StudyMed医師国家試験

増えるのはIgMだけ―マクログロブリン血症を「リンパ腫」と「巨大分子」で読み解く

第110回医師国家試験 D問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第110回 D問題 第8問

マクログロブリン血症で認めないのはどれか。

  1. a.脾腫大
  2. b.血球減少
  3. c.高IgG血症
  4. d.リンパ節腫脹
  5. e.Raynaud症状

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はマクログロブリン血症の特徴を問う問題だ。この病気は「リンパ腫としての顔」と「IgMという巨大な分子を作る顔」の二つを持っている。症状をこの二つに分けて整理すると、どの選択肢が当てはまらないかが見えてくるよ。まず、どんな病気か覚えているかな。
医学生医学生
血液内科の講義で、Waldenströmマクログロブリン血症という名前で習いました。M蛋白が出る病気なので、多発性骨髄腫の仲間だと思っています。
ドクタードクター
M蛋白が出るという点は共通しているね。ただ、腫瘍細胞は形質細胞そのものではなく、成熟B細胞から形質細胞へ分化する途中のリンパ形質細胞なんだ。分類上はリンパ形質細胞性リンパ腫のうち、骨髄浸潤とIgM型M蛋白を伴うものとされ、ゆっくり進む低悪性度のB細胞リンパ腫に属する。高齢者に多く、ほとんどの症例でMYD88 L265Pという遺伝子変異がみられる。
医学生医学生
リンパ腫ということは、リンパ節が腫れたり脾臓が大きくなったりするんですか。
ドクタードクター
その通り。腫瘍細胞がリンパ節や脾臓、肝臓に浸潤して、リンパ節腫脹や肝脾腫をきたすことがある。これは多発性骨髄腫では通常みられない所見だから、両者を見分ける大事なポイントになる。
医学生医学生
骨髄にも浸潤するなら、血球減少も起こりそうですね。
ドクタードクター
そう。骨髄で腫瘍細胞が増えると正常な造血が押しやられて、貧血を中心に白血球減少や血小板減少が起こる。貧血はこの病気で最も多い症状の一つで、だるさの原因になる。寒冷凝集素による溶血や、血漿量の増加による希釈も貧血に関わりうるよ。ここまでが「リンパ腫としての顔」だ。
医学生医学生
もう一つの「IgMの顔」というのは、どういう意味ですか。
ドクタードクター
IgMは5つの抗体が結合した5量体で、免疫グロブリンの中で最も大きな分子だ。これが大量に増えると血液がドロドロになる。これを過粘稠度症候群といって、頭痛やめまい、視力障害、鼻出血や歯肉出血などが起こる。眼底では網膜静脈がソーセージのように拡張・蛇行するのが特徴的だ。
医学生医学生
眼科の実習で眼底写真を見たとき、静脈が太く曲がりくねっていたのはこれだったのかもしれません。
ドクタードクター
印象に残る所見だよね。さらに、増えたIgMが寒冷で沈殿するクリオグロブリンとして振る舞うと、冷たい環境で手指の小血管が詰まって、白→紫→赤と色が変わるRaynaud症状を起こす。頻度は高くないけれど、この病気に特徴的な症状の一つだ。
医学生医学生
そうなると、高IgG血症はどうでしょう。M蛋白が増えるなら、免疫グロブリン全体が増えている気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。M蛋白は一つのクローンから作られる単一の免疫グロブリンだ。マクログロブリン血症で増えるのは定義上IgMで、IgGは増えない。むしろ正常なIgGやIgAは低下していることが少なくない。だから「認めない」のは高IgG血症だ。
医学生医学生
IgGが単クローン性に増えるのは、多発性骨髄腫のほうですね。CBTの問題で、骨髄腫のM蛋白はIgG型が最多と覚えました。
ドクタードクター
正確だね。検査では、血清蛋白電気泳動でγ分画にMピークを認め、免疫固定法でIgM型、軽鎖はκかλのどちらか一方と確認する。赤沈の著明な亢進や赤血球の連銭形成もみられる。
医学生医学生
骨髄腫との違いを整理すると、リンパ節腫脹や脾腫がある、増えるのはIgM、ということでしょうか。
ドクタードクター
それに加えて、骨髄腫で多い骨の打ち抜き像、高カルシウム血症、腎障害は、マクログロブリン血症ではまれだ。逆に過粘稠度症候群は分子の大きいIgMで起こりやすい。この対比で覚えると混乱しにくいよ。
医学生医学生
治療はどうするんですか。リンパ腫ならリツキシマブでしょうか。
ドクタードクター
無症状なら経過観察が基本で、血球減少や過粘稠度症候群、臓器腫大などの症状が出たら、抗CD20抗体のリツキシマブを中心とした化学療法やBTK阻害薬を使う。過粘稠度症候群で症状が強いときは、IgMを直接取り除く血漿交換が緊急治療として有効だ。IgMは大部分が血管内にとどまるから、血漿交換の効果が出やすいんだ。ほかに、IgMが末梢神経の髄鞘成分に反応して起こる脱髄性ニューロパチーや、M蛋白が凝固因子や血小板の働きを妨げることによる出血傾向にも注意しておこう。

