StudyMed医師国家試験

指1本で見える世界―直腸指診の「体位・指・順序・時計」を総点検

第110回医師国家試験 C問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第110回 C問題 第14問

直腸指診について正しいのはどれか。

  1. a.腹臥位で行う。
  2. b.下血があれば行わない。
  3. c.中指を肛門から挿入する。
  4. d.肛門診察の前に直腸の触診から始める。
  5. e.肛門を正面から見て腹側を12時と表記する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は基本的な身体診察手技の一つ、直腸指診の問題だ。問われているのは「どの体位で」「どの指で」「どんな順序で」行い、「所見をどう記録するか」という4つのポイント。手順を頭の中でたどりながら考えてみよう。
医学生医学生
OSCEの練習ではモデルを使いましたが、実際の患者さんにはまだやったことがなくて、細かいところはあいまいです。
ドクタードクター
それなら最初から整理しよう。直腸指診は手袋をはめた指を肛門から入れて、肛門管や直腸下部、その周りの臓器を触れて評価する手技だ。男性なら前立腺、女性なら子宮頸部やダグラス窩まで情報が得られる。機器がいらず、外来やベッドサイドですぐできるのが強みだね。まず体位はどうかな。
医学生医学生
お尻を出しやすいように、うつ伏せの腹臥位でしょうか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。標準的なのは、左側臥位で両膝を胸に引き寄せるSims位か、仰向けで両脚を挙げて開く砕石位だ。右利きの検者が右手で診るなら左側臥位が手を入れやすく、患者さんの負担も少ない。単純な腹臥位だと殿部が閉じて肛門が十分に見えず、指を入れる角度もとりにくいんだ。
医学生医学生
そういえば外科の実習で見たときも、患者さんは横向きで膝を抱えていました。では指は、長さのある中指のほうが奥まで届きそうですが。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、使うのは示指だ。示指はいちばん細かく動かしやすく、触覚も鋭いので、壁の小さな硬結や腫瘤を感じ取りやすい。潤滑剤を十分につけ、まず肛門縁に指腹を当てて、口で呼吸してもらい括約筋の力を抜かせてからゆっくり入れる。
医学生医学生
いきなり指を入れるのではなく、まずは周りを見るところからですよね。
ドクタードクター
その通り。身体診察の原則どおり「視診→触診」の順だ。最初に肛門とその周囲を見て、外痔核や皮垂、裂肛、痔瘻の外口、脱出などがないかを確認する。先に指を入れてしまうと、裂肛のような病変を見逃したり、強い痛みを与えたりしかねない。だから直腸の触診から始めるというのは逆なんだ。
医学生医学生
下血している患者さんだと、出血を悪化させそうで、指診は控えたほうがいい気がしてしまいます。
ドクタードクター
むしろ逆で、下血や血便は直腸指診をすべき場面だよ。直腸下部の腫瘤や痔核といった出血源を探せるうえ、抜いた指の手袋についた血液が鮮紅色か暗赤色か、黒色のタール便かを見ることで、出血が下部か上部消化管かを推定する手がかりになる。
医学生医学生
救急外来の実習で、指導医の先生が手袋の便の色を確認していたのはそのためだったんですね。では正解は、時計の表記の話ですか。
ドクタードクター
そう。肛門の所見は、砕石位の患者さんの肛門を検者が足側の正面から見た状態を時計の文字盤に見立てて記録する。腹側、つまり陰嚢や腟の側が12時、尾骨側の背側が6時だ。検者から見て右、すなわち患者さんの左が3時、患者さんの右が9時になる。
医学生医学生
Sims位で診たときはどうするんですか。体の向きが違うと時計もずれそうです。
ドクタードクター
いい疑問だね。どの体位で診察しても、砕石位を基準にした表記に揃えて記録するのが原則だ。そうしないと、ほかの医師がカルテを読んだときに位置が伝わらなくなってしまう。共通の言語として決めておくことに意味があるんだよ。
医学生医学生
内痔核は3時・7時・11時に多くて、裂肛は6時に多い、と講義で習ったのもこの表記なんですね。
ドクタードクター
そのとおり。裂肛は後方正中の6時が最も多く、次いで12時だ。では最後に、指診で何がわかるかをまとめておこう。直腸癌は肛門縁から7〜8cmくらいまでの範囲なら硬く不整な腫瘤として触れうる。前立腺肥大症は弾性硬で表面平滑な腫大、前立腺癌は石のように硬い結節として触れることがある。
医学生医学生
急性前立腺炎のときも触診しますか。
ドクタードクター
著明な圧痛と熱感が手がかりになるけれど、強くマッサージすると菌血症を招くおそれがあるから、優しく触れるにとどめる。また、直腸前壁の圧痛はダグラス窩膿瘍や腹膜炎の、ダグラス窩に触れる硬結は腹膜播種、いわゆるSchnitzler転移のサインになることがある。そして何より、診察の目的を説明して同意を得て、プライバシーに配慮し、必要なら看護師に立ち会ってもらうことを忘れないでほしい。
医学生医学生
手技そのものだけでなく、患者さんへの配慮も含めて一連の流れなんですね。OSCEでも説明と同意から始めるように言われました。

