BUNは腎臓だけを映さない―消化管出血で上がる理由から読み解く採血データ
第110回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
検査の解釈において正しいのはどれか。
- a.尿素窒素〈BUN〉/血清クレアチニン比の上昇は腎実質障害を示唆する。
- b.高尿酸血症の病型鑑別に尿酸排泄率〈FEUA〉は有用ではない。
- c.尿素窒素〈BUN〉は上部消化管出血があると上昇する。
- d.白血球数の推移は水分過不足の良いマーカーである。
- e.血清尿酸値の低下は脱水を示唆する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
BUNは蛋白質由来の尿素窒素で、蛋白負荷や異化亢進、腎血流低下などの腎外性因子の影響を受けやすく、上部消化管出血では血液中の蛋白質が吸収・代謝されることと循環血液量減少によって上昇します。クレアチニンはGFRをより忠実に反映するため、BUN/Cr比の上昇は腎実質障害ではなく、脱水・消化管出血・異化亢進などの腎外性・腎前性要因を示唆します。尿酸排泄率は高尿酸血症の産生過剰型と排泄低下型の鑑別に役立ち、治療薬の選択につながります。体液量の評価にはヘマトクリットや総蛋白などを用い、白血球数は適さず、脱水では尿酸値はむしろ上昇します。各検査値の産生・排泄の仕組みを理解することが、採血データを臨床判断に生かす基本となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
本問は、日常診療で頻繁に測定される尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、尿酸、白血球数といった検査値が、どのような病態で変動するかを正しく解釈できるかを問うている。ポイントは、各検査値が「何から作られ」「どこから排泄され」「何の影響を受けるか」を押さえることである。
BUNとクレアチニンの違い
・BUN:肝臓で蛋白質(アミノ酸)の分解により生じたアンモニアから作られる尿素の窒素量である。腎糸球体で濾過されたのち、一部が尿細管で再吸収される。そのため、腎機能の低下だけでなく、蛋白摂取量や体内での蛋白分解(異化亢進)、腎血流量や尿流量などの「腎外性因子」の影響を強く受ける。 ・クレアチニン:筋肉のクレアチン代謝産物で、産生量は筋肉量にほぼ比例し比較的一定である。尿細管での再吸収はほとんどなく、腎外性因子の影響を受けにくいので、糸球体濾過量(GFR)の指標となる。 この違いから、BUN/Cr比(基準はおよそ10前後、10~20程度)を見ると、BUNの上昇が腎機能低下によるものか、腎外性因子によるものかを推定できる。
正解を導く考え方
上部消化管出血では、消化管内に出た血液(ヘモグロビンなどの蛋白質)が消化・吸収されて肝臓で尿素に代謝されるため、BUNが上昇する。さらに出血による循環血液量減少で腎血流が低下することも上昇に寄与する。クレアチニンはあまり変化しないため、BUN/Cr比が上昇するのが特徴である。他の選択肢は、BUN/Cr比、FEUA、白血球数、尿酸値の解釈をそれぞれ誤っている。
選択肢考察
- ×a. 尿素窒素〈BUN〉/血清クレアチニン比の上昇は腎実質障害を示唆する。
誤り。腎実質障害(腎性腎不全)ではGFRが低下してBUNとクレアチニンがともに上昇するため、BUN/Cr比は概ね基準範囲(10前後)にとどまる。BUN/Cr比が上昇(目安として20以上)するのは、腎外性因子によりBUNが選択的に上がる場合で、脱水・心不全・ショックなどによる腎血流低下(腎前性)、消化管出血、高蛋白食、発熱・熱傷・副腎皮質ステロイド投与などによる蛋白異化亢進が代表である。脱水などで腎血流が低下すると、尿流量の低下とバソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)分泌亢進により、集合管で水とともに尿素の再吸収が増えるため、クレアチニン以上にBUNが上昇する。逆にBUN/Cr比が低下するのは、低蛋白食、重症肝不全(尿素合成の低下)、透析後などである。
- ×b. 高尿酸血症の病型鑑別に尿酸排泄率〈FEUA〉は有用ではない。
誤り。高尿酸血症は、尿酸の産生が多すぎる「尿酸産生過剰型」と、腎からの排泄が少なすぎる「尿酸排泄低下型」、および両者の混合型に分けられ、病型によって適した尿酸降下薬(産生過剰型には尿酸生成抑制薬、排泄低下型には尿酸排泄促進薬)が異なるため病型鑑別が重要である。病型の評価には尿中尿酸排泄量や尿酸クリアランス(CUA)を用い、尿酸排泄率(FEUA)も有用な指標である。FEUAは尿酸クリアランスをクレアチニンクリアランスで割ったもので、FEUA(%)=(尿中尿酸濃度×血清Cr濃度)÷(血清尿酸濃度×尿中Cr濃度)×100で求められる。随時尿でも算出でき、基準はおよそ5~10%程度である。排泄低下型ではFEUAが低値となり、産生過剰型では尿中への尿酸排泄が増加してFEUAは正常~高値を示す。
