StudyMed医師国家試験

Bowman腔に浮かぶ三日月―半月体が告げる「係蹄壁の破綻」とANCA関連血管炎

第110回医師国家試験 B問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第20問

腎生検のPAS染色標本を別に示す。  この病理所見の原因となるのはどれか。

第110回 B問題 第20問の問題画像
  1. a.痛風腎
  2. b.微小変化群
  3. c.ANCA関連血管炎
  4. d.溶血性尿毒症症候群
  5. e.コレステロール塞栓症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腎生検の病理像から原因疾患を考える問題だ。ポイントは、画像の中の糸球体で「どこに」細胞が増えているか。そこが読めれば、あとは疾患の知識をつなげるだけだよ。まず、PAS染色は何を見るのに向いている染色か覚えているかな。
医学生医学生
基底膜やメサンギウム基質が赤紫に染まるので、糸球体の構造を見るのに使うと病理学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。今回の標本では、糸球体係蹄の外側、つまりBowman腔の中に細胞が三日月状に増生して、係蹄を押しつぶしている。これが半月体だ。
医学生医学生
係蹄の中の細胞が増えているのとは違うんですか。管内増殖と管外増殖という言葉がありましたよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。メサンギウム細胞や内皮細胞など係蹄の内側が増えるのが管内増殖、Bowman腔に増えるのが管外増殖で、半月体は後者だ。では、なぜBowman腔に細胞が増えるんだと思う?
医学生医学生
うーん、糸球体の炎症が外に広がったから、でしょうか。
ドクタードクター
近いよ。正確には、強い炎症で糸球体毛細血管の壁そのものが破れるんだ。そこからフィブリンや血漿成分、マクロファージがBowman腔に漏れ出し、それに反応してBowman嚢の壁側上皮細胞が増殖する。だから半月体は「係蹄壁が破れるほど激しい障害」の証拠なんだ。
医学生医学生
そうすると、臨床的には腎機能が急に悪くなるタイプの腎炎になりそうですね。
ドクタードクター
その通り。数週から数か月で腎機能が急速に低下する急速進行性糸球体腎炎、RPGNの病理学的な基盤が半月体形成性糸球体腎炎だ。原因は蛍光抗体法の沈着パターンで3つに分けられる。線状沈着なら抗GBM抗体病、顆粒状沈着ならループス腎炎やIgA腎症などの免疫複合体型、そして沈着がほとんどないpauci-immune型だ。
医学生医学生
pauci-immune型の代表がANCA関連血管炎ですよね。CBTの勉強で「日本のRPGNはMPO-ANCAが多い」と覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ANCAに活性化された好中球が小血管の内皮を傷害して壊死性血管炎を起こし、糸球体ではフィブリノイド壊死から係蹄壁が破綻して半月体ができる。日本ではMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎が最も多い。選択肢の中で半月体をつくるのはANCA関連血管炎だけで、これが正解だ。
医学生医学生
溶血性尿毒症症候群も腎臓の血管がやられる病気なので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だね。ただHUSは志賀毒素などで内皮が傷害される血栓性微小血管症で、腎病理の主体は内皮細胞の腫大、内皮下腔の拡大、係蹄内や細動脈の微小血栓だ。Bowman腔で細胞が増える半月体は典型像ではないんだ。
医学生医学生
コレステロール塞栓症も血管の病気ですけど、詰まるのはもっと太い血管でしたっけ。
ドクタードクター
そう。粥腫から飛んだコレステロール結晶が弓状動脈や小葉間動脈などの小動脈を詰まらせ、標本では結晶が溶けて抜けた針状の裂隙が見える。カテーテル検査後に起こりやすく、blue toeや網状皮斑、好酸球増多が手がかりだね。虚血性の腎障害であって、半月体は特徴ではない。
医学生医学生
痛風腎は尿細管や間質の病気なので、糸球体の所見とは場所が違いますね。
ドクタードクター
正解。尿酸ナトリウム結晶が髄質の間質に沈着して慢性の尿細管間質性腎炎を起こすから、主座が違う。微小変化群はどうかな。
医学生医学生
名前の通り、光学顕微鏡ではほとんど異常がなくて、電子顕微鏡で足突起の消失が見えるだけ、でしたね。小児科の実習で、ステロイドがよく効くネフローゼと教わりました。
ドクタードクター
その通り。増殖性病変は出ないから、半月体とは無縁だ。つまり、病変の場所が糸球体か、間質か、血管か、そして糸球体ならどこに何が増えているか、という順で考えると整理しやすい。
医学生医学生
半月体を見たらRPGNを考えて、蛍光抗体法の沈着パターンで原因を3つに分ける、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展知識として、半月体の時期も押さえておこう。細胞性半月体は治療で改善が期待できるけれど、線維細胞性を経て線維性半月体になると不可逆で、糸球体は硬化してしまう。だから腎生検で細胞性半月体が多いほど治療の意義が大きい。ANCA関連血管炎では副腎皮質ステロイドにシクロホスファミドかリツキシマブを併用する寛解導入が基本で、重症例では血漿交換も考慮する。
医学生医学生
高齢者が発熱や倦怠感、体重減少で受診して、尿潜血とクレアチニン上昇があったら要注意ですね。
ドクタードクター
その感覚が大事だ。RPGNは診断が遅れると末期腎不全に至りやすい。全身症状に腎炎性の尿所見と腎機能の急な悪化が重なったら、ANCAや抗GBM抗体を測り、早めに腎生検を検討することを覚えておこう。