まとめ

直腸指診は、Sims位(左側臥位)や砕石位で、示指に潤滑剤をつけて行う基本的な診察手技で、肛門周囲の視診から始めて直腸の触診へ進み、抜去後には手袋に付着した便や血液の性状を確認します。所見の部位は砕石位で肛門を正面から見た時計表示で記録し、腹側が12時、背側が6時、患者の左が3時、右が9時で、別の体位で診察してもこの基準に揃えます。下血・血便は禁忌ではなく、出血源の検索や出血部位の推定のためにむしろ積極的に行う適応です。直腸癌、前立腺肥大症・前立腺癌、ダグラス窩病変など多くの疾患の手がかりが得られる手技であり、説明と同意、プライバシーへの配慮を含めて正しく身につけることが臨床の土台となります。

解答・解説

正解はeです

直腸指診(digital rectal examination: DRE)は、検者が手袋をはめた指を肛門から挿入し、肛門管・直腸下部とその周囲臓器(男性では前立腺、女性では子宮頸部・ダグラス窩)を触れて評価する基本的な身体診察手技である。特別な機器を要さず外来やベッドサイドで実施でき、直腸癌、痔核・痔瘻、前立腺肥大症・前立腺癌、ダグラス窩の腫瘤や膿瘍、消化管出血の性状などを短時間で評価できる。 本問は手技の基本事項、すなわち「どの体位で」「どの指で」「どの順序で」行い、「所見をどう記載するか」を問うている。正しい手順は、体位をとらせる→肛門周囲を視診する→示指で肛門を触れたうえで挿入し肛門管・直腸を触診する→抜去後の手袋に付着した便・血液・粘液の性状を確認する、という流れである。所見の部位は時計の文字盤に見立てて表現し、腹側(前方)を12時、背側(後方)を6時とする。この取り決めを知っていれば正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  腹臥位で行う。

    誤り。一般的な体位は左側臥位で両膝を胸に引き寄せるSims位(シムス位)か、仰臥位で両下肢を挙上・開脚する砕石位(截石位)である。右利きの検者が右手で診察する場合、左側臥位が手を入れやすく、患者の負担も少ない。そのほか膝胸位(四つ這いで胸を診察台につける姿勢)が用いられることもある。単純な腹臥位では殿部が閉じて肛門を十分に露出できず、手指を挿入する角度もとりにくいため、標準的な体位ではない。

