StudyMed医師国家試験

「治療」か「予防」か―禁煙外来だけが保険証を使える理由

第110回医師国家試験 C問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第110回 C問題 第15問

公的医療保険の給付対象となるのはどれか。

  1. a.禁煙治療
  2. b.正常分娩
  3. c.人間ドック
  4. d.介護予防サービス
  5. e.日本脳炎の予防接種

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、どんな医療サービスに公的医療保険が使えるのかを問う問題だ。考え方の軸はシンプルで、「それは病気やけがの治療なのか」「どの法律・制度で提供されているのか」の2点。この物差しで選択肢を一つずつ当てはめてみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、医療保険の中心は「療養の給付」だと習いました。病気の治療が対象、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。診察、検査、投薬、手術、入院といった療養の給付は、原則として疾病・負傷の治療に対して行われる。逆に言えば、病気でない状態への対応、健康な人の検査、病気を未然に防ぐ処置は原則として対象外なんだ。
医学生医学生
そうなると禁煙治療は「肺がんや心筋梗塞の予防」に見えるので、対象外かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがこの問題の引っかけだね。禁煙治療は、喫煙の背景にあるニコチン依存症という「疾病」を治療するものと位置付けられているんだ。2006年度から、施設基準を満たす医療機関で一定の要件を満たす患者に行う禁煙治療は保険適用になっている。だからこれが正解だ。
医学生医学生
要件というのは、どんなものですか。
ドクタードクター
主なものは、ニコチン依存症のスクリーニングテストで5点以上であること、35歳以上ならBrinkman指数が200以上であること、そしてすぐに禁煙したいと希望し、治療に文書で同意していることだ。以前は年齢を問わずBrinkman指数200以上が必要だったけれど、若い喫煙者が対象から外れてしまうため、35歳未満ではこの要件が外された。標準的には12週間で5回受診し、ニコチン貼付剤やバレニクリンといった禁煙補助薬を使う。
医学生医学生
次に正常分娩です。産婦人科の実習で、出産にはお金がかかると聞きましたが、保険は効かないんですね。
ドクタードクター
そう。正常な妊娠・分娩は病気ではないので療養の給付の対象外で、分娩費用は原則として自己負担になる。その負担を補うために、健康保険からは現金給付として出産育児一時金が支給される。ここで混同しやすいのが、異常分娩の扱いだ。
医学生医学生
帝王切開や吸引分娩なら、医学的な処置が必要なので保険が使えるということですか。
ドクタードクター
そのとおり。帝王切開、吸引・鉗子分娩、妊娠高血圧症候群や切迫早産の治療などは保険診療になる。「正常か異常か」で線が引かれていると覚えておこう。では人間ドックはどうかな。
医学生医学生
症状のない人が自分の希望で受ける検査なので、治療ではない、だから自由診療ですね。
ドクタードクター
正解。保険者が保健事業として費用の一部を補助することはあるけれど、それは療養の給付とは別物だ。40〜74歳を対象とする特定健診も、高齢者の医療の確保に関する法律に基づく保険者の保健事業であって、保険診療ではない。
医学生医学生
介護予防サービスは名前に「サービス」とあるので、介護保険の方だと思いました。
ドクタードクター
いい読みだね。介護予防サービスは要支援1・2の人が状態悪化を防ぐために使うもので、介護保険法に基づく予防給付だ。保険者も健康保険組合などではなく市町村・特別区になる。医療保険とは財布が別なんだ。
医学生医学生
日本脳炎の予防接種は、小児科の実習で定期接種のスケジュールを確認しました。自己負担なしで受けられるので、保険が使われているのかと思っていました。
ドクタードクター
そこも誤解しやすいところ。日本脳炎ワクチンは予防接種法に基づくA類疾病の定期接種で、実施主体は市町村、費用は公費で賄われる。無料なのは医療保険の給付だからではなく、公費だからなんだ。予防接種は治療ではないので、任意接種も含めて医療保険の対象外だよ。
医学生医学生
「無料かどうか」と「医療保険かどうか」は別の話なんですね。
ドクタードクター
まさにそこが本質。最後に周辺知識も整理しておこう。医療保険の給付には、療養の給付のような現物給付と、高額療養費、出産育児一時金、傷病手当金のような現金給付がある。また美容目的の手術は保険外、業務上や通勤途中のけがは労災保険の対象になる。がん検診は健康増進法に基づく市町村の事業だ。
医学生医学生
臨床に出たら、患者さんに「これは保険が効きますか」と聞かれることもありそうです。
ドクタードクター
よくあるよ。特に禁煙外来は、要件を満たすかどうかで保険診療になるかが変わるから、喫煙歴を正確に聞き取ることが大切だ。喫煙者に「依存症は治療できる病気です」と伝えることが、禁煙への一歩を後押しすることも多いんだ。

まとめ

公的医療保険の中心である療養の給付は、原則として疾病・負傷の治療を対象とします。禁煙治療はニコチン依存症という疾病の治療と位置付けられ、スクリーニングテスト5点以上、35歳以上ではBrinkman指数200以上、文書同意などの要件を満たせば保険適用となります。一方、正常分娩は疾病ではないため保険外で出産育児一時金が支給され、人間ドックや健診は自由診療または保健事業、介護予防サービスは介護保険の予防給付、日本脳炎の定期接種は予防接種法に基づく公費負担です。「治療かどうか」と「どの法律に基づく制度か」という2つの軸で整理すると、医療保険・介護保険・公費負担の区別が明確になります。この区別は、患者からの費用に関する質問に答えたり、適切な制度へつないだりする臨床の場面でも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

