StudyMed医師国家試験

子宮は硬いのに血が止まらない―分娩後出血は「4T」で出血源を探せ

第110回医師国家試験 B問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第30問

妊娠末期の経腟分娩において,子宮収縮は良好であるものの胎盤娩出後も多量の性器出血が持続する場合,最も考えられるのはどれか。

  1. a.頸管裂傷
  2. b.子宮破裂
  3. c.弛緩出血
  4. d.胎盤遺残
  5. e.子宮内反症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は分娩後の異常出血の原因を見分ける問題だ。分娩後出血の原因は、Tone(子宮収縮不良)、Trauma(産道損傷)、Tissue(胎盤などの遺残)、Thrombin(凝固異常)の「4T」で整理するのが基本。そして、この問題で最も大事な手がかりは「子宮収縮は良好である」という一言なんだ。
医学生医学生
分娩後の大出血と聞くと、まず弛緩出血が思い浮かびます。CBTの勉強でも分娩後出血の原因で一番多いと覚えました。
ドクタードクター
頻度としてはその通りで、最初に考えるのは正しい姿勢だよ。ただ、ここで胎盤剝離面からの出血がどうやって止まるかを考えてみよう。胎盤がはがれた後の子宮内面には太い血管が開いているけれど、本来は子宮筋が強く収縮してその血管を締め付けることで止血される。これを生物学的結紮と呼ぶんだ。
医学生医学生
子宮がしっかり収縮しているなら、子宮内腔からの出血は止まっているはず、ということですか。
ドクタードクター
そういうこと。子宮が硬く収縮しているのに出血が続くなら、出血源は子宮の収縮による止血が効かない場所、つまり産道の損傷を考える。中でも胎盤娩出後に多量の出血をきたす代表が頸管裂傷で、これが正解だ。
医学生医学生
産婦人科の実習で分娩に立ち会ったとき、胎盤が出た後に先生が腟鏡で頸管を丁寧に確認していました。あれは裂傷を探していたんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。頸管裂傷は頸部の側方、時計の文字盤でいうと3時と9時の方向に起こりやすく、両側に及ぶこともある。頸部の側方には子宮動脈の下行枝が走っているので、深く裂けると多量に出血するんだ。誘因としては急速な分娩、子宮口全開大前の努責、鉗子分娩や吸引分娩、巨大児などがある。
医学生医学生
出血の見た目でも区別できるものでしょうか。
ドクタードクター
手がかりになるよ。頸管や腟の裂傷では、出血点が外に近くて動脈性の出血も含むから、鮮紅色の血液が子宮収縮と関係なく持続的に流れ出る。一方、子宮内腔からの出血は一度子宮の中にたまってから出てくるので、暗赤色で凝血を含みやすく、子宮がゆるむと増えて、収縮すると減るという波があるんだ。
医学生医学生
では弛緩出血は、子宮収縮が良好という前提と合わないので外れますね。
ドクタードクター
そうだね。弛緩出血は子宮筋の収縮が不十分なために剝離面の血管が締まらない状態で、子宮底は高く軟らかく、輪郭もはっきりしない。多胎や羊水過多による子宮の過伸展、遷延分娩による筋の疲労などが危険因子だ。治療は子宮底マッサージ、双手圧迫、オキシトシンなどの子宮収縮薬になる。
医学生医学生
胎盤遺残はTissueのほうですよね。遺残があっても子宮が収縮していれば出血しにくいのでしょうか。
ドクタードクター
考え方の筋はいいね。胎盤の一部や卵膜が子宮内に残ると、それが子宮筋の十分な収縮を妨げるので、結局は収縮不良による出血、つまり弛緩出血の原因になる。だから子宮収縮良好という状況とは合わない。娩出された胎盤に欠損がないか観察すること、超音波で子宮内を確認することが大切だ。
医学生医学生
子宮破裂もTraumaに入りますが、こちらはどう違いますか。
ドクタードクター
子宮破裂は子宮筋層そのものが断裂する重い病態で、帝王切開などによる瘢痕子宮、過強陣痛、子宮収縮薬の過量投与などが原因になる。多くは分娩経過中に、突然の激しい腹痛、陣痛の消失、胎児心拍の異常などで発症する。筋層が裂けているので子宮は正常に収縮できず、腹腔内に出血するから外出血の量に見合わない重いショックになりやすいんだ。
医学生医学生
子宮内反症も、子宮がひっくり返ってしまうなら収縮どころではないですよね。
ドクタードクター
その通り。子宮内反症は子宮底が内腔側へ陥入し、ひどいと内膜面が腟内や腟外へ反転して出てくる状態だ。胎盤がはがれる前に臍帯を強く引いたり、子宮底を過度に押したりすることが誘因になる。反転した子宮は収縮できないので大量に出血し、迷走神経反射も加わって出血量以上に重いショックを呈しやすい。腹壁から子宮底を触れない、あるいは子宮底に陥凹を触れるのが特徴で、速やかな用手整復が必要になる。
医学生医学生
まず子宮底を触って収縮を確認して、硬ければ腟鏡で産道を見る、という順番で考えればいいんですね。
ドクタードクター
完璧な流れだね。頸管裂傷を見つけたら、裂傷の頂点より少し上から縫合を始めるのがコツだ。頂点で退縮した血管からの出血を見逃さないためだよ。裂傷が子宮下部や広間膜内に及ぶと開腹が必要になることもある。それから、外出血は少ないのに強い痛みや進行するショックがあれば、腟・外陰血腫や腹腔内出血を疑う。血液が固まらないなら、常位胎盤早期剝離や羊水塞栓症に伴うDICも考える必要がある。
医学生医学生
分娩時の出血量は見た目だけだと読み違えそうで怖いです。
ドクタードクター
実際、過小評価されやすいんだ。だから心拍数を収縮期血圧で割ったショックインデックスを参考にする。1でおよそ1.5Lの出血が推定され、わが国の指針では1.5以上などで産科危機的出血として、輸血や高次施設への搬送を含めた対応を直ちに始める。数字で客観的に評価する習慣をつけておこう。