まとめ

PAS染色でBowman腔内に細胞が三日月状に増生する半月体は、強い炎症で糸球体係蹄壁が破綻したことを示す管外増殖病変であり、臨床的には数週〜数か月で腎機能が急速に悪化する急速進行性糸球体腎炎(RPGN)に対応します。半月体形成性糸球体腎炎は蛍光抗体法で線状沈着の抗GBM抗体型、顆粒状沈着の免疫複合体型、沈着がほとんどないpauci-immune型に分けられ、日本ではpauci-immune型のANCA関連血管炎(特にMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎)が最も多くみられます。痛風腎は尿細管間質病変、微小変化群は光顕でほぼ正常、溶血性尿毒症症候群は血栓性微小血管症、コレステロール塞栓症は小動脈の針状裂隙が特徴で、いずれも半月体の典型的な原因ではありません。細胞性半月体の段階なら治療反応が期待できるため、全身症状と腎炎性尿所見を伴う急速な腎機能低下ではANCA測定と早期の腎生検を検討する姿勢が、腎予後を守るうえで重要です。

解答・解説

正解はcです

画像所見の読み方

PAS(periodic acid-Schiff)染色は基底膜やメサンギウム基質を赤紫色に染め出すため、糸球体の構造を評価するのに適した染色である。提示された標本では、糸球体係蹄の外側、すなわちBowman腔の中に細胞成分が三日月状に増生し、係蹄を圧排している。これが半月体(crescent)であり、糸球体係蹄の内側(メサンギウム細胞や内皮細胞)が増える「管内増殖」と区別して「管外増殖」と呼ばれる。

半月体ができる仕組み

強い炎症によって糸球体毛細血管壁(係蹄壁)が断裂すると、フィブリンや血漿成分、マクロファージなどがBowman腔に漏れ出す。これに反応してBowman嚢の壁側上皮細胞が増殖し、細胞性半月体が形成される。時間がたつと線維細胞性半月体を経て線維性半月体となり、糸球体は硬化して機能を失う。したがって半月体は「係蹄壁が破れるほど激しい糸球体障害」を意味し、臨床的には数週〜数か月で腎機能が急速に悪化する急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)の病理学的基盤となる。多数の糸球体(一般に50%以上)に半月体を認める場合を半月体形成性糸球体腎炎という。

原因疾患の考え方

半月体形成性糸球体腎炎は、蛍光抗体法での免疫グロブリン沈着パターンにより3型に分けられる。 ・線状沈着型:抗糸球体基底膜(GBM)抗体病(肺胞出血を伴えばGoodpasture症候群) ・顆粒状沈着型(免疫複合体型):ループス腎炎、IgA腎症、IgA血管炎(紫斑病性腎炎)、感染後糸球体腎炎など ・沈着をほとんど認めない型(pauci-immune型):ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症) 日本ではpauci-immune型、なかでもMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎が最も多い。選択肢のうち、この病理像をきたす疾患はANCA関連血管炎のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  痛風腎

    痛風腎は高尿酸血症に伴う腎障害で、尿酸ナトリウム結晶が腎髄質の間質に沈着して周囲に肉芽腫性の反応を起こし、慢性の尿細管間質性腎炎を呈する。尿酸結石による尿路結石も合併しやすい。障害の主座は尿細管・間質であり、糸球体の係蹄壁が破綻して半月体が形成されることはない。

