7時間寝ても眠い理由―いびきと体重増加が教える睡眠時無呼吸の治し方
第110回医師国家試験 C問題 第17問
国試問題にチャレンジ
35歳の男性。日中の眠気とだるさとを主訴に来院した。1年前から仕事が忙しくなり,午後11時近くまで仕事をするようになった。睡眠による休息感が得られない状態が続き,2か月前から起床時に口渇や頭痛を感じることが多く,日中の眠気とだるさを感じるようになった。仕事が忙しくなってから,帰宅後に夜食を食べることが多くなり,体重は6か月で8 kg増加した。午前1時までには就床し,午前8時に起床する。家族からは大きないびきと無呼吸とを指摘されている。身長170 cm,体重82 kg。脈拍72/分,整。血圧146/86 mmHg。 患者への説明として適切なのはどれか。
- a.「早寝早起きに生活を変えましょう」
- b.「減量のため栄養指導を受けましょう」
- c.「就寝前に水をコップ2杯飲みましょう」
- d.「睡眠薬で深く眠れるようにしましょう」
- e.「ストレスを和らげるために抗不安薬を服用しましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
十分な睡眠時間があるのに熟睡感がなく日中に眠気が出る場合、いびき・目撃される無呼吸・肥満がそろえば閉塞性睡眠時無呼吸症候群を考えます。起床時の頭痛は夜間の高二酸化炭素血症、口渇は口呼吸によるもので、無呼吸に伴う交感神経の緊張は高血圧の原因にもなります。肥満が最大の危険因子であるため減量が治療の基本となり、中等症から重症では減量と並行してCPAPを導入します。睡眠薬や抗不安薬は上気道開大筋の緊張を下げ、覚醒反応を鈍らせて無呼吸を悪化させるため、原則として避けなければなりません。眠気の原因を見極め、その原因に直接はたらきかける指導を選ぶ姿勢は、心血管合併症や交通事故の予防という点でも臨床上きわめて重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・35歳男性。主訴は日中の眠気(過度の日中傾眠)とだるさ。 ・熟睡感(睡眠による休息感)がない。 ・起床時の口渇と頭痛。 ・家族から大きないびきと睡眠中の無呼吸を指摘されている。 ・夜食の習慣により6か月で8kgの体重増加。身長170cm、体重82kgで、BMI(体格指数)は82÷1.7²≒28.4kg/m²と肥満(日本肥満学会の基準でBMI 25以上)に該当する。 ・血圧146/86mmHgと高値(診察室血圧で140/90mmHg以上が高血圧の基準。本例は収縮期が基準を超える)。 ・睡眠時間は午前1時〜午前8時の約7時間で、睡眠時間の不足(睡眠不足症候群)では説明しにくい。
診断へのプロセス
いびき、家族が目撃した無呼吸、日中の眠気という三つがそろい、背景に体重増加・肥満がある。これは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome: OSAS)の典型像である。睡眠中に咽頭の上気道が繰り返し狭窄・閉塞するため、低酸素血症と覚醒反応が繰り返されて睡眠が分断され、十分な時間眠っても熟睡感が得られず日中に眠気が出る。起床時の頭痛は夜間の低換気に伴う二酸化炭素の貯留(高二酸化炭素血症)による脳血管の拡張で、口渇は閉塞に伴う口呼吸で口腔内が乾燥するためと考えられる。さらに、無呼吸のたびに交感神経が緊張するため高血圧を合併しやすい。確定診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography: PSG)または簡易検査を行い、無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index: AHI、睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の回数)を評価する。
設問への考え方
問われているのは患者への説明(生活指導・治療方針)である。本例の発症には体重増加が強く関わっており、OSAの原因に直接はたらきかける減量の指導が最も適切である。逆に、上気道を広げる筋(上気道開大筋)の活動を抑えて閉塞を悪化させる薬剤(睡眠薬・抗不安薬)は避けなければならない。
選択肢考察
- ×a. 「早寝早起きに生活を変えましょう」
不適切。本例は午前1時に就床して午前8時に起床しており、約7時間の睡眠時間は確保されている。日中の眠気の原因は睡眠時間の不足ではなく、無呼吸による睡眠の質の低下(頻回の覚醒による睡眠の分断)である。就寝・起床時刻をずらしても上気道の閉塞は解消されないため、OSAの改善にはつながらない。
- ○b. 「減量のため栄養指導を受けましょう」
適切。肥満はOSAの最大の危険因子であり、頸部や咽頭周囲、舌への脂肪沈着によって上気道が狭くなる。本例は夜食の習慣によって短期間に8kg増加しており、これが発症の引き金になったと考えられる。減量によってAHIが低下し、いびき・無呼吸・日中の眠気の改善が期待できる。また減量は高血圧など合併する生活習慣病の改善にも役立つ。夜食をやめることを含めた食事内容の見直しのため、栄養指導を受けることは理にかなっている。なお、AHIが高い中等症〜重症例では減量と並行して持続陽圧呼吸療法(CPAP)を導入する。
- ×c. 「就寝前に水をコップ2杯飲みましょう」
不適切。起床時の口渇は、気道閉塞に伴う口呼吸で口腔や咽頭が乾燥するために生じるもので、体内の水分不足が原因ではない。就寝前に多量の水を飲んでも原因である上気道閉塞は改善せず、せいぜい対症的な効果にとどまる。かえって夜間の排尿で睡眠をさらに中断させるおそれもある。
- ×d. 「睡眠薬で深く眠れるようにしましょう」
不適切。ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬には筋弛緩作用と呼吸抑制作用があり、オトガイ舌筋などの上気道開大筋の緊張を低下させて舌根沈下を助長する。また低酸素に対する覚醒反応も鈍らせるため、無呼吸の時間が延長し、低酸素血症が悪化する。睡眠の質が悪い原因は無呼吸にあるので、睡眠薬で解決するものではなく、OSAが疑われる患者には原則として避ける。
- ×e. 「ストレスを和らげるために抗不安薬を服用しましょう」
不適切。本例の眠気やだるさは精神的ストレスではなくOSAによる睡眠障害で説明できるため、抗不安薬の適応はない。さらに抗不安薬の多くはベンゾジアゼピン系であり、睡眠薬と同様に筋弛緩作用・呼吸抑制作用によって上気道閉塞と無呼吸を悪化させる。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の分類
・閉塞性(OSA):睡眠中に上気道が閉塞する。呼吸努力(胸腹部の動き)は保たれる。大多数を占める。 ・中枢性(CSA):呼吸中枢からの指令が途絶え、呼吸努力そのものが消失する。心不全に伴うCheyne-Stokes呼吸などでみられる。
OSAの危険因子
肥満、小顎症(下顎が小さく後退している)、扁桃肥大・アデノイド増殖(小児で重要)、巨舌、鼻閉、男性、加齢、閉経、飲酒(特に就寝前)、睡眠薬の使用、仰臥位での睡眠。
症状
いびき、目撃される無呼吸、日中の過度の眠気、熟睡感の欠如、起床時の頭痛・口渇、夜間頻尿、集中力の低下。眠気の評価にはEpworth眠気尺度(ESS)が用いられる。
診断
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)でAHIを求める。成人ではAHI 5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症とする。AHI 5以上で日中の眠気などの症状を伴う場合、またはAHI 15以上の場合にOSAと診断される。
合併症
高血圧(特に治療抵抗性高血圧)、心房細動、虚血性心疾患、脳卒中、心不全、2型糖尿病などの代謝異常、居眠り運転による交通事故。
治療
・生活習慣の改善:減量、就寝前の飲酒の回避、睡眠薬の回避、側臥位での睡眠 ・CPAP(持続陽圧呼吸療法):中等症〜重症例の第一選択。鼻マスクから陽圧をかけて上気道を広げておく。日本の保険診療ではPSGでAHI 20以上、簡易検査でAHI 40以上が適用の目安。 ・口腔内装置(マウスピース):下顎を前方に保持して気道を確保する。軽症〜中等症やCPAPが使えない例に用いる。 ・外科治療:小児の扁桃肥大・アデノイドには扁桃摘出術・アデノイド切除術が有効。
POINT
・いびき+目撃される無呼吸+日中の眠気+肥満 → 閉塞性睡眠時無呼吸症候群を考える。 ・起床時頭痛は夜間の高二酸化炭素血症、起床時口渇は口呼吸による。 ・肥満例では減量が基本の治療。中等症〜重症はCPAPが第一選択。 ・睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)・抗不安薬・アルコールは上気道開大筋の活動を抑えてOSAを悪化させるため避ける。 ・確定診断は終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)によるAHIの評価。