日本の公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度など)の中心となる給付は「療養の給付」であり、その対象は原則として「疾病・負傷の治療」である。したがって、病気ではない状態への対応(正常な妊娠・分娩)、健康な人に行う検査(健康診断・人間ドック)、病気を未然に防ぐための処置(予防接種)は、原則として保険診療の対象外となる。これらは全額自己負担の自由診療として行われるか、別の制度(予防接種法、介護保険法、健康増進法など)に基づき公費で行われる。 本問を解く鍵は、「治療かどうか」と「どの法律・制度の枠組みで提供されるか」の二点を考えることである。禁煙治療は一見「予防」のようにみえるが、喫煙の背景にあるニコチン依存症を疾病として治療するものと位置付けられ、2006年度から一定の要件のもとで保険適用となっている。

選択肢考察

  1. ○a.  禁煙治療

    正しい。ニコチン依存症は治療を要する疾病とされ、施設基準を満たす医療機関で一定の要件を満たす患者に行う禁煙治療(ニコチン依存症管理料の算定対象)は公的医療保険の給付対象となる。患者側の主な要件は、①ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS: Tobacco Dependence Screener)で5点以上、②35歳以上ではBrinkman指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上、③直ちに禁煙することを希望し、治療を受けることに文書で同意していること、である。かつてはBrinkman指数200以上が年齢を問わず必須であったが、若年喫煙者が対象から外れてしまうことから、2016年度の改定で35歳未満についてはこの要件が撤廃された。標準的な治療は12週間で計5回の受診を行い、ニコチン貼付剤やバレニクリンなどの禁煙補助薬を用いる。

  2. ×b.  正常分娩

    誤り。正常な妊娠・分娩は疾病ではないため療養の給付の対象とならず、分娩費用は原則として全額自己負担である。その経済的負担を補うため、健康保険からは現金給付として出産育児一時金が支給される(分娩費用そのものを保険診療として扱うわけではない)。一方、帝王切開、吸引分娩・鉗子分娩、妊娠高血圧症候群や切迫早産の治療など、医学的に必要な処置を伴う異常分娩は保険診療の対象となる。

  3. ×c.  人間ドック

    誤り。人間ドックは自覚症状のない人が自らの希望で受ける検査で、疾病の治療ではないため自由診療(全額自己負担)である。なお、保険者が独自の保健事業として費用の一部を補助することはあるが、これは療養の給付とは別のものである。40〜74歳を対象とする特定健康診査(特定健診)も、高齢者の医療の確保に関する法律に基づいて保険者に実施が義務付けられた保健事業であり、保険診療ではない。

  4. ×d.  介護予防サービス

    誤り。介護予防サービスは、要介護状態の手前にあたる要支援1・2の認定を受けた人を対象に、状態の悪化防止を目的として提供されるサービスで、介護保険法に基づく介護保険の予防給付である。公的医療保険の給付ではない。保険者も医療保険(健康保険組合など)ではなく市町村・特別区である。

  5. ×e.  日本脳炎の予防接種

    誤り。日本脳炎ワクチンは予防接種法に基づく定期接種(A類疾病)であり、実施主体は市町村である。費用は公費で賄われ、標準的な接種期間内であれば原則として自己負担はないが、これは医療保険の給付ではない。予防接種は疾病の治療ではないため、定期接種以外の任意接種も含めて公的医療保険の対象外である。

公的医療保険の給付の種類

・現物給付:療養の給付(診察、検査、投薬、処置、手術、入院など)、入院時食事療養費、訪問看護療養費など ・現金給付:高額療養費、出産育児一時金、出産手当金、傷病手当金(被用者保険)、埋葬料(費)など

保険診療の対象外となる主なもの

・正常な妊娠・分娩(妊婦健診も原則自費。自治体の公費助成がある) ・健康診断、人間ドック ・予防接種(定期接種は予防接種法により公費で実施) ・美容目的の手術 ・業務上・通勤途上の負傷や疾病(労働者災害補償保険の対象)

関連する制度の区別

・要支援者への介護予防サービス、要介護者への介護サービス:介護保険法 ・特定健診・特定保健指導:高齢者の医療の確保に関する法律 ・がん検診など:健康増進法に基づく市町村の事業 ・予防接種:予防接種法(A類疾病は努力義務・公費、B類疾病は高齢者のインフルエンザなど)

禁煙治療の保険適用の経緯

2006年度に保険適用となり、2016年度に35歳未満のBrinkman指数要件が撤廃され、2020年度には加熱式たばこの喫煙者も対象として明確化された。

POINT

・公的医療保険の療養の給付は「疾病・負傷の治療」が対象。 ・ニコチン依存症に対する禁煙治療は一定の要件下で保険適用(TDS 5点以上、35歳以上はBrinkman指数200以上、文書同意)。 ・正常分娩は保険適用外(出産育児一時金は支給される)。帝王切開などの異常分娩は保険適用。 ・人間ドック・健診・予防接種は保険適用外。 ・介護予防サービスは介護保険の予防給付。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。