  2. ×b.  下血があれば行わない。

    誤り。下血・血便はむしろ直腸指診を行うべき状況である。指診で直腸下部の腫瘤(直腸癌)や痔核などの出血源を探せるうえ、指に付着した血液の色調(鮮紅色か暗赤色か)や黒色便(タール便)の有無から、出血部位が下部消化管か上部消化管かを推定する手がかりが得られる。便潜血を確認する目的でも行われる。直腸指診は下血の有無にかかわらず、直腸癌や前立腺疾患などを疑うときに広く行われる。

  3. ×c.  中指を肛門から挿入する。

    誤り。挿入するのは示指(人差し指)である。示指は最も細かく動かしやすく触覚も鋭いので、肛門管や直腸壁の微細な硬結・腫瘤を感じ取りやすい。手袋をはめてゼリーなどの潤滑剤を十分につけ、まず肛門縁に指腹を当てて肛門括約筋の緊張をゆるめさせてから、ゆっくり挿入する。

  4. ×d.  肛門診察の前に直腸の触診から始める。

    誤り。順序が逆である。まず肛門とその周囲を視診し、外痔核、肛門ポリープ、裂肛(切れ痔)、痔瘻の外口(二次口)、皮膚炎、脱出などがないかを確認する。そのうえで肛門周囲を触診し、指を挿入して肛門管・直腸の触診へ進む。最初に指を入れてしまうと、裂肛などの病変を見逃したり強い痛みを与えたりするおそれがある。身体診察の一般原則である「視診→触診」の順序に従う。

  5. ○e.  肛門を正面から見て腹側を12時と表記する。

    正しい。肛門部の所見は、砕石位の患者の肛門を検者が正面(足側)から見た状態を時計の文字盤に見立てて記載する。腹側(陰嚢・腟側)が12時、背側(尾骨側)が6時である。検者から見て右側、すなわち患者の左側が3時、患者の右側が9時となる。Sims位など別の体位で診察した場合も、この砕石位を基準とした表記に揃えて記録するのが原則である。たとえば痔核の好発部位は3時・7時・11時、裂肛の好発部位は6時(後方正中)と表現される。

直腸指診の手順

1. 目的を説明して同意を得て、プライバシーに配慮する(必要に応じて看護師などが立ち会う)。 2. 体位をとらせる(Sims位、砕石位、膝胸位など)。 3. 肛門周囲を視診する(外痔核、皮垂、裂肛、痔瘻の外口、脱出、皮膚病変)。 4. 手袋をはめ、示指に潤滑剤をつけて肛門縁を触れ、口呼吸を促して力を抜かせてから挿入する。 5. 肛門括約筋の緊張度、肛門管・直腸壁の腫瘤・硬結・圧痛を全周にわたって調べる。男性では前立腺の大きさ・硬さ・表面の性状・圧痛・中心溝の有無、女性では子宮頸部やダグラス窩を評価する。 6. 指を抜いたら、手袋に付着した便の色調、血液、粘液、膿を確認する。

直腸指診で得られる主な情報

・直腸癌:指が届く範囲(肛門縁から約7〜8cm)の硬い不整な腫瘤 ・前立腺肥大症:弾性硬で表面平滑な腫大、中心溝の消失 ・前立腺癌:石様硬の結節、表面不整 ・急性前立腺炎:著明な圧痛と熱感(強いマッサージは菌血症を招くおそれがあり避ける) ・ダグラス窩膿瘍・腹膜炎:直腸前壁の圧痛や波動 ・腹膜播種:ダグラス窩に触れる硬結(Schnitzler転移) ・消化管出血:鮮血、暗赤色便、黒色便(タール便)

肛門部の時計表示

砕石位で腹側12時、背側6時、患者の左3時、患者の右9時。内痔核の好発部位は3・7・11時、裂肛の好発部位は6時(次いで12時)である。

POINT

・体位はSims位(左側臥位)か砕石位。腹臥位ではない。 ・挿入するのは示指。 ・視診(肛門)→触診(直腸)の順に行う。 ・下血・血便はむしろ直腸指診の適応である。 ・時計表示は砕石位基準で腹側12時、背側6時(患者の左3時、右9時)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。