  2. ×b.  微小変化群

    微小変化群(微小変化型ネフローゼ症候群)は小児ネフローゼ症候群の大部分を占め、成人でも少なくない。光学顕微鏡では糸球体にほぼ異常を認めないのが特徴で、電子顕微鏡で足細胞(ポドサイト)の足突起の広範な消失(癒合)がみられるのみである。蛍光抗体法でも有意な沈着はない。半月体のような増殖性病変は出現しない。

  3. ○c.  ANCA関連血管炎

    ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎は、ANCAにより活性化された好中球が小血管の内皮を傷害する壊死性血管炎である。腎臓では糸球体毛細血管に壊死性病変(フィブリノイド壊死)が生じ、係蹄壁が破綻してBowman腔に半月体が形成される。蛍光抗体法で免疫グロブリンや補体の沈着がほとんどないpauci-immune型の半月体形成性糸球体腎炎を呈し、臨床的にはRPGNとして発症する。顕微鏡的多発血管炎(主にMPO-ANCA陽性)、多発血管炎性肉芽腫症(旧称Wegener肉芽腫症、主にPR3-ANCA陽性)などが含まれ、提示された病理所見の原因として最も適切である。

  4. ×d.  溶血性尿毒症症候群

    溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は、腸管出血性大腸菌が産生する志賀毒素などによって血管内皮細胞が障害され、微小血管症性溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を三徴とする血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)である。腎病理では糸球体の内皮細胞腫大、内皮下腔の拡大、係蹄内や細動脈の微小血栓が主体で、Bowman腔に細胞が増殖する半月体形成は典型像ではない。

  5. ×e.  コレステロール塞栓症

    コレステロール塞栓症は、大動脈などの粥腫(アテローム)が破綻してコレステロール結晶が末梢に飛散し、小動脈を閉塞させる疾患である。心臓カテーテル検査や血管内治療、抗凝固療法の後に生じやすい。皮膚のblue toe(足趾の紫色変化)や網状皮斑(livedo reticularis)、好酸球増多、低補体血症などが手がかりとなる。腎臓では弓状動脈や小葉間動脈などに針状の裂隙(コレステロール結晶が標本作製時に溶けて抜けた跡)を認め、虚血性の腎障害をきたすが、糸球体の半月体形成は特徴ではない。

急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の概要

RPGNは、数週から数か月の経過で腎機能が急速に低下し、血尿・蛋白尿・円柱尿などの腎炎性尿所見を伴う臨床症候群である。病理学的には半月体形成性糸球体腎炎が対応する。発熱、倦怠感、体重減少、関節痛など全身症状を伴うことが多く、高齢者に多い。

蛍光抗体法による3分類と代表疾患

・抗GBM抗体型(線状沈着):抗GBM抗体病。肺胞出血を伴うものがGoodpasture症候群である。血清抗GBM抗体が陽性となる。 ・免疫複合体型(顆粒状沈着):ループス腎炎(Ⅳ型など)、IgA腎症、IgA血管炎、感染後糸球体腎炎、クリオグロブリン血症など。 ・pauci-immune型(沈着ほぼなし):顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症。血清ANCAが陽性となることが多い。

ANCAの種類

・MPO-ANCA(ミエロペルオキシダーゼに対する抗体):顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で陽性になりやすい。日本のRPGNで最も多い。 ・PR3-ANCA(プロテイナーゼ3に対する抗体):多発血管炎性肉芽腫症で陽性になりやすい。

治療の概略

ANCA関連血管炎によるRPGNでは、副腎皮質ステロイドにシクロホスファミドまたはリツキシマブを併用する寛解導入療法が基本であり、重症例では血漿交換を考慮する。早期に治療しないと末期腎不全に至りやすいため、迅速な診断が重要である。

半月体の経時変化

細胞性半月体(可逆的で治療反応性が期待できる)→線維細胞性半月体→線維性半月体(不可逆)と進行する。腎生検で細胞性半月体が多いほど、治療による改善が期待できる。

POINT

・半月体はBowman腔内の管外増殖病変で、係蹄壁の破綻を意味し、臨床的にはRPGNに対応する。 ・半月体形成性糸球体腎炎は蛍光抗体法で抗GBM抗体型(線状)、免疫複合体型(顆粒状)、pauci-immune型の3つに分類される。 ・日本で最も多いのはpauci-immune型で、ANCA関連血管炎(特にMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎)が代表である。 ・微小変化群は光顕でほぼ正常、痛風腎は尿細管間質病変、HUSは血栓性微小血管症、コレステロール塞栓症は小動脈の針状裂隙が特徴である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。