StudyMed医師国家試験

災害現場で医師は「応急手当係」ではない―3TとDMATで読み解く災害医療の仕組み

第110回医師国家試験 B問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第19問

災害時における医療について誤っているのはどれか。

  1. a.医師の役割は応急手当である。
  2. b.都道府県の医療計画に示されている。
  3. c.災害拠点病院は被災患者を24時間体制で受け入れる。
  4. d.災害派遣医療チーム〈DMAT〉は自己完結型の医療救護を基本とする。
  5. e.大規模災害では長期間にわたってこころのケアを提供する必要がある。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の制度と考え方を問う問題だ。誤っている記述を1つ選ぶ形式だから、「災害時に医師は何をするのか」「それを支える仕組みはどうなっているのか」を整理しておくと迷わない。まず前提として、大規模災害の医療は平時と何が違うと思う?
医学生医学生
患者さんの数が一気に増えて、病院の人手や物資が足りなくなることでしょうか。
ドクタードクター
その通り。傷病者の数が地域の医療能力を一時的に大きく上回るから、平時のように一人ひとりに最善を尽くすことができない。目標は「限られた資源でできるだけ多くの命を救う」ことに切り替わるんだ。そのための行動原則として、CSCATTTという言葉を聞いたことはあるかな。
医学生医学生
救急医学の講義で出てきました。指揮命令、安全、情報伝達、評価、それにトリアージ、治療、搬送でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。前半のCSCAが活動の土台になる管理項目、後半の3T、つまりトリアージ・治療・搬送が医療支援の中身だ。ここで考えてほしいのは、この3Tを判断して実行するのは誰か、ということなんだ。
医学生医学生
トリアージで優先順位を決めたり、どこに搬送するか決めたりするのは、医学的な判断が必要なので医師の仕事ですよね。…あ、そうすると「医師の役割は応急手当」というのはおかしいですね。
ドクタードクター
そこが正解だ。応急手当というのは、一般市民、いわゆるバイスタンダーが救急隊や医師に引き継ぐまでに行う止血や固定、心肺蘇生などの初期対応を指す言葉なんだ。災害時の医師には、トリアージ、気道確保や輸液、胸腔ドレナージといった救命・安定化処置、搬送先の判断、さらに現場や病院での医療活動の指揮・調整まで求められる。応急手当に限定するのは明らかに誤りだね。
医学生医学生
BLSの講習で「市民が行う応急手当」と習ったのを思い出しました。言葉の使い分けがポイントなんですね。
ドクタードクター
そう。では残りの記述も確認しよう。災害医療が都道府県の医療計画に示されている、という点はどうかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、医療計画には5疾病・5事業があると習いました。その事業の中に災害医療が入っていたと思います。
ドクタードクター
正しい。医療法に基づいて都道府県が策定する医療計画では、救急医療、災害時における医療、へき地医療、周産期医療、小児医療を確保すべき事業として定めている。第8次医療計画からは新興感染症等の感染拡大時の医療が加わって6事業になった。災害拠点病院の整備やDMATの体制もここに書かれるんだ。
医学生医学生
災害拠点病院が24時間体制で受け入れる、というのも当然そうですよね。災害は夜中にも起きますし。
ドクタードクター
そうだね。災害拠点病院は被災地からの重症傷病者を24時間いつでも受け入れて救命医療を行う体制が求められる。指定要件には耐震構造、自家発電や水・食料・医薬品の備蓄、ヘリポート、DMATの保有、多数の傷病者を収容できるスペースなどがある。各都道府県に原則1か所の基幹災害拠点病院、各二次医療圏に原則1か所以上の地域災害拠点病院が置かれる。
医学生医学生
DMATの「自己完結型」というのは、どういう意味なんでしょう。被災地で物資を分けてもらうのかと思っていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。被災地はただでさえ水も食料も足りない。支援に来たチームがその資源を消費したら、かえって負担になってしまう。だからDMATは移動手段、食料・水、医療資器材、通信手段を自分たちで確保して活動するのが原則なんだ。医師・看護師・業務調整員で構成され、発災後概ね48時間以内を目安とする急性期に機動的に動く。阪神・淡路大震災で「避けられた災害死」が多かった反省から、2005年に発足したチームだよ。
医学生医学生
こころのケアが長期間必要というのも正しいですね。精神科の実習で、震災後にPTSDやうつ病を発症した患者さんの話を聞きました。
ドクタードクター
大事な経験だね。家族や住まい、生活基盤を失う体験は、急性ストレス障害、PTSD、うつ病、アルコール関連問題などにつながり、症状は数か月から数年続くこともある。支援者自身も強いストレスを受ける。専門チームとしてDPAT、災害派遣精神医療チームが整備されているよ。
医学生医学生
整理すると、医師は3Tを中心に医学的判断と指揮を担い、制度面では医療計画、災害拠点病院、DMAT、DPATがそれぞれ役割を持っている、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識として、時間経過による健康問題の変化も押さえておこう。急性期は外傷、クラッシュ症候群、熱傷などが中心だけれど、亜急性期以降は避難所での感染症、深部静脈血栓症、慢性疾患の悪化、生活不活発病が問題になる。この時期は日本医師会のJMATなども活動する。高齢者、透析患者、在宅酸素療法の患者など災害時要配慮者への支援も欠かせない。トリアージも一度きりではなく、状態の変化に応じて繰り返し行うことを忘れないでほしい。
医学生医学生
災害医療は発災直後だけでなく、何年も続くものなんですね。
ドクタードクター
その視点こそが大切だ。医師は急性期の救命から長期の心身のケアまで、全期間を通して関わる存在なんだよ。