まとめ

分娩後出血の原因はTone(弛緩出血)、Trauma(頸管裂傷・腟壁裂傷・子宮破裂・子宮内反症など)、Tissue(胎盤・卵膜遺残)、Thrombin(DICなど)の4Tで整理し、最も多いのは弛緩出血です。胎盤剝離面の出血は子宮筋の収縮による生物学的結紮で止まるため、子宮収縮が良好なのに胎盤娩出後も鮮紅色の出血が続く場合は、子宮収縮で止血できない産道損傷、とくに頸管裂傷を考えて腟鏡で頸管を全周確認します。弛緩出血・胎盤遺残・子宮破裂・子宮内反症はいずれも子宮収縮不良を伴い、子宮破裂や子宮内反症では出血量に見合わない重いショックを呈しやすい点も特徴です。出血量は過小評価されやすいため、ショックインデックスを用いて客観的に重症度を評価します。「子宮を触って収縮を確かめ、硬ければ産道を見る」という手順は、分娩室での迅速な止血判断の基本となります。

解答・解説

正解はaです

分娩後の異常出血(分娩後出血)の原因は、英語の頭文字をとって「4T」で整理されることが多い。Tone(子宮収縮不良=弛緩出血)、Trauma(産道の損傷:頸管裂傷・腟壁裂傷・会陰裂傷・子宮破裂・子宮内反症など)、Tissue(胎盤・卵膜の遺残)、Thrombin(凝固異常:DIC など)の 4 つである。このうち最も頻度が高いのは Tone、すなわち弛緩出血である。 本問の鍵は「子宮収縮は良好である」という条件である。胎盤剝離面からの出血は、本来、子宮筋が強く収縮して剝離面の血管を締め付ける(生物学的結紮)ことで止まる。子宮がしっかり硬く収縮しているのに出血が続くのであれば、出血源は子宮内腔(胎盤剝離面)ではなく、子宮収縮による止血機構が働かない部位、すなわち産道の損傷と考えられる。中でも胎盤娩出後に多量の出血をきたす代表が頸管裂傷である。 出血の性状も鑑別の手がかりになる。頸管や腟の裂傷では、出血点が腟口に近く動脈性の出血を含むため鮮紅色の血液が持続的に流れ出し、子宮収縮の程度とは無関係に出血が続く。一方、子宮内腔からの出血は子宮内にいったんたまってから排出されるため暗赤色の凝血を含みやすく、子宮が弛緩すると増え、収縮すると減るという波を示す。 実際の診療では、子宮底を触診して収縮状態を確認し、収縮が良好なら腟鏡で頸管と腟壁を十分に展開して裂傷の有無と部位を確認する。

選択肢考察

  1. ○a.  頸管裂傷

    頸管裂傷は分娩時に子宮頸部が裂ける損傷で、頸管の側方(時計の文字盤で 3 時・9 時方向)に生じやすく、両側に及ぶこともある。急速な分娩、子宮口全開大前の努責、鉗子分娩・吸引分娩などの器械分娩、巨大児などが誘因となる。頸部側方には子宮動脈の下行枝が走るため、裂傷が深いと多量の出血をきたす。子宮収縮は良好であるにもかかわらず胎盤娩出後に鮮紅色の出血が持続する、という本問の状況に最もよく合う。腟鏡で頸管を全周にわたり確認し、裂傷の上端(頂点)より少し上から縫合して止血する。

  2. ×b.  子宮破裂

    子宮破裂は子宮筋層が断裂する重篤な病態で、帝王切開や子宮筋腫核出術などの既往による瘢痕子宮、過強陣痛、子宮収縮薬の過量投与、分娩時の外力などが原因となる。多くは分娩経過中に起こり、突然の激しい腹痛、陣痛の消失、胎児心拍の異常、胎児部分を腹壁直下に触れる、出血性ショックなどで発症する。筋層が断裂しているため子宮は正常に収縮できず、腹腔内出血のため外出血の量に見合わない重いショックを呈することも多い。子宮収縮が良好という条件とは合わない。

