赤く染まる細い桿菌を探せ―乾酪壊死の肉芽腫に「次の一手」は抗酸菌染色
第110回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
1か月続く37℃台の発熱と頸部リンパ節腫大とを主訴に来院した22歳の男性。胸部エックス線写真で異常を認めない。リンパ節生検組織のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。 追加して行う染色として最も有用なのはどれか。

- a.PAS染色
- b.Gram染色
- c.Grocott染色
- d.Ziehl-Neelsen染色
- e.ヒメネス〈Gimenes〉染色
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の長引く微熱と頸部リンパ節腫大で、生検組織に乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫とLanghans巨細胞を認めれば、胸部エックス線写真が正常でもまず結核性リンパ節炎を考えます。形態だけでは非結核性抗酸菌症や真菌症と区別できないため、ミコール酸に富む細胞壁による抗酸性を利用したZiehl-Neelsen染色で、赤く染まる桿菌を証明することが最も有用です。Gram染色は一般細菌、PASはグリコーゲン・粘液・真菌、Grocottは真菌・ニューモシスチス、Gimenezはレジオネラ・リケッチアと、染色と対象の対応を整理しておきましょう。組織内の菌量は少ないことが多く、染色陰性でも結核は否定できないため、抗酸菌培養や核酸増幅検査を併用します。肉芽腫のパターンで候補を絞り、特殊染色や培養で病原体を確定するという考え方は、感染症病理の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・22 歳の男性。1 か月続く 37℃台の微熱と頸部リンパ節腫大。 ・胸部エックス線写真では異常を認めず、明らかな肺病変はない。 ・リンパ節生検の H-E 染色標本:弱拡大(A)では中心部に無構造で好酸性の壊死巣(乾酪壊死)があり、その周囲を類上皮細胞が取り囲む肉芽腫を認める。強拡大(B)では、核が細胞の辺縁に馬蹄形(花冠状)に並ぶ多核巨細胞、すなわち Langhans 巨細胞を認める。
診断へのプロセス
若年者の亜急性〜慢性の微熱と頸部リンパ節腫大の鑑別には、伝染性単核球症などのウイルス感染症、組織球性壊死性リンパ節炎(菊池病)、悪性リンパ腫、結核性リンパ節炎、猫ひっかき病、トキソプラズマ症などがあがる。組織で乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫と Langhans 巨細胞がみられれば、まず結核性リンパ節炎を考える。肺外結核の中でリンパ節結核は胸膜炎と並んで頻度が高く、頸部に好発する。肺病変を伴わないことも多いため、胸部エックス線写真が正常でも否定はできない。
設問の考え方
肉芽腫の形態だけでは、非結核性抗酸菌症や真菌感染症などとの区別は確定できない。病原体そのものを組織内で証明するため、抗酸菌を染め出す染色を追加するのが最も有用である。抗酸菌は細胞壁に豊富なミコール酸などの脂質を含み、一般的な染色では染まりにくいが、いったん染まると酸アルコールでも脱色されないという性質(抗酸性)を持つ。これを利用したのが Ziehl-Neelsen 染色である。
選択肢考察
- ×a. PAS染色
PAS(periodic acid-Schiff)染色は、過ヨウ素酸で多糖類を酸化して生じたアルデヒド基を Schiff 試薬で赤紫色に発色させる染色で、グリコーゲン、粘液(中性ムチン)、基底膜などの証明に用いる。真菌の細胞壁やWhipple 病のマクロファージ内の菌体も染まるが、結核菌の検出には用いない。
- ×b. Gram染色
Gram 染色は、細胞壁の構造の違いによって細菌を Gram 陽性菌(紫)と Gram 陰性菌(赤)に分ける最も基本的な細菌染色で、肺炎や尿路感染症などの起炎菌の推定に用いる。結核菌は細胞壁に脂質が多く色素が浸透しにくいため、Gram 染色ではほとんど染まらない(染まっても不明瞭である)。結核菌の証明には適さない。
- ×c. Grocott染色
Grocott 染色(Grocott メセナミン銀染色)は、真菌の細胞壁の多糖類をメセナミン銀で黒褐色に染める染色で、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコックス、ニューモシスチス(Pneumocystis jirovecii)などの真菌の検出に用いる。肉芽腫をつくる真菌感染症(ヒストプラズマ症など)を疑う場合には意義があるが、結核菌の証明には用いない。