まとめ

大規模災害では傷病者数が医療能力を上回るため、限られた資源で最大多数を救うことが目標となり、CSCATTT(指揮命令・安全・情報伝達・評価・トリアージ・治療・搬送)が行動原則となります。医師はトリアージ、救命・安定化処置、搬送判断の3Tと医療活動の指揮・調整を担うため、その役割を一般市民が行う「応急手当」に限定する記述は誤りです。制度面では、災害医療は都道府県の医療計画の事業の一つとして定められ、災害拠点病院は24時間体制で重症傷病者を受け入れ、DMATは被災地に負担をかけない自己完結型で急性期に活動します。さらに避難所での感染症や深部静脈血栓症、長期にわたるこころのケア(DPAT)まで、時期ごとに必要な医療が変わることを理解しておくことが、災害時に医師として適切に動くための基盤になります。

解答・解説

正解はaです

本問は災害医療の制度と考え方について、誤った記述を一つ選ぶ問題である。 大規模災害では、傷病者の数が地域の医療能力を一時的に大きく上回る。平時のように一人ひとりに最善の治療を行うことはできないため、限られた人員・物資で「できるだけ多くの命を救う」ことが目標になる。この前提から、災害医療には次のような仕組みが整えられている。 ・制度:都道府県が定める医療計画の中に災害医療が位置づけられ、災害拠点病院の指定、DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣体制、災害医療コーディネーターの配置などが定められている。 ・現場での医療:指揮命令系統の確立と安全確保、情報伝達、状況評価を行ったうえで、トリアージ(Triage:治療優先順位の選別)、治療(Treatment:安定化処置)、搬送(Transport)の「3T」を行う(頭文字をとってCSCATTTと呼ばれる)。 ・時間経過:急性期の救命医療から、亜急性期・慢性期の避難所での疾病管理、公衆衛生、さらに長期のこころのケアへと、必要な支援は移り変わる。 この枠組みから見ると、災害時に医師に求められる役割は、トリアージ、救命処置・安定化処置、搬送先の判断などの医学的判断を伴う中心的なものであり、「応急手当」に限定する記述は誤りである。

選択肢考察

  1. ○a.  医師の役割は応急手当である。

    誤った記述であり、これが正解である。応急手当は、一般市民(バイスタンダー)が救急隊や医師に引き継ぐまでに行う止血・固定・心肺蘇生などの初期対応を指す言葉である。災害時の医師には、トリアージによる優先順位の決定、気道確保・輸液・胸腔ドレナージなどの救命処置や安定化処置、どの患者をどこへ搬送するかの判断(3T)が求められ、さらに現場や病院での医療活動の指揮・調整も担う。医師の役割を応急手当に限定するのは適切でない。

  2. ×b.  都道府県の医療計画に示されている。

    正しい記述である。医療法に基づき都道府県が策定する医療計画では、5疾病(がん、脳卒中、心血管疾患、糖尿病、精神疾患)とともに、救急医療・災害時における医療・へき地医療・周産期医療・小児医療(第8次医療計画からは新興感染症等の感染拡大時における医療を加えた6事業)の確保について定めることとされている。災害拠点病院の整備やDMATの体制などは、この災害医療の項目に記載される。

