指1本で見える世界―直腸指診の「体位・指・順序・時計」を総点検
第110回医師国家試験 C問題 第14問
国試問題にチャレンジ
直腸指診について正しいのはどれか。
- a.腹臥位で行う。
- b.下血があれば行わない。
- c.中指を肛門から挿入する。
- d.肛門診察の前に直腸の触診から始める。
- e.肛門を正面から見て腹側を12時と表記する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
直腸指診は、Sims位(左側臥位)や砕石位で、示指に潤滑剤をつけて行う基本的な診察手技で、肛門周囲の視診から始めて直腸の触診へ進み、抜去後には手袋に付着した便や血液の性状を確認します。所見の部位は砕石位で肛門を正面から見た時計表示で記録し、腹側が12時、背側が6時、患者の左が3時、右が9時で、別の体位で診察してもこの基準に揃えます。下血・血便は禁忌ではなく、出血源の検索や出血部位の推定のためにむしろ積極的に行う適応です。直腸癌、前立腺肥大症・前立腺癌、ダグラス窩病変など多くの疾患の手がかりが得られる手技であり、説明と同意、プライバシーへの配慮を含めて正しく身につけることが臨床の土台となります。
解答・解説
正解はeです
直腸指診(digital rectal examination: DRE)は、検者が手袋をはめた指を肛門から挿入し、肛門管・直腸下部とその周囲臓器(男性では前立腺、女性では子宮頸部・ダグラス窩)を触れて評価する基本的な身体診察手技である。特別な機器を要さず外来やベッドサイドで実施でき、直腸癌、痔核・痔瘻、前立腺肥大症・前立腺癌、ダグラス窩の腫瘤や膿瘍、消化管出血の性状などを短時間で評価できる。 本問は手技の基本事項、すなわち「どの体位で」「どの指で」「どの順序で」行い、「所見をどう記載するか」を問うている。正しい手順は、体位をとらせる→肛門周囲を視診する→示指で肛門を触れたうえで挿入し肛門管・直腸を触診する→抜去後の手袋に付着した便・血液・粘液の性状を確認する、という流れである。所見の部位は時計の文字盤に見立てて表現し、腹側(前方)を12時、背側(後方)を6時とする。この取り決めを知っていれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 腹臥位で行う。
誤り。一般的な体位は左側臥位で両膝を胸に引き寄せるSims位(シムス位)か、仰臥位で両下肢を挙上・開脚する砕石位(截石位)である。右利きの検者が右手で診察する場合、左側臥位が手を入れやすく、患者の負担も少ない。そのほか膝胸位(四つ這いで胸を診察台につける姿勢)が用いられることもある。単純な腹臥位では殿部が閉じて肛門を十分に露出できず、手指を挿入する角度もとりにくいため、標準的な体位ではない。
- ×b. 下血があれば行わない。
誤り。下血・血便はむしろ直腸指診を行うべき状況である。指診で直腸下部の腫瘤(直腸癌)や痔核などの出血源を探せるうえ、指に付着した血液の色調(鮮紅色か暗赤色か)や黒色便(タール便)の有無から、出血部位が下部消化管か上部消化管かを推定する手がかりが得られる。便潜血を確認する目的でも行われる。直腸指診は下血の有無にかかわらず、直腸癌や前立腺疾患などを疑うときに広く行われる。
- ×c. 中指を肛門から挿入する。
誤り。挿入するのは示指(人差し指)である。示指は最も細かく動かしやすく触覚も鋭いので、肛門管や直腸壁の微細な硬結・腫瘤を感じ取りやすい。手袋をはめてゼリーなどの潤滑剤を十分につけ、まず肛門縁に指腹を当てて肛門括約筋の緊張をゆるめさせてから、ゆっくり挿入する。
- ×d. 肛門診察の前に直腸の触診から始める。
誤り。順序が逆である。まず肛門とその周囲を視診し、外痔核、肛門ポリープ、裂肛(切れ痔)、痔瘻の外口(二次口)、皮膚炎、脱出などがないかを確認する。そのうえで肛門周囲を触診し、指を挿入して肛門管・直腸の触診へ進む。最初に指を入れてしまうと、裂肛などの病変を見逃したり強い痛みを与えたりするおそれがある。身体診察の一般原則である「視診→触診」の順序に従う。
- ○e. 肛門を正面から見て腹側を12時と表記する。
正しい。肛門部の所見は、砕石位の患者の肛門を検者が正面(足側)から見た状態を時計の文字盤に見立てて記載する。腹側(陰嚢・腟側)が12時、背側(尾骨側)が6時である。検者から見て右側、すなわち患者の左側が3時、患者の右側が9時となる。Sims位など別の体位で診察した場合も、この砕石位を基準とした表記に揃えて記録するのが原則である。たとえば痔核の好発部位は3時・7時・11時、裂肛の好発部位は6時(後方正中)と表現される。
直腸指診の手順
1. 目的を説明して同意を得て、プライバシーに配慮する(必要に応じて看護師などが立ち会う)。 2. 体位をとらせる(Sims位、砕石位、膝胸位など)。 3. 肛門周囲を視診する(外痔核、皮垂、裂肛、痔瘻の外口、脱出、皮膚病変)。 4. 手袋をはめ、示指に潤滑剤をつけて肛門縁を触れ、口呼吸を促して力を抜かせてから挿入する。 5. 肛門括約筋の緊張度、肛門管・直腸壁の腫瘤・硬結・圧痛を全周にわたって調べる。男性では前立腺の大きさ・硬さ・表面の性状・圧痛・中心溝の有無、女性では子宮頸部やダグラス窩を評価する。 6. 指を抜いたら、手袋に付着した便の色調、血液、粘液、膿を確認する。
直腸指診で得られる主な情報
・直腸癌:指が届く範囲(肛門縁から約7〜8cm)の硬い不整な腫瘤 ・前立腺肥大症:弾性硬で表面平滑な腫大、中心溝の消失 ・前立腺癌:石様硬の結節、表面不整 ・急性前立腺炎:著明な圧痛と熱感(強いマッサージは菌血症を招くおそれがあり避ける) ・ダグラス窩膿瘍・腹膜炎:直腸前壁の圧痛や波動 ・腹膜播種:ダグラス窩に触れる硬結(Schnitzler転移) ・消化管出血:鮮血、暗赤色便、黒色便(タール便)
肛門部の時計表示
砕石位で腹側12時、背側6時、患者の左3時、患者の右9時。内痔核の好発部位は3・7・11時、裂肛の好発部位は6時(次いで12時)である。
POINT
・体位はSims位(左側臥位)か砕石位。腹臥位ではない。 ・挿入するのは示指。 ・視診(肛門)→触診(直腸)の順に行う。 ・下血・血便はむしろ直腸指診の適応である。 ・時計表示は砕石位基準で腹側12時、背側6時(患者の左3時、右9時)。