まとめ

マクログロブリン血症(Waldenströmマクログロブリン血症)は、リンパ形質細胞が単クローン性IgMを産生する低悪性度B細胞リンパ腫で、MYD88 L265P変異が高頻度にみられます。症状は、リンパ節腫脹・肝脾腫・骨髄浸潤による血球減少という「リンパ腫としての症状」と、過粘稠度症候群やクリオグロブリンによるRaynaud症状、末梢神経障害などの「IgMによる症状」に分けて整理できます。増加するのはIgMであり、IgGは増えずむしろ低下しやすい点が重要で、IgG型M蛋白が最多となる多発性骨髄腫とは、リンパ節腫脹の有無や骨病変・高カルシウム血症・腎障害の頻度でも区別されます。治療は症状出現時にリツキシマブ中心の化学療法やBTK阻害薬を用い、過粘稠度症候群には血漿交換が有効です。M蛋白血症を「どの免疫グロブリンが、どんな細胞から作られるか」で整理することは、形質細胞・B細胞腫瘍全体を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

原発性マクログロブリン血症(Waldenströmマクログロブリン血症:WM)は、成熟B細胞から形質細胞へ分化する途中段階にある腫瘍細胞(リンパ形質細胞)が骨髄を中心に増殖し、単クローン性のIgM(M蛋白)を大量に産生する疾患である。WHO分類ではリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)のうち、骨髄浸潤とIgM型M蛋白を伴うものと位置づけられ、低悪性度(緩徐進行型)B細胞リンパ腫に属する。高齢者に多く、腫瘍細胞の大部分にMYD88 L265P遺伝子変異を認める。

症状の整理

WMの症状は大きく二つに分けて考えると理解しやすい。 ①腫瘍細胞の浸潤による症状:骨髄浸潤による血球減少(特に貧血)、リンパ節腫脹、肝脾腫。リンパ腫としての性格を反映している。 ②IgM(M蛋白)による症状:IgMは5量体の巨大分子であるため血漿粘稠度が上がりやすく、過粘稠度症候群(頭痛、めまい、視力障害、網膜静脈の怒張・蛇行と出血、鼻出血・歯肉出血など)を起こす。さらに、IgMが寒冷で沈殿するクリオグロブリンとして振る舞ったり、寒冷凝集素として働いたりするとRaynaud症状や末梢循環障害、溶血性貧血を生じる。IgMが末梢神経の成分(MAGなど)に反応して末梢神経障害を起こすこともある。

正解を導く考え方

増加するM蛋白は定義上IgMである。IgGが単クローン性に増加するのは多発性骨髄腫(IgG型が最多)やIgG型MGUSであり、WMではIgGが増加することはなく、むしろ正常のIgG・IgAは低下していることが多い。したがって「認めない」ものは高IgG血症である。

選択肢考察

  1. ×a.  脾腫大

    認める。WMはリンパ腫の一型であり、腫瘍細胞が脾臓や肝臓に浸潤して肝脾腫をきたすことがある。脾腫やリンパ節腫脹といった髄外病変がみられやすい点は、多発性骨髄腫との鑑別点の一つである。