  3. ×c.  災害拠点病院は被災患者を24時間体制で受け入れる。

    正しい記述である。災害はいつ起こるかわからないため、災害拠点病院には24時間いつでも災害に対応でき、被災地からの重症傷病者を受け入れて救命医療を行う体制が求められる。指定要件には、耐震構造の建物、自家発電設備や水・食料・医薬品の備蓄、ヘリポートによる広域搬送への対応、DMATの保有、多数の傷病者を応急的に収容できるスペースの確保などが含まれる。各二次医療圏に原則1か所以上の地域災害拠点病院、各都道府県に原則1か所の基幹災害拠点病院が指定される。

  4. ×d.  災害派遣医療チーム〈DMAT〉は自己完結型の医療救護を基本とする。

    正しい記述である。DMAT(Disaster Medical Assistance Team)は、医師・看護師・業務調整員(ロジスティクス担当)で構成され、専門的な研修・訓練を受けて災害急性期(概ね48時間以内を目安とする)に被災地へ駆けつける機動性の高いチームである。被災地の資源を消費して負担をかけないよう、移動手段、食料・水、医療資器材、通信手段などを自ら確保して活動する「自己完結型」を原則とする。阪神・淡路大震災で「避けられた災害死」が多数生じた反省から、2005年に発足した。

  5. ×e.  大規模災害では長期間にわたってこころのケアを提供する必要がある。

    正しい記述である。被災者は家族や住居、生活基盤を失う体験により、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、アルコール関連問題などを生じやすく、症状は数か月から数年にわたって続くことがある。また支援者自身も強いストレスを受ける。そのため、急性期の精神科医療から長期的な見守り・相談支援まで、継続的なこころのケアが必要である。精神医療の専門チームとしてDPAT(災害派遣精神医療チーム)が整備されている。

災害医療の基本原則 CSCATTT

・C(Command & Control):指揮命令・連携 ・S(Safety):安全確保(自分、現場、生存者の順) ・C(Communication):情報伝達 ・A(Assessment):評価 ・T(Triage):トリアージ ・T(Treatment):治療 ・T(Transport):搬送 前半のCSCAが医療活動の土台となる管理項目、後半の3Tが医療支援の内容である。

トリアージ

日本ではSTART法などで判定し、トリアージタッグで色分けする。赤(最優先治療群)、黄(待機的治療群)、緑(保留群・軽症)、黒(救命困難群・死亡)。トリアージは状態の変化に応じて繰り返し行う。

災害医療に関わる主な仕組み

・災害拠点病院:基幹災害拠点病院(各都道府県に原則1か所)と地域災害拠点病院(各二次医療圏に原則1か所)。 ・DMAT:災害急性期に活動する自己完結型の医療チーム。広域医療搬送やSCU(ステージングケアユニット:広域搬送拠点の臨時医療施設)での活動も担う。 ・DPAT:災害派遣精神医療チーム。被災地の精神科医療の支援と被災者・支援者のこころのケアを行う。 ・JMAT:日本医師会災害医療チーム。主に亜急性期以降の避難所などでの医療・健康管理を担う。 ・災害医療コーディネーター:都道府県などの委嘱を受け、医療チームの派遣や患者受け入れの調整を行う。 ・EMIS(広域災害救急医療情報システム):被災地の医療機関の状況を共有する情報システム。

災害時要配慮者

高齢者、障害者、難病患者、乳幼児、妊産婦、外国人、人工透析患者や在宅酸素療法の患者など。避難や医療継続に特別な支援を要する。

災害の時期と主な健康問題

急性期は外傷・クラッシュ症候群・熱傷など、亜急性期以降は避難所での感染症、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)、慢性疾患の悪化、生活不活発病、そして長期的には精神的問題が中心となる。

POINT

・災害時の医師の役割は、トリアージ・治療(救命・安定化処置)・搬送の3Tを中心とした医学的判断と指揮であり、応急手当にとどまらない。応急手当は一般市民が行う初期対応を指す。 ・災害医療は都道府県の医療計画の事業の一つとして定められる。 ・災害拠点病院は24時間体制で重症傷病者を受け入れる。 ・DMATは急性期に活動する自己完結型の医療チーム。 ・こころのケアは長期にわたって必要で、DPATが専門的支援を担う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。