- ○c. 尿素窒素〈BUN〉は上部消化管出血があると上昇する。
正しい。上部消化管(食道・胃・十二指腸)に出血すると、腸管内の血液に含まれる大量の蛋白質(主にヘモグロビン)が消化されてアミノ酸として吸収され、肝臓で尿素に変換されるため、BUNが上昇する。いわば多量の蛋白質を摂取した状態と同じである。加えて、出血による循環血液量減少で腎血流が低下し、腎前性にBUNが上がることも関与する。クレアチニンの上昇は乏しいため、BUN/Cr比が高くなる。上部消化管出血では血液が小腸を長く通過して吸収されるのに対し、下部消化管出血ではその機会が少ないため、BUN/Cr比の上昇は上部消化管出血を示唆する手がかりとなる。
- ×d. 白血球数の推移は水分過不足の良いマーカーである。
誤り。白血球数は感染症・炎症、ストレス、副腎皮質ステロイド投与、造血器疾患などの影響を大きく受けて変動するため、体液量の指標には適さない。水分過不足(血液の濃縮・希釈)の推移をみるには、ヘマトクリット(Ht)やヘモグロビン、血清総蛋白・アルブミンなど、体液量の変化に応じて濃度が変わり、他の要因の影響が比較的少ない項目が用いられる。脱水では血液濃縮によりこれらが上昇し、輸液過多では低下する。あわせて体重変化、尿量、BUN/Cr比、血清Na値なども参考にする。
- ×e. 血清尿酸値の低下は脱水を示唆する。
誤り。脱水では逆に血清尿酸値は上昇しやすい。循環血液量が減少すると近位尿細管でのNaと水の再吸収が亢進し、それに伴って尿酸の再吸収も増え、さらに血液濃縮も加わるためである。逆に、細胞外液量が過剰な状態(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群〈SIADH〉など)では尿酸の再吸収が減って血清尿酸値が低下し、低ナトリウム血症の鑑別に用いられる。そのほか低尿酸血症は、腎性低尿酸血症(尿酸トランスポーターURAT1などの遺伝子異常)、Fanconi症候群、キサンチンオキシダーゼ阻害薬の投与、重症肝障害などでもみられる。
BUNが上昇する病態の整理
・腎性:腎実質障害によるGFR低下(BUN/Cr比は10前後) ・腎前性:脱水、心不全、ショックなどによる腎血流低下(BUN/Cr比上昇) ・腎後性:尿路閉塞 ・腎外性で窒素負荷が増えるもの:上部消化管出血、高蛋白食・高カロリー輸液 ・蛋白異化亢進:発熱、感染症、熱傷、外傷・手術、副腎皮質ステロイド投与、甲状腺機能亢進症 逆に、BUNが低下するのは、低蛋白食、重症肝不全(尿素サイクルの障害)、妊娠(GFR増加・循環血漿量増加)、尿崩症や多飲などである。
尿酸の代謝
尿酸はプリン体の最終代謝産物で、ヒトは尿酸をさらに分解する酵素(ウリカーゼ)を持たない。約2/3が腎から、約1/3が腸管から排泄される。腎では糸球体で濾過された尿酸の大部分が近位尿細管で再吸収(URAT1などのトランスポーターが関与)されるため、FEUAは5~10%程度と低い。血清尿酸値7.0mg/dLを超えるものを高尿酸血症とする。
高尿酸血症の病型と薬物選択
・尿酸産生過剰型:プリン体の多い食事、細胞崩壊の亢進(悪性腫瘍、腫瘍崩壊症候群、溶血)、酵素異常(HGPRT欠損によるLesch-Nyhan症候群など)。尿酸生成抑制薬(アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタット)を用いる。 ・尿酸排泄低下型:日本人に多い。腎機能障害、利尿薬(サイアザイド系・ループ系)、アルコール、乳酸・ケトン体の増加など。尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、ドチヌラドなど)を用いる。ただし尿路結石のある例では排泄促進薬を避ける。 ・近年は、腸管からの排泄低下(ABCG2の機能低下など)による「腎外排泄低下型」も知られ、尿酸産生過剰型と合わせて「腎負荷型」とまとめる考え方もある。
体液量の評価に用いる指標
ヘマトクリット・ヘモグロビン・総蛋白・アルブミン(濃縮で上昇)、BUN/Cr比(脱水で上昇)、尿酸(脱水で上昇)、尿比重・尿浸透圧、尿中Na濃度・FENa、体重、尿量、身体所見(皮膚ツルゴール、口腔粘膜の乾燥、頸静脈の虚脱など)を組み合わせて判断する。
POINT
・BUNは腎外性因子(消化管出血、脱水、蛋白摂取・異化亢進)の影響を受けやすく、クレアチニンはGFRをより正確に反映する。 ・BUN/Cr比の上昇は腎外性・腎前性の要因を示唆し、腎実質障害では比は概ね保たれる。 ・上部消化管出血では血液中蛋白の吸収と腎血流低下によりBUNが上昇する。 ・FEUAは尿酸クリアランス/クレアチニンクリアランスで、高尿酸血症の病型鑑別に有用である(排泄低下型で低値)。 ・水分過不足の指標はヘマトクリットなどで、白血球数は適さない。 ・脱水では血清尿酸値は上昇し、低尿酸血症は体液過剰(SIADHなど)や腎性低尿酸血症などでみられる。
