法や、BTK阻害薬などを用いる。過粘稠度症候群には血漿交換を行う。
POINT
・マクログロブリン血症(WM)は、リンパ形質細胞が単クローン性IgMを産生する低悪性度B細胞リンパ腫である。 ・増加するのはIgMであり、IgGは増加しない(むしろ低下しやすい)。 ・リンパ腫としての症状:リンパ節腫脹、肝脾腫、骨髄浸潤による血球減少(貧血)。 ・IgMによる症状:過粘稠度症候群(視力障害、網膜静脈のソーセージ様変化、出血傾向、神経症状)、クリオグロブリン・寒冷凝集素によるRaynaud症状、末梢神経障害。 ・多発性骨髄腫と異なり、骨病変・高カルシウム血症・腎障害はまれである。