- ○d. Ziehl-Neelsen染色
Ziehl-Neelsen 染色は代表的な抗酸菌染色である。加温した石炭酸フクシンで菌体を赤く染め、塩酸アルコールで脱色した後、メチレンブルーで背景を青く後染色する。抗酸菌は脱色されずに赤く染まった細長い桿菌として、青い背景の中に認められる。乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫と Langhans 巨細胞から結核性リンパ節炎が疑われる本例で、組織内の結核菌を直接証明するのに最も有用である。ただし組織内の菌量は少ないことが多く、染色で菌が見つからなくても結核は否定できない。生検組織の抗酸菌培養や核酸増幅検査(PCR など)を併せて行い、菌種の同定と薬剤感受性の確認につなげる。
- ×e. ヒメネス〈Gimenes〉染色
ヒメネス(Gimenez)染色は、石炭酸フクシンとマラカイトグリーンを用いる染色で、通常の Gram 染色では染まりにくいレジオネラやリケッチアなどの検出に用いる。結核性リンパ節炎の診断には用いない。
結核性リンパ節炎(リンパ節結核)
・肺外結核の中で頻度が高く、頸部リンパ節に好発する。かつては「瘰癧(るいれき)」と呼ばれた。 ・若年者や女性、HIV 感染者などの免疫不全者にもみられる。肺病変を伴わないことも多い。 ・症状:無痛性または軽い圧痛を伴うリンパ節腫大で、複数のリンパ節が癒合して塊をつくることがある。進行すると乾酪化・膿瘍化し、皮膚に自壊して瘻孔をつくる。微熱、倦怠感、体重減少を伴うことがある。 ・診断:生検・穿刺による組織診断(乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫、Langhans 巨細胞)、抗酸菌染色、抗酸菌培養、核酸増幅検査。インターフェロンγ遊離試験(interferon-gamma release assay:IGRA)は結核感染の補助診断となるが、活動性結核と潜在性結核感染症の区別はできない。 ・治療:肺結核に準じた多剤併用療法(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールなどの併用)を行う。治療開始後に一時的にリンパ節が腫れたり新たに腫れたりすること(初期悪化)がある。
肉芽腫性リンパ節炎の鑑別
・乾酪壊死を伴う肉芽腫:結核、非結核性抗酸菌症、一部の真菌感染症。 ・壊死を伴わない肉芽腫:サルコイドーシス。 ・化膿性(星芒状)肉芽腫:猫ひっかき病(Bartonella henselae)など。 ・組織球性壊死性リンパ節炎(菊池病)は壊死を伴うが類上皮細胞肉芽腫は形成せず、好中球の浸潤に乏しい。若年女性に多い。
病理・微生物学でよく使う染色
・Ziehl-Neelsen 染色:抗酸菌(結核菌、非結核性抗酸菌、らい菌)。ノカルジアは弱抗酸性を示し、変法(Kinyoun 変法など)で染まる。 ・蛍光染色(オーラミン O など):抗酸菌のスクリーニングとして喀痰検査で広く用いられる。 ・Gram 染色:一般細菌の分類。 ・PAS 染色:グリコーゲン、粘液、基底膜、真菌。 ・Grocott 染色:真菌、ニューモシスチス。 ・Gimenez 染色:レジオネラ、リケッチア。 ・墨汁染色:クリプトコックスの莢膜。 ・Congo red 染色:アミロイド(偏光顕微鏡下で緑色の複屈折)。
日本の結核の現状
わが国の結核罹患率は年々低下し、2021 年に人口 10 万対 10 を下回って「低蔓延国」の水準に達した。それでも欧米の多くの国より高く、高齢者や外国出生者の患者割合が増えている。不明熱や慢性のリンパ節腫大の鑑別では、引き続き結核を念頭に置く必要がある。
POINT
・乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫と Langhans 巨細胞は結核を強く示唆する組織所見である。 ・結核菌(抗酸菌)の証明には Ziehl-Neelsen 染色を用い、赤く染まる桿菌として観察される。 ・抗酸菌は細胞壁にミコール酸などの脂質が多く、Gram 染色では染まりにくい。 ・染色の対応:PAS=グリコーゲン・粘液・真菌、Grocott=真菌・ニューモシスチス、Gimenez=レジオネラ・リケッチア。 ・リンパ節結核は肺病変を伴わないことが多く、胸部エックス線正常でも否定できない。抗酸菌培養・核酸増幅検査を併用する。