  2. ×b.  血球減少

    認める。腫瘍細胞が骨髄に浸潤して正常造血を障害するため、貧血を中心に、白血球減少や血小板減少をきたす。貧血はWMで最も多い症状の一つであり、全身倦怠感の原因となる。脾腫による脾機能亢進や、寒冷凝集素による溶血、血漿量増加による希釈も貧血に関与しうる。

  3. ○c.  高IgG血症

    認めない(これが正解)。WMで単クローン性に増加する免疫グロブリンはIgMである。血清蛋白電気泳動でγ分画にMピークを認め、免疫電気泳動(免疫固定法)でIgM型(κまたはλのいずれか一方の軽鎖)と同定される。IgGが著増するのは多発性骨髄腫などであり、WMでは正常なIgGやIgAは増えず、むしろ低下していることが少なくない。

  4. ×d.  リンパ節腫脹

    認める。リンパ形質細胞性リンパ腫として、腫瘍細胞がリンパ節に浸潤し、全身のリンパ節腫脹をきたすことがある。多発性骨髄腫では通常リンパ節腫脹はみられないため、両者を区別する重要な所見である。

  5. ×e.  Raynaud症状

    認める。増加したIgMが寒冷で沈殿するクリオグロブリン(単クローン性のI型クリオグロブリン)として働くと、寒冷曝露時に末梢の小血管で沈殿・血流障害を起こし、手指が白→紫→赤と色調変化するRaynaud症状をきたす。過粘稠度による末梢循環障害や、IgMが寒冷凝集素として働くことも末梢の循環障害の原因となる。頻度は高くないが、WMに特徴的な症状の一つである。

WMと多発性骨髄腫の比較

・腫瘍細胞:WMはリンパ形質細胞(B細胞と形質細胞の中間)、骨髄腫は形質細胞 ・M蛋白:WMはIgM、骨髄腫はIgG(最多)、IgA、Bence Jones蛋白型など ・リンパ節腫脹・肝脾腫:WMでみられる、骨髄腫では通常みられない ・骨病変(打ち抜き像)・高カルシウム血症・腎障害:骨髄腫で多い、WMではまれ ・過粘稠度症候群:IgMは5量体で分子量が大きいためWMで起こりやすい(骨髄腫でもIgA型などで起こりうる)

過粘稠度症候群

血漿の粘稠度が上がり微小循環が障害されることで生じる。症状は、頭痛・めまい・意識障害などの神経症状、視力障害、眼底の網膜静脈の拡張・蛇行(ソーセージ様)と網膜出血、鼻出血や歯肉出血、心不全などである。IgMが高濃度(およそ3~4g/dL以上)になると起こりやすい。緊急の治療として血漿交換が有効である。

出血傾向

WMでは、M蛋白が血小板や凝固因子に結合してその機能を妨げることや、過粘稠度による血管障害によって出血傾向をきたすことがある。

その他の合併症

・末梢神経障害:IgMが末梢神経の髄鞘成分(MAGなど)に結合して脱髄性ニューロパチーを起こす ・寒冷凝集素症:IgMが赤血球に結合し、寒冷時に溶血を起こす ・アミロイドーシス:M蛋白の軽鎖由来

検査所見のポイント

血清IgM著増、赤沈著明亢進、赤血球の連銭形成、骨髄でのリンパ形質細胞浸潤、MYD88 L265P変異。

治療

無症状であれば経過観察が基本で、症状(血球減少、過粘稠度症候群、臓器腫大など)が出現したら、抗CD20抗体リツキシマブを中心とした化学療法や、BTK阻害薬などを用いる。過粘稠度症候群には血漿交換を行う。

POINT

・マクログロブリン血症(WM)は、リンパ形質細胞が単クローン性IgMを産生する低悪性度B細胞リンパ腫である。 ・増加するのはIgMであり、IgGは増加しない(むしろ低下しやすい)。 ・リンパ腫としての症状:リンパ節腫脹、肝脾腫、骨髄浸潤による血球減少(貧血)。 ・IgMによる症状:過粘稠度症候群(視力障害、網膜静脈のソーセージ様変化、出血傾向、神経症状)、クリオグロブリン・寒冷凝集素によるRaynaud症状、末梢神経障害。 ・多発性骨髄腫と異なり、骨病変・高カルシウム血症・腎障害はまれである。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。