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ビルの空気は何で測る?―建築物衛生法の7項目とホルムアルデヒド

第110回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第7問

建築物における衛生的環境の確保に関する法律〈建築物衛生法〉に基づいて基準が定められ,建築物内で測定されるのはどれか。

  1. a.トルエン
  2. b.エチルベンゼン
  3. c.アセトアルデヒド
  4. d.ホルムアルデヒド
  5. e.パラジクロロベンゼン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の法規の問題だ。室内空気を汚す化学物質はたくさんあるけれど、「どの法律で」「何が測定義務になっているか」を区別できるかがポイントになる。まず、建築物衛生法がどんな法律か知っているかな。
医学生医学生
通称ビル管理法ですよね。公衆衛生の講義で名前は聞きましたが、対象がどんな建物かまでは自信がないです。
ドクタードクター
多くの人が利用する一定規模以上の建物、いわゆる特定建築物が対象だ。百貨店、店舗、事務所、旅館などで延床面積3,000 m2以上、学校なら8,000 m2以上。その所有者などに、空気環境・給水・排水・清掃・ねずみ等の防除といった維持管理基準を守る義務を課している。
医学生医学生
空気環境の基準は何項目あるんでしたっけ。
ドクタードクター
7項目だ。浮遊粉じんの量、一酸化炭素、二酸化炭素、温度、相対湿度、気流、そしてホルムアルデヒドの量。このうち化学物質といえるのはCO、CO2、ホルムアルデヒドだけなんだ。
医学生医学生
選択肢はどれもシックハウス症候群の原因物質っぽく見えて、全部当てはまりそうに感じてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。選択肢はどれも室内空気汚染物質として知られていて、厚生労働省の室内濃度指針値が設定されている。でも指針値は法的拘束力のない目安で、建築物衛生法で測定が義務づけられているのはホルムアルデヒドだけ。だから正解はホルムアルデヒドになる。
医学生医学生
ホルムアルデヒドだけ特別扱いなのはなぜですか。
ドクタードクター
合板やパーティクルボードの接着剤、塗料に広く使われていて、室内に放散されて眼・鼻・喉の刺激や頭痛を起こす、シックハウス症候群の代表的な原因物質だからだ。2003年の改正で基準項目に加わり、基準値は0.1 mg/m3以下。測定は新築や大規模修繕・模様替えのあと、使用開始後最初の6〜9月の間に1回行う。
医学生医学生
ホルマリンって、ホルムアルデヒドの水溶液でしたよね。病理実習で標本の固定液として嗅いだあの刺激臭を思い出しました。
ドクタードクター
そう、約37%の水溶液がホルマリンだ。あの刺激性を思い出せば、室内で問題になるのも納得しやすいね。ほかの選択肢も整理しよう。トルエンやエチルベンゼンは塗料や接着剤の溶剤に含まれる揮発性有機化合物で、高濃度では中枢神経症状を起こしうる。
医学生医学生
その2つは学校環境衛生基準で検査していると聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。学校保健安全法に基づく学校環境衛生基準では、ホルムアルデヒドに加えてトルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、パラジクロロベンゼンなども検査対象だ。建築物衛生法と学校環境衛生基準を混同しないことが大事だよ。
医学生医学生
アセトアルデヒドは、お酒を飲んだときの悪酔いの原因物質ですよね。
ドクタードクター
その通り。エタノールの代謝産物だけど、建材や喫煙からも室内に放散されるので室内濃度指針値は設定されている。ただ建築物衛生法の測定項目ではない。パラジクロロベンゼンは衣類の防虫剤やトイレの芳香剤に使われる物質で、こちらも指針値や学校環境衛生基準の対象ではあるけれど、建築物衛生法の項目には入っていない。
医学生医学生
つまり、指針値は目安、学校は学校保健安全法、特定建築物は建築物衛生法と、制度ごとに対象物質が違うということですね。
ドクタードクター
そのまとめ方でいい。補足すると、建築基準法でもシックハウス対策として、ホルムアルデヒドを放散する建材の使用制限、機械換気設備の設置義務、シロアリ駆除剤クロルピリホスの使用禁止が定められている。7項目の数値もよく問われるから、CO2は1,000 ppm以下、相対湿度は40〜70%、気流は0.5 m/秒以下あたりは押さえておこう。COは2022年の改正で10 ppmから6 ppm以下に、温度の下限は17℃から18℃に変わった点にも注意だ。
医学生医学生
臨床で、職場に行くと頭痛がするという患者さんを診たら、建物との関係も聞いたほうがいいんですね。
ドクタードクター
そうだね。シックハウス症候群は、その建物を離れると症状が軽快するのが特徴だ。原因は化学物質だけでなくカビやダニが関わることもある。問診で「どこで症状が出て、どこで良くなるか」を聞くことが、診断の糸口になるよ。