  3. ×c.  弛緩出血

    弛緩出血は、胎盤娩出後に子宮筋の収縮が不十分なために、胎盤剝離面の血管が締め付けられず出血が続く状態で、分娩後出血の原因として最も多い。子宮底は高く軟らかく触れ、輪郭がはっきりしない。多胎や羊水過多による子宮の過伸展、巨大児、遷延分娩による子宮筋疲労、子宮筋腫、絨毛膜羊膜炎などが危険因子となる。子宮の収縮が不良であることが前提の病態であり、子宮収縮が良好とされる本問には当てはまらない。治療は子宮底マッサージや双手圧迫、子宮収縮薬(オキシトシンなど)の投与である。

  4. ×d.  胎盤遺残

    胎盤遺残は、胎盤の一部(分葉や副胎盤)や卵膜が娩出されずに子宮内に残った状態である。遺残物が子宮筋の十分な収縮を妨げるため、子宮収縮不良による出血、つまり弛緩出血の原因となる。娩出された胎盤を観察して欠損の有無を確かめること、超音波検査で子宮内の遺残物を確認することが診断に重要で、用手的または器械的に除去する。子宮収縮が良好である本問の状況とは合わない。

  5. ×e.  子宮内反症

    子宮内反症は、子宮底部が内腔側へ陥入し、ひどい場合には子宮内膜面が腟内や腟外へ反転して脱出する状態である。胎盤が剝離していないうちに臍帯を強く牽引したり、子宮底を過度に圧出したり、胎盤用手剝離を行ったりすることが誘因となり、癒着胎盤なども背景となる。反転した子宮は収縮できないため大量出血をきたし、腹膜や靱帯の牽引による迷走神経反射も加わって、出血量に比べて重いショックを呈しやすい。腹壁から子宮底を触れない、または子宮底部に陥凹を触れるのが特徴で、子宮収縮が良好という状況とは合わない。速やかな用手整復が必要である。

分娩後出血の原因(4T)

・Tone(子宮収縮不良):弛緩出血。最も多い。子宮は軟らかく大きい。 ・Trauma(産道損傷):頸管裂傷、腟壁裂傷、会陰裂傷、腟・外陰血腫、子宮破裂、子宮内反症。 ・Tissue(組織の遺残):胎盤遺残、卵膜遺残、癒着胎盤。 ・Thrombin(凝固異常):常位胎盤早期剝離・羊水塞栓症などに伴う DIC、もともとの凝固異常など。

子宮の状態と出血の性状による鑑別

・子宮収縮良好+鮮紅色の持続出血 → 頸管裂傷・腟壁裂傷などの産道損傷を疑い、腟鏡で確認する。 ・子宮収縮不良+暗赤色の凝血を含む出血(子宮収縮に伴い増減) → 弛緩出血、胎盤遺残。 ・外出血は少ないのに強い疼痛や進行するショック → 腟・外陰血腫や子宮破裂(腹腔内出血)を疑う。 ・子宮底を腹壁から触れない+ショック → 子宮内反症。 ・出血が止まらず血液が固まらない → DIC を疑う(常位胎盤早期剝離、羊水塞栓症など)。

頸管裂傷のポイント

・好発部位は側方(3 時・9 時方向)。 ・誘因:急速遂娩、子宮口全開大前の努責、器械分娩、巨大児、頸管の伸展性の不良など。 ・処置:腟鏡や頸管鉗子で頸部を十分に展開し、裂傷の頂点を確認して、その少し上から縫合を始める(頂点から退縮した血管の出血を見逃さないため)。裂傷が子宮下部や広間膜内に及ぶ場合は開腹を要することもある。

出血量の評価

分娩時の出血量は過小評価されやすいため、ショックインデックス(shock index:SI=心拍数÷収縮期血圧)を参考にする。SI が 1 であれば約 1.5 L の出血が推定される。わが国の産科危機的出血への対応指針では、SI が 1.5 以上、または産科 DIC スコアが 8 点以上などの場合に「産科危機的出血」として、輸血や高次施設への搬送を含めた対応を直ちに開始する。

POINT

・分娩後出血の原因は 4T(Tone・Trauma・Tissue・Thrombin)で整理する。最多は弛緩出血である。 ・子宮収縮が良好なのに胎盤娩出後も鮮紅色の出血が続く場合は、頸管裂傷(または腟壁裂傷)を考え、腟鏡で確認する。 ・弛緩出血・胎盤遺残・子宮破裂・子宮内反症は、いずれも子宮収縮が不良となる。 ・子宮内反症は子宮底を触れず、出血量に見合わない重いショックを呈しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。