まとめ

建築物衛生法(ビル管理法)は延床面積3,000 m2以上などの特定建築物について維持管理基準を定め、空気環境では浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化炭素、温度、相対湿度、気流、ホルムアルデヒドの7項目に基準があります。化学物質で測定対象となるのはCO、CO2とホルムアルデヒドで、ホルムアルデヒドはシックハウス症候群の代表的原因物質として0.1 mg/m3以下と定められ、新築・大規模修繕後に測定します。トルエン、エチルベンゼン、アセトアルデヒド、パラジクロロベンゼンは厚生労働省の室内濃度指針値(法的拘束力のない目安)の対象であり、一部は学校環境衛生基準の検査項目にもなっていますが、建築物衛生法の測定項目ではありません。室内空気汚染対策は建築物衛生法、建築基準法、学校保健安全法、指針値と複数の制度にまたがるため、制度ごとの対象を整理しておくことが、試験対策だけでなくシックハウス症候群の診療や産業保健の現場でも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法、通称ビル管理法)は、多数の人が利用する一定規模以上の建築物(特定建築物)について、空気環境・給水・排水・清掃・ねずみ等の防除などの維持管理基準を定め、所有者等にその遵守を義務づける法律である。特定建築物とは、興行場・百貨店・店舗・事務所・旅館などで延床面積3,000 m2以上のもの(学校は8,000 m2以上)を指す。 空気環境については、次の7項目に管理基準が定められ、定期的な測定が求められている。 ・浮遊粉じんの量 ・一酸化炭素(CO)の含有率 ・二酸化炭素(CO2)の含有率 ・温度 ・相対湿度 ・気流 ・ホルムアルデヒドの量 このうち化学物質として挙げられているのはCO、CO2とホルムアルデヒドのみである。ホルムアルデヒドは、建材や家具の接着剤などから放散されシックハウス(シックビル)症候群の主因となることから、2003年の改正で基準項目に加えられた。選択肢のほかの物質はいずれも室内空気汚染物質として知られ、厚生労働省の室内濃度指針値は設定されているが、建築物衛生法に基づく測定義務の対象ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  トルエン

    トルエンは塗料・接着剤・シンナーなどに溶剤として含まれる揮発性有機化合物(VOC)で、高濃度では中枢神経抑制作用(頭痛、めまい、意識障害など)を示す。厚生労働省の室内濃度指針値や学校環境衛生基準の対象物質ではあるが、建築物衛生法の空気環境の管理基準項目には含まれない。

  2. ×b.  エチルベンゼン

    エチルベンゼンは溶剤系の塗料や接着剤などに含まれるVOCで、眼・気道への刺激や中枢神経症状を起こしうる。室内濃度指針値が設定され、学校環境衛生基準でも検査対象とされているが、建築物衛生法に基づく基準・測定の対象ではない。

  3. ×c.  アセトアルデヒド

    アセトアルデヒドは体内ではエタノールの代謝産物として生じ、悪酔いの原因物質として知られる。工業的には有機合成や染料の中間原料として用いられ、建材や喫煙からも室内に放散される。室内濃度指針値は設定されているが、建築物衛生法の測定項目には含まれない。

  4. ○d.  ホルムアルデヒド

    ホルムアルデヒドは合板・パーティクルボードなどの建材の接着剤や塗料に広く用いられ、室内に放散されて眼・鼻・喉の刺激症状、頭痛などを起こすシックハウス症候群の代表的な原因物質である。このため建築物衛生法の空気環境管理基準に含まれ、特定建築物では0.1 mg/m3(約0.08 ppm)以下と定められている。測定は、新築・大規模修繕・大規模模様替えを行った場合に、使用開始後の最初の6〜9月の間に1回行うこととされている。なお、その水溶液(約37%)がホルマリンで、病理組織標本の固定に用いられる。

  5. ×e.  パラジクロロベンゼン

    パラジクロロベンゼンは衣類用防虫剤やトイレ用芳香・消臭剤に用いられる揮発性の物質である。室内濃度指針値や学校環境衛生基準の対象には含まれるが、建築物衛生法の空気環境の管理基準項目ではない。通常の使用範囲で人に明らかな健康被害を生じるという根拠は乏しいとされる。

建築物衛生法の空気環境管理基準(特定建築物)

・浮遊粉じんの量:0.15 mg/m3以下 ・一酸化炭素の含有率:6 ppm以下(2022年4月施行の改正前は10 ppm以下) ・二酸化炭素の含有率:1,000 ppm以下 ・温度:18〜28℃(改正前は17〜28℃)、居室の温度を外気より著しく低くしないこと ・相対湿度:40〜70% ・気流:0.5 m/秒以下 ・ホルムアルデヒドの量:0.1 mg/m3以下 ホルムアルデヒド以外の項目は、原則として2か月以内ごとに1回測定する。

室内空気汚染対策に関わる主な制度

・建築物衛生法:特定建築物の維持管理基準(上記7項目)。 ・建築基準法:シックハウス対策として、ホルムアルデヒドを放散する建材の使用制限と機械換気設備の設置義務、クロルピリホス(シロアリ駆除剤)の使用禁止を規定。 ・厚生労働省の室内濃度指針値:ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、パラジクロロベンゼン、テトラデカン、クロルピリホス、フェノブカルブ、ダイアジノン、フタル酸エステル類など13物質に指針値が設定されている(法的拘束力のない目安)。 ・学校環境衛生基準(学校保健安全法):ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレンなどを検査項目に含む。

シックハウス症候群

住宅やビルの室内空気汚染により、眼・鼻・喉の刺激、頭痛、倦怠感、皮膚症状などが生じ、その建物を離れると軽快するのが特徴である。原因として建材・家具からの化学物質のほか、カビ・ダニなども関与する。

POINT

・建築物衛生法の空気環境基準は7項目:浮遊粉じん、CO、CO2、温度、相対湿度、気流、ホルムアルデヒド。 ・ホルムアルデヒドはシックハウス症候群の代表的原因物質で、基準0.1 mg/m3以下。 ・トルエン、エチルベンゼン、アセトアルデヒド、パラジクロロベンゼンなどは室内濃度指針値(目安)の対象であり、建築物衛生法の測定項目ではない。 ・学校環境衛生基準ではトルエン等も検査対象となる点